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臨時休校で子どものいる44%の医療職が休まざるを得なかった 患者の手術や処置に影響も?

政府が3月いっぱい要請した全国の一斉休校で、医療職も休まざるを得ない事態に。もともと予定していた手術や処置にも影響が出ています。女性医療ネットワークがアンケートで明らかにしました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のためとして、安倍首相が2月27日に突然発表した、全国の小中高校、特別支援学校への一斉休校要請。

準備期間がほとんどなく、学校はもちろん、子どもがいる家庭は、どのように子どもの世話をすればいいの調整するのにパニックとなった。それは医療職でも同じことだ。

女性の医療に関わるNPO法人「女性医療ネットワーク」(対馬ルリ子理事長)が医療職を対象に臨時休校がどう影響したか尋ねるアンケートを実施。

休校の影響で仕事を休まざるを得なかった医療職が44%にのぼり、患者の手術や処置にも影響していた可能性が明らかになった。

分析した同ネットワーク副理事長の医師、池田裕美枝さんにお話を伺った。

44%が休まざるを得ない 多い人は21日間も

アンケートは3月4日から18日まで、ウェブで広く呼びかける形で実施し、314人(女性284人、男性30人)から有効回答があった。うち294人が高校生以下の子どもがいた。

その結果によると、臨時休校のために半日以上休まざるを得ないと答えた医療職は高校生以下の子どもがいる医療職の44.2%に上った。もっとも多い人は21日間も休む必要があると答えた。

ハイリスクな高齢者に預けなければいけない葛藤

そもそもこの学校の休校措置は、感染しても無症状や軽症となることが多い子どもたちが、重症化のリスクが高い高齢者や持病のある人に、知らないうちに感染させないように取られた措置だ。

ところが、子どもの見守りを祖父母やシッターにお願いしている人が45.9%おり、うち58%が70代以上の高齢者に依頼せざるを得ない状況だった。

「医療職ですから高齢者に重症化するリスクがあるのはわかっているのに、お願いしないといけない後ろめたさを感じています」

自由意見では、「コロナのキケンのある年代の祖父母の応援が必要だった」「主に見守りをお願いしている 90 歳の義祖父母への感染が心配」という声も見られた。

幼稚園や保育園も登園基準が厳しく

保育園や幼稚園は休園措置は取られていないが、それでも17%は臨時休園があると答えていた。さらにいつもより「登園基準が厳しくなった」という人も46%いる。

「普段なら少しの咳ぐらいなら預かってもらえるのに、今はコロナを警戒してわずかな症状でも預かってもらえないという話も聞きます」と池田さん。

自由意見では、「子供に風邪症状が少しでも見られると、預ける場所が全くなくなってしまう」という悲鳴のような声も見られた。

子育ての男女役割意識が明らかに

また、子どもの預け先を手配するのを、母親だけが担っているという人が53%と過半数だったのに対し、父親だけが担っているという人は2%に過ぎなかった。

「父親の他人事感が如実に現れましたね。普段の夫婦の関係性が現れています。女性の医療職も責任のある仕事をしているのですから意識を変えてほしいところです」

自由意見では「男性が休むことに抵抗がある」という声がある一方、「協力してくれない主人と大喧嘩しました」「医師夫は負担が増えないばかりか、どこか他人事である」「業務を男性や独身者に分担せねばならない」という声も。

育児がいまだに女性に偏っている現状が明らかになり、逆にその分の負担を職場で引き受けている男性や独身者の大変さも透けて見える。

預ける費用も高額に

子どもを急にどこかに預けるとなると、金銭的な負担の上乗せも大変だ。臨時休校のために学童やシッターに預ける費用の中央値は2万5000円だったが、最高で25万を費やしている人もいた。

自由意見では「シッターに預けると赤字になるので休まざるを得ない」という声も届いている。

低学年の子どもを家に残す不安

どうしても預け先が見つからない場合、幼い子どもだけで留守番をさせる不安も大きい。高校生以下の子どもがいる回答者の16.3%が、小学校3年生以下の子どもだけが家で過ごす時間があると回答した。

さらに中央値で25時間も、低学年の子どもだけで留守番させていることも明らかになった。

自身も5歳と7歳の子どもを義母に預けて診療している池田さんは言う。

「私は義母に安心して預けられていますが、中には子どもが心配なので、しょっちゅう連絡している人もいて心理的負担は大きいです。診療に集中できない問題がありますし、特に年度代わりで忙しく、普段でもミスが起こりがちな時期です」

「新型コロナウイルスに対応している医療者は、防護服を脱ぎ着したり、手指の消毒に神経を使いますが、仕事に集中できない環境は医療職自身の感染リスクを高めています」

「医療者のリスクを高めることは、ひいては患者さんの感染リスクを高めることにもなり、一人でも感染者が出れば病棟が閉鎖される可能性もあります」

患者の診療にも影響が

手術や処置を減らす検討も

医療職が休めば、当然、その分、患者にもしわ寄せがくる。予定していた手術や処置を減らす検討をした人は14%にのぼった。自由記載では「自分しかできない手術の延期」を書く人もいた。

救急措置により、救急受け入れの制限や入院の制限をしているところはあるが、まだ割合は少ない。

「現場の医療者たちは、少ないスタッフでも社会のインフラを保つために必死の努力を続けています」と池田さんは語る。

医療機関の運営にも影響

スタッフが確保できなければ、当然、医療機関の運営にも支障をきたす。管理職の52%は運営上の影響があると答えた。

大変なのはシフトが組めないことだ。管理職の8割が医療スタッフのシフトが組めなくなる可能性があると答えた。

「夜勤がある職場は特に大変です。木曜日の夜に休校要請の発表があり、金曜はシフトの責任者が『シフト希望を出して!』と殺気立っていました。特に交代制勤務のナースは、女性が多いのでシフトを組み替えるのは大変な苦労だと思います」

医業収入が減るという声も7割

医業収入が減ると答えている人は68パーセントにのぼる。

自由意見では「休職せざるを得ない場合は、手術件数や外来数制限によりクリニックの収入減へつながります」「特別休暇を取って家で子供とずっと過ごせる正職員と、そのしわ寄せで休めない非正規職員。非正規は休めば収入減。シングルマザーの非正規はみんな悔し涙です」という声が見られた。

アンケート結果から提言

以上のような結果から、女性医療ネットワークでは、急な休校措置は子育て世代の40代前後の医療職に大きな負担となり、特に女性の負担が大きいこと、今後の新興感染症に備えて、体制を準備しておく必要性を提言している。

池田さんはこう訴える。

「新型コロナに限らず、今後もまた新たなウイルスが流行したら同じような問題が起きるでしょう。思いつきでこうした対策を打てば医療現場が回らなくなります。医療に限らず、社会的なインフラを担う職種が業務を回していけるよう、政府は計画的な準備をした上で、政策を打ち出してほしい」