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障害のある候補者がさっそく選挙制度を変えた 参院選の政見放送、通訳介助者の出演が認められる

選挙で立候補者が自身の公約などを国民に訴える手段の一つ、政見放送。これまで通訳介助者は認められないことになっていましたが、声を出すことができない障害のある候補者、天畠大輔氏が交渉し、認められることになりました。

6月22日に公示された参議院議員選挙。

選挙で候補者が自分の公約などを国民に訴える手段の一つが「政見放送」だ。

この政見放送、これまで通訳介助者の代読ができない規定になっていたが、声を出すことも書くこともできない障害のある候補者が総務省と交渉した結果、認められることになった。

社会活動の最たるものである選挙に重い障害を持つ人が進出することで、見えない壁の一つが取り払われる結果になった。

規定で通訳介助者は認められないと断られる

交渉していたのはれいわ新選組から比例区(特定枠)で立候補した天畠大輔氏(40)。14歳の時に救急搬送された病院での医療ミスで、話すことも書くこともできない障害が残った研究者だ。

50音を読み上げる通訳介助者に腕を引っ張る合図を送って、介助者が天畠氏の言いたい言葉を読み取り代読する「あかさたな話法」と呼ばれる方法で人とコミュニケーションを取る。

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Naoko Iwanaga / BuzzFeed / Via youtube.com

通訳介助者によるあかさたな話法

政見放送について、れいわ新選組は候補者が順番に出演する「複数方式」で録画することにしており、天畠氏も候補者の一人として出演する予定だった。

ところが、政見放送について定める「政見放送及び経歴放送実施規程」の8条では、「複数方式」では司会者と候補者しか出演はできないことになっている。

天畠氏の通訳介助者が出演して声を発すると「規程で出演できると定められていない人が選挙運動をしているとみなされるため、出演は認められない」と総務省から回答があった。ちなみにこの規程では手話通訳士の出演は認められている。

総務省からは、規程の9条によってあらかじめ提出された原稿をアナウンサーが代読して録音する形では対応できると伝えられた。

この対応について、天畠氏は納得できなかった。

「合理的配慮を義務化した障害者差別解消法がある中で、コミュニケーションに障害を持つ人が政見放送に出るときに、通訳の介助者の付き添いを認めないという規程は差別にあたると思いました。アナウンサーによる録音であれば対応できるとのことでしたが、『あかさたな話法』で発信できなければ、私のコミュニケーション方法をみなさんに知ってもらえません」

「どんな障害があるかということも正確に伝えることができません。私独自の言語を含む人物像を、正確にみなさんに伝えるために通訳の介助者を付けることは、ほかの候補者との平等の観点から考えても当たり前の合理的配慮だと考えています」

総務省と交渉 一転、通訳介助者が認められることに

天畠氏は17日の出馬会見の前に、れいわ新選組の木村英子参議院議員に総務省との交渉の場を設けてもらった。そして総務省の担当者に「あかさたな話法」を実際に見せた上で、「介助者による通訳出演を認めてほしい」と要望した。

それでも、その場では「現時点では規程上、通訳介助者の出演は認められないが、前向きに検討する」と告げられた。

ところが出馬会見後、総務省から一転、「介助者による通訳を認める」と連絡があった。規程の中に「当該者を常時介護する者であって日本放送協会及び基幹放送事業者に届け出たものを通じて政見を述べ」という文言が新たに盛り込まれ、通訳介助者による代読も可能となった。

この改定を受けて、天畠氏は通訳介助者も同席した「あかさたな話法」で政見放送の収録を済ませた。

天畠氏はこう語る。

「私は『あかさたな話法』を入口に、言語障がい者のコミュニケーションについて、多くの人に知ってもらいたいと思っています。ですので、様々なコミュニケーション方法で意思疎通を図る障がい者が、他者の代読ではなく、慣れた介助者による通訳で発信できるようになったことはとても嬉しく思っています。交渉に協力してくださった木村議員、迅速に対応いただいた総務省に感謝しています」

政見放送の規程は、言語障害のある人が代読ではなく、自分のコミュニケーション方法で思いを伝えることを想定していなかったと天畠氏は言う。

「当事者が政治に参加することで、障がい者差別の実態を多くの人に知ってもらい、健常者を中心に作られた制度やルールを変えていくことが重要だと考えています。これからも、障がい者が直面する社会のバリアをひとつひとつ解消するために取り組んでいきます」

総務省選挙部管理課は、「こういうご事情があって、ニーズがあるということでしたので、障がい者に関する各種のコミュニケーションに関する法令の趣旨を鑑みて対応する必要があると考え、早急に対応した。今後も何か新たな事情やニーズが出てきた場合、必要があれば対応する」と話している。