• medicaljp badge

「財布には100円もなかった」ウリ専で食いつなぎ、通院もできなくなったバーテンの男性が初めて頼れた「大人食堂」

9連休となった年末年始で追い詰められた人に温かい食事と生活・労働相談を無料で提供した「年越し大人食堂」に、2日間で102人もの人が訪れた。

「財布には100円もなくて、実家に帰る交通費もない。年末に泊まったマックの無料wi-fiで『年末 炊き出し』などと検索して、ここがあるのを知ったんです」

ウェーブのかかったロングヘアがおしゃれな男性(31)は、一見すると都会を歩く今どきの青年で、生活に困っているように見えない。だが、2019年12月31日に続き、1月4日も「年越し大人食堂」を訪れた。

9連休となった年末年始は、仕事が途絶え、住まいもないなど生活が不安定な人にとって、公的な相談窓口も長期間頼れなくなる厳しい時期。

温かい食事と生活・労働相談を支援団体が無償で提供する「年越し大人食堂」には2日間で102人もの人が訪れた。

東京オリンピック・パラリンピックの開催準備に浮き足立つ2020年の東京。大人食堂が改めてあぶりだした足下の課題は重い。

日払いの約束も破られ、生活が困窮

静岡県の高校を卒業後、医療事務の資格を持っていても正規雇用の就職先はなかった。手取り12万〜13万の非正規の仕事を転々とした。

20代終わりに上京して仕事を探したが、いつまで経っても自立できるほどの収入が得られない。寮が付いているのが魅力で「ウリ専」の仕事に飛び込んだ。1時間の手取り7000円で男性に体を売りながら生活するようになった。

ストレスがたまり、「急性ストレス障害」を発症したのは、昨年春のことだ。感情がコントロールできなくなり、人に暴力をふるって警察沙汰にもなった。

「そのまま2ヶ月入院しました。でも薬を取るか生活を取るかと言われたら、生活を取るしかない。退院してからは、通院もできなくなりました」

昨年11月初め、人間関係がこじれてその仕事も辞め、住むところを失った。

漫画喫茶や24時間営業のファストフードを泊まり歩き、カップラーメンを1日1〜2個食べて空腹を紛らわした。

「日払い、寮付き」という条件で、昨年秋からバーテンとして働き始めた。しかし、ふたを開ければ寮は用意されておらず、日払いの約束がいつの間にか3日に1度になり、今では月1度の支払いになっている。

「前借り」という形で毎日食いつなぎ、毎月25日に出るはずの給与は給料日にほとんど残っていない。働いているバーも年末年始に休みとなり、いよいよ手持ちの現金が尽きて、「大人食堂」にたどり着いた。

「破れた服を繕ってくれた」 妊娠した彼女も住まいなし

昨年12月31日、東京・新宿御苑前で開かれた大人食堂に行くと、炊き込みご飯や野菜たっぷりの温かいスープが出た。誰かが作ってくれた手作りの食事を食べること自体が久しぶりだった。

「新宿中央公園や代々木公園の炊き出しは数が限られていて食べられないこともありますから、美味しいものを腹いっぱい食べられるだけで本当にありがたいと思いました」

もう一つ感激したのは、1着しかない破れたズボンをボランティアスタッフが繕ってくれたことだ。

「『1月4日にもう一度来てくれたら、ふさぐ布も用意してきちんと縫い直しますよ』と言ってくれたんです。新しい服なんて買えないし、こんなことまで他人のことを気にかけてくれる人がいるんだと嬉しかった」

入院した時に知り合った年上の彼女は、薬物依存症の治療を受け、元夫のDVから逃れて婦人保護施設に入居中だ。今、自分の子どもを妊娠している。

二人とも住まいさえなく、生活も精神も不安定だからと中絶を持ちかけたが、どうしても産みたいという彼女の気持ちを尊重した。

今は結婚して、共に育てていくことを願っている。でも、そのために何をどうしたらいいのかもわからなかった。

「助けてくれる場所があることを知らなかった」

2回目に参加した1月4日は、手作りカレーと野菜のおかずを食べた後に、専門スタッフに生活相談もした。

休み明けに生活保護を申請することを決め、同行してもらうことになった。大人食堂の主催者で、今夜、居場所のない人に緊急宿泊費を支援している「東京アンブレラ基金」から2泊分の6000円も受け取った。

「まずは生活を安定させなくちゃと思うんです。誰にも頼れないと思っていて、助けてもらえるところがあるということさえ今まで知らなかった」

昨年10月に台風19号が来た時、台東区役所がホームレスの男性を一時避難所から追い返したニュースが心に深く刻まれていた。

「災害の時でさえ受け入れてくれないのだから、自分が助けてもらえるなんて思ってもいなかった。でもここでは腹いっぱい食べさせてもらって、泊まるお金ももらえて、お土産にみかんやお米もいただける。しかも返さなくていいでしょう? 頑張ろうと思えるようになりました」

「今日も持ちこたえることができた」

他にも会社が倒産して職や住まいを失った人やワーキングプアでホームレス状態を長く続けている男性がいた。

53歳の男性は、「ホームレス支援」とスマホで検索して、ここを知った。

新聞奨学生として大学に通っていた2年生の時、配達のバイクで事故を起こして入院し、大学を中退。就職がうまくいかずに非正規雇用で食いつなぎ、昨年12月から生活保護を受けている。

「つい先日まで教会が運営している宿泊施設に入っていたのですが、保護費から宿泊費と食費を差し引かれて残りのお金も預けたまま。牧師が怖くて、窮屈になって飛び出してきたのですが、お金を返してもらえるか相談したくてきました」と言う。

今は深夜営業の飲食店で夜を過ごしながら、寒さをしのぐ。手持ちのお金が減り、大人食堂に頼った。温かい雑煮とカレーを食べて笑顔になった。

「なんとか持ちこたえることができてほっとしました。でも明日はどうなるかわからない」

あったかいご飯で気持ちを贈る

「年越し大人食堂」は、東京アンブレラ基金と、労働相談に取り組むNPO法人POSSE、生活困窮者の相談にのる一般社団法人つくろい東京ファンドが主催して今回初めて試みた取り組みだ。

ビッグイシュー基金共同代表の料理研究家、枝元なほみさんが料理に腕をふるい、食材の多くは、枝元さんの知り合いの農家や、協力団体のパルシステム連合会、有限会社生活アートクラブなどから提供された。

この日は、鹿や猪と野菜のカレー、かつおとこんぶで出汁を丁寧にとったお雑煮、かぼちゃプリン、差し入れされた果物などが振舞われた。

枝元さんは全国から事前に大量に送られた食材を干したり、下ごしらえをして冷凍しておいたり、この日訪れた人に美味しく食べてもらうための準備を重ねてきた。

BuzzFeed Japan Medicalの取材に対し、こう語る。

「人は手のかかったもの、あったかいものを食べるとほっとします。みなさんが贈ってくださった気持ちを、食べつなぐための手間をかけて、食べてもらいたいと思うものにして来てくださった方に贈る。そんな気持ちのこもったご飯で、ほっと一息ついてもらいたいんです」

ボランティアスタッフが食事を出しながら、食堂に来てくれた人たちに声をかける様子も枝元さんは嬉しかった。

「31日に出した炊き込みご飯は最初、おにぎりにしておいたのですが、そのうちおかまをドーンと置いて、ホカホカのご飯をよそって声をかけながら手渡していました。それって家族みたいでしょう? 私も一声かけてもらうだけで、『ああ、これで1週間生きられる』と思うことがあります。大人食堂ってそんな場なんだと思います」

フランスでは消費期限間近でスーパーから寄付された食材を使って、食事を無償で提供しているレストランがあることを最近知った。

「大人食堂を1回限りでなく持続的なシステムにできたらいいと思いますが、日本でどのようにやればいいかはわかりません。これから考えていきたいです」

二日間で参加者102人 宿泊支援は27人

主催団体らの集計によると、2日間での参加者は102人で、住まいのない27人に東京アンブレラ基金 から緊急宿泊支援費を支給した。

生活相談や労働相談を受けた件数は述べ40件。一部は休み明けに生活保護申請の同行支援などのフォローアップをする。

東京アンブレラ基金事務局で「つくろい東京ファンド代表」の稲葉剛さんは、「31日は特に若者や女性が多く、外国人の相談もありました。困っている人が多様化していることを実感します」と話す。

ワーキングプアの若者や女性は自転車操業で毎日を送っており、休みの日にわざわざ生活相談に来る余裕もない。この年末年始の9連休は仕事が途絶え、路上に出てしまう前に支援につなげようという狙いがあった。

「今までアプローチできなかった層にアプローチするという今回の目的は一定程度達成できた気がします」

その上で、こうした民間のNPOの支援だけでなく、国や行政が主導して、制度や仕組みを整えていく必要性を訴える。

「まず必要なのは住宅政策で、初期費用が安くて家賃も安いところに住めれば、働きながらなんとか暮らしていける人はいます。また、最低賃金の値上げなど労働条件の改善は必須ですし、不透明な形で働かされている労働者の権利を守る仕組み作りも必要です」