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HPVワクチン、無料接種のチャンスを逃した女子の救済策導入に厚労省分科会が賛同

積極的勧奨の再開が厚労省の審議会で了承されたばかりのHPVワクチン。今度は無料接種のチャンスを逃した女子に対する救済策(キャッチアップ接種)の検討が始まりました。発言したすべての委員が導入に賛同しました。

厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会が11月15日に開かれ、HPVワクチンについて積極的勧奨が差し控えられていた8年5ヶ月の間に無料接種のチャンスを逃した女性の救済策(キャッチアップ接種)の検討が始まった。

2022年4月に開始することを前提とする資料が示され、キャッチアップ接種を導入することについては発言したすべての委員が同意した。

次回に事務局が案を作り、具体的な内容を詰めていく。

12日に開かれた副反応検討部会では、積極的勧奨の再開が了承されたばかりだ。

HPVワクチンは2013年4月から小学校6年〜高校1年の女子を対象に無料でうてる定期接種となっているが、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、厚労省は同年6月に積極的勧奨を差し控えるよう自治体に通知。

接種率は一時1%未満まで激減し、定期接種でありながら子宮頸がんからワクチンで身を守れない状況になっている。

ワクチンで守られていない2000年度生まれ以降

HPVワクチンは積極的勧奨の差し控え以降、接種率が激減。ここ数年で少しずつ接種率は回復し始めているが、差し控え前のレベルにはほど遠い状態だ。

積極的勧奨差し控えまでは8割ちかくあった接種率は、2000年度生まれでは14.3%に激減。01年度生まれは1.6%、02年度生まれでは0.4%、03年度生まれでは0.2%まで落ち、ほとんど中止状態となった。

大阪大学の研究グループは、この影響で、2000年度に生まれた女性が将来、子宮頸がんにかかる数は3651人増え、死亡者が904人増えると推定。2001年度生まれは4566人、1130人、2002年度生まれは4645人、1150人、2003年度生まれの女性は4657人、1153人、それぞれ罹患者と死亡者が増えると推定している

こんな事態を防ぐため考えられたのが、定期接種の時期を過ぎてからも、公費で接種できるようにする救済策、キャッチアップ接種だ。

分科会では、海外でキャッチアップ接種を導入した国の有効性と安全性の知見も示し、より若い年齢でキャッチアップ接種をした方が罹患リスクが下がり、安全性に特に問題は起きていないことが示された。

厚労省副反応検討部会で11月12日、積極的勧奨の再開が了承されたことも報告され、予防接種・ワクチン分科会でも再開の方針は了承された。その上でキャッチアップ接種について日本でどのような形で導入するか検討するよう事務局から依頼された。

対象者の範囲は? 3つの案を提示

キャッチアップ接種の対象については、以下の2つの観点から検討することとした。

  1. 接種機会の公平性 → ワクチンを接種する機会が一定程度確保されていたか)
  2. 接種による安全性と有効性とのバランス →接種年齢が高くなるほどワクチンの有効性が低くなることについてどう考えるか


その上で、対象者の範囲について、3つの案が事務局から示された。

  1. H9(1997)年度生~H17(2005)年度生(9学年)を対象とする案
  2. H12(2000)年度生~H17(2005)年度生(6学年)を対象とする案
  3. H14(2002)年度生~H17 (2005)年度生(4学年)を対象とする案


一つ目の案は、2013年度以降に定期接種の対象で、2022年度に定期接種の対象から外れる世代全てを対象とする案。最も範囲が広く、再開前にチャンスを逃した学年が全て入る。

二つ目の案は、2013年度以降に定期接種の対象であるとともに、「標準的な接種期間(※)」の対象年齢に該当した世代
(H12年度以降生まで)のうち、2022年度に定期接種の対象から外れる世代。

※予防接種を受けるのに最も適切な期間
(HPVワクチンでは13歳の学年)

三つ目の案は、2022年度に定期接種の対象から外れる世代のうち、医学的にワクチンの有効性が相対的に高い世代(20
歳以下)のみを対象とする。

最も範囲が狭く、低年齢ほど効果が高いことがわかっているこのワクチンの効果も加味しての案だ。

HPVワクチンが感染を防ぐヒトパピローマウイルス(HPV)は、性的な接触でうつる。性交経験のある8割が感染するありふれたウイルスのため、セックスデビューまでに接種するのが効果的だ。

分科会ではキャッチアップ接種が効果的な年齢を探る参考にするため、中高大学生別や、未婚者の年齢別の性交経験率も示された。

年齢が上がるほど効果は低減 接種期間、働きかけをどうするか?

年齢が上がるほど、効果は低減することからできるだけ早い時期に接種するのが望ましい。多くの人がうてるように一定の期間、実施することは重要だが、期間を延ばし過ぎていつまでも受けにいかないのも効果を減らすことになる。

キャッチアップ接種を可能とする期間や、対象となる女子への周知や働きかけをどうするか、ということも合わせて論点として示された。

「接種を逃した全年齢を」「償還払いも」

キャッチアップ接種の対象範囲についてはすべての学年を対象とする一番目の案に賛同する委員がほとんどだった。

委員の坂元昇・川崎市健康福祉局医務監は「女性の権利を保証するのは行政機関としては当然のこと。接種機会を逃した全年齢を対象とすべき」とした上で、既に自費で接種した人への救済策の必要性も述べた。

「いわゆる接種勧奨をしなかったことで知らなかった女性が自費で受けたケースがたくさんある。償還払いをしてくれという苦情、申し出がかなりある。この辺も自治体としてはキャッチアップと同時に考えていかなければ問題だと思います」

事務局は、「積極的勧奨が差し控えられている期間に接種対象年齢だった方の接種については、大変厳しい言い方になるが、予防接種法のとり扱いとしてはずっと変わらずに定期接種だったということになる。どういう理由があって自費で支払ったのか、9価を接種したのか、償還払いは少し....。事情によると思いますので、今一概にお答えは差し控えたい」と言葉を濁した。

池田俊也・国際医療福祉大学公衆衛生学教授も、9学年を対象とする1番目の案を適切と主張。「希望する方にはできるだけ多く接種の機会を与えるのが公平性という点から妥当」とした。

また、1回、2回はうったけれど、3回全てはうっていない人も対象となるのかという池田委員からの問いに、事務局は「1回も接種していない人がメインと想定しているが、1回接種、2回接種については整理をする」と答えた。

参考人として出席した阿真京子・ 日本医療受診支援研究機構理事も、全学年を対象にする1つ目の案を推した。

白井千香・大阪府枚方市保健所長も対象者を全てに広げる1つ目の案に賛成し、「2回目、3回目も接種の機会を失った人を対象にしていただきたいが、3回接種でなく2回でもいいという海外のデータもあるので情報提供をして選んでいただければと思う」と述べた。

伊藤定勉・全国町村会理事と釜萢敏・日本医師会常任理事は、ワクチンの供給量を確保した上で、現在の定期接種の対象者を優先する対応を求めた。釜萢委員も自費でうった人の償還払いについて賛同した。

福島若葉・大阪市立大学公衆衛生学教授も「本来であれば積極的な接種勧奨を行うはずであった方々にもう一度送るのが国ができる最善のこと」とし、期間については「最低3年は設けてほしい」と述べた。

佐藤好美・産経新聞論説委員も「セクシュアルデビューの年齢は人によって違いますし、20〜24歳の経験も半分程度と示された。平成11年以前の人を対象外とすることは難しい」として、「対象年齢を幅広に設定することに賛成します」と1番目の案を推した。

沼尾波子・東洋大学国際学部国際地域学科教授は、「標準的な接種期間を対象年齢としている以上、その世代にはまっている6学年を対象とする考え方もありうるのではないか」と唯一、2番目の案を推した。

専門家「案内が来なかった人は全て対象に」

キャッチアップ接種の必要性を早くから訴えてきた感染症対策コンサルタントの堀成美さんは、対象者の範囲を広く取ることに加え、既に自費でうった人への救済策も必要だと話す。

「公費のはずだったのに、案内が来なかった時期の人を対象とし、この間、チャンスを逃して仕方なく後から自費で接種した人たちには償還払いでお金を返すのが最低限必要です。9価ワクチンをうった人にも4価ワクチン相当のお金を一律支払ったらどうか」

「現場の混乱や対応の遅れがないよう、手続きもデジタル化してほしい。接種記録の登録システムを作り、その後の検診とリンクさせるというアイデアが2010年くらいにありましたが、どれもうまくいかないまま2021年になりました」

堀さんや産婦人科医の高橋幸子さんが、接種のチャンスを逃した大学生たちとともにキャッチアップ接種を求めて活動し、2021年3月に、厚労相に3万筆を超える署名を届けた「HPVワクチン for Me」は、以下の声明を出した。

当会は 2013 年 6 月以降、8 年以上にわたり差し控えられていたワクチン接種の積極的勧奨がようやく再開され、その間お知らせが届かなかった年代の人たちに、無料で打つチャンスがきたことを歓迎します。これまで実現に向けて取り組まれた関係各位には心より感謝と敬意を表します。

今後は国、自治体に対し以下の点を強く求めます。

①キャッチアップ接種対象者に向けた速やかで適切なHPVワクチンの情報提供をすること

②キャッチアップ接種対象者をより広く設定し、希望する人すべてが接種できること。

③無料対象期間外に自費で接種した人に、還付金などの対応をすること

④カバー率の高い 9 価ワクチンをキャッチアップ接種・定期接種の選択肢に加えること

加えて

⑤男子への接種に早急に取り組むこと。