• hpvjp badge
  • medicaljp badge

「私もうつからあなたもうって」 男性もHPVワクチンをためらいなく接種するために必要なこと

HPVワクチンが感染を防ぐヒトパピローマウイルスは、子宮頸がんだけでなく、男性がかかる中咽頭がんや陰茎がんの原因にもなります。男女問わず性的な接触でうつしあうのを防ぐために、男性にも公費接種を求める署名活動を大学生が始めました。

HPVワクチンを女性だけでなく、男性も無料でうてるようにしてほしい。

そんな願いを厚生労働省に届けるための署名活動を、大学生が始めている。

HPVワクチンが感染を防ぐヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸がんだけではなく、男性もかかる中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんなどの原因にもなる。そして男女問わず性的な接触でうつし合う。

昨年、男性への接種(4価ワクチン)も承認されたが、公費でうてる定期接種の対象は小学校6年〜高校1年の女性のみで、男性は3回で約5万円の接種が自己負担だ。海外の先進国では男女ともに公費接種を導入する国が増えている。

こんな日本の現状を受けて、ジェンダー問題の啓発活動をする一般社団法人「Voice Up Japan」国際基督教大学(ICU)支部は、男性の定期接種化を求める署名活動「HPVワクチン男性にも無料接種を!」をオンラインで始めている。

「女性だけでなく、男性も関係あるワクチン。男性が費用で接種をためらってしまう現状を変えたい」

BuzzFeed Japan Medicalは、共同代表の服部翼さん(19)とHPVワクチンチームのリーダー、川上詩子さん(20)に話を聞いた。

定期接種の歳では見送り「もっと早く知りたかった」

川上さんは2001年生まれで、HPVワクチンが定期接種でうてるようになった世代だ。小学校5年生だった2012年から中学3年生まで、父の仕事の関係でブラジルで住んでおり、中学校では保健室で無料で接種できる機会があった。

「当時、日本では健康被害の報道が相次いでいて、母から『日本で副反応が起きているらしいからうたないで』と言われて、うちませんでした。インターナショナルスクールでしたが、現地や外国人の友達はみんなうっていました。体調を崩す子もいませんでした」

2017年に高校入学のタイミングで日本に戻ってきたが、自治体からはお知らせも届かず、HPVワクチンのことは忘れていた。

川上さんが難病、高安病脈炎を患っていることもあり、母親は普段から医療情報の収集に熱心だ。2020年にコロナ禍になり、新型コロナウイルスやワクチンの情報を啓発する医師たちの集団「こびナビ」の発信も熱心に追っている中で、HPVワクチンの最新情報にも触れたという。

「その医師たちがHPVワクチンの情報も熱心に発信していて、HPVワクチンについても知ったようです。私が彼氏ができたことを伝えた直後に、『大切なワクチンだからやっぱりうって。ブラジルの時にうたせてあげられなくてごめんね。性的な接触も始める年頃だから、備えてうってほしい』と言われました」

川上さんはそれから自分でもHPVワクチンの啓発プロジェクト「みんパピ!」などのサイトでHPVワクチンの情報を調べ始めた。

HPV(ヒトパピローマウイルス)は性的な接触でうつるウイルスであること、感染を防ぐためにはセックスを始める前に接種した方が効果的であること。そして日本ではほとんど接種されていないことーー。

既に高校3年生の時から性的な経験はあったし、大学で付き合っている彼とも既に性的な関係はあった。

「大変だ!と思いました。予防できるのに予防できていない病気があって、こんな多くの人がうてないでいる。衝撃を覚えました。私は他の大学生に比べたら病気を身近に感じてきたので、予防できるものはしたい。もっと早く知りたかったし、みんなにも知ってほしいなと思いました」

「大事なワクチンなら国がうたせているはずだ」 ピンと来ない

今年7月、コロナワクチンをうち終えて、2週間の間を空けて、HPVワクチンをうち始めた。定期接種でうてるものより効果の高い9価ワクチンを選び、3回で約10万円の費用は親が払ってくれることになった。

「うつ時期が遅れてしまったし、性的な接触も始めていたので、母と相談してできるだけ効果の高いワクチンをうつことになりました。親戚に子宮のがんになって子宮を摘出して子どもが産めなくなった人もいるので、母はそれも頭にあったと思います」

そして川上さんが大学1年の終わり頃から交際していたのが、服部さんだ。「私もうつから、あなたもうってくれたら嬉しいな」。そう言われた服部さんは、正直、当時はピンときていなかった。

「当時はHPVワクチンって初めて聞いたな、HIVじゃないのかな、ぐらいの認識でした。子宮頸がんを予防して、パートナーである僕がうつことによって、彼女の体も守られるし、僕自身の病気の予防にもなるとは聞いたのですが、大事なワクチンなら国が接種させているはずだ、と思ったのです」

HPVワクチンは2013年4月から小学校6年〜高校1年の女子を対象に公費でうてる定期接種となった。ところが接種後に痛みなどの体調不良を訴える声が相次ぎ、メディアも危険なワクチンのように報じたことから接種率が激減し、国は積極的に勧めるのを2021年11月までさし控えさせていた。

2013年に小学6年生だった二人は、そもそもこの騒動が記憶にない。

「そんな騒動のことも知らなかったし、軽く情報収集はしていたのですが、そこまで必要性を強く感じませんでした。彼女には『そうかうったんだ。良かったね』という感じで、自分の接種については流してしまいました」

金銭的な負担も大きかった。

「ちょっと高いなと思いました。大切なのはわかるけど、自分以外の接種率が高いわけでもないし、自分が5〜6万とか10万出してうっても、周りがうっていなかったらあまり変わらないんじゃないかとも思っていませんでした」

彼女の期待には沿えないし、自身もVoice Up JapanのICU支部の共同代表になったばかりで忙しくなっていた。2年生の夏の終わり、他にも色々あって二人は別れた。

「HPVワクチンチーム」を設立 男子接種の署名へ

一方、川上さんは2回目のHPVワクチンをうった後、日本にHPVワクチンを広める活動をしたいと考え、9月にICU支部に入会した。

「私は無料接種の機会を逃した当事者ですが、私だけが関心を持つべき話題ではありません。みんなが当事者のはずなので、強く問題意識を持つ私が先導して、ジェンダー問題に積極的に関心を持っている人が多い団体で活動することにしました」

「HPVワクチンの問題はジェンダー問題だ」と川上さんが思うのは、こういう意味だ。

「一番の被害者は若い女性で、もしこの病気が中年男性に関わるものであるなら、この状況がこれほど長く放置されていたか疑問です。若い女性の社会における立ち位置が低いことが影響していると思います」

「また、『子宮頸がんワクチン』と呼ばれることで、男性は関係ないというイメージがあることも広がらない要因の一つになっているのではないかと思います」

10月に支部内に「HPVワクチンチーム」を作って、まずは若年層にHPVワクチンの認知を広める活動の準備を始めた。そこに加わったのが、別れた服部さんだ。

ところが、医師や医学生の力を借りてSNSでの発信や勉強会の企画を準備している時に、積極的勧奨の再開と、チャンスを逃した女性に対する救済策「キャッチアップ接種」のニュースが飛び込んできた。

「それならまだ手付かずの課題である男子の公費接種を訴えようと、署名活動を始めることにしました」と服部さんは言う。

無料接種のチャンスを逃した大学生がキャッチアップ接種を求めて署名活動をした「HPV Vaccine for Me」の活動が念頭にあった。

「この団体が男子の定期接種化も求めていたので、女性を優先するのは当然としても、かといって男性が放置され続けるのもおかしいと気づきました。僕たちも署名で働きかけようと立ち上げました」

「学校では習わない性に関する知識を持ってほしいという考えもありました。ジェンダー問題を扱う団体として性教育も大事なトピックであり、HPVワクチンの話はそこにも関連があると思います」

10月15日にキャッチアップ接種の方針が決まった日に、署名をスタートさせた。来年4月に積極的勧奨が本格的に始まったタイミングで厚生労働相に提出したいと思っている。

「女性の接種の体制が整った段階で、次は男性をお願いします、と訴えたいです」

自分は対象にならないとしても...後に続く男性のために

今後は署名活動以外にも、勉強会やイベントを開催する予定で、全国の中高生へのパンフレット配布やオンラインレクチャーも考えている。

川上さんに最初に教えてもらった今年の初夏頃にはどこか他人事だったHPVワクチンの問題は、服部さんにとって自分の問題になった。

「後押しになったのは、国が女性への積極的勧奨を再開して、キャッチアップ接種も決めたという報道です。『やっぱり国も動くほど大事なワクチンなんだ』ということが僕の中では大きかった。それがきっかけで認識が変わりました」

男性が定期接種の対象になっても、自身はおそらく対象になることはないとわかっている。それでも後に続く男性のために、男性も無料で接種できるようにしたい。

「金銭的な理由で接種をためらう男性は多いはずです。5万は大きいです。僕もお金をためて接種しようと思っていますが、まだできていません」

本当は自分たちに関係あるワクチン

川上さんは既に2回うち、少し安心を得ている。20歳になった今年、初めて受けた子宮頸がん検診では何も問題はなかった。

「性的接触のある人の8割が感染するウイルスですから、知識を持ったあとは『いつかかってもおかしくない』という思いがずっと頭にありました。ワクチンを受けて検診もすることで、少し気持ちが楽になりました」

「私は接種の前に性的な経験があるので、もしかしたら既に感染しているのかもしれませんが、それでも今後の感染は防げるし、そういう病気の原因になることを知っている今は、検診をしっかり受けて早期発見が可能だとも知っています」

正しい知識は自分や大切な人の身を守る。そんな思いで活動を始め、二人は今、何を呼びかけたいのだろう。

署名活動「HPVワクチン男性にも無料接種を!」

川上さんはこう話す。

「若い世代にとって、がんはまだ先の話で当事者意識を持ちにくい問題ですが、HPVは当事者でない人はいない。コロナは身の回りにあふれていたのでみんな当事者意識がありましたが、がんは『自分がまさか』と思ってしまう。そこで止まらずにもうちょっと調べたら大切さがわかるし、うちたくなるワクチンです」

「私たちに限らず発信されている情報に耳を傾けて、もし関心を持った場合は大切な問題なので調べてもらって、接種をするかしないかの判断ができるようになってほしいです」

服部さんも言う。

「特に同じ年代の男性には、このワクチンは日本では原則、女性を対象に接種されていて、名前も子宮頸がんワクチンとして広まっています。どうしても自分は関係ないと思う人が多いし、コンドームを使えば大丈夫と思う人が多いかもしれません」

「このワクチンは男性もパートナーも守るし、避妊具を使ったとしても感染は起こります。ワクチンをうつことで自分も相手も守るので、ぜひ接種を検討してほしいです。そのために男性が高い自己負担を強いられる現状を変えていきたいので、署名でこの活動を応援してください」