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HPVワクチンを薬害とする要望書を添付しての通知 文科省、訂正なしで「念のため補足」

文科省がHPVワクチンを「薬害」と主張する団体の要望書を添え、「薬害被害者」の声を聞く授業を行うよう医療系の大学に通知を出していた問題。文科省は「誤解を解く」として12月12日に事務連絡を出しましたが、要望書の添付は撤回せず、何が問題だったかも言及していません。

文部科学省が、医学部など医療系の教育課程がある大学に対し、HPVワクチン接種後に訴えられた症状を「薬害」と主張する団体の要望書を添え、「薬害被害」について学ぶよう通知を送っていた問題。

医療者らからの多くの批判や、自民党の「HPVワクチン推進議員連盟」からの要望を受け、文科省医学教育課は12月12日、内容を補足する事務連絡を送った。

元の通知では、HPVワクチン接種後の症状を薬害とする要望書全体を参考に薬害の被害を積極的に学ぶように通知していたが、「薬害被害者の声を直接聞く授業を実施」という要望書の一部を参考にという意図で記載した、と補足している。

文科省医学教育課は読み手の誤解を解く事務連絡を出したとしているが、要望書の添付を撤回するわけでもなく、元の通知の何が問題だったのかを明らかにするわけでもないこの事務連絡でますます混迷は深まりそうだ。

HPVワクチンを薬害とする団体の要望書を添付し「薬害教育」をするよう通知

まず経緯を振り返る。

子宮頸がんなどを防ぐHPVワクチンは2013年4月に、小学校6年生から高校1 年生の女子を対象に公費でうてる定期接種に位置付けられた。

しかし、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、厚労省は同年6月、積極的に勧めるのを一時中止するよう求める通知を自治体に出した。被害を訴える人の一部は国や製薬会社を訴え、現在も訴訟は続いている。

文科省が9月5日の通知に添付した要望書を出した「全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)」には、この「HPVワクチン薬害訴訟全国原告団」が加盟している。

文科書は毎年、医学教育系の大学にこの通知を送り、薬害被害者の声を聞く授業を行うよう求めていた。

今年添付された要望書も、HPVワクチンを「薬害」と位置づけ、「学校現場においてHPVワクチン接種を勧めるパンフレットやポスターの配布等の広報をしないよう要望します」などと求めている内容だった。

厚労省はHPVワクチンを積極的に勧めることを9年近く止めていたものの、定期接種から外したことはない。「薬害」と認めたこともなく、安全性の高いワクチンという認識で一貫している。

また、厚労省は昨年11月の通知で積極的勧奨を再開することを自治体に求め、自治体は今年4月以降、一斉に対象者に接種を促すお知らせを送り始めている。

うちのがした人も無料接種の再チャンスを与える「キャッチアップ接種」を始めており、大学生はまさにこのキャッチアップ接種の対象者に当たる。

文科省は、いわば厚労省と正反対の姿勢を通知で示していたことになる。

キャッチアップ接種の対象者であり、将来はがん予防のためにHPVワクチンを勧める立場に立つ医療従事者の卵たちに、「HPVワクチンは薬害だ」と教え込むかのような施策を続けていた形だ。

この通知を受けて、実際にHPVワクチンの薬害被害を訴える当事者や弁護士が講義する授業を企画した大学も複数あった。

「念のため補足」 訂正の形は取らず、添付も撤回せず

今回、12月12日に出した事務連絡では、9月5日に出した通知で「別添1を参考に」と要望書全体を参考にするよう求めていた部分を、「誤解が生じないよう念
のため補足いたします」と間違いを認めない形で修正する書きぶりになっている。

今回の事務連絡では、『「別添1の<大学などの高等(専門)教育に関して>の【1】を参考に」という意図で記載したものであることにご留意ください』と補足した形を取った。

要望書の中で参考にしてもらう範囲を絞った形だが、該当部分はここだ。

【1】毎年度まとめて頂いている「薬害問題に対する各大学の取り組み状況」について今年度も最新の状況を明らかにして下さい。薬害を知らない医療従事者がつくられてしまわないよう、全大学において、薬害被害者の声を直接聞く授業を実施して、適切な医療倫理教育・人権学習等がなされるよう要望しているところですが、特に、実施率が伸び悩んでいる看護学部や看護学科に対して、実施した大学からは高い効果が報告されていること等を周知して下さい。さらに、複数の薬害被害者の声を聞く授業を実施している大学の実践例も周知し、他の大学にも広がるような方策を講じて下さい。

しかし、この要望書にはHPVワクチンを薬害とする記載がなされており、この部分も、それを前提とした文章であることに変わりはない。

また、9月5日の通知では何が問題だったのかも、触れてはいない。

「訂正したわけでもなく、添付を撤回するわけでもないこの事務連絡では、HPVワクチンを薬害と捉える大学関係者の誤解は解けないのではないか」と BuzzFeedが尋ねると、菊池博之・医学教育課課長補佐はこう返答した。

「これで色々なご意見はあるかと思うが、次年度以降またどうするかは考える。まずは誤解を解くという趣旨であり、色々なところに意見を聞いて慎重に検討した結果だ」

またBuzzFeedの報道について、「一部において文部科学省が HPV ワクチン接種の勧奨を否定する旨の報道がなされていますが、厚生労働省において HPV ワクチンの積極的勧奨を本年4月1日
より再開した経緯も含めリーフレットやウエブサイト等により有効性・安全性に関す
る情報提供を行っている旨申し添えます」とも書いており、文科省自身がどういう認識だったかについては触れていない。

いわば、この通知を批判する側にも、要望書を出した薬被連にも波風を立てないことを狙ったような玉虫色の事務連絡。

菊地課長補佐によると、この事務連絡については、自民党のHPVワクチン議連の要望に「すぐ訂正文を出させます」と約束した永岡桂子文科相も了承したという。