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新型コロナウイルス どれぐらい警戒したらいいの? 感染症のスペシャリストに聞きました

中国を中心に感染者が急増し、日本でも11人の感染者が報告された新型コロナウイルス。人から人へ感染することもわかり、不安を抱く人が増えていますが、実際のところどれぐらい警戒したらいいものなのでしょうか?

中国を中心に感染者が急増し、日本でも30日午前現在で、無症状2人も含むと11人の感染者が確認された新型コロナウイルス。

人から人へと感染することもわかり、不安を抱く人が増えていますが、実際のところ、どれぐらい警戒すべき感染症なのでしょうか?

感染症のスペシャリストで、2009年の新型インフルエンザ発生時には国の対策を検討する委員会の副委員長も務めた川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに、お話を伺いました。

※インタビューは1月29日夜に行われ、話した内容はその時点の情報に基づいています。

新型コロナウイルス  どれぐらい大変?

ーーそもそもコロナウイルスというのはどんなウイルスなのでしょう?

人に感染するコロナウイルスはこれまで6種類あることが知られていて、そのうち4つは軽い鼻風邪の原因となります。風邪の10〜15%はこのコロナウイルス が原因とされています。

あとの2つが2002年から03年にかけて中国・広東省から発生して流行がアジアを中心にして世界に拡大した「SARS(重症急性呼吸器症候群)」と2012年以降中東を中心に流行が続いている「MERS(中東呼吸器症候群)」 です。

この2つと常に比較されて、今回の新型コロナウイルスも恐れられていますね。

ーー感染の広がりの速さや重症度、致死率などを考えると、SARSやMERSなど過去の新興感染症と比べて、今回のコロナウイルスはどれほど警戒すべきものなのでしょうか?

最近、人類が経験した新興感染症で言えば、新型インフルエンザ・パンデミック(世界的な大流行)は最初にメキシコの一地方都市で重症患者が見つかって大騒ぎになり、ほどなくアメリカでも重症患者が見つかりました。それが2009年の4月下旬頃です。

日本で患者が確認されたのは5月の連休明けで、その後、あっという間に世界各地で患者発生が確認されるようになりました。

それに比べると、今回はまだ1ヶ月しか経っていませんが、患者の発生は海外では少ない。まだ、そんなに感染のスピード感はない印象です。

しかし、人から人への感染を繰り返すうちに、ウイルスが人に感染しやすい形に変異する可能性はあります。そうなった場合、一気に感染が広がる可能性も考えておかなければならないでしょう。

2009年の新型インフルエンザの場合は、ウイルスの検査ができるようになると、実は感染者が多くいても軽症で自然に治っている人も多いことがわかりました。つまり、「感染しやすい=重症になりやすい」ではないのです。

新型コロナウイルスは、感染者が急増して死者も増えているのは確かですが、感染者の中での亡くなられた方は何人なのかを把握し、その割合(致死率)などを考えることがとても重要です。

致死率は現段階で、2〜3%です。まだわかったばかりのウイルスで、軽い人も全て把握することはできませんから、重症度についてはもう少し疫学調査が進むのを待たなくてはいけません。

人の動きも変化 様々な要素が感染症のリスクを左右

流行の中心となっている中国の数字だけ見ると、SARSは5327人、今回の新型コロナウイルスは29日時点で5974人が報告され、既に、SARSよりも患者が増えていることは間違いないです。

ただ、SARSと単純に比較できないのは、人の動きが17年前とは段違いに増えているからです。人の移動の多さは感染症の広がりで一番大きなリスク要因になります。

SARSの時には中国の人が今ほどほど海外旅行に行くこともありませんでした。中国が経済発展して、人と物の動きは過去と状況は大きく変わっています。アジアの中で感染者が増えているのは、中国からの人の動きの多さが影響しているのは間違いない。

もっとも楽観的なシナリオは、SARSのように一気に患者発生をおこしたけれど、患者の発生もウイルスも消え去ってしまう、というものです。変異を繰り返して、動物の世界にウイルスが戻っていったのかもしれません。

一番悲観的なシナリオは、爆発的に広がる上に重症度も高くなることです。MERSはSARSより重症度は高く、致死率は30%以上でした。その一方で、MERSの発生はほぼ中東に留まり、韓国での流行はありましたが、日本での患者発生はありませんでした。

また、SARSは人への感染源となったハクビシンとの接触を離すことができましたが、MERSは中東の人の生活に根ざしたラクダですから、感染源を避けることができず、感染は持続していることになります。

感染症の広がりや死亡率のリスクは様々な要素に左右され、過去の感染症とは人の動きなども著しく変わっているので、現時点では今後どうなるか、まだ見通しがつかないというのが正直なところです。

インフルエンザや麻疹のリスクに無頓着なのはなぜ?

ーーインフルエンザや麻疹なども人が死ぬこともある感染症です。それらの感染症と比べたら、私たちはどれぐらい怖がるべきなのでしょう。

致死率から言えば、自然に放っておいたら麻疹(はしか)も数パーセントの致死率です。でも麻疹はワクチンがあるからほとんど感染しないですむようになっています。インフルエンザは毎シーズン1万人程度の死亡があると言われています

新型コロナウイルスをこれほど怖がっているにもかかわらず、いまだに麻疹や風疹のワクチンをうたない人がいるのは不思議なことです。防ぐ手段があるのに...です。

今、日本で問題となっている風疹の予防接種も強くお勧めしていますが、多くの大人の男性にあまり関心をもたれてないようです。妊婦に感染したら、おなかの赤ちゃんに重大な影響を及ぼすにもかかわらず、です。

日本では、2012〜13年の流行で目や耳や心臓に障害をもたらす先天性風しん症候群の赤ちゃんが45人も生まれました。その流行のもとになっているおじさんたちが、MR(麻疹・風疹)ワクチンをうたずに「コロナウイルス大変だ!ワクチンはないのか!」と言っているわけです。おかしな話です。

ーー怖がり方がいびつな印象を受けるのですね。

新興感染症の報道は常にセンセーショナルですからね。毎日報道されるのは、SARSやMERSの時と同じですが、それに惑わされて、足元にあるリスクを忘れてはいけません。

今、日本で普通に歩いている人は、新型コロナウイルスにかかる心配よりも、インフルエンザにかかって会社を休む可能性の方がずっと高いわけです。それでもワクチンをうたない人はいます。

死亡のリスクは何で上がる?

ーー死者の報告も29日時点で132人(死者は中国のみ)と増えていますが、多くが高齢者で、糖尿病などの基礎疾患を持っている人が多いとされています。

これまでの報告ではそう言われていますね。

でも、その後、感染者も死者も増え、新たな死者がどういう人だったのかという情報はまだ入ってこない。現在どのような人が亡くなっているのかはわかりません。

また、最初のうちは丁寧に病院で診ていたと思いますが、患者が殺到している映像を見ると、あの中で感染している可能性もあります。

それに、経済格差の問題で、普段医療機関を受診できない人もかかっている可能性があります。感染症は、都心部で生活に余裕のある人だけを選んでかかるものではありません。

ーー治療法は現時点でなく、対症療法しかありませんが、中国では早くもHIV治療薬「カレトラ」の効果を試す臨床試験も始まりました。

トライしなければデータは出ないということで始めたのでしょう。結果を注目していこうと思います。

ヒト-ヒト感染の疑いも 「チェーンが追える」段階

ーー日本では28日までに6人の感染者が報告され、6人目は武漢市への滞在歴がなく、武漢から来た観光客を乗せたバスの運転手でした(インタビュー後、さらに感染者は増えて11人に。うち一人は同じバスのバスガイドの女性)。人から人への感染が疑われ、日本も新たな段階に入ったと言われています。

濃厚接触の可能性は間違いないですね。空気感染するはしかのように、コンビニに行っただけで感染したというのとは違います。

バスは閉鎖的な空間ですからかなり濃厚な接触をしていたのでしょう。ただ、感染源となった方と座っているところが近いか、バスの中以外でも行動を共にしたかなども、感染力の度合いを知る参考になると思います。

ーー「濃厚接触」とよく言われますが、その定義は?

数字での定義はありません。また疾患によって、定義が変わることがあります。ハグは濃厚接触と考えてもいいと思いますが、1回軽いあいさつで握手したぐらいではそうは言わないでしょうね。

触れていないとしても、このインタビューがこの部屋の中で半日続けば濃厚接触だと思います。同居している方の場合などは、まったく生活の場が切り離されていない限りは濃厚接触と考えても良いと思います。

強い飛沫感染であれば、カウンターで接客した場合も濃厚接触に入ってくるでしょう。様々な状況の中で感染のリスクが高まるような近距離とある程度の時間の接触を「濃厚接触」と言います。

まだ乗客の中に感染者がいたかどうかはわかっていませんが、新幹線でもバスでもあの座席の形態は、向き合って座るスタイルよりうつりにくいのです。ゴホンとしても、飛沫がかかるのは後頭部ですから。

ーー今回はヒト-ヒト感染ですが、誰からうつったのか追跡調査ができるというのが少し安心できるポイントですね。

あのお客さんたちは中国に帰ったそうですが、そこを追えればとても重要な情報となります。ヒト-ヒト感染のルートがまだ追えていることを、感染症の世界では「チェーン(鎖)が追える」と言います。

鎖がつながっている段階では感染が爆発的に膨らむ可能性はまだ薄いということです。この鎖のつながりを追うのが難しくなったなら、もう見えないところに患者がたくさんいるということです。いまのところまだそこまでには至っていません。

日本での対応は適切か?

ーー29日朝に武漢市に滞在していた日本人の一陣が政府のチャーター機で帰国しました。症状の出ている4人が入院、他の人たちは症状がなくても全員ウイルス検査をしているようです。この対応は適切ですか?

まず、武漢市に迎えに行くことは絶対にやるべきですね。国は武漢のある湖北省について渡航中止勧告を出し、国が行くなと禁じれば帰り便もなくなるわけですから。

流行地に残っている人を迎えに行くかどうかは新型インフルエンザの時もかなり議論したのですが、その議論が今回、生かされたのではないでしょうか。

帰ってきた人全員がウイルス検査をするとは知りませんでしたが、その中に感染者がいたならば、症状のレベルや感染力などの大きなヒントになりますね。

少しやり過ぎという印象もありますが、医学的な正しさだけでなく、安心感を与えるという意味もあるのでしょう。

帰国者は全員、2週間、健康状態を観察するというのも、もし発症した場合は早く対応するという意味でも適切だと思います。

ただ、このような「念のため」の対策が行き過ぎてしまうと、「お前の父さん、武漢から帰ってきたんだからお前も俺に近づくな」という偏見やいじめを社会に生み出しかねません。周りにいる人も温かい目で見守るべきでしょう。

ーー流行の封じ込めは可能なのでしょうか?

感染症に関して完全な封じ込めは無理でしょうね。ただ、重症者を小規模で抑える、流行のレベルを下げることは可能かもしれません。早く重症者を見つけることが鍵を握ります。

新型インフルエンザは普通の迅速診断キットが応用できましたが、今回のコロナウイルスはそのようなツールはまだありません。新型インフルエンザの対策と同じスタイルで、軽症者も全て検査して封じ込めようとすれば、ものすごくマンパワーを使って、お金を使うことになり、非現実的です。

軽い人を警戒するために、指定医療機関は長蛇の列ができ、患者さんも医療従事者も疲弊します。そうなると肝心の重症者を見落とすことにもなりかねず、軽い人や症状のない人をしらみつぶしに調べようとするのは、マイナス要素が大きくなります。

何を重視して対策をうつべきか

スーパースプレッダー(通常以上に感染力が高く、感染を拡大させる人)という言葉が今回よく使われていますね。

SARS以来、使われるようになった言葉ですが、症状があり、重症な人が感染力が強いのは事実です。スーパースプレッダーはその感染力がさらに強く、1人から何十人にも感染を広げる場合のことを言います。

重症な人は専門の医療機関で早く治療を受けていただくことが、その人のためになるのはもちろん、他の人にうつさないという意味で人のためにもなります。

ーー何を重視するかで政策は変わりますね。

私ならば何を重視するかと言えば、重症者の早期発見と早期治療、それによる早期の拡大予防です。

軽い人も症状のない人もすべからく心配だから検査をしていくということはやめた方がいい。武漢から一時的に帰ってこられた人は限られているから必要でしょうけれども、感染者の出た国から帰った人をすべからく、というのは真の重症者を早期に診ることができなくなる可能性を高めます。

ーー10日程度と言われている潜伏期間中も感染させる可能性があるという話が出ています。

潜伏期間中に感染させるというエビデンスはまだ出ていないです。またその時の感染力の強さについても不明です。それがないうちに、メディア言葉で「歩く感染源」だとか、不安を煽る言葉を使うのはやめてほしいですね。

経験則ですが、呼吸器感染症は、症状がある時に感染力が強くなります。SARSの経験でも、潜伏期間と非常に軽い期間はほとんどうつしていないことがわかっています。いずれも肺炎になってからうつし始める。だから重症者の早期発見が鍵を握るんです。

この法則が今回のコロナウイルスに当てはまるかはまだわかりません。でもこういう初期のわからない時期は経験則の応用が必要かと思います。

デマにはどう対処する?

ーー「武漢の研究所から漏れた生物兵器のウイルスではないか」「致死率15%の最凶ウイルス」など、デマ情報が拡散され始めています。新興感染症では起こりがちですね。

新型インフルエンザの時もそうでしたが、SARSの時代と比べて、誰もが自由に発信するようになったことも原因でしょう。SARSの時はSNSは普及していなかったです。

ーー我々メディアもデマ打ち消しをしているのですが、先生方のような専門家が素早く対応してくださるとありがたいです。

私はTwitterをやっていないんです。忙しい時に色々な雑音が入ってきて、それに返事を書いていると、大切な仕事ができなくなりますから。

新型コロナウイルスが注目され始めた頃、あるメディアの取材に、「正しい情報をつかんでください」と書いてもらったんです。すると、「正しい情報ってどこにあるのかわからない」という批判がありました。

正しい情報というのは、やはり公的な機関が責任をもって出している情報です。日本なら、厚生労働省国立感染症研究所ですね。時間的には少し遅れるかもしれませんが、そこがより正しい情報を出すはずです。

逆に一番危ないのは、無責任に匿名でSNSで流されているような情報です。責任の所在や出典をはっきりさせずに書いている情報はまず信じない方がいい。

ーー厚労省も一般向けの「新型コロナウイルスに関するQ&A」のページを作りましたね。

これも以前と比べたらかなり早くなりました。デマは専門家がなんとか打ち消したいところですが、デマにいちいち応対していたら何もできなくなる。難しいところです。

WHOの「緊急事態宣言」見送りは?

ーーWHOが「緊急事態宣言」を見送ったのは妥当ですか?

僕はあの時点では妥当だと思いました。あの宣言には具体的な基準があるわけではありません。感染者何人とか何カ国に広がったとか、いろんな要素で総合的に判断するいい意味での曖昧さがある。

今回の場合は、23日の時点でウイルスの情報は早く公開されましたが、臨床的な疫学的情報は少なく、人から人に広がっていることは確認されていませんでしたし、限られた人の発生はありますが、中国にほとんど留まっている。

情報が足りない、という言い方をして、中国当局にもっと情報を出すように促した側面もあるでしょうね。

その結果として、中国から迅速に情報が出始めた面も確かにあります。

もしあの時点で宣言を出していたら、一方では不安感が先行してパニックに近い状況となった可能性もあります。その点では、少しクッションを置いたのかなと思います。

ーー「緊急事態宣言」が出ると、国内の警戒度も上がるのでしょうか?

そうでしょうけれども、日本の方が先に警戒度を上げましたね。

「指定感染症」決定、早かった?

ーー29日に政府が新型コロナウイルスを「指定感染症」「検疫感染症」にしたことですね。このタイミングはいかがでしたか?

僕はもう少し待ってもよかったのではないかと思いました。しかし指定することによるメリットもあるので、法に基づいて色々なことができるようにしたということになると思います。

患者を場合によっては、法に基づいて入院・隔離することができるようになって、ご本人の早期治療と、家族友人を含めて周囲の人への感染拡大を防ぐことができます。

病院の方も、指定感染症を診るように定められた「感染症指定医療機関」が重症者を集約しやすくなります。入院費用も公費負担になるので、患者はお金の心配をせずに済みます。

しかし、デメリットもあります。心配な人も怪しげな人も全て、感染症指定医療機関に行ってしまい、指定医療機関に長蛇の列といったことへの対策も必要になるでしょう。

ーー指定医療機関が過重負担になる可能性がありますね。

そうです。それと共に、人々がなかなかスムーズに医療を受けられなくなり、パニックが起こる可能性もあります。それを考えると個人的にはタイミングが早かったかなとも思います。

一般の人がなすべき対策は?

ーー現段階では咳やくしゃみで飛んだ飛沫が体内に入ることによる「飛沫感染」か、感染者のウイルスに触れてその手から体内に入る「接触感染」が言われています。空気中にウイルスが漂う「空気感染」の可能性はないのですか?

今、入ってきている情報ではその可能性は少ないですね。日本で人から感染した可能性のある人が出ましたが、感染者があちこちで広がっているわけではなく、空気感染があったとしても可能性は低いです。

重症入院患者さんを引き受ける医療機関は空気感染の可能性まで考えて対策を取ることになるでしょうが、一般の人は飛沫と接触感染を考えた日常的な対策をすればいいと思います。

ーー接触感染というのは目からも入るのですか?

一応粘膜は全て入る可能性を考えた方がいいですね。目も鼻も口も可能性はあります。

ーー咳やくしゃみによる飛沫はどれぐらい飛ぶのですか?

1m程度といわれていますが、2m、3m飛ぶこともあるようです。常識的に使える範囲で言えば1、2m。ですから咳をしている人はマスクを、マスクがなければ、肘の内側で口を覆う咳エチケットをお願いしたいですね。

ーーこまめな手洗いと咳エチケットが言われていますね。マスクはどうですか?

効果が高いのは、症状がある人が他の人に咳やくしゃみを飛ばさないようにする「優しさのマスク」です。ある程度飛沫の侵入を防げるなら、マスクをつけるのは良いことだと思いますが、パーフェクトな方法に近いと思うと過信になると思います。

ーー手洗いは効果があるのですよね。

その通りです。今は新型コロナウイルスよりもインフルエンザにかかるチャンスの方がずっと高いわけです。

インフルエンザの時の注意も、マスク、咳エチケット、手洗いです。インフルエンザの注意は、今回の新型コロナウイルスも感染症対策の基本としては同じなので、インフルエンザと同様の対策をお忘れなく、というところです。

ですから、この日常的な予防策をしていれば、新型コロナウイルスよりもむしろ今、もっとかかりやすいインフルエンザの防御にもなりますということです。

もう一つ注意してもらいたいのは、糖尿病など慢性の病気をほったらかしにしている人。この人たちは重症化のリスクが高いですから、早く治療して、早く調子をよくした方がいいです。

また、高齢者に入っている人も重症化のリスクがありますから、人混みになるべく出ないとか何気ない注意はしてもらった方が全体のリスクは下がります。

ーー妊婦さんはどうですか?

それはわからないですが、妊婦さんは抵抗力も落ちていますし、胎児も守らなくてはいけませんから、一般の感染症同様、人混みに出ず、こまめに手洗いした方がいいでしょう。

ただ、特別心配して全く出歩かない方がいいというフェーズではありません。

季節性のインフルエンザと同じような注意をしていただければ十分でしょうね。

ーーあとは通常の栄養とか睡眠とかですね。

よく寝てね、ちゃんとバランスの良い食事をとってね、ということですよね。

どんな状態なら受診すべき?

ーー受診した方がいい人はどんな人か教えてください。

やはり流行地、武漢市には限りませんが、ある程度流行が広がっているところに行ったことのある人で、症状が出ている人ですね。

一人か数人、患者が出た国に行ったとしても、直ちに心配する必要はないでしょう。しかし症状がある場合には、いろいろな病気である可能性はあるので、できればかかりつけの先生などに相談されるといいと思います

ーーどんな症状に注意すべきですか?

やはり熱、咳です。今回のコロナウイルスはわりに乾いた咳が出ると言われますが、湿った咳は関係ないかと言われたらそれはわからないです。呼吸数が早い、呼吸が苦しいなども、呼吸器感染として注意すべき症状です。

また、SARSなどでは下痢を起こすことがありました。今回の重症者の内訳を見るといまのところ下痢を起こした人は少ないのですが、一応、下痢は注意した方がいいでしょうね。

ーー熱や咳はインフルエンザでも出る症状ですね。どれぐらいだったら受診を考えた方がいいでしょう。

高熱の目安は38度か38度5分以上ですね。それは繰り返しになりますが、コロナウイルスでないとしても、警戒すべき症状です。インフルエンザと同じような注意をしてくださいということです。

ーー肺炎の疑いがあったら受診はすべきですよね。

肺炎の疑いは咳が強い、咳で胸が痛む、呼吸が速い、呼吸が荒い。それはコロナに限らず、マイコプラズマであっても、呼吸器感染症の注意と共通ですね。

ーー受診の時はいきなり行かない方がいいですよね?

まずは電話でしょうね。心配なら、まずかかりつけの先生や保健所に電話したらどうでしょうか?

メディアへの注文

ーーメディアが気をつけた方がいいことはありますか?

新しい感染症の場合、関心も高いですし、注意喚起するのは当然だと思うのですが、「歩く感染源」とかセンセーショナルな言葉を使って不安を煽るのはやめてほしいです。

3.11の津波の時は、ある週刊誌の見出しで、「ヘドロは感染症の温床だ」というようなことが書かれていました。確かにそこには病原体はあるかもしれませんが、ヘドロが原因で感染症が広がったという事実はなかったのです。

それにも関わらず、恐怖感を与えている。ちゃんと掃除して消毒した方がいいと思って良かれと思って書いたのかもしれませんが、そういう表現は、人にグサッと刺さってパニックを起こさせかねないので気をつけてほしいです。

最近、川崎の記者向けに勉強会を開いたり、市の幹部向けの勉強会を開いたりしました。僕ら専門家もメディアに対して正確な情報を伝える努力をすべきでしょうね。

正確な情報が国民に広がることが、感染症のパニックを防ぎ、不安の解消や冷静な行動に役立つと思います。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会理事長(平成29年12月まで)、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会常任委員など。

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