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「ママ、パパに敬意を払う発信を」 子育て中の「教えて!ドクター」イラストレーターが語る親に届く発信とは

子育て世代の強い味方となっている子どもの医療情報サイト「教えて!ドクター」。その中で可愛いイラストを描いているのが、自身も2児の子育て中の江村康子さんです。不安な親に届けるためにどんな工夫をしているのか聞きました。

子どもが具合が悪くなった時、どうすればいいのか頼れるサイト「教えて!ドクター」。

そこで可愛らしく、わかりやすいイラストを描いているのが、デザイナー兼イラストレーターの江村康子さんです。

難しくて取っ付きにくく、人によっては反発も感じる医療・健康情報をママ、パパに届けるにはどうしたらいいのでしょうか?

江村さんが一緒に活動している小児科医の坂本昌彦さんに「ワクチンに反対している人も仲間はずれにしないで」と伝えたと聞いて、記者は江村さんに俄然、興味が湧いてきました。

二人のお子さんの育児中でもある江村さんに聞きました。

自分も初めての子育てで悩んでいた時に参加

——「教えて!ドクター」にはどのように参加したのですか?

偶然、「教えて!ドクター」を始めた小児科医の坂本昌彦先生が務めている佐久総合病院で事務をしている人がお友達だったのです。そこでつながって、最初は「挿絵を描いてほしい」と声をかけられました。

あれこれ意見を言っているうちに、今のように本格的に関わるようになりました。坂本先生と二人で作っていた創業メンバーなんですよね。

——それまでご自身の子育てで医療情報を集めるのに悩むことはありましたか?

「教えて!ドクター」に関わり始めた頃は、初めての子どもを育てている時でした。育児経験がないし、結婚して長野に来たので、親戚はいるけど友達はいない。

里帰り出産もしたのですが、母との折り合いが良くはなく、私がネットで調べた情報を尋ねても、「ネットの情報にばかり頼るなら二度と助けない」と言われ、孤立していました。熱が出たらどうするかなどの医療情報だけでなく、母乳のあげ方とか、育児に関する全てのことで悩んでいました。

——ネットで調べて欲しい情報や正確な情報にはたどりつけていましたか?

たぶんたどり着けていけなかったと思います。それこそ「ワクチンを止めよう」などと呼びかけている自然派の人の情報の方がネットではたどり着きやすく、触れる機会が多かった。彼らの言っていることの中で、信じていたものもいくつかありました。

——例えばどういうことを信じていましたか?

スピリチュアルな感じの「お母さんを選んで生まれてきた」とか、産む前に薪割りなどをした方がいいとかです。当時はテレビでもよく流れていた情報でした。

——行政が出している情報よりも、そちらの方が取っ付きやすかったですか?

その頃には、子どもが生まれた時に行政からもらう子育て情報の冊子はなかったと思います。母子手帳か「たまひよ」などの子育て雑誌だけで、情報がすごく限られていました。

本を開くよりスマホで探した方が早いし、授乳中の手持ち無沙汰な時に検索することが多かったです。

断定はだめ 医療情報の表現で気をつけたこと

——「教えて!ドクター」の発信で気をつけていたことはありますか?

もらった原稿でわかりにくいところがあった時、「こういう風に直したい」と提案すると、「医療情報は言い切ることはできないから」と言われたのが印象的でした。「こうしたら絶対大丈夫です、とは言い切れない」と言われて、わかりやすくする時にも、気をつけなければならないことがあるんだなと思いました。

あとは子育て中は忙しくて、自分もなかなか長い文章を読んでいられないと思ったので、なるべくイラストで伝えられることはイラストで描いていました。

——これは知らなかったなということはありました?

それはたくさんあります。熱が脳に影響を与えることはないことや、坂本先生の言う重症と、私の考えている重症はかなり違うということにはびっくりしました。私にとっては子どもが40度出したら重症です。でもお医者さんにとってはそれだけでは重症ではないのですね。

処方される薬も、その病気に対する治療薬だと思っていたのですが、症状を抑える「対症療法」があるということも初めて知りました。

——自分も一から学びながら描いていたのですね。

そうです。

——急に子どもが体調が悪くなった時は親御さんは不安だと思うのですが、やわらかい優しいタッチの絵を描かれていますね。「こんなことになったら危ない!」と脅しをかけるような医療情報もあると思うのですが、そこは意識されていますか?

まさに「恐怖を煽らないようにしよう」というのは坂本先生やチームの皆さんと常に話していることです。例えば医療の常識とは違うやり方で対処しようとした人に、「そんなのは間違っている。ダメだ!」とジャッジするような言い方は止めようと話し合っています。

教えて!ドクターは元々、紙の冊子でした。自分が親としてこの冊子を開く時はどんな時か想像すると、子どもが具合が悪くて「どうしよう!?」と慌てたり、自分が不安になったりしている時だと思うのです。

「このままだと死ぬかもしれない」と恐ろしい印象を与えるとパニックになってしまうし、そこから情報を得たいとも思わなくなってしまうでしょう。

具合の悪い子供ばかりを描いているので、洋服は明るい色にするなど意識して描いています。見た目で明るい気持ちになってもらった方がお母さんが安心しますから。

自然派のママ 全否定すれば心のシャッターが閉まる

——周りのママ友に自然療法を取り入れていたり、農薬や添加物は拒否といったりするような人はいますか?

いっぱいいます。心の中では「それは違うんじゃないかな」と思っても、自分が初めての子育てで迷っていた時に、母に「そういうやり方は違う」と一刀両断されたことを思い出します。自分が間違っていたとしても、非難する言葉には傷ついたし、アドバイスしてくれる相手に対して心のシャッターが閉まったのを覚えているんですよね。

私は周りの友達の中では最初に子どもを産んだのですが、子どもがいない友達に悩みを相談した時に、「自分が思うベストを尽くせばそれでいいと思うよ」と言われてホッとしました。その言葉がずっと心の支えになっていたのです。

ネットで必死に対処法を調べている自分は親としてどうなんだろうと思っても、「これが私にとってのベストの尽くし方だ」と心を落ち着かせることができた。

「おむつから経皮毒が」とか「シャンプーの香りのするうんちが」などというママ友もいるのですが、その考えも、彼女なりに子どものことを思ってのベストなんですよね。それをいくら否定しても心が変わるわけではなく、ただ単に心のシャッターが閉まるだけです。

だからそんな考え方に口を出したり、「ワクチンをうった方がいいよ」と強く勧めたりしたことはないです。

——母子手帳のワクチン欄が真っ白なママ友もいるのですか?

たくさんいます。無農薬の農業をやっている人も多いです。自然派の方が集まりやすい土地ではあるのだろうと思います。

——相手を否定しないとしても、相手から勧められることはありませんか?

相手の思想を否定もしないけれど、受け入れもしないので、逆に「うちはワクチンうったよ」と話すこともあります。そう言った時にワクチンを否定する言葉を返されたこともありません。

私は違うのですが、自然派に向かう気持ちはわからなくもありません。妊娠と出産は女性一人の責任にされるようなところがあります。自分が食べるものや自分が選択した行動で、子どもの体や人生ができていくと思うと、全責任は自分が持たなければならないという気持ちにさせられます。

そうなると「農薬を使っていないものの方がいいのでは?」とか、頭が切り替わってしまう。その頭の状態で出産した後に「人工物が入っているワクチンも良くないのでは?」と感じるようになるのは不自然な流れではないように思えます。

——その迷っている時に、周りに相談できる人がいないわけですよね。

そうですね。ワクチンに関して言えば、私の場合は深く考えていなかったのがどんどんうたせた理由です。強い信念があったわけではないのです。最初に出会ったママ友から「ワクチン、よく考えた方がいいよ」と言われていたら、自分も「止めておこうかな」となっていたかもしれません。

否定するのではなく、不安を受け止めてからアドバイス

——教えて!ドクターに関わっている先生たちは科学的根拠を持った情報発信をしていますが、それは納得できていますか?

私は医療の勉強をしたわけではないので、厳密にはその情報が正しいかどうかは判断できません。

でも、教えて!ドクターの先生たちは、例えば私が「38度以上の熱が続いて、このままじゃ頭がおかしくなるのではないか?」と質問しても、それを否定せずに「〜だから大丈夫ですよ。でも、これぐらいになったら病院に行ったらいいよ」と教えてくれます。

以前、別の小児科のクリニックに行った時に「風邪だと思うのですが」と伝えたら、「お母さん、医者じゃないんだから風邪かどうかなんてわからないでしょ!」と叱られたことがあります。それでは心のシャッターは閉まります。

坂本先生たちはお母さんたちの不安を受け止めたうえで、こうしたらいいですよと伝えてくれる。だから素直に聞けるのだと思います。結局、情報そのものを信頼するというより、先生たちの態度を見て信頼しているところがあります。

坂本先生は以前、「お母さんたちは医療を学んだわけでもないのに、こんな赤ちゃんを自分で育てるなんて信じられない」と言ったことがあります。それぐらいお母さんが大変なことをしているし、助けが必要なのだと理解してくれているのです。

——今、SNSで医療情報を発信してくれるお医者さんは増えています。時折、ワクチンに懐疑的な人や自然派の発信をしたりしている人と喧嘩するような発信も目立ちます。

見たことがあります。不安な時に見たら、私が小児科の先生に叱られたような時のような気持ちになるかもしれません。私なら、厳しく一刀両断されればされるほど、反発する気持ちも出てくる。

ただ、そういう医師がいない方がいいとは思っていません。そういう人がいるから、「ワクチンどうしようか」と揺れている人が、正確な医療情報に触れ、そちらに心を傾けていく可能性もあると思うので。

色々なアプローチがあった方がいい。広告では「同じ情報に3回触れると、正しいのではないかと信じる」という仮説があります。

科学的根拠をもって強い言葉で言う人と、坂本先生のような優しいアプローチで伝える人と、ママ友の口コミの3つがそろったら、「ワクチンはうった方がいいのかな」という考えになっていくと思います。そこに期待しています。

「ワクチンに反対する人も仲間はずれにしない」

——江村さんは坂本先生に「反ワクチンの人も仲間はずれにしない情報発信をしたい」とおっしゃったと聞いています。

その頃、ワクチンを否定する講演会が盛んに開かれたりしていて、「自然派の人とは相容れない」という話が編集部で出ていたことがありました。私もスピリチュアルな考えが得意ではなかったのですが、私自身が保育園で最初に仲良くなったお母さんがまさに自然派でした。

ただオーガニックなものを食べることが悪いことではないし、ワクチンをうたないというだけでその人たちを全否定することの方が嫌だなと思います。また「ワクチンをどうしようか」と揺れているお母さんたちも多くいます。そういう人たちをまとめて切り捨てるのは、正確な医療情報を発信する上で意味がないことです。

こういうことを言ったのです。

——坂本先生はその江村さんの言葉を聞いてハッとしたとおっしゃっていました。

そもそも発信する時に「ワクチンをうたない人はダメだ」と否定することは言わないようにしようとチーム内で決めています。「絶対にうった方がいい」とか「この時期までにうたないとダメだ!」と強い感じではなく、「この時期にうちましょう」と淡々と伝える形にしています。

——その時にご自身のイラストはどういう効果をもたらしていると思いますか?

自意識過剰かもしれないのですが、私が描くイラスト自体、色々な意見の方達に受け入れてもらっているのです。温かい感想の声もかけてもらっています。絵柄もそうなのですが、私自身がそんな柔らかい、緩い場所にふわふわしていれば、迷った人が相談してくれるかもしれないという期待があります。

——なるほど。「絶対にこちらが正しい」ではなく、違う意見の人も近づきやすい余白を作っているわけですね。

そうですね。ワクチンだけでなく、発達障害でも迷っている親御さんもたくさんいます。発達障害支援の方に行かずに、お祈りの方に行ってしまう人もいます。

そこで専門性を持たない私のような人がいると、お医者さんに相談する一段階前で相談してもらいやすい。そうなってから、教えて!ドクターの発達支援をしている専門家に繋いだこともあります。

——お子さんを心配する気持ちや、親が子供に向ける愛情や不安ではどんなお母さんも共通しているわけで、それを表している江村さんのイラストがつなぎ役になっていそうですね。

思いは共通しているのですよね。そう見てもらえていたら嬉しいです。

不安に思う親を脅さないよう 自分の子育て体験も盛り込む

——ご自分で特によく描けたなというイラストはどれでしょう?

最近だと、心肺蘇生のイラストはうまく描けたなと思っています。人工呼吸とか心臓マッサージの話なので、ジェンダーもどちらとも分けないようにしました。

——恐怖を煽らないで、しっかりと大事な動作や位置を教えるという姿勢が表れていますね。

子どもが窒息したら怖いですからね。親は慌てると思います。そんな時に落ち着いてやるべきことが伝わればと思って描いています。

コロナワクチンの注意点や副反応についても明るい色で描いています。不安を煽らないためにです。

お母さんの育休からの職場復帰についても、自分の経験をもとに言葉も工夫しました。

一人目を産んだ後に私もフルタイムで職場復帰をしていて、その時に嫌なことがたくさんあったので、その時のことを思い出しながら描いた感じです。祖父母世代との付き合い方も、自分の経験を参考にしました。

子育てにベストを尽くしている親に敬意を持った発信を

——医療情報の発信はこういうところに気をつけたらいいのではないかとアドバイスできることはありますか?

もし親御さんが自分で発信するならば、医療情報についてはちゃんとした原典に当たったり、信頼できる医師が言っていることなのか確認したり、発信する前に一呼吸置いて調べるべきだと思います。

——お医者さんやメディアに、お母さんたちはこういう発信だったら受け止められるとアドバイスできることはありますか?

お母さんは子育てに対しては何に関してもベストを尽くしていると思います。そんなお母さんたちに対する敬意がない情報は受け入れられないと思います。

親たちは褒めてほしいわけではありません。でも今のネット社会は医療情報に限らず、「間違った人はバカだ」と全否定する風潮があります。お母さんたちは初めての子育てで、バカにされることに対してすごく敏感になっています。

バカにされたくないし、子どもに対して自分がバカなことをしていると思いたくもないのは当たり前です。まずは親はみんな子どものためにベストを尽くしているということに敬意を払ってほしいです。

——その上で、明らかに子どもに害を与えかねない情報を信じている親御さんにはどうアプローチしたらいいと思いますか?

例えば、ワクチンをうたずに感染症にかかったらどういう風になるか、脳症や難聴などになる可能性もあるということを淡々と伝えたらいいと思います。

脅したり怖がらせたりするのではなく、起こり得ることをそのまま伝える。怖がらせる発信では、HPVワクチンの副反応を訴えていた情報と同じになってしまいます。

私は坂本先生の言う情報を信頼していますが、それは他のほとんどのお医者さんも同じことを言っていると知ったからでもあります。

HPVワクチンに関しては、「みんパピ!」の仕事もして、「子宮頸がんになって子どもが産めなくなった患者さんにたくさん会ってきているから、もうそういう姿は見たくない」と言っている先生たちに出会いました。

脅す言葉より、そういう言葉の方が自分には響きます。

——メディアに対してはどういう情報発信を求めますか?

本当にそれが正しい情報なのかしっかり吟味してから出してほしいし、自分達の影響力をもっと知ってほしいです。医療情報が左右したその人の人生は、その後何十年も続きます。メディアにはそれをよく考えて発信してほしい。

また子育てしているお母さんは長い文字情報は読んでいられません。メディアに限らず行政も、「必要なことを盛り込んだからいいだろう」ではなく、きちんと伝わっているかまで考えて発信してほしいと願っています。

【江村康子(えむら・やすこ)】グラフィックデザイナー、イラストレーター

新潟県出身、長野県在住。 小5と中2の2児の母。佐久医療センター小児科、佐久総合病院小児科が主体となって行なっている子どもの医療・健康情報を発信する事業「教えて!ドクター」に最初からデザイナー、イラストレーターとして関わっている。