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「いいね」を1万もらっても、1万人の行動が変わるわけではない 自称「自信がない小児科医」が医療発信で大事にしていること

教えて!ドクターの坂本昌彦先生は、医療を発信する医師の中でも独自の魅力がある先生です。控えめで、威圧的ではなく、温かいのに、大事な情報はしっかり伝わっている。その秘密を学ぶべく、インタビューしてきました。

医療担当として多くの医師を取材してきて、「教えて!ドクター」を運営する坂本昌彦先生は、独自の雰囲気をまとっているなといつも感じてきました。

控えめで、患者さんや読者、そして記者に対してもまったく威圧的でなく、怖がらせることをしない。取材したり、記事を読んだりした後に、ほのぼのと温かい安心感が残る。

だけど、絶妙なタイミングで健康に関する大事なことを発信し、しかもしっかり伝わっている。

医療情報を発信する者として、そんな坂本先生の佇まいから、より良い届け方を学びたいと思いました。

教えて!坂本先生!

意外!? 僕は自信がない

——前から坂本先生は控えめで、誰に対しても威圧的でなくて、でも医療者ともそうでない人とも誰とでも仲良くタッグを組み、取材しても記事を読んでも安心できる理想的な医療情報の発信だなと思っていました。

自分ではそれはよくわからないですね。でもたぶん、そう思われるかもしれない一つの理由は、僕は自信がないんですよ。

——え?これだけ実績を上げているのに。

この分野はなんでも任せろ!という強い自信があまりない。色々な人と協力してものごとを進めないと不安で、ちゃんとした発信ができないんじゃないかと思っていました。

「教えて!ドクター」はまさにそうです。僕は「坂本が『教えて!ドクター』をやっている」と言われるのがすごく嫌なんです。

——なぜですか?

教えて!ドクターのメインはクリエイターだと思っているのです。

デザイナー兼イラストレーターの江村康子さんだったり、ウェブデザイナーの半田かつ江さんだったり、アプリのプログラムを作っている佐藤奈緒さん、佐藤直樹さんだったり、障害児・者支援NPO法人理事長でPCにも詳しい飯島尚高さんだったり。彼らあってこそのプロジェクトです。

評価されるべきは彼らが作っているコンテンツなのです。

僕は確かに医学的な情報の大もとは作っているかもしれませんが、その大もとは僕でなくても他の先生たちで替えがききます。僕がチームメンバーの中で一番、替えがきくんです。他の人たちは替えがききません。

だから心のどこかに、「僕はこんなところにいていいのかな」と常に思っている。それがある意味、人当たりの柔らかさになっているのかもしれません(笑)。

医療者以外との交わりが弱点を気づかせてくれた

——お医者さんって、どうしても患者や一般の人に対して教え、指導する立場なので、上から目線に見えがちだと思います。

こんなことを言いつつも、僕は昔、乳児健診でワクチンを子どもに一切うたせないお母さんにめちゃくちゃきついことを言っていたんですよ。いかに予防接種が大事なのかをこんこんと喋っていたのです。

保健師さんから「これじゃ他の人の健診が進まないから、ほどほどに」と囁かれるほどでした。それでも「いや、今ここで伝えなかったら次にいつ会えるかわからない」と思って喋り続けたんです。

でも、今考えるとお母さんはそんな僕の態度に完全に引いてしまっていた。当時はそれが見えなかったんですね。恥ずかしいです。

そのお母さんは「はい、わかりました」と言って帰りました。僕は達成感があったのですが、大きな間違いでした。その後、そのお母さんから保健所に「あの医者をもう寄越さないでくれ」とクレームが入って、出入り禁止になったんです。

だから、自分もそういう要素があるという自覚はあるのです。

——そこで考え方を改めたのですか?

その時は半々でした。「なんで、わかってもらえないんだろう」という思いと、悔しい思いと。

医者の中だけでこういう話をすると、「反ワクチンはどうやってもわかってくれないよね。議論してもしょうがないわ」「坂本は別に悪くないよね。なんでお前が出禁になるんだよ」という方向に流れがちです。

でも、そこからは、行動の変化は生まれません。

そこからスタンスを変えられたのは、「教えて!ドクター」のメンバーのおかげです。特に江村さんは、絶妙なバランス感覚を持っていて、「私はワクチンに反対している人も嫌いにならないようなものを作りたい。つながり続けたい」と言ってくれた。

「ワクチンに反対しているような人にも届く発信をしたい」と言われて、「確かにそれは大事だな」と気付けたのだと思います。

つながって「情報を置いていく」ことの重要性

——医療者ではない人との交わりが気づかせてくれたのですね。

今でこそインターネットでは「エコーチェンバー(※)」が起きやすいと言われるようになりましたが、当時は強い言葉で言ってなぜ届かないのかが、わかりませんでした。

※SNSで自分と関心が近い人と同調し合うことで、意見の違う人の声が届かなくなり、自分たちの意見が絶対に正しいかのように勘違いしていくこと。

でも、その時、届かなくても、つながっていれば届く時が来るかもしれない。医者はすぐわかりやすい結果を求めてしまう。

でも、「とりあえず情報を置いていく」という考え方の大事さに気づいたのです。情報をいつでも見られるように置いておけば、いつかその情報を拾ってくれるかもしれない。つながっていれば、それが実を結ぶかもしれない。

それを決めるのは、医者じゃなくて本人です。そこを「なぜわかってくれないのだろう」と僕達医者が言うのはおこがましい。

自分たちは、自分たちの信じる情報発信をする。でもそれを拾ってくれるかどうかは、親御さんが決める。そのことに気をつけなければいけません。

有名になりたいのではなく、情報が届けばいい 

——先生のその姿勢ややわらかい語り口は、発信する医師の中ではとても珍しいと思います。特に被害が深刻なデマ情報に対抗する時、どうしても医師は強い口調になりますし、その発信が賞賛を得てインフルエンサーになっていき、ますますその方法に自信を強めます。先生は個人のTwitterアカウントさえお持ちではないですね。

「教えて!ドクター」のアカウントで自分の発信したいことは発信できているので、あえて自分の名前で始めなくてもいいと思いました。

原点に戻ると、何のためにTwitterをやるかと言えば、情報発信をしたいからです。その目的が叶えられればいいし、自分が有名になるためにTwitterをやっているわけではありません。自分たちの発信する情報が届けばいいんです。

——自己顕示欲があまりないですよね。

なくはないと思うのですが、そこは自信のなさも影響しているのだと思います。僕は小児科医ですが、元々開発途上国で働きたいという理想があって、熱帯医学を勉強したり、ネパールで働いたりしました。

小児救急や事故予防に本格的に関わり始めたのは「教えて!ドクター」を始めてからです。小児救急の先生たちも認めてくれていますが、その先生たちのほうが圧倒的にこの分野に携わっている期間が長い。

始めて6〜7年の自分が「この分野の発信を引っ張っていく」なんてとても言えません。僕が偉そうなことを言い始めたら、ツッコミを入れてほしいぐらいです(笑)。

親の不安にどう対処する? 明確なことを言うのが医師の役割

——教えて!ドクターの扱う小児科領域、特に小児救急は親御さんの不安が凝縮されやすい分野だと思います。お母さんたちの不安にはどういうふうに対処したらいいと考えていますか?

まず一つは、ある程度、明確な返事をすることが大事だと思っています。

「教えて!ドクター」より前に、いろいろな自治体が子供の救急のパンフレットなどを出していました。でもよく読むと、最後はぼやかして、「心配だったら受診してください」としているものばかりです。そんな情報では、親御さんはみんな受診してしまいます。

子供医療電話相談事業「#8000」もそうで、看護師さんは「不安だったら病院を受診しても...」と言ってしまう。

これは、自治体や看護師だからそこまでしか言えないのです。でも、医師ならもう少し踏み込める。

福島で「教えて!ドクター」の前身となる出前講座をやっていた時に、自分ができるのはそこを明確にすることだと思っていました。「こういう場合は病院に来なくていいよ」と明確に言ってもらえたら、お母さんたちは安心する。

一方で、救急外来を見ていると、子供の数がまだ多かった6〜7年前までは「なんでこうなるまで放っておいたの?」とか「なぜこんな軽症なのに来たの?」という殺伐とした言葉がかけられていました。

不安なお母さんだけでなく、忙しくてしんどい救急の先生たちの気持ちもわかります。救急車が4台も5台も重ねて来る中で、「熱が出た」と言って来る人がいたら救急対応から離れなくてはいけない。確かにイライラするかもしれない。

だから、お母さんと救急医の「共通言語」を作る作業が絶対大事だなと思っていたのです。そこが「教えて!ドクター」でやりたいことでした。

——万が一の時の責任追及を恐れて、なかなかクリアなことは言いづらいと言う人もいますね。

そこは小児科医として患者さんたちを救急で診てきて、患者さんたちに伝えてきた経験があれば、「これで訴えられたら今までの自分の診療はなんだったの?」となるはずです。診療してきた経験が裏付けとなると思います。

SNSでケンカをすると コアなファンが増える一方、静かに離れていく人も

——今、いろいろな医師たちが医療の発信をしていますが、他の医師たちの発信をどう見ていますか?

みんなすごいなと思って、尊敬しています。

一方で、けんか口調の人もいて、ちょっと心配になることもあります。

また、いわゆる「医クラ(医師クラスタ、SNSで発信する医師たちのことを指すことが多い)」の中の内輪ネタには気をつけないといけないなと思っています。

一般的には理解されないような医者の内輪の常識を患者さんが読んだら、不快に思うかもしれないからです。

すごい情報収集力で、世の中を変える気概が感じられる素晴らしいものと、何でこんなにけんかにエネルギーを割くのだろうと思うアカウントと両方あります。

——医療に関するデマを流している人や、ワクチンに反対する人とSNS上で戦うことで、どういうプラス効果とマイナス効果があると思いますか?

プラス効果としてはコアなファンが増えるかもしれません。その人たちは、その医師の言うことに耳を傾けてくれるかもしれません。

逆にマイナスとしては、静かに離れていく人も多いと思います。それは目に見えないから気づかない。気づかないのが一番怖いことです。

それにTwitterは世の中のごく一部です。Twitterで盛り上がっているから、世の中全部に伝わっているわけではありません。大事な話題であればあるほど、Twitterにとどめず、どうやったらより広く届けられるのか考えないといけない。

そこはメディアの皆さんと広げていくことが大事だと思います。

出前講座や学校での講演 対面での語りがなぜ大事か?

僕らは元々地域の情報提供サービスから始めたので、目の前の小さなことをやることが好きなんです。出前講座とか小学校での講演会とか、そういう取り組みは派手さはありませんが、大事にしている方法です。

HPVワクチンの啓発団体「みんパピ!」も学校に対してどう働きかけをするのかを考えています。これまでは広く、ダイナミックに届けることが主眼で、それも大事でしたが、僕は今、地元の小学校のPTAで話す計画に取り組んでいます。対面で話せばより伝わるからです。

個別の小学校に働きかけをすることは派手ではありませんが、ひとつひとつ積み上げていくことが回り道のようで、結局、信頼への近道なのではないかと思います。そういう地道な活動も組み合わせてやっていくことが大事です。

「教えて!ドクター」でも一番大事にしているのが出前講座で、これだけは絶対に無くしてはいけないと思っています。

——対面で伝えると何が違いますか?

終わった後の、「ちょっとこんなこと聞いていいかわからないんですが......」という相談がすごくいいのです。「わざわざうちの子の指しゃぶりの相談のために病院に来ちゃダメだと思っていた」とか「おねしょが治らない」とかの言葉が、そういうところで出てきます。

おねしょは今、病院で薬を出して治す時代なんですが、お母さんたちはおねしょぐらいで病院に来てはいけないと思っています。小児科はおねしょの治療のガイドラインも作っているのに。

小児科医は自分たちはやるべきことをやっていると思っています。でも世の中には届いていない部分が結構ある。医療者の発信でよく陥りがちですが、作っただけで満足してしまう。でもそれが届いたのかどうかまで気にしなければいけません。

そのフィードバックが得られるのが、出前講座のような対面の場所です。

逆に自分が大事だと思っていたことは興味がないようだと気づいたりもします。その反応がわかると、次の発信にとても役立ちます。

Twitterで「いいね」が1万ついたからといって、1万人の行動が明日から変わるかといえばそうではない。しばらくしたら忘れる人が大部分だと思います。発信の効果を測るのは、たぶん「いいね」の数ではないのですね。

医師が発信できる時代のメディアの意味は?

——元々メディアが医療発信をしていたわけですが、勉強不足だったり、いい加減な情報があったり、批判も多く受けてきました。SNSができて医師自らが発信できるようになった時代、メディアの医療発信の意味はどこにあると思いますか?

自分は記事を1本書くのもすごく大変で、質の高い記事をたくさん書ける先生方を羨ましく思うことがあります。でもそういう医師は多くありません。僕のようにうんうん唸りながら書いている医師も少なくないのではと思います。でも日常診療もありますし、そこまで発信に力を割ける医師もいない。

両方できる人は稀なので、そこはメディアと医療が協力して一緒に作っていくのがいいと思います。

メディアの皆さんは伝えるプロです。同じ内容でもこういう言葉を使うとより多くの人に、より遠くまで伝わる、ということを常にやっているのがメディアの仕事のはずです。

以前、東大の奥原剛先生の記事を書かれていましたが、わかりやすさは行動変容につながるというのは本当にその通りだと思います。

もちろん医師も伝え方を勉強しなければいけなくて、だから僕も大学院で行動科学を学んでいます。でも限界があります。自分だけでそこまでやるのは難しいので、メディアの皆さんの力を借りたいと思っています。

コラボで気をつけるべきことは?

——教えて!ドクター以外でもみんパピなどにも参加し、行政やメディア、インフルエンサーなどともコラボしています。外部の人や異業種の人と組むのはプラスになると同時に危険も孕みますが、どのように考えていますか?

医師が発信していくうちに、コアなファンがつくようになり、そのファンの中に有名人もいたりして、その人と組んでものごとが動くこともあります。素晴らしいことだと思います。

「教えて!ドクター」はそういうコラボはあまりしてきませんでした。佐久市や佐久医師会などの公的な関与を前面に出しているので、簡単に組みにくい要素があるのかもしれません。

他の団体ではインフルエンサーと組むこともあります。

みんパピのHPVワクチンの情報は、定期接種のラストチャンスの学年である高校生に届けたいところもありますので、高校生に人気のYouTuberと組むこともありました。確かに影響力や波及力が全然違います。

公的機関と一緒にやることに反対することはないですが、政治家とのコラボは難しいところがあります。政治的な色が、情報を受け止める人にどう影響するかは考えなければいけないところはあると思います。

不用意な発信をして、失ったものは目に見えません。最初の話に戻ってしまうのですが、常につながるにはどうしたらいいのかが一番大事です。

ケンカをしたり、反発されたりして、つながりが切れてしまうと、その人には一切情報が届かなくなります。

届けたいのは、子育てに疲れてしんどいと思っている人

——発信する人も、読者や視聴者とつながり続けることが大事でしょうか?

そうですね。

教えて!ドクターチーム内でも話をしたのですが、Twitterで威勢のいいやりとりをしている時、周りは盛り上がっているし、やっている本人もテンションが上がっているのだと思います。

でもそれを見ている子育て世代のお母さんたちは、ただでさえ余裕のない中でTwitterで役立つ情報を探しているのに、けんかしている人たちを見たらどう思うでしょう? たぶん疲れて、これ以上自分にストレスをかけたくないと思って閉じてしまうのではないでしょうか?

特に自分は子供の医療情報のアカウントですから、世の中の強い立場の人たちではなく、「ちょっとしんどいな」と思っている人たちに届けたい。

強い口調の発信は、それを受け取れる体力のある人しか受け取れません。でも僕たちが対象としている人たちはそうではなくて、ちょっと疲れたけど、子供のために役立つ情報を必死に探している。

その人たちが「ああ助かる!」と思ってもらえるような、やわらかい、わかりやすい情報。だけどその質は、誰が見ても文句を言わせないような高いものである。それが自分達のこだわりです。

目指すのは、そういう発信なんです。

【坂本昌彦(さかもと まさひこ)】佐久総合病院佐久医療センター 小児科医長

2004年、名古屋大学医学部卒業。愛知県や福島県で勤務した後2012年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。2013年ネパールの病院で小児科医として勤務。2014年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。所属学会は日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本小児国際保健学会。小児科学会では救急委員、健やか親子21委員を務めている。資格は小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。

現在は保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務める。同プロジェクトのウェブサイトはこちら