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ヤジ飛ばされた肺がん患者、国会で再び受動喫煙対策訴え 自民党議員二人が謝罪

健康増進法改正案を審議する参議院厚生労働委員会に、再び参考人として招かれた。

衆議院厚生労働委員会で参考人として意見を述べた際、自民党の穴見陽一衆院議員にヤジを飛ばされた日本肺がん患者連絡会理事長の長谷川一男さん(47)が7月10日、今度は参議院厚労委員会の参考人として再び受動喫煙対策を訴えた。

この日、質疑に立った二人の自民党議員は、いずれもヤジ問題に触れ、長谷川さんに対して謝罪した。

穴見議員は長谷川さんに詫び状を2回送っているが、未だに対面で謝罪しておらず、BuzzFeed Japan Medicalの再三の取材申し込みにも応じていない。

被害者になっても加害者になっても、それは「地獄」

長谷川さんは8年前ステージ4の肺がんと診断を受けた。自身は喫煙したことがないが、肺がんで亡くなったヘビースモーカーの父親や職場の同僚のたばこの煙を浴びてきた。「受動喫煙によって病気になったのではないかと思っている人間です」と冒頭で立場を伝え、意見を述べ始めた。

長谷川さんは「がんを患って知ったことがあります。それは、『人は苦難を乗り越えようとする強さを持っている』ということです」「運命を受け入れ、自分の命を全うしようとするのです」としながら、「この考え方は前提があります」と続けた。

「それが運命ならば、ということです。もし自分のがんが何らかの外的な要因によって起こったとするならば、もし避けられることだったとすれば、話は違います」

「想像してほしいです。もし、他人の行為が原因で、自分の命に限りがあると告げられたら。そしてその原因として目に浮かぶのは、自分の身近で大切な人たちです。家族であり、友人であり、職場の同僚です。気持ちを持っていく場はどこにもありません」

次に、喫煙者の視点に切り替えて語りかけた。

「想像してほしいです。もし、自分の周りの大切な人が肺がんを患い、命を落とすかもしれない状況になったら。その原因にもしかしたら、自分が関わっているかもしれないという疑念が出ます。科学的にたばこの健康被害は明らかになっています。『本当に受動喫煙は体に悪いの?』と逃げることはできません」

そして、こう告げた。

「これは地獄です」

さらに、山梨県が2016年に実施したアンケートで、家族に喫煙者がいる中高生の6割が1ヶ月以内に受動喫煙を経験したと回答し、家庭に続き、飲食店、路上が煙に晒される場になっていることを示し、こう議員らに語りかけた。

「私のような人間が今もなお作られ続ける現実があるかもしれません」

「年間1万5000人もの人が受動喫煙で亡くなっている。その一人一人にある苦しみの声をぜひ想像していただきたいです。大事なことは、これは『救える命』であるということです。それを放置し、苦しみを生み出すのはもう終わりにする。そんな法律であることを患者として強く思います」

喫煙者と非喫煙者に対立が起きていることが悲しい

続く質疑では、無所属クラブの薬師寺道代議員の質疑の際に、「今、この法律で、喫煙者と非喫煙者、もしくは患者でもいいのですが、対立が起こっていることに非常に悲しみを覚えています」と思いを明かした。

日本肺がん患者連絡会などが肺がん患者215人に対して行ったアンケートでは、患者の87.7%が飲食店で、14.6%が職場で、そして6.1%は家庭でも受動喫煙を経験したことが明らかにされている。

長谷川さんはこれに触れ、「家族が吸い続け受動喫煙を受け続ける人が6%いらっしゃる。その家族はほぼ対立しています。ほぼ妻という立場の人が罹患し、夫が吸い続けるという状況なんですけれども、ずっと対立が続いています」

「命に限りがあると言われて、前向きに全うしようと生きている者にとって、この対立は本意ではない。笑顔であるとか幸せとか、そういった普段の何気ない日常がすごい大切なんだと気づくんです、患者というものは。一番大切な人に健康になってほしいという思いがなぜ対立になるのか」

「この法案でも対立の図式がずっと続いていることに関しては非常に悲しく思っています。なんとかならないのかと申し上げたいです」

自民党議員二人が謝罪

参考人質疑をした自民党の石田昌宏議員は、質問の前にまず、長谷川さんが被ったヤジ問題について触れ、このように謝罪した。

「まず、長谷川参考人に6月15日の衆議院の厚生労働委員会で、我が党の同僚の議員の不適切な発言によって、不快な思いをさせてしまったこと、同僚の一員としてお詫び申し上げます。それにも関わらず、参議院の厚生労働委員会の参考人を快く引き受けてくださいました。とても嬉しく思います」

自身も子宮頸がんを患った経験があり、受動喫煙対策に熱心な自民党の三原じゅん子議員も、

「受動喫煙で肺がんを患い、現在ステージ4にありながら受動喫煙対策に力を尽くしておられる長谷川参考人は、『救える命は救ってほしい。そう願います』とおっしゃっています。その切実な思いを私たちは本気で受け止めてきたのかどうか。今一度深く反省しなければいけないと思います」

そして、「我が党は健康増進法改正案の論議においても痛恨のエラーをしでかしました」と切り出し、まずは昨年5月の自民党厚生労働部会で、自身が同じ自民党の大西英男議員から受けたヤジについて批判した。

「『がん患者は働かなくていい』などという耳を疑う発言をした議員がおられました。『自らの発言でがん患者らの気持ちを傷つけた』として陳謝しましたが、発言そのものは撤回せず、『喫煙可能の店で無理して働かなくていいのではないかという趣旨だ』と釈明したと報道されております」

「当初は様子を伺って、世間からの批判が大きくなって初めて、言い逃れのような釈明を行うというのも潔くないなと感じました。がん患者の方々もがん患者の就労はまだまだ厳しい中危機感を持っている。患者らからも怒りや悲しいという声が寄せられたと述べておられました。私も全く同感です」

さらに、穴見議員による長谷川さんへのヤジについて「ありえない発言をした」と厳しく批判。

「この件に至っては全く弁護の余地はありません。長谷川参考人に私からも心からお詫び申し上げたいと思っております」と、傍聴席で聞いていた長谷川さんの方を見つめながら謝罪した。

ヤジを飛ばした自民党の二人の議員はいずれも喫煙者だ。

受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案をめぐっては、当初、「屋内原則禁煙」を掲げていた厚生労働省案に自民党が強く反対。

経過措置として客席面積が100平方メートル以下の飲食店を例外とし、学校の敷地内喫煙を可能とするなど規制を大幅に緩めた現在の政府案が提出され、長谷川さんらは「受動喫煙対策として不十分だ」と批判している。