よくやっていると思う人は、よくやっているよと、コメントください。それを励みに生きます
本を読むだけ偉いと思う人は、エライとコメントください、それを励みに、生きて行けます
認知症の当事者活動の第一人者、佐藤雅彦さん(66)が、先日、Facebookで友人たちに弱音を吐き、褒め言葉をくださいと呼びかけた。
FB友達から続々と集まった応援メッセージは、不思議なことに応援する自分自身も励まされたという声ばかり。こんなやり取りを引き出した佐藤さんにお話を伺った。
弱音の投稿に、応援メッセージが続々
佐藤さんはシステムエンジニアとして働いていた45歳の時に会議の記事録を書けなくなる異変を感じ、2005年、51歳でアルツハイマー型認知症と診断された。
認知症になると「何もわからなくなる」と誤解され、家族らの介護の大変さばかりが取り上げられる。佐藤さんも当初そんな認知症のイメージに苦しめられた。
2007年から当事者としての発信を始め、2012年にはNPO法人「認知症当事者の会」、2014年には「日本認知症ワーキンググループ」を設立。「認知症になっても、希望と尊厳を持ってよりよく生きる社会を作ること」を目標に、当事者の声を届け続けている。
ギリギリまで一人暮らしを続けてきたが、今は軽度の介護が受けられるケアハウスで暮らしている。当事者活動の先頭に立ってきた人だ。
その佐藤さんが、FBでこんな投稿をしたのは今年12月14日の夜8時半頃。
「病気が進み、意欲、気力がなくなり、毎日ボケーとしています」と病気の進行で生活に覇気がなくなっていることを訴え、この状況でもよくやっていると褒め言葉をくださいと呼びかけていた。
この投稿に、友人たちからの応援のコメントが続々と並んだ。
「たくさんの投稿に私が元気づけられたりしています。
エライですっ!」
「弱音を吐けるのは素敵です。
毎日頑張ってますよ。頑張れない日もあるのは仕方がないですよ」
「素敵です!ありのまま、飾らない雅彦さんのように私も飾らない人間でありたいと、思います!」
「佐藤さんの投稿に、いつも励まされてます。
僕も、負けずに頑張ろうと思います。
弱音を吐けるのも、佐藤さんが立ち上がる強さを持っていればこそなんだと感じます。
そういう人に、僕はなりたいです」
「弱音を吐きたくなる時ってありますよね。コロナ禍で思うことは、『生きているだけで上出来!』ということです。雅さんも、私も、上出来!だと思っています」
佐藤さんを励ますようで、自分も元気づけられているような言葉の数々。コメントは24日現在、185件まで増えている。
みんなからこんな言葉を引き出す佐藤さんにお話を聞いてみたいと、取材を申し込んだ。
「zoomでどうぞ」と返事があり、2日後に遠隔でインタビューすることになった。
SNSで色々な人の力を得て、それを自分の力にする
当日、約束の時間午前10時を5分過ぎても、佐藤さんがZoomにつながってこない。
でも慌てない。Zoomのリンクを送った時、佐藤さんがあらかじめ、「忘れたら電話をください」と携帯電話を伝えてくれていたからだ。すぐにつながり、10分遅れでインタビューが始まった。
Facebookにあの言葉を投稿した時はどういう気持ちだったのだろう。
「弱音になったというだけの状況ですよ。よくあることです」と事も無げに言う。
夜、部屋に一人いた時、そんな気持ちになることがよくあるのだという。でもこんな投稿は初めてだった。なぜだろうか。
「Facebookは共感するSNSですから、いろんな人の力を得てそれを力にしたいと思ったのです」
Facebookは診断後の8年ほど前から仲間に誘われて始めた。人とつながるためだ。
佐藤さんはクリスチャン。信仰で助けられることもあるが、それだけでは満たされない。人との対話に求めるものは何か。
「やっぱり(認知症の)進行を遅らせるためには、人とつながっていないとだめなんです。病気は信仰の有る無し関係なく進みます。どんなことをしても病気は進みます」
「人との会話は頭を使うからです。人とつながるということは、人の言ったことを理解して、それに適切な言葉を考えて、それを発することが必要です。頭を使うことが進行を遅らせるために必要なんですね」
認知症が進んでも、自己が崩壊することはないのです。たとえ自分の名前を忘れても、あなた自身が消滅することはけっしてありません。言葉を失っても、まわりの人が、言葉に代わる新たなコミュニケーションの方法を見つけてくれて、あなた自身の存在が無視されることはないと私は信じています。(佐藤雅彦『認知症の私からあなたへ 20のメッセージ』大月書店)
芸術療法で描く絵画が喜び
今は週2回は運動系のデイサービスに、月に2回はマッサージのデイサービスに通っている。
そして、楽しみにしているのが、月に2回の絵画教室だ。芸術療法を行うこの教室で、花や果物などをオイルパステルで描き続け、今年2月には、画集『佐藤雅彦 希望の世界』を自費出版した。
「一番楽しい時は、絵を描いている時。具象画も抽象画も描きます。先生の出すテーマの絵を1時間半で描きあげます」
そして、zoomの画面共有機能で、最近描いた絵の写真を見せてくれた。写真を撮るのも趣味だ。
読書も好きだったが、年々読みづらくなっている。
「読んでも覚えられないのですね。ここ2〜3年は読んでも最初に読んだところが覚えられないから、時間の無駄みたいだと思っています」
コロナ禍で人とは滅多に会えないが......
新型コロナウイルスの流行で、今年は人と対面で会う機会がほとんどなくなった。
「全然人とは会えません。全部Zoomです」
だけど、悲観的には捉えていない。
「Zoomの方が便利ですね。『忘れるので時間になったら電話をください』と言っておけば、時間になったら電話が来るから。よく忘れるんです」
佐藤さんが私の取材もこの方法で乗り切ったのは前に書いた通りだ。人と対面で待ち合わせをしていた時は、連絡をもらってもたどり着くまでかなり待たせてしまうことがあった。今は連絡を受ければすぐにつなぐことができる。
認知症がある仲間とも、今は対面で交流できない。でもZoomで時々、交流会を開いている。
「仲間との話も、取材も全部Zoomです。アマゾンで買い物もできますし、ネットがあれば不自由なことはあまりないですよ。便利、便利(笑)」
運動不足にならないように、1日5000歩を目標に、一人で散歩を続けている。近所のスーパーに買い物にも行く。
「今はケアハウスの屋上を歩いています。体調もまあまあです」
心が疲れないために大切なこと
最近、佐藤さんは「心が疲れないために大切なこと」をFBに投稿した。
- 頑張らない日を作る。
- 休むことに後ろめたさを感じない。
- 全部自分が悪いと思わない。
- 完璧な自分を止める。
- 求めすぎず、期待しすぎない。
- 心の逃げ場所を持つ。
- 理想と遠くても、自分を許す。
- 人は人、自分は自分でいい。
- 不甲斐ない自分を許す。
- 何事もほどほどに。
- 無理はしない。
- 自分に正直に生きる。
- 夢をもとう。
- 楽しみをもとう。
7までは友達が書いてくれ、その後を自分で書き加えた。
そして、「困りごと」とその対処法も、思いついた順番にFBに書いている。自分のための備忘録だが、FB仲間に自分の状況を理解してもらうためでもある。
1 同じことを何回も言う。
解決策 言うことをメモして、伝えた日付、時刻を記入する。
2 メールの宛先を間違える。
対策 宛先をよく確認して送る。
3 梅干しを食堂に持っていくのを忘れる。梅干しを食堂に持っていくが食べるのを忘れる。
考え方 細かいことなので気にしない。
4 文章を打って、漢字に変換されない箇所に気がつかない。
考え方 細かい点であるので無視する。
5 誰にどんな内容のメールを送ったのか覚えていない。
考え方 生活に支障がないので、気にしない。
6 生きる目的が見つからないので、生きるのが辛い。
考え方 楽しみを見つけて生きる。絵を描く。
7 時間感覚がなく、約束時間に遅れる。
対策 アラームを設定して、約束の時間の15分前に着くように逆算して家を出る。
8 洗濯していることを忘れる。
対策 終了時間にアラームを設定する。
9 次に何をするのかを忘れる
考え方 細かいことなので気にしない。必要になればまた思い出すから大丈夫。
10 知人の名前が出てこない。
対策 知人リストを作成する。
「こういう悩みがあるからこういう解決があるということを、認知症の人がどんなことに困っているかというのは、みんな想像がつかないのであげています」
認知症の仲間が参考にしてくれているかどうかはわからない。
「でも自分のやっている工夫など情報を共有したい。自分で工夫をして、同じ間違いをしないように記録に残しておくこと。iPadで文章を入力しておくのも工夫の一つですね」
元気をなくしている人に元気を届けるのが使命
「認知症で元気をなくしている人に、元気を届けることを使命だと思っています」と佐藤さんは言う。
そして、来年の目標ももう作ってある。
「認知症を進めないこと。片手で作る『バリアフリーアクセサリー』の技術を習得すること。あとはひと月14万歩歩くことです」
最近は日中、意識が遠のくことがある。病気は確実に進んでいることを感じている。
「意欲がない、気力がない。病気だからしょうがないと受け入れるしかない。でもFacebookに投稿することもできる。取材も受けることができる。世界の貧しい子供たちへの寄付も続けています。やることはたくさんあります」
できることは、たくさん残されています。
もし、何かが一度できなくなっても、体調が良くなれば、またできることもあります。
今日はたまたまできなかったのだと思って、次の日、またやってみる。あきらめずにチャレンジする。それが大切です。
完璧に生活する必要はなく、失敗してもいいのです。私は失敗しながら、自分の生活のペースをつくってきました。
労苦はその日その日に、十分あります。明日のことは、明日が心配してくれます。(『認知症になった私が伝えたいこと』佐藤雅彦 大月書店より)
【佐藤雅彦(さとう・まさひこ)】日本認知症ワーキンググループ共同代表
1954年、岐阜県の6人兄弟の次男として生まれる。小学校の頃から、算数が得意な、作文の苦手な少年でした。1977年名城大学理工学部数学科卒業。中学校の数学の教師を経て、システムエンジニアとして勤務。39歳の時、洗礼を受け、クリスチャンになる。2005年、51歳の時、アルツハイマー型認知症と診断される。
診断後、地獄の生活を送るが、旧約聖書「わたし(神)の目にはあなたは高価で尊い、わたしはあなとを愛している」で立ち直り、認知症の体験を全国で講演、講演回数100回以上。
2014年認知症の全国組織、日本認知症ワーキンググループを立ち上げ、共同代表に就任。2014年認知症の体験談を綴った『認知症の私が伝えたいこと』を大月書店より出版。趣味 絵画作成、ピアノ演奏、個展も開いたし、ピアノ発表会もしたし、画集も出版。現在、66歳、ケアハウスで一人暮らしをしている。
ホームページは www.sato-Masahiko.com 。
※佐藤さんが送ってくれたプロフィールをそのまま掲載しています。