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感染症学会など2学会「塩野義製薬の飲み薬、緊急承認すべき」 医師らから「有効性が示されていない」と批判爆発

日本感染症学会など2学会が、新型コロナに対する塩野義製薬の飲み薬「ゾコーバ」について国に緊急承認を求める提言を出し、医師たちから批判が爆発しています。厚労省の審議会で「有効性を示すデータが不十分」として継続審議となったばかり。提言を出した理事長は、この薬の治験にも関わっています。

塩野義製薬が開発中の新型コロナウイルスの飲み薬「ゾコーバ(一般名・エンシトレルビル)」について、日本感染症学会と日本化学療法学会が両理事長名で緊急承認を促す提言を厚労相あてに出し、医師たちから批判が相次いでいる。

この新薬については、7月20日に開かれた厚生労働省の審議会で緊急承認するか審査され、有効性を示すデータが不足しているとして、継続審議となったばかり。

提言を出した感染症学会の四柳宏理事長は、「ゾコーバ」の治験に関わっており、製薬会社との利益相反がある医師が有効性が確認されていない新薬を実用化するよう学会名を出して国に求める姿勢にも、疑問が投げかけられている。

新型コロナをめぐる治療薬についてはこれまでにも、クロロキン、アビガン、イベルメクチンなどで、有効性や安全性が証明される前に、行政や一部の医師、政治家らが、先走って高い評価を示すことがあった。

しかし、今回は新型コロナ治療の専門家集団である感染症学会の提言で、その意味はさらに重い。薬の科学的な評価のあり方は、日本で一体どうなっているのだろうか?

提言の内容は?

この提言は、日本感染症学会理事長の四柳宏氏と日本化学療法学会理事長の松本哲哉氏の連名で9月2日、加藤勝信厚労相に「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」 として出された。

提言で両氏は、現在使⽤可能な内服薬は適応に制限があるため、辛い症状、後遺症に苦しんでいる人が多くおり、自宅療養中に同居家族に高率に感染が広がることが医療逼迫の大きな原因になっている、と現状を分析。

その打開策として、「ハイリスク患者以外の軽症者にも投与できる抗ウイルス薬の臨床現場への導入が必要」とし、

早期にウイルス量を低下させる抗ウイルス薬への緊急承認制度の適用、もしくは承認済みの抗ウイルス薬の適応拡大を真剣に検討すべきであり、国の決断が求められます」と早期承認を求めている。

また、中間評価で確認されたウイルス量の減少効果について、「ウイルス量が早く減少することは、臨床症状の改善を早めます。加えて隔離期間の短縮、家庭内感染のリスク減少にもつながります」とコロナの治療に役立つことを強調。

その上で、「一日も早く臨床現場へ薬を導入し、医療崩壊が進むことを阻止するためには、通常の薬事承認の手順を踏むのでは遅すぎます」と、緊急承認の必要性を訴えている。

四柳氏はこの提言に関する会見で「あくまでも学会の立場で提言をまとめた」と説明したという。

厚労省の審議会では 「有効性を示すデータは不十分」「(塩野義のデータの示し方は)ご法度」

しかし、「ゾコーバ」は、7月20日に開かれた厚労省の「薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会」で、「有効性を示すデータが不十分」として継続審議になったばかりだ。

塩野義製薬が、「条件付緊急承認」を求めて出した治験の中間報告では、主要評価項目のうち、ウイルス量を減らす効果は確認されたが、発熱や倦怠感など12症状の総合的な改善効果は明らかにできなかった。

医薬品の審査を担当するPMDA(医薬品医療機器総合機構)はこの結果に基づき「第III相パートの結果等を踏まえて改めて検討する必要がある」と、治験の最終結果を待つべきだと意見を述べた。

感染症学会の四柳理事長は、この審議会でも、「日本感染症学会の理事長という立場ではない」と断った上で、この薬の治験の取りまとめを行う「治験調整医師」として発言。

「緊急使用承認下で新たな治療選択肢として臨床使用の環境を整えることには、十分な意義があるものというように私は考えております」と緊急承認に肯定的な発言をしている。

また、塩野義製薬は「有効性に関する申請者の見解」として、後から呼吸器症状など4項目を評価したデータを追加で出して、「副次評価項目や事後解析の結果を総合的に判断すると、 本剤の有効性は推定された」と有効性を強調した。

だが、治験を始める前に設定した評価項目ではなく、データの解析を始めてから有利な結果を探るようなこのデータの示し方についても、出席した委員からは厳しい批判が相次いだ。

「エンドポイント(治験の評価項目)を後からいじるというのははっきり言って御法度ですよ。それをわざわざされて、これは有効性が認められるところをピックアップしてやるというのは臨床試験としてはあってはいけないことだ」(島田眞路氏・山梨大学学長 )

「何度も何度も解析するとバイチャンスで有意になるというのはよくあるのですね。(中略)事務局が多重性の調整というように言っていましたけれども、そういうことをちゃんとやらないといけないのですが、それをやらずに何度も何度も解析して、どこかで有意差が出たからいいのではないのと言っているのが塩野義さんかなと私は理解しております」(藤原康弘氏・PMDA理事長)

この薬の緊急承認制度は5月に創設されたばかりのもの。感染症の爆発的な流行やバイオテロ、原子力事故などを想定して、治験が中間段階であっても安全性が確認され、有効性が推定されれば、製造販売を暫定的に承認する制度だ。

日本政府は国産の薬であるゾコーバの100万人分の購入契約を、この審議会の前日、7月19日に締結していたことを明らかにしている。承認されなければ購入はなく、製薬会社は承認の遅れによる業績悪化が見込まれる。

「専門家集団として救いようがない」「臨床試験の基本中の基本を理解していない」

そもそもこの治験の最終結果(第3相試験)は、数ヶ月以内には出るとされている。

最終的な治験結果が出る前に、根拠のないまま感染症の専門家集団である日本感染症学会から、承認を急ぐよう求める突然の提言発表に、現場の医師や臨床試験に詳しい医師たちからはSNSでも驚きと批判の声が相次いだ。

感染症学会、化学療法学会理事長の名前で厚労大臣に出された「提言」。いくらなんでもひどすぎるので、絶望しています。一般の方や医師会くらいが言うならともかく、専門家集団とみなされる学会がこれでは救いようがありません。 https://t.co/gFRTaBIExY

Twitter: @georgebest1969

「いくらなんでもひどすぎるので、絶望しています。一般の方や医師会くらいがいうならともかく、専門家集団とみなされる学会がこれでは救いようがありません」 (岩田健太郎氏・神戸大感染症内科教授)

塩野義の薬の承認を促す感染症学会と化学療法学会の提言に驚いています。多くの医者は賛同しないでしょう。塩野義の薬は症状改善に関する主要評価項目について有効性は認められませんでいた。また、この提言の中で塩野義の薬が「呼吸器症状の改善が示されています」と https://t.co/fjyCH5iNd0

Twitter: @kosuke_yasukawa

「多くの医師は賛同しないでしょう。塩野義の薬は症状改善に関する主要評価項目について有効性は認められませんでした」

「また、この提言の中で塩野義の薬が『呼吸器症状の改善が示されています』と書かれていますが、元々の評価項目にない項目を抜き出して解析し、有意差が出たとする事後解析のやり方は薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会でも批判されています。今あるデータだけで、国産だからという理由で承認を勧めることは学会、薬への信頼を損ねてしまいます」(安川康介氏・米国内科専門医)

臨床試験の基本中の基本すら理解していない人が理事長になってる感染症学会、化学療法学会。

Twitter: @nnago

「臨床試験の基本中の基本すら理解していない人が理事長になってる感染症学会、化学療法学会」(名郷直樹氏・臨床疫学者)

この提言の科学性を論じる以前の前提として、日本感染症学会と日本化学療法学会の誰がこの提言をまとめたのか、連名で記載し、全員の利益相反の宣言が必要です。 https://t.co/yauNAhhoqq

Twitter: @shiraishia_md

「この提言の科学性を論じる以前の前提として、日本感染症学会と日本化学療法学会の誰がこの提言をまとめたのか、連名で記載し、全員の利益相反の宣言が必要です」(白石淳氏・救急医)

専門家の見解は?

この問題について、治験の仕組みに詳しい日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏は、「今出ているゾコーバの臨床試験のデータ自体が300例余と非常に少ない症例での検討であり、そこでの主要評価項目でも有効性が示されていない段階で、緊急承認するレベルには至っていない」と批判する。

勝俣氏は、「新型コロナでは既に治療薬も何種類か出ており、流行初期のように何も薬がないような状況でもない。有効性がはっきりと示せていない薬について承認を急がなければいけない要因もないはずだ」と、このタイミングで緊急承認を促す学会の動きにも疑問を投げかける。

さらに、日本感染症学会の理事長が治験調整医師として治験に関わっていることについても、「利益相反が大きい」と指摘。

利益相反とは、研究機関や研究者が製薬会社など営利企業からの資金提供や役務提供といった連携関係が強くなることにより、結果の内容や診療ガイドライン策定などについて、企業にとって有利な方向に事実が捻じ曲げられてしまう恐れのある状態をいう。

「大きな利益相反がある場合、治験の評価にはバイアスがかかると考えるのが普通であり、学会内での議論でも外すべきような人物だ。感染症学会のような新型コロナ診療の専門家集団が、どのようにこの提言について議論し、この形で出すことを決めたのか、不透明だ。プロセスを明らかにするべきだ」と話している。

一方、こびナビ事務局長で、臨床試験の仕組みについて詳しい黑川友哉氏は、データ解析後から評価項目を操作し、有効性を強調しようとした塩野義製薬のデータの示し方について、こう厳しく批判する。

「今回企業が主張している『有効性』は偶然得られた結果である可能性が否定できず、『有効性の推定』にすらに値しないと考えます」

「臨床試験結果をどのように解析するかといった内容は、計画時点で作成されています。この計画どおりに試験で得られたデータを解析していくことで、得られた結果が偶然の産物ではないことをある程度担保することになります。したがって、この手順に従わずに得られた偶然かどうかもわからない『有効性』の物質を『薬』と呼んでよいかという状況です」

「12症状の組み合わせは4000通り以上あります。ゾコーバに効果がなかったとしても今回のような解析を許せば確率的に200通り以上で『有効』という結果が得られるでしょう。そのようなからくりがある中で得られた結果で有効性を語ることはできません」