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新型コロナ対応で行き詰まり? 次期首相は安倍首相よりも「ドライ」か

安倍政権の医療政策の特徴である「医療の市場原理導入」は失敗し、医療提供体制の改革は推進されました。そして次期首相は、さらに社会保障機能を抑制するのではないかという見通しを示します。

7年8か月にも及んだ第2次安倍内閣の医療政策については、どのように評価できるのでしょうか?

医療経済や医療政策を専門とする日本福祉大学名誉教授の二木立さんの検証後編。

安倍首相の肝入りで提案された医療への市場原理導入がなぜうまくいかなかったのか。逆に医療提供体制の改革が進んだ理由などを振り返ります。

さらに、次期首相が安倍首相より「ドライ」に医療費抑制策を打ち出すのではないかと予想するのはなぜなのでしょうか?

「患者申出療養制度」は実績28件

ーー安倍内閣の医療政策の特徴として、医療分野に部分的に市場原理を導入しようと試みたことも挙げられていますね。

安倍内閣の規制改革に関わる会議は市場原理導入に関する様々な施策を提案しましたが、そのほとんどがかけ声倒れに終わっています。

その最たるものは、保険外の先進的な医療を保険と併用できるように国の会議で検討する「患者申出療養制度」です。

規制改革会議は2014年3月に、保険診療と保険外診療の併用である混合診療の全面解禁につながる「選択療養制度(仮称)の創設」を提案しました。

安倍さん肝入りの政策ですが、厚生労働省や日本医師会などが強く反対したため、最終的に、同年6月、実態は現行の保険外併用療養とほとんど変わらない「患者申出療養」の創設に落ち着いたのです。

その合意を得られた2014年の報道では、リスクの低い未承認薬や適応外薬の使用は「1000を超える医療機関に拡大する」と宣伝されました。

しかし実際の数字は、2020年7月21日現在、全国でわずか8種類28件です。市場原理の導入がすごく進んだと誤解する人もいますが、実態はこうです。

それに先立つ2014年1月には安倍首相自身が、ダボス会議で、「日本にも、メイヨー・クリニックのような、ホールディング・カンパニー型の大規模医療法人ができてしかるべき」と発言しました。

それも、やはり厚生労働省や日本医師会等が抵抗し、最終的には、二次医療圏を基本とする「地域医療連携推進法人」の創設に落ちつきました。

さらに、2018年頃から、経産省と同省系の官邸官僚の影響が強まり、「予防医療・重症化予防」を推進すれば、医療・介護費の抑制と「ヘルスケア産業」の育成の2つが同時に達成できると様々な公文書に書き込まれました。

しかし、現在では、それはファンタジーに過ぎないことがほぼ明らかになっています。「骨太方針2020」でも、「予防・健康づくり」の扱いはごく小さくなっています。

ーー安倍内閣が市場原理導入を看板に掲げたのはなぜでしょう。

安倍内閣は「経済産業省内閣」とも言われています。そして、経済産業省や経済界はそれで市場が拡大すると誤解しています。一般の物やサービスと同じように、支払い能力によって受けられる医療サービスが変わって何が悪いというのが彼らの本音です。

そこが同じ官庁でも、国民に平等に医療を提供するという発想を持つ厚生労働省と違うところです。

医療になぜ市場原理を導入すべきではないのか?

ーー医療への市場原理導入は国民にとってどういうデメリットがあると考えられますか?

注意してほしいのは、安倍政権でさえ、部分的な市場原理導入を提案していることです。この姿勢は前の小泉政権と比べる必要があります。

小泉内閣の時代には、経済財政諮問会議の民間議員や経産省、経済団体、それに近い研究者が、医療本体への市場原理導入、混合診療全面解禁、株式会社の医療機関経営の解禁などを主張したのです。

今は本音は別として、そのような主張を正面から主張する個人も団体もいません。

経産省も最近は、医療本体への市場原理導入は主張せず、公的保険外サービスのヘルスケア産業の育成を主張しています。そういう意味でこの10年間の学習効果が少しはありました。ただヘルスケア産業の育成はほぼ絶望的です。

その上で、医療分野への市場原理導入の最大のデメリットは、貧富の差によって受けられる医療が変わることです。つまり「階層医療」が出現し、その不公平感によって国民の連帯意識が低下することです。

私は、国民皆保険制度は、現在では、医療保障制度の枠を超えて、日本社会の「安定性・統合性」を維持するための最後の砦になっていると主張しています。国民皆保険の機能低下が進むと日本社会の分断が一気に進むと考えます。

もう一つのデメリットは、医療費が不必要に増加することです。

私は2004年の段階で「新自由主義的医療改革のジレンマ」と名付けています。「医療の市場化・自由化はそれに関係する企業にとっては新しい市場が拡大する反面、医療費増加をもたらすため、公的医療費抑制という国是と矛盾する」ということです。

厚労省はこのジレンマをよく知っているので、小泉内閣の時代から医療分野への市場原理導入に反対・抵抗しています。もちろん医療格差の拡大を防ぐという崇高な理由もあります。

財務省は90年代には公費抑制を目的に掲げて混合診療への方向転換を主張していました。

しかし、その後、混合診療を導入すると私的費用だけでなく公的費用も増えることに気づきました。そこで方向転換して21世紀になってからは、混合診療原則解禁に反対と財務省主計官もはっきり言いだしています。

一部の高所得者の選択肢が広がるだけ 質は上がらない

ーー逆に、あえてメリットを考えるとすれば、何が言えるでしょうか?

あえて市場原理導入のメリットをあげれば、一部の高所得患者が受けられる医療の選択の幅が広がるということでしょうか。それに連動して、彼らを主要な顧客とする一部の病院の経営が改善するでしょう。

でもそれは、国民感情と医療機関両方の分断を生むデメリットでもあるわけです。

「医療の選択の幅が拡大する」とは言いましたが、「医療の質が上がる」とは言えません。

日本では医療保険で、必要で適切な医療はほとんど給付されています。国際的に見ても日本ぐらい給付の範囲が広い国はない。薬品も承認されたら間髪を入れず保険給付になります。こんな国は他にないのです。

かつて小泉内閣時代に「混合診療解禁」が叫ばれた時はドラッグラグがありました。海外で使える薬が日本で使えないという問題です。今はそれがなくなっています。

津川友介・勝俣範之・大須賀覚氏の本『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』では、日本での新薬の承認の遅れはわずか0.4年で保険がきく標準治療こそ最高の治療だと指摘しています。その通りだと思います。

選択の自由は気分の問題です。患者申出療養もほとんど普及していませんし、メリットと言っても大したことはない。

私は複眼的に評価しているので、厚生省の個々の政策を批判することもあります。でも、全国民に良質で効率的な医療を公平に提供し、国民皆保険制度の根幹を守るために医療分野への市場原理導入に頑固に反対している点では、しっかりしていると思います。

ーー混合診療を導入することで治験をやろうとしなくなり、医療全体の質が下がることも指摘されていますね。

そうですよ。混合診療の禁止を適法と認めた最高裁の判決も2011年に出ましたし、混合診療の議論は終わったものと思います。

医療提供体制改革は順調 しかし前の政権の方針を踏襲

ーー次に団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けた医療提供体制の改革について伺います。住み慣れた地域で最後まで暮らせるよう医療や介護などの地域のサービスを切れ目なく提供できるようにする「地域包括ケアシステム」と、2025年に必要となる病床数を医療機能ごとに推計し、医療提供体制の再編を図る「地域医療構想」の推進が安倍内閣の2本柱と指摘されています。

両改革は2014年の医療介護総合確保推進法で法的に位置づけられました。地域包括ケアシステムは2013年の社会保障改革プログラム法で初めて定義されましたが、これも安倍内閣が成立させました。

ただ、両改革は安倍内閣の「専売特許」ではなく、民主党政権どころか、それ以前の3代の自民党内閣、その前の小泉政権からずっと同じ方針を続けています。そういう点では、地域包括ケアと地域医療構想の2本柱はものすごく連続性が高い政策です。

各政権は、この推進を厚労省に任せてきた印象です。そして、厚労省は医師会とできるだけ協議して進める。これは伝統的なやり方です。

ーーなぜ、医療提供体制については厚労省主体で各政権の独自色は出せないのでしょう。コロナ対策では官邸の打ち出す対策に振り回されているように見えますが。

コロナ対策はある意味、医療ではなく社会防衛策ですから。医療政策は医療保障制度の改革と、医療提供体制の改革に分かれますが、医療提供体制の改革には予算がつかないから政治の関心も低いと言えます。財務省も口出しはしてきません。

専門性が強い政策だからということもあるでしょう。官邸や経済産業省も容易には口を挟めない。

また、日本の医療提供体制は民間医療機関が主体であるため、厚労省は、日本医師会や病院団体の理解と合意を得られなければ改革を進められません。この点は、イギリスや北欧のような国営・公営医療の国とは全く違います。

医療提供体制の進化

ーー具体的にはどのように進められてきましたか?

地域包括ケアについては、私は一貫して、実態はシステムではなく、ネットワークだと言っています。それは『平成28年版厚生労働白書』も認めています。

また、地域包括ケアの概念は固定的なものではなくて、それなりに進化しています。特に2015〜16年から地域包括ケアには「地域づくり」が含まれるようになりました。これは「ニッポン一億総活躍プラン」で、「地域共生社会の実現」が掲げられたことと連動しています。

地域医療構想は当初、厚労省のコントロール色が強いものでしたが、日本医師会の奮闘でそれはほぼ払拭されました。

あくまでも関係者の自主的な取り組みによって、病床だけではなく在宅医療も含めた必要な医療を確保することであって、医療費抑制を目的とするものではないということも確認されました。私はこのことを高く評価しています。

よく誤解されますが、地域医療構想は医療費抑制が目的とはされていません。本音は別にあるとしても、厚労省の高官や公式文書で、地域医療構想の目的が医療費抑制だと述べたものは一つもないです。

既存の高度急性期医療や急性期病床を統合すると、機能がアップする。そのためベッド数を減らしても医療費は増えるのです。山形県酒田市の例が有名です。

ーー少なくとも病院から在宅医療への移行は医療費抑制につながると私も思っていました。

医療費は下がらないですよ。例えば、医療を除いても、要介護度5の人が在宅で介護保険をフルに使ったら、特別養護老人ホームよりも高くつきます。

在宅ケアを医療費抑制のために進めるのは無理だということは国際的にも白黒ついています。本人や家族の満足度やQOLを高めるために進めたほうがいいけれども安くはない。もちろん質を落とせば別ですが、今時質を落として費用を抑制しましょうなんて誰も言えないでしょう。

看板政策の変化「アベノミクス」「全世代型社会保障」

ーー安倍内閣は政権を維持するために、看板政策を次々に変えただけでなく、その中身も変えたと指摘されています。どのように変え、その変更についてどう評価しているか教えていただけますか?

中身を変えたことと、手続きの問題と両方あります。

「アベノミクス」の中身の問題について言えば、2013年に本格始動した時は、「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「投資を提起する成長戦略」の3本柱を掲げた経済政策でした。

ところが安倍首相は2015年9月の記者会見で、「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言し、新たな3本の矢として「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」と変化しました。この2番目と3番目は経済政策ではなくなりましたね。

そして翌年6月の閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」で、その肉付けをしました。

大事なのはプロセスの問題で、最初の3本の矢は政治主導で作ったのですから、官庁がとやかくいう筋はないでしょう。しかし、新しい3本の矢は関係省庁の意見を聞くことなく、経済産業省系の官邸官僚が取りまとめたと言われています。

例えば3番目の柱に入っている「介護離職ゼロ」はどう見ても厚労省マターですが、厚労省幹部も全然知らされていなかったそうです。首相に強い影響力を持つ経済産業省系の官邸官僚の思いつきなんです。

次に「全世代型社会保障」に関しては、最初に示したのは「社会保障制度改革国民会議報告書」です。世代間で財源の取り合いをするのではなく、それぞれに必要な財源を確保することによって達成を図っていくという内容で、すごく見識があります。

そこで骨太方針における「全世代型社会保障」の出現頻度を調べてみたのでう。骨太方針の2014、15、16までは、全世代型社会保障に全く触れていません。せっかく社会保障制度改革国民会議が提案したのに。

2017年に初めてちらりと少子化対策の項目で使用されていますが、見出しにはない。本格的に出てきたのは2018年で5回も出てきました。この場合も子育て少子化対策と、財政健全化との関係で述べられています。

理由は極めて単純で、安倍さんが前年の9月に記者会見で、「子育て世代の投資を拡充するため」と言い出したことに対応したわけです。それはそれでいい。「じゃあ子育て中心にシフトするのか」と思いますよね。

ところが2019年になるとそれが全部消えて、70歳までの就業機会確保、中途採用・経験者採用の促進、疾病・介護の予防となる。

ーー行き当たりばったりですね。

本当に行き当たりばったりで、なおかつ、これを社会保障と言ったら、社会福祉士の国家試験で落ちますよ。雇用・労働政策でしょう。これを社会保障と言うなんてめちゃくちゃです。

そして、今年の骨太方針2020には、全世代型社会保障という表現はなくなりました。本当に思いつきなんですよ。

民主党政権はマシだった

ーー医療経済学者として、歴代内閣と比べて、安倍内閣の医療・社会保障政策はどのように総括できますか?

私の反省も含めて、1点だけ述べます。

安倍政権の医療政策を総括する中で気づいたのは、民主党政権の医療政策についての私の過去の評価が厳しすぎたということです。当時、医療関係者は民主党政権にすごく幻惑されていました。

私は最初から是々非々でしたが、2011年2月に出版した『民主党政権の医療政策』(勁草書房)の「はしがき」で、以下のように書いたんです。

私は政権交代そのものの歴史的意義は高く評価しているし、他分野の政策には評価すべき点も少しはありますが、民主党政権が実施した医療政策で評価すべき点はまったく思いつきません。

当時は、「診療報酬が上がったのだからいいじゃないか」と言われていたのですが、私は診療報酬が上がったのは微々たるものだし、特別に評価できないと思っていました。

しかし、民主党政権に代わって登場した第二次安倍内閣が小泉内閣時代と同様な医療費抑制政策を復活させたことを踏まえると、民主党政権の医療費政策は相対的にマシだったのだなと思い直しました。かつての民主党政権の評価は厳しすぎたと反省しています。

安倍政権の舵取りが生命倫理観に与えた影響は?

ーー相模原事件。麻生財務相が繰り返した健康自己責任論。公立福生病院の人工透析中止事件。高齢者の延命治療中止を唱えた落合・古市対談。京都の嘱託殺人事件。この7年8カ月、健康の自己責任論や優生思想がますます広がっているように思います。安倍政権の舵取りは、こうした生命倫理観に影響を与えたと思われますか?

安倍さんは麻生さんとは全然違います。個人的には、上記事件につながるような「暴言」は一度もしていないし、逆に尊厳死については次のように極めてまっとうな国会答弁をしています。

「尊厳死は、きわめて重い問題であると、このように思いますが、大切なことは、これは言わば医療費との関連で考えないことだろうと思います」2013年2月20日参議院予算委員会)。

私は安倍首相の発言でこれを一番高く評価しています。

他にも私が評価している安倍さんの発言をいくつか紹介しましょう。

「みんなは、俺が岸信介の孫だから、強烈な保守主義者だと思っているが、安倍寛の孫でもある。タカとハト、両方の立場で物事を考えているんだ」(「読売新聞」2020年9月2日朝刊。尾山宏「総括 安倍政権 ウィング広げ安定図る」で安倍首相が「かつてこう語った」と紹介し、「首相の『ハト』の側面を、野党が十分に認識していなかったことが、『安倍一強』の背景にある」と指摘)

私は2015年に、閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」を分析した際、「性的指向、性自認に関する正しい理解を促進する」という「リベラル」な表現が盛り込まれたことに注目しました。「安倍首相には『現実主義』の側面」もあり、「安倍首相は『手強い』」と著書で指摘したので、安倍首相の発言と尾山氏の指摘に大いに納得しました。

「当然、これは、田村(智子)委員がおっしゃるように、これ文化的な生活を送るという権利があるわけでございますから、是非ためらわずに(生活保護を)申請していただきたいと思いますし、我々も様々な手段を活用して国民の皆様に働きかけを行っていきたいと、こう思っています」(2020年6月15日参議院決算委員会。田村智子議員が、「生活保護はあなたの権利です」と政府が国民に向けて広報するべきだと質問したことに対する答弁。

この答弁を踏まえ、厚生労働省は「生活を支えるための支援のご案内」リーフレットの生活保護制度の頁に「生活保護の申請は国民の権利です」という一文を加えました。これは厚生労働省のウェブサイトにも掲載されています(「しんぶん赤旗」2020年9月4日))。

安倍首相自身が麻生さんのようにとんでもない発言をしたなら当然批判しますが、そうでないのに、安倍政権の間に起きた様々な生命倫理上の問題と安倍さんを結びつけることを私はしません。

コロナ危機での対応のまずさで行き詰まった

――安倍さんが潰瘍性大腸炎という持病の悪化を理由に身を引かれたことについては、どのようにお考えですか?

病気の治療に専念してほしいと思いますが、コロナ危機で全然適切な対応ができなくて、行き詰まった点が背景にあると思わざるを得ません。病気が理由となると日本国民は優しいですし、珍しくプロンプターも見ないで会見で話しましたね。演出としては最高だったと思います。

だけど、このコロナ危機の一連の対応はめちゃくちゃでした。

――具体的にはどの対応がまずかったと見てらっしゃいますか?

やはりオリンピックを今年何がなんでも開催したいということや、習近平国家主席の訪日を実現したいという思いから、対策が控えめに見ても1ヶ月は遅れました。感染症は時間との戦いですから、この時間的ロスは大きかったと思います。

もう一つは科学的知見もないのに、ほとんど死ぬことのない小中高の一斉休校を要請しましたね。本来そんな権限はなく脱法的な対策です。それまでの研究で、コロナでリスクが高いのは70歳以上の高齢者と持病がある人であることがはっきりしています。

教育の影響は、医療の影響と違って10年単位で続きます。首相の打ち出したあの対策の影響は重いと思いますよ。

日本小児科学会も反対しましたね。百歩譲って専門家が提案したならわかりますが、専門家会議にも事前に相談しなかった。例によって安倍さんと経産省系の官邸官僚が人気取りでやったわけです。

こうした対策の行き詰まりが退陣に影響したのだろうと見ています。トップを変えないとどうしようもないぐらいに行き詰まっていた。何をやっても裏目に出ていました。ただ、病気がそのストレスで悪化した面もあるでしょうね。

次期首相の医療政策は?

ーー次期首相の医療政策は安倍内閣と大きくは変わらなそうですね。

次期首相となることが事実上決まっていると見られる菅官房長官は「安倍路線の継承」を一枚看板としているため、医療政策もほとんど変わらないと見ています。

菅氏の「2020年総裁選パンフレット」をみても、「社会保障改革」は6つの柱の5番目で、位置づけが低く、医療については一言も触れていません。

私はパンフレットの副題が「『自助・共助・公助』で信頼されるづくり」であることに注目しています。「自助・共助・公助」自体は自民党の伝統的な公式方針で、この限りでは新味はありません。

しかし、安倍内閣は、「ニッポン一億総活躍プラン」(2020年6月閣議決定)からは「再分配」にアクセントを置いていました。

菅氏が、今回改めて「自助・共助・公助」を強調するということは、今後「社会保障の機能強化」=「公助」の強化はしないとの宣言とも読めます。

安倍首相には「ウェット」な側面がありますが、菅氏は逆に「ドライ」かつ強権的で「小さな政府」志向が強く、この点では小泉元首相に近いと思います。

(終わり)

【二木立(にき・りゅう)】日本福祉大学名誉教授

1947年生まれ。1972年、東京医科歯科大学医学部卒業。代々木病院リハビリテーション科科長、病棟医療部長、日本福祉大学社会福祉学部教授を経て、2013年日本福祉大学学長に。

2018年3月末、定年退職。『文化連情報』と『日本医事新報』に連載を続けており、毎月メールで配信する「二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター」は医療政策を論じる多くの官僚、学者、医療関係者が参考にしている。

著書は、『地域包括ケアと福祉改革』、『医療経済・政策学の探究』、『地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク』(いずれも勁草書房)等、多数。近著に『コロナ危機後の医療・社会保障改革』(勁草書房)