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母の不安、無関心な父・・・「家庭環境のストレスが影響した」 HPVワクチン後の体調不良を振り返る

今は回復して大学に通っている女性が、接種後に起きたこととじっくり向き合いました。2回連載の前編は本人が語ります。

HPVワクチンの接種が事実上ストップしてからもうすぐ5年が経ちます。公費で受けられる定期接種のままであるにもかかわらず、受ける人がほとんどいなくなってしまったのは、うった後に体調が悪くならないか不安を抱いている親子が多いからでしょう。

どんなワクチンであっても稀に、狙った効果とは違う「副反応」が起きることがあります。

しかし、体の痛み、だるさ、生理不順などこのワクチンで訴えられている症状の多くは、ワクチンをうっていない人でも同様に見られることが名古屋市の女性7万人を対象とした調査や、厚生労働省研究班の調査でも明らかになっています。

ワクチンへの不安や注射の痛みが発症の引き金になった可能性は否定できないとはいえ、薬の成分が原因であるとは考えにくいというのが、現在、厚労省の検討会や世界の医学界での共通認識となっています。

それでは、どうしてこのような症状に苦しむ人が出てくるのでしょうか?

定期接種の対象となった小学6年生から高校1年生は第二次性徴期と重なってホルモンのバランスが大きく崩れ、心身が不安定な状態になります。また、自立に向けて、進路や親、友達との関係にも悩む時期です。

しかしまだ精神的には未熟でストレスを自覚することさえ難しく、蓄積されたストレスが身体の症状として現れることがあります。HPVワクチン接種後に訴えられている体調不良の多くはこのような症状ではないかと考えられています。HPVワクチンが登場する前から思春期に多く見られてきました。

そこで、BuzzFeed Japan Medicalは、体調不良から回復した大学生のさくらさんと母親のともこさん(いずれも仮名)にお話を伺いました。

前編では、回復したさくらさんが自分の身に起きたことを振り返り、なぜそのようなことが起きたのか見つめ直してみました。

だるさ、眠気、体の痛み・・・次々に出てきた症状

ワクチンは中学2年から3年にかけて2回うちました。転校してきたばかりでクラスの友達がみんな受けているのを知り、焦って母に「うちたい」と伝えて近所のクリニックに行ったのです。

2回目の直後に、注射をうったところが腫れて強く痛みましたが、先生からは「よくあることだよ」と言われました。そのうち治まり、3回目はうたないことにしました。

それからしばらく普通に過ごしていたのですが、2回目の注射から約1年経った高校1年の春頃、だるさや眠気で学校に行けなくなりました。心療内科で抗不安薬やADHD(注意欠陥・多動性障害)の薬を処方されましたが、眠気が悪化したり、視界がぼやけたりしたので怖くなって飲むのをやめました。

その後も両手の薬指が腫れたり、首に激痛が出たりして、体が動かせないほどになりました。両足の指も腫れ、不整脈も出たのに、血液検査や心電図検査をしても原因はわかりません。イライラして家族や友達とも話さなくなったり、そのうち学校の中でも迷子になったり、倒れたりするようになりました。

心配した母がインターネットでいろいろと検索して、HPVワクチンをうった女の子たちが同じような症状を訴えていることに気づき、子宮頸がんワクチン被害者連絡会に連絡しました。事務局の人にすぐに「それはワクチンの副反応ですよ」と言われ、原因が見つかって私も母もとてもホッとしました。

ところが、ワクチンをうったクリニックで診断書を書いてもらおうとしたところ、先生はろくに話も聞かずに「ワクチンが原因なんてありえない」と取り合ってもくれません。腹が立って仕方がありませんでした。症状さえ聞いてくれなかったのです。そのうち腰も痛くなり、整形外科にも通い始めました。

耳を傾け、「治るよ」と言ってくれた先生

高校2年生になる前の春休みに、被害者連絡会に紹介してもらったカイロプラクティックに行きました。その先生は、私の話をじっくり聞いてくれて、「ワクチンのせいかもしれないね。治るから心配しなくていいよ」と言ってくれました。

その言葉を聞いてとても安心したのを覚えています。それまで通った医療機関ではどの先生もろくに話を聞いてくれませんでした。でも、この先生は私の言うことを否定せずに受け止めてくれて、「治るんだ」と希望を持つことができました。行きは歩くのも休み休みだったのに、施術を受けて、帰りはスタスタ歩けるようになりました。

その後1年ほど施術を受けて、先生の指導で食事療法を続け、3年生の夏頃にはすっかり良くなりました。受験勉強にも集中できるようになり、現役で大学の教育学部に合格し、地元を離れて進学しました。今は小学校の先生を目指しています。

今振り返るとあの症状は・・・

今は元気に過ごしています。たまに頭痛があったり、体育の授業の後に体が痛くなったりすることもありますが、ワクチンと結びつけることはもうありません。生理不順もありましたが、婦人科に通ってピルを処方されたら良くなりました。

今も、ワクチンがきっかけで私の症状は起きたとは思っているんです。

国は心理的・社会的な要因が影響している「機能性身体症状(心身の反応)」と言っているそうですが、正直、私の症状もそういうことなのだろうと思います。ワクチンをきっかけに心因性の症状が現れたという感じです。治った頃、カイロの先生から「心因性の症状だったんだろう」と言われて納得しました。

私の場合は母をはじめ、周りが心配性の人ばかりだったんです。自分より症状のひどい子のことをずっと聞かされて、被害者が痙攣しているような動画もスマホやニュース映像で見せられることがありました。自分も今後ああなるんじゃないかと不安で不安で、どんどん新しい症状が出てきたところがあります。

私の場合、最初は痛みだけだったのです。「あなたが最近感情の起伏が激しいのも、実はワクチンのせいじゃないの? そういう子が他にいるんだって」と母から聞かされると、ああそうなんだと思って、自分の感情を過度に気にするようになっていきました。

他の症状も、母から「ワクチンをうつと、こういう症状もあるんだって」と言われると、今まで気づいていなかった症状も気になって、それが酷くなっていったように思います。

ただ、強い症状を訴えている子の中には、薬液の成分も影響があった子がいるのではないでしょうか。症状を訴えている全ての子を一括りに心身の反応とするのは無理があると思います。国がその解明をしていくことは不安を取り除くためにも必要でしょう。

私の場合は心因性の可能性が強いと思っているのです。

家族の不和というストレス

振り返ると、私は小さい頃から、家族関係がストレスの根底にありました。それが大きな原因だったと今では思っています。ワクチンがきっかけではあるけれど、成分が関係しているとはあまり思っていません。

父母は私が中学校に上がる頃から互いに無関心で、家の中でも他人のように接していました。いつも目を見ずに会話するのです。父がお土産を買ってきても、母は「いらない。そこに置いておいて」とほとんど無視する。

私がワクチンの後に体調を崩している時、父はほとんど関心がないようでした。積極的に調べたりもしないし、病院についてきてくれたりもなかった。母ばかり心配して関わって、「私ばっかりやっている」と不満に思っていたようです。

父はお父さんというより、たまに来る親戚のおじちゃんという感じです。家の中にいるだけで、家庭内が不安定になるので落ち着きません。私が滅多に帰省しないのも、そういう空気に触れたくないからです。

昔のビデオを見る限り、そんなに仲は悪くなかったんです。小学生の頃、父の仕事の関係で家族で引っ越した先がすごく広い家だったので滅多に顔を合わせなくなりました。父はますます仕事に没頭するようになり、家族で過ごす時間が少なくなったのです。私はそれが仲が悪くなったきっかけだと思っています。

母は離婚したがっているのですが、家のローンや養育費、学費の問題もあるのでできないと言っています。私としては、あの二人は他人だったらうまくやっていけると思うから、別れればいいと思う。でも現実的には私たちのためにできないこともあるので、ある意味申し訳なくも思っています。

家庭の影響 母もまたそういう長女だった

人間関係への不安や家庭環境の影響はすごく自覚しています。

冷めきった家庭しか見ていないので、私は恋愛もできないと思いますし、これまで誰かを好きだと思うこともありませんでした。

私が体調を崩した時も、父が全く関わらなかったことで、余計父と母の間に亀裂が入ったと思います。両親の仲をさらに悪くしてしまったという罪悪感が残っています。

父は私の体調が悪い時に、心配している様子もありませんでした。母は、父の分まで心配し、心配し過ぎて、そこまで思いつめたらお母さんの方が壊れてしまうとこちらが不安になるほどでした。

母は父が許せず、私の目の前で父の悪口ばかり言っていました。そういうことも私は辛かった。両親が不仲になった頃から普通の家庭なら旦那さんに相談することを長女である私に全部言うようになりました。妹の学校の相談事も愚痴も、全部私に降りかかってくる。本当は私が甘える立場なのに、逆転していました。

高校の頃、本当に親子関係に悩んだことがあってスクールカウンセラーに相談したことがあります。「あなたはまだ心は子供なんだから、そんなに急いで大人にならなくていいのよ」と言われてホッとしたことがあります。

また、母は長女の私にだけすごく厳しかった。妹や弟には許しているのに、なぜ私にだけ厳しかったんだろうと今も解消しきれていない思いがあります。

ただ、それは母がかつて育った家庭環境の問題も影響しているのではないかと思ったのです。母も長女で、私から見たら祖父母である両親から厳しく育てられていました。完璧主義者の両親に期待をかけられてギクシャクして、今もプレッシャーを感じているようです。

母は私と同じ立場なのだな、かわいそうだなと思うところがあるのです。

大学進学で一人暮らしを始めて家族と距離をとったことで、ストレスはかなり軽減されました。楽になったのですが、なぜか最近では逆に母に自分のことを報告しなければならないんじゃないかという心理が働いて、母離れができていない自分を感じています。母の干渉を嫌いながら、依存もしているのは否定できない。

卒業したらこのまま自立して、自分で自分のことを決めていく力をつけることが私には必要なのだろうと思います。

ワクチン接種後 どうしたらよかったのか

私の体調不良は、家庭内のストレスが影響したのだと思いますが、ワクチンが引き金になったことは間違いないです。私はとても影響を受けやすく、「ワクチンのせいじゃないの?」と言う周りの声にかなり洗脳されました。自分の心の持ちよう次第では悪化を防げたのにと思います。

最終的に治してくださったカイロの先生は「治るよ」しか言わなかった。治るために、不安を払拭することが必要だったのだと思います。

逆にそうした不安要素がなかったら、もっと早く治ったのにとも思うのです。

ワクチンをうったクリニックの先生は、「そんなのありえないです」と叱りつけるような感じだったので、怖くて相談できる人ではなかったし、自分が嘘をついているように見られていると思うと腹が立ちました。そういう対応も、症状を悪化させる原因になっているのではないかと思うんです。

もし私があの時、「HANS」(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群、筆者注・ワクチンの成分が神経や免疫系に影響を及ぼすとする仮説)と診断されていたら、完全に信じ切っていたと思います。たぶん、いま悪化して苦しんでいる女の子の中にも、そういう診断の影響を受けている子が少なからずいると思うんですよ。

本当に副反応の子もいると思いますが、ワクチンのせいだという診断に引きずられて悪化する子が一定数いると思います。

また、ひどい症状のある子はメディアにも出て、周りから注目されて、「どんな症状があるんですか?」と繰り返し尋ねられる。メディアは、「どこが辛いですか?」とネガティブなことしか聞かないですよね。そこばかり本人が考えてしまうと、その症状に自分で囚われてしまって、治るものも治らなくなるんじゃないかと思うのです。

私は今教員免許を取るために児童心理学も学んでいるのですが、そういう思い込みの影響は心理学でも言われていることです。その囚われてしまう心から抜け出すには、もっと治った情報をメディアは伝えるべきです。もっと具体的に何人が、どのように治ったということを伝えてほしい。

そして、医療者のみなさんには患者の言うことをいったんは受け止めて、不安を解消するような態度で接してほしいと思います。

今、HPVワクチンにどう対処すべきか?

あの経験をした後ではHPVワクチンをうちたいとは思いませんが、完全にだめだとは思っていません。ワクチンだけでなくどんな薬でもリスクはあります。HPVワクチンのメリットはあると思うので、そこをかき消して悪いところだけを見るのではなくて、いいところを見ながら悪いところを軽減していくのが必要だと思うんです。

悪いところというのは、こうした体調不良を起こしやすいところです。成分が原因であろうがなかろうが、どうしてこれだけ多くの体調不良が起きたのか解明して、そこを解決する対策を打たないと、再開したとしても同じことの繰り返しなのではないでしょうか。

また、今、体調不良から治っていない子も、治療のためとして別の強い薬を使っています。モルヒネを使っている子もいたし、背中に電極を入れている子もいて、そういう子はそういう治療から離れた方がいいのではないかと思います。そうした「治療」の副作用も調べた方がいいのではないでしょうか。

国が積極的に勧めるのを再開することには反対ではありません。HPVの感染予防には効果があると思っていますし、私はうってよかったと思います。子宮頸がんにかかるリスクのことを考えると安心ではあります。

他のワクチンと同じように自己責任で選べばいいと思うのですが、私のように「うっても大丈夫」という情報だけ伝えられるのではなく、リスクも説明されて納得して受けた方がいい。どんなワクチンでもリスクがあるのは間違いないのですから、メリットとのバランスを理解した上で、必要だと納得すれば受けたらいいと思うのです。

ワクチンとうった人とうっていない人での症状には変わりないというデータが名古屋市で出ているということは初めて知りました。私たちの年頃の子や親たちに伝わっているのでしょうか? 必要な人に情報が届いていない気がします。

世の中の不安を払拭するためには、やはりデータをきちんと説明することが大事なのではないでしょうか。人間はデータを示されると安心する。多くの人が見るところで最新の情報を示すことは、判断する時に大きな助けになると思いますね。

それから、今、保健体育について学んでいるのですが、ワクチンだけで安心してしまうと、避妊具を使わなかったりして他の感染症が増える危険性もあります。

HPVだけでなく他の性感染症もある。それを防ぐ必要もしっかりと伝えて、自分の健康を守る手段の一つとして、ワクチンのことを考えた方がいいと思います。検診も重要だと思います。私も20歳になったので受けるつもりです。

私が先生になったら、HPVワクチンについては自分の心情を交えずにこういうものがあるよと役割を伝えようと思います。自分の経験は言わないだろうと思います。それも思い込みを与えることになってしまうと思うので。

教師になったら この経験も活かしたい

私は今、教育心理学も学んでいるのですが、どんな動物でも子供は母親と心理的に近い。ワクチンの問題も母親ばかりが悩むと、母親自身も辛いと思いますし、娘は自分の存在が母親を悩ませているという罪悪感を持ち続けることになります。その罪悪感が子供を苦しめる。母親も相談できるところが必要です。

私は家庭環境の影響で人間関係にずっと不安があるので、周りに流されやすいことが体調悪化につながったのだと思います。自分で物事を決めたり、自分の意思を言ったりすることが不安で、服選びのような簡単なことでさえ、最近までできませんでした。

サークルを通じて知り合った社会人の友人や服屋の店員さんら自分の外の世界と積極的にコミュニケーションを取ることで、少しずつ自分を変えようと努力しています。

子供の心理状態は家庭に影響を受けます。ワクチンが原因でなくてもこういう問題はこれからも起きるでしょうし、教師になったとしたら、場合によっては子供の家庭にも踏み込んでいかなければならないのではないかと思います。

子供の両親の夫婦関係も知らなければならなくなるかもしれません。親子関係や家庭環境は子供の心理や性格を形成するのにすごく結びつくし、時にはメンタルの問題や体調悪化も招くでしょう。

そういうことを私は自分の身を通して学びました。HPVワクチン後の体調不良は辛い経験でしたが、教師になってこの経験を活かせたらいい。未来は明るいと希望を持っています。

母親のともこさんのインタビュー 

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