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HPVワクチン、うってみてどうだった? 男性も含めてうちたい人は誰でも接種できるように

子宮頸がんを防ぐ高い効果があるHPVワクチンですが、一度は接種を見送った人もいます。後からうってみて、どんな感じだったのでしょう? 20歳でHPVワクチンをうち、男性にも無料接種を広げようとしている大学生に聞いてみました。

若い女性もなる子宮頸がん(※)を防ぐHPVワクチン。

小6から高1の女子が無料でうてるようになった2013年当時、「うった後に具合が悪くなる」という女の子がたくさん報じられ、8年半もほとんどうたれない状態が続いてきました。

でも、その後、研究が進んで、とても安全なワクチンだということが証明され、日本も「積極的にうってほしいワクチンだとおすすめします」とお知らせを送るようになりました。

一度はうつのをやめておいたけれど、後からうった先輩たちは、実際どんな経験をしたのでしょう?

まずは20歳の時にHPVワクチンをうった大学3年生の川上詩子さん(21)に聞いてみましょう。

※子宮頸がん 子宮の出口の部分にできるがん。子宮を取る手術が必要となることが多く、日本では毎年約1万1000人がかかり、約2900人が亡くなっている。20代から増え始め、30代、40代が多い。子育て中に命を奪うことから「マザーキラー(母親殺し)」とも呼ばれている。

SNSの医師たちの発信で、HPVワクチンについて学び直す

川上さんは2001年生まれで、HPVワクチンを無料でうてるようになった世代です。

ただ小5から中3までは父親の仕事の関係でブラジルに住んでいて、現地で通っていた中学校では保健室で無料でうてました。周りの友達もみんなうっていて、問題なく過ごしていました。

ところがその頃、日本では「HPVワクチンの健康被害」を訴える報道が盛んに流されていました。日本の報道をチェックしていた川上さんの母親は「日本で大変なことになっているからうたないで」と止めたのです。

その後、2017年に高校入学のタイミングで帰国した川上さんは、HPVワクチンのことなどすっかり忘れて過ごしていました。

ただ、川上さんに難病があるため、母親は普段から医療の情報を熱心に集めていました。2020年からコロナ禍が始まり、新型コロナに関する発信をしていた「こびナビ」の情報を見ているうちに、その医師たちが伝えるHPVワクチンの最新情報にも触れたようです。

「私が彼氏ができたことを伝えた直後に、母親から『大切なワクチンだからやっぱりうって。性的なことも始める年頃だから、備えてうってほしい』と言われました」

子宮頸がんなどの原因となる「ヒトパピローマウイルス(HPV)」は、セックスやオーラルセックス(口で性器に刺激を与えること)、互いの性器に手で触れ合うなどの性的接触でうつります。

だから、このウイルスに感染するのを防ぐHPVワクチンは、性的な接触を始める前にうつのが効果的なのです。

川上さんは、高校3年生の時から性的な経験があり、大学で付き合い始めた彼とも既に性的な関係はありました。自分でもHPVワクチンについて啓発している「みんパピ!」の情報などを調べ、うった方がいいワクチンだと理解しました。

「その頃はコロナワクチンの騒動もあったので、HPVワクチンについても『ああこういう風に騒いだのだな』と捉えました。何のためにうつのか、子宮頸がんはどんな病気かを調べて、ワクチンをうつことに納得しました」

ただ、当時の厚労省のパンフレットには「積極的におすすめしていない」とも書かれていて、「なぜ国は勧めないのだろう」と不思議に思ってもいました。

9価ワクチンを接種 痛いのはうった瞬間だけ

日本では現在、このウイルスの中でも特にがんになりやすい型を防ぐ2種類のワクチンが無料で受けられます。既に無料接種の年齢を過ぎていた川上さんは、より効果の高い「9価ワクチン」を選び、3回で10万円の費用は、親が払ってくれることになりました。

「9価ワクチンをうちたかったので、うてるクリニックを探すのは結構苦労しました。自分の住んでいる区の名前と『9価ワクチン』でググったのですが、実際にうっているという情報になかなかたどり着けなくて、時間がかかりました」

区内の小児クリニックで9価ワクチンをうっていることがわかり、2021年7月、コロナワクチンを接種して2週間後にHPVワクチン1回目の予約を入れました。全部で3回うつのです。

当日、自分はそれほど緊張していなかったのですが、接種するお医者さんと看護師さんの方が緊張しているように見えました。

「私の反応を警戒していたようで、診察ベッドの上で座って注射をうってもらった後、『すぐに寝っ転がってください』と横になるよう言われました。そのまま2〜3分待って、『大丈夫ですか?』『大丈夫です』と問題ないか確認された後、待合室に移り15分ぐらい待機するように言われました」

注射液を注入する時は、グーッとくるような強い痛みがありました。

「でも注入して終わった後は全然痛くありませんでした。コロナワクチンは翌日はだるくて腕が上がらなかったのですが、HPVワクチンは当日も翌日も全然つらくなくて、何もありませんでした」

2回目は2ヶ月後の9月にうちました。

「同じようにスムーズに終わりました。何も問題は起きませんでした」

3回目は1回目の半年後にうつのが標準的なスケジュールですが、コロナの第6波がやってきたタイミングで、接種した小児クリニックが子どもの発熱対応で忙しくなっていました。

「コロナがうつるのも嫌なので、行かない方がいいなと判断しました。そのうち大学も始まり、コロナの7波も来て、まだ3回目はうてていない状態です。4回目のコロナワクチンのタイミングもはかりながら、HPVワクチンの3回目をうとうと思っています」

検診もしっかり受ける ワクチンと検診、両方で安心

子宮頸がんを防ぐのは、HPVワクチンだけではありません。

HPVワクチンは子宮頸がんにならないようにするための予防策ですが、100%は予防できません。だから、性的な経験がある人は、早めに発見するための「子宮頸がん検診」を20歳になったら2年に1回受けることが勧められています。

川上さんもかかりつけの産婦人科医で、毎年夏に必ず受けています。

「ワクチンと検診の両方が大事だと思いますし、両方受けていると安心感が違います」

キャッチアップ接種 国の姿勢の変化に前向きに反応

川上さんの周りの友達も、HPVワクチンに関心を持つようになってきたと言います。

「今まで受けたことがないけれど、キャッチアップ接種(※)を始めてから、接種券が届いて、うつ気持ちになって時期を見ているという声はよく聞きます」

※キャッチアップ接種(追いつき接種) 国がHPVワクチンを積極的に勧めていなかった8年半の間に、案内も来なくてうちそびれた世代に2025年3月までの3年間、無料接種の再チャンスを与える制度。1997年4月2日から2006年4月1日生まれの女子が対象で、自治体からお知らせや接種券が届く。

「ICUは秋に交換留学に行く学生が多いのですが、『留学前にキャッチアップ接種しようと思うんだけど、どう思う?』という相談もよく受けます。うつことを前向きに考えている友達が多いです」

HPVワクチンに消極的だった数年前とは間違いなく、雰囲気は変わってきていると川上さんは感じています。

「HPVワクチンについてすごく好意的に捉えてくれている人が増えました。抵抗感が薄れてきています。教室で、普通に大声でHPVワクチンについて話せるようになっています」

この変化は、国がHPVワクチンを積極的におすすめするのを昨年11月に再開したことが大きいと感じています。

「興味を持って自分で調べても、『え?政府は勧めていないの?』となったら、そこで止めてしまう人も多かったと思います。でも今は政府のバックアップがある感覚があるので、自信を持って説明することができるし、以前の報道を知らない人は特に、全く抵抗感がなくなっているように思います」

親世代にも正しい情報を伝えることが必要

最近、川上さんは嬉しいことがありました。

「私はICU高校の卒業生なのですが、性教育に興味のある高校生の後輩が『HPVワクチンに関する相談を最近よく受けるから』と高校でHPVワクチンに関する啓発講演を開いてくれたのです」

9月上旬に川上さんが高校で講演をすると、男女問わず20人ぐらいの生徒が集まってきてくれました。

HPVワクチンが何を予防するのか、今はどんな無料接種の制度があるのか、副反応についての最新の研究、男性接種などについて話しました。そして、講演後に「どうやったら高校生にHPVワクチンについて知ってもらえるか」をグループで議論してもらったのです。

「著名人に宣伝してもらう」「義務教育の保健の授業で説明してもらう」「親世代の意識改革も大事」など、驚くほどしっかりした意見が出ました。

親世代の人も参加してくれて、9年前の「HPVワクチン健康被害」報道の衝撃を話してくれました。今では海外や日本の研究で、うっていない女子にも同様の症状が見られることがわかっており、HPVワクチンの成分のせいではないことが明らかになっています。

「『今でも正直怖い』という親としての感想を共有してくれたので、親に正しい最新情報を届けるのも大事、という意見が出たのだと思います」

「高校生にも、うたなければならないワクチンなんだということは徐々に伝わっているみたいです。聞いたことはあるけれど詳しくはわからないので、身近なところから情報が欲しいというニーズが多いようでした」

男性もうった方がいい 無料接種を求める署名活動を始める

川上さんの弟も中学2年生で9価ワクチンをうちました。

HPVワクチンは、男性もかかる喉のがん「中咽頭がん」や「肛門がん」「陰茎がん」など6つのがんを防ぐ効果があると言われています。またセックスでうつし合うので、海外では男性も無料接種の対象となっている国が増えています。

川上さんはHPVワクチンをうったクリニックで、医師に「男性もうった方がいいのですか?」と聞くと、「うてるものならうった方がいいですよ」と言われました。

川上さんは当時付き合っていた彼氏、服部翼さんに「私もうつから、あなたもうってよ」と伝えましたが、当初、ピンときていないようでした。しかも、少なくとも3回で5万円、9価ワクチンなら10万円費用がかかり、大学生にとっては負担が大き過ぎます。

大事さを理解してもらえてもなかなかうてずにいるうちに、二人は別れました。

川上さんは自分がうったことで安心は得たものの、次に付き合う彼氏にもきっと、HPVワクチンのことは伝えると言います。

「こういう病気があって、それを防ぐワクチンがあって、私はとても大事だと思っていると、相手が誰であっても説明すると思います」

それでもやはり費用の問題は大きな壁になります。

川上さんは、自身が所属するジェンダー問題の啓発団体「Voice Up Japan ICU」で、男性にもHPVワクチンの無料接種を求める署名活動を昨年10月から始めました。

そして、男性接種も可能にすることは、生まれた時の性別は女性だけれども、自分は男性だと感じている人など、性的マイノリティにも接種の道を開くと川上さんは気づいたと言います。

「行政上の区分は女性と男性しかなく、今はHPVワクチンは女性しか無料でうてないのですが、男性接種も可能になれば誰もが抵抗なく受けられるようになります。男性接種に道を開くことで全ての人にワクチンが行き届くことに意義を見出す方もいて、確かにそうだなと思いました」

うちたい人は誰もがためらわずにうてるワクチンにしたい。そんな願いを持って、署名は11月17日に厚生労働省に提出します。

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