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17歳未満でのHPVワクチン接種で子宮頸がんを88%減少 がん予防効果を示した論文は世界初

スウェーデンの10〜30歳の女性176万人のHPVワクチン接種歴と子宮頸がん発症の有無を分析したところ、接種した女性では大幅にがんにかかるリスクが減っていることがわかりました。HPVワクチンががんを防ぐ効果を実証した世界初の論文です。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

このワクチンが子宮頸がんを防ぐ効果があることがスウェーデンの国民データベースを用いた分析で明らかになった。

HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer(HPVワクチンの接種と浸潤子宮頸がんのリスク)」と題する論文にまとめられ、権威ある医学誌「The New England Journal of Medicine」に掲載された。

これまで頸がんになる前の段階である「異形成(前がん病変)」を防ぐ効果は確認されていたが、がんを防ぐ効果については、子宮頸がん以外のがんの発生も観察し規模の小さいフィンランドの報告(Letter to the editor)があるだけだった。

HPVワクチンが、本来の目的である浸潤子宮がん(※)を防ぐ効果を、十分な規模で本格的に実証した世界初の論文となる。

※子宮頸がんは、細胞の異常がその部分に留まる「上皮内がん」と、他の臓器も侵す能力を持つ「浸潤がん」に分けられる。上皮内がんは前がん病変に分類される。今回の研究は、HPVワクチンの真の目的である「浸潤がん」を防ぐ効果をみている。

10〜30歳の女性167万人の接種歴とがん発症を追跡

スウェーデンでは2006年にHPVワクチンが承認され、2007年5月から13〜17歳の女性に公費接種が始まった。2012年からは13〜18歳のうち逃した女性も公費で接種するプログラムと、10〜12歳を対象とした学校での集団接種も始まっている。

特に子宮頸がんになるリスクが高く進行のスピードも速い16、18型と良性のイボ「尖圭コンジローマ」の原因となる6型、11型という4種類のウイルスへの感染を防ぐ4価ワクチンが公的接種に使われている。

研究グループは、スウェーデンの10〜30歳の女性167万2983人について、この4価ワクチンの接種歴と浸潤子宮頸がんにかかったかどうかを、2006年から2017年までの間、解析した。

その結果、52万7871人が調査期間中にHPVワクチンを少なくとも1回接種しており、その83.2%に当たる43万8939人が17歳より前に接種していた。接種していない人は114万5112人いた。

調査期間中、31歳の誕生日までの間に浸潤子宮頸がんにかかったかどうか見たところ、接種したグループでは19人が、接種していなかったグループでは538人の女性が浸潤子宮頸がんの診断を受けていた。

発症率は、HPVワクチンを接種した女性では10万人あたり47人、接種しなかった女性では94人と、接種していない人で2倍となった。

17歳になる前にうつとがんのリスクは88%減少

このウイルスは性的な接触でうつり、一度うつったら免疫の力以外では排除ができない。そのため、初体験前の若い年齢でうつのが効果的とされる。

接種した時期で見たところ、17歳未満でワクチンをうち始めた女性の発症率は、28歳まで10万人あたり4人だった。

予防接種を受けていないグループの子宮頸がん発症率を1とすると、17歳未満で予防接種を受けた女性では0.12まで減っていた。予防接種を受けた女性全体では0.37、17〜30歳では0.47だった。

つまりワクチン接種を受けた人全体では63%、そのうち17歳未満で接種した人では88%もがんになるリスクが減少していたことになる。若い時期での接種の方が、よりがん予防に効果的だったことがわかる。

年齢や世帯年収、親の病歴などでワクチン接種に積極的になったり、より健康的な生活を送ったりするであろう影響を調整した。一方、喫煙、低用量ピルの使用、肥満など、他の子宮頸がんリスクは調整できなかった研究の限界があると示されている。

前がん病変を防ぐ効果は観察されていたが...

HPVはセックスの経験がある8割の人が感染するありふれたウイルスだ。ほとんどは免疫の力で排除されるが、一部が子宮頸部に長く感染し続けることで、細胞に異常が見られる異形成(前がん病変)を引き起こし、さらにその一部ががんに進行する。

浸潤子宮頸がんまで進行すると、通常は子宮や卵巣を摘出する手術が必要になる。日本では毎年1万1000人が浸潤子宮頸がんになり、約2800人が死亡している。

がんに進行するまでは10年前後かかるため、接種が始まって日の浅いHPVワクチンでは、異形成を防ぐ効果は観察されても、がんを防ぐ効果があるかまでは確認に至っていなかった。

このため、「HPVワクチンが子宮頸がんを防いだという効果は証明されていない」という批判がなされてきた。

接種率1%未満の日本 産科婦人科学会理事「厚労省は積極的勧奨を」

HPVワクチンは日本では2013年4月から、小学校6年生から高校1年生までの女子を対象に、公費で接種できる定期接種となっている。

ところが、接種後に体調不良を起こしたという声が相次ぎ、メディアもセンセーショナルな報道を続けたことから、厚生労働省は同年6月、対象者に個別にお知らせを送る「積極的勧奨」を差し控えるよう自治体に通知。

積極的な勧奨は7年以上経った今も再開されておらず、70%あった接種率は1%未満まで落ち込んでいる。先進国の中ではHPVワクチンの普及で子宮頸がんの撲滅が視野に入った国が出てきた一方、日本はワクチンで防げるがんを防げない状態に陥っている。

今回の論文発表について、日本産科婦人科学会理事で新潟大学産婦人科教授の榎本隆之さんはBuzzFeed Japan medicalに以下のコメントを寄せた。

HPVワクチンは承認前の臨床試験や承認後の疫学的研究で、HPVの感染予防効果や子宮頸がんの前がん病変発生の予防効果があることは明らかになっていました。


子宮頸がんのほとんどはHPV感染が原因で、前がん病変を経て発生することがわかっています。HPVワクチン接種によって子宮頸がんの発生率が減少することは自明の理でしたが、今回初めて、大規模調査によって疫学的にワクチンの効果が証明されたことは大きな意味があります。


産婦人科の診療現場では、妊娠をきっかけに受診した女性に子宮頸がんを宣告することがあります。妊娠を継続することを諦めていただいたり、小中学生の子どもを持つ母親が子宮頸がんのために亡くなっていくのを目の前にしたりして、我々産婦人科医は忸怩たる思いをしてきました。


子宮頸がん発生の予防効果が大規模疫学研究で証明された今、厚生労働省は若い日本人女性が今後、子宮頸がんにかかって苦しむことがないように、速やかにHPVワクチン接種の積極的勧奨を国策として再開すべきだと思います。

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