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「私が死んだら、この子はどうなるの?」 子宮頸がんと診断、鬱になった女優が積極的勧奨再開で考えたこと

4月からHPVワクチンの積極的勧奨が本格的に再開されるのを前に、子宮頸がんを経験した女優がその体験を語りました。 自治体から届くお知らせをきっかけに親子でHPVワクチンについて話し合ってほしい、と呼びかけます。

4月からHPVワクチンの積極的勧奨の再開が本格化するのを前に、子宮頸がん経験者の女優、松田陽子さんと薬剤師で前衆議院議員の渡嘉敷奈緒美さんが2月21日、子宮頸がん対策の課題について語り合った。

子宮頸がん予防啓発プロジェクト」を展開するシンクタンク「新時代戦略研究所」が企画した。

松田さんは「自分の命と健康を大事にしてほしい」とワクチンと検診での予防を訴え、プロジェクトメンバーで、積極的勧奨を止めた時に厚労省の政務官を務めていた渡嘉敷さんは「エビデンスに基づいた情報を届けていきたい」と語った。

なんとなく受けた検診で子宮頸がんが発覚 頭が真っ白に

松田さんは2002年、長女が1歳の時に30歳で子宮頸がんと診断された。

「子宮頸がんという言葉は聞いたことがあるけれど、私は関係ないなと思っていました。『娘も生まれたから自分の健康もちゃんとしなくちゃな』と思って、産婦人科にふらっとベビーカーで『検診した方がいいと思って来たんです』と行ったのです」

産婦人科医は、様々な検診項目の中で子宮頸がん検診も提案した。

「『先生、何言ってるんですか? 私30歳ですよ。がんってご年配の方がなるんでしょ。私がなるわけないじゃん』と言ったのを覚えていますね。『いやいや違うよ。20代、30代で一番命に関わるがんだよ』と言われ、『そうなんですか』と検診してもらいました」

ところが、1週間後、医師から留守番電話に「大至急電話してください!」と10件ぐらいのメッセージが。

折り返し電話をかけたら、「子宮頸がんですよ。命に関わるからすぐに大きな病院に行かなければいけない。うちじゃ対応できない」と言われた。頭が真っ白になった。

「あまりにも衝撃的なことを聞くと、言われたことが受け入れられない。主人に電話して『私、子宮頸がんって言われた。死ぬかもしれないって言われた』と言ったら、仕事人間な人なのに『すぐに帰る』と言って家に戻ってきました」

ドアを開けた夫は松田さんの顔を見たとたん、泣き出した。

「ひょっとしたら私は死ぬかもしれないんだなと、主人の涙を見て思いました。と同時に、泣いていても始まらない。当時1歳の、ようやく歩き始めた娘が私を見てニコニコしている姿を見て、ポロポロ涙が出てきて、この子のために生きなきゃと思いました」

子宮頸がんは20代〜40代での発症も多い。子育て中の母親も多いことから「マザーキラー」と呼ばれることもある。

「私に万が一のことがあった時は、誰がこの子を育てるの?この子の人生どうなるの?と思って、そこから手術に挑みました」

手術後も...うつに苦しむ

手術は4時間半かかったが、初期のがんで転移もなく、抗がん剤治療も行わずに済んだ。それでも家族は心配し、弟は過呼吸になって倒れ、入院までした。夫も自分が死ぬ夢を見ては、夜中に飛び起きることが続いた。

「たった一人のがん患者がいるだけで、家族もこれだけ動揺して、心も体も健康を害する状況になるんだなと思いました」

家族にこれ以上心配をかけまいと、退院後も痛みを抱えながら家事や育児を一人で必死に頑張った。

「助けてと言えなくて、だんだんゆっくりと眠れなくなっていって、ゆっくり食べられなくなって、自分がどんどん変わっていく。でも自分が変わっていっていることがわかりませんでした」

がん手術後の苦痛と不安を一人で抱えきれなくなり、やがてうつになった。

「すごい恐怖感だったから、感情が出たり、怒りが出たり。そういう状況(うつ状態)だということも知らなくて、結局、元夫ともすれ違ってしまった。『しんどい』『助けてほしい』『こんなに辛いんだよ』とちゃんとパートナーや親や娘に伝えたら良かったのに」

渡嘉敷さんも「気持ちがよくわかります。私もがんだったので、一人で向かい合っちゃいます」と応じた。「おっしゃるように『大変なんだ』と言っておけば良かった。そうすれば気分もだいぶん楽だったのになと思います」。

松田さんは可愛くて仕方がなかった娘にさえ、うつの時は当たってしまった。

「色々な苛立ちや苦悩が娘に対しても出ちゃうんです。娘に『早く寝なさい!なんで寝てくれないの!』と大きな声をあげたり、あんなに小さいお尻をパンっと叩いたり。その後に自己嫌悪でポロポロ泣くんですよ。本当に辛い状況でした」

「副反応騒ぎ」の頃 母と専門家から学んだ娘は「私は受けるよ」

そんな時期を乗り越えて育てた娘は今、21歳になった。HPVワクチンが2013年4月に公費でうてる定期接種になった時に、ちょうど対象者だった。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は性的な接触でうつる。その感染を防ぐのがHPVワクチンで、セックスデビューの前に接種すると効果が高い。

接種するかどうかについては親子でもちろん話し合った。

「大事なのは親子の会話だと思っているのです。子宮頸がんを防ぐワクチンって、親御さんは言い出しにくい。性的なものも影響するし、『ボーイフレンドいるの?』というコミュニケーションが取れているなら言いやすいと思うのですが」

「でも誰よりも大切な我が子の命だから、コミュニケーションが取れていても取れていなくても、話はしてもらいたいとすごく思っています」

だが、定期接種直後は、ちょうどマスコミが接種後に訴えられた体調不良が全て副反応であるかのように決めつけて報じていた時だ。

そういう報道を見て、娘も「ママ、本当に大丈夫? 周りの子たちも受けないって言ってるよ」と最初は不安がっていた。

しかし、松田さんは自分の子宮頸がん体験の講演や、専門家の子宮頸がん啓発の講演会に娘もよく連れていった。

「『自分自身で決めたらいいよ』と伝えていたんです。『自分の人生だから、自分でしっかり確認して決めよう。わからないことはママに聞いて』って。そうしたら、自分で『ママ、うつ。ママがあんなにも生きるか死ぬかで苦しい思いをしていたのを知っているから、私は受けるよ』って、ワクチンを受けました」

行政からのお知らせが親子で話し合うきっかけに

HPVワクチンの意味を話すには、性的な話も避けては通れない。親子でも話しにくいのが現実だ。

「行政から話すきっかけ作りとしてお知らせが届くと、話しやすいかなと思うのですが」と渡嘉敷さんが問うと、松田さんも「そうですね」と応じる。

松田さんと娘も、行政のお知らせがHPVワクチンについて話し合うきっかけだった。

「『ママ、これ何?ママの言っていた子宮頸がんのことだよね』と、それがきっかけになってお話しできました。またがん教育に私も行っているのですが、子どもの頃からがんというものや予防するためにどうしたらいいのかという教育も重要だなと思います」と話す。

4月から積極的勧奨が本格的に再開されることによって、対象者には個別に自宅にHPVワクチンについて説明するリーフレットや予診票が届くようになる。

差し控えている間はこのお知らせが届かなかったため、自分が対象者であることも知らず、無料接種のチャンスを逃す女子が多かった。

このチャンスを逃した女子にも、4月から接種の再チャンスを与える「キャッチアップ接種」が始まる。

親子で話し合う時に大事なのは、薬のメリットとデメリットの情報をしっかり把握し、納得して選ぶことだ。

「ワクチンや薬は必ず副反応がセットでついてきますので、異物を体に入れた時に万が一の時はどうしたらいいのか、親子で話しておくと覚悟もできますし、心の準備ができるのは大事だと思います」と渡嘉敷さんも語る。

「どんなものでもメリット、デメリットはある。例えば副反応ぽいことが起きたとしたら、相談する窓口がしっかりしているとか、相談する仲間がいるとか、そこがつながっていれば、決して怖いものではない」と松田さんも、何かあった場合の対応窓口の整備を訴える。

渡嘉敷さんも、「ワクチンというツールもあるし、検診もあるし、いくつも予防する方法があるので、ぜひ活用していただきたい。また家族やみなさんに理解が得られるような環境を作っていくのも行政の役割」と応じた。

積極的勧奨の再開 今度は何に気を付ける?

4月からは本格的に全国で積極的勧奨が再開される。同じ問題を繰り返さないために私たちには何が必要なのだろうか?

「自分の命や健康を大事にしてほしい」とワクチンと検診で予防を訴える松田さんは、「体験者の話であったり、自分が学ぶ場に行ったり、信頼できるドクターであったり、そういうつながりが持てたらいい。予防ができるワクチンがあるなら、それも考慮しながら自分自身で情報をとってほしい」と話す。

「キャッチアップ世代のように接種を受けられなくなっていた人たちにも情報をどうやって渡していくかがこれから重要になる」と渡嘉敷さんも言う。

HPVワクチンは2013年4月から公費でうてる定期接種となったが、接種後に訴えられた体調不良をセンセーショナルにメディアが報じたことがきっかけで、国は8年半もの間、自治体が積極的に勧奨するのを差し止めていた。

4月から接種する女子が増えれば、因果関係の有無はと別に、体調不良を訴える女子も一定数出てくることが考えられる。

BuzzFeed Japan Medicalがメディアに対する注文を問うと、松田さんはこう答えた。

「色々なことを過剰に表現しないで頂きたい。事実をもちろんピックアップするのは当然ですが、だったら子宮頸がん全般をしっかり発信して頂きたい。毎年、(子宮頸がんで)3000人が死亡し、1万人の人たちが子宮を取り、円錐切除をして赤ちゃんが産みにくくなったりする。マスコミの安易な報道で、日本が一大事になるということも考えて表現して頂きたい」

渡嘉敷さんもこう告げた。

「マスコミの方にはエビデンスに基づいて報道をお願いしたい。最初に副反応が話題になった時は、ほぼ決めつけのような報道が先行してしまった。それが原因で積極的勧奨ができにくくなったのは残念です」

「コロナのワクチンではマスコミの方に同じことを繰り返さないでほしいと話しました。副反応らしきものが出てきても、それが本当にワクチンのせいで起きているのかはそんなに簡単に証明できるものではない。しっかり証明される前から『ワクチンのせいに違いない』と決めつけて報道するのはやめてほしいと伝えたのです」

一方、デンマークやアイルランドなど海外でもメディアの副反応報道で接種率が落ちた国があるが、日本と違い、海外の政府は積極的に勧める態度を変えなかった。

積極的勧奨を差し控えた時に厚労省の政務官であった経験を踏まえ、8年半差し控えの状態を放置してきた行政には何が必要かを問うと、渡嘉敷さんはこう答えた。

「慎重に検討していたのだと思う。裁判も起こっていたので、因果関係があるのかないのかをエビデンスを踏まえた形でやっていこうと丁寧に仕事をやってくれていたのだと思う。そのおかげで長く時間がかかったのは事実。1回積極的勧奨をやめてしまったので、再開もそれなりのエビデンスが揃わなければ無理だったというのも事実」

「ただ8年近くかかってしまったのは長すぎるので、ここからが勝負だと思います。逆に8年近く行われなかったものをこの短期間にどれだけ取り返せるか、4月からどれだけスタートダッシュができるかが勝負じゃないかなと思います。私自身も十字架を背負っている気分です。現職の国会議員ではなくなりましたが、民間の立場からしっかりと(情報を)お伝えしていきたい」