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「私たちを見殺しにしないで」 HPVワクチンをうつチャンスを逃した大学生が訴える2つの困りごと

実質中止状態となっているHPVワクチン。医療者の有志が、うちやすくするための解決策を考える会「HPV Vaccine for Me」を立ち上げ、1回目の勉強会でワクチンを公費でうち逃した大学生が、公費の支援を訴えました。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐ「HPVワクチン」(通称・子宮頸がんワクチン)。

公費でうてる定期接種でありながら、実質中止状態になっているこのワクチンをどうしたらうちやすくなるかを考える医療者有志の会「HPV Vaccine for Me」が立ち上がった。

同会が2月2日に開いた「第 1 回勉強会」では、うつ機会を逃した大学生が、自費ではうちたくてもうてないと話し、「私たちを見殺しにしているのと同じではないか?」と訴えた。

医療者の有志で働きかけをスタート

HPV Vaccine for Me」は、感染症対策コンサルタントの堀成美さん、産婦人科医の⾼橋幸⼦さん、政策コンサルタントの⾼畑紀⼀さん、小児科医の細部千晴さんが呼びかけてスタートした。

HPVワクチンは2013年4月に小学6年から高校1年の女子を対象に定期接種となったが、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、厚生労働省が同年6月には、はがきや封書で個別に対象者にお知らせを送る「積極的勧奨」を控えるよう自治体に通知した。

それから6年半、安全性や効果を示す研究は積み重なっているにも関わらず、個別のお知らせは自治体からほとんど送られず、自分が対象であることも気づかずにチャンスを逃している人も多い。

この事態を問題視した医療者が、

  1. HPVワクチンについて広く知らせるにはどうしたらいいか
  2. 接種するための手続き上のハードルを下げるためには何が必要か
  3. チャンスを逃した人の公費サポートをどうしていくべきか


という3つの観点から、当事者、医療者、行政、メディアなど様々な関係者を巻き込んで、課題を解決しようと活動することを決めた。

21歳の大学生 副反応騒ぎで途中でうつのをやめる

2月2日に医療者やメディア関係者らを集めて都内で開かれた勉強会には、副反応騒ぎで定期接種の対象年齢中にHPVワクチンをうち逃した大学生、まなさん(21)が登壇した。

最近、Twitterで性感染症の情報などを見ているうちに、HPVワクチンのイメージが2013年当時と違っていることに気づき、興味を持って調べ始めるようになったという。

「毎年1万人が子宮頸がんを発症し、3000人が死亡すると勉強して知りました。中でも私と同じ世代の20代から40代まで若い世代の患者数が増えていると聞いて驚きを隠せませんでした」

まなさんは中学3年生の時に1度だけうった。その後、世間で副反応の報道が加熱し、警戒した母親からも止められ、2回目、3回目はうたなかった。

「友達の中にも一度もうっていない人や2回うってやめた子もいますし、2歳下の妹やその友達の世代もうっていない人がたくさんいると私自身、知っています」

連日、テレビや新聞で「被害」が報じられ、母親からうたなくていいと言われた時、どこかほっとした。

「注射はやはり痛くて、もう痛い思いをしなくていいんだと思ったことを覚えています。ですが、今になって子宮頸がんで3000人もの方が亡くなるのを知って、そっちの方がリスクが高いことに気づきました」

がんになりやすいハイリスクのHPVに感染しているかどうかの検査も受けた。

「でも、それは続けていかないと、(感染しているかどうかは)わからない検査なので、子宮頸がんになってしまうのではないかという可能性に今は怯えています」

勉強していくうちに、HPVワクチンで子宮頸がんの発症が高い確率で抑えられるということが海外の研究などで明らかになっていることを知った。

「うちたいと願うようになったし、希望も持てるようになりました。もし、今からでも受ける人が増えたら、確実に日本で子宮頸がんで亡くなる人は減ると思います。なので、もっと多くの人に知ってほしいと思っています」

ワクチンの高価さと副反応のイメージが阻む

その上で、私たちの世代でうつ人が増えないこと、子宮頸がんを知らない人が多いことの背景には、2つの問題があると感じている。

1つ目は、経済的な問題だ。現在、日本で認可されているワクチンは3回うてば計約5万円かかる。

「小学校6年生から高校1年生の人以外は、HPVワクチンをたった1回うつだけでも高額な料金がかかり、保険もきかない。それを3回もしなくてはならないなら、うちたくてもうてません。私自身、うちたいのですが、高いので躊躇してしまいます」

2つ目は副反応に対する世間のイメージが未だに悪いことだ。

名古屋市の女子を対象とした「名古屋スタディ」で接種した人と接種していない人で現れる症状に差がないことを知った。

「がんに対して有効なワクチンであるから、一定の確率で副反応があることはリスクとして認識しています。でも1年間で子宮頸がんで亡くなる方がたくさんいることを思い出すと、そちらの方が対処すべきなのではないかと私は思いました」

「また、副反応が出てしまった場合に対しても、それに対してしっかりサポートする体制を整えていただけたらいいのではないかと思います」

さらに、現在は女子だけに限定されている接種対象者を男子にも広げるよう訴えた。

「このワクチンは女性だけでなく、男性のかかる咽頭がんや陰茎がんなどにも効果があると聞いています。男女ともに有効と証明されているにも関わらず、いつまでも積極的にうつことを奨励されず、高額な費用がかかってしまう現状があることは、私たちを見殺しにしていることと同意なのではないかなと思っています」

「これから積極的にうつことを奨励されて、子宮頸がんを発症する方が減ると嬉しいです」

同世代は性感染症に対する意識が低いこともあり、イメージを払拭するような正確な情報はほとんどメディアからは届いていないし、関心も持たれていないという。

どんなメディアが若い世代に届くか問われると、TwitterやInstagram、Yahoo!、LINEニュースなどをあげた。「バズれば強いですね」。

お知らせがいかないワクチンをどう知らせるか

医療者からも発表があった。

現在、個別にお知らせがいかないこのワクチンは、自分が対象であるかさえ把握されていないことが問題だ。

小児科開業医の細部千晴さんは、「HPVワクチンの対象年齢の小学校6年から高校1年のお子さんは小児科にはなかなか来ません。この年齢になると風邪もひきませんから」と話す。

伝えるタイミングとして、インフルエンザワクチンを接種するタイミングを狙う。

母親世代の人たちにも子宮頸がんが「マザーキラー」と呼ばれていることを伝え、9種類のHPVへの感染を防ぐ9価ワクチンを勧めている。

「でも、値段が高くて、『1回3万5000円です』と伝えた段階でドン引きです。あとはお子さんが小学校6年生になったらと伝えても、(被害者として報じられた人の)映像を見た親は必ず言います。『先生、私やっぱり怖いわ』。その一言で終わっています」

細部さんが所属する文京区医師会の集計では、2017年度にうったHPVワクチンはサーバリックス(2価ワクチン)5本、ガーダシル0本。2018年度は少し増えたが、サーバリックス3本、ガーダシル11本にとどまった。

細部さんのクリニックでも、2017年度は2本、18年度は8本のみだった。

せっかくうつことを考えも、さらにハードルがある。

「問診票のお手紙に『積極的に勧めていません』と書かれているのを見たら受けませんよね。問診票をもらいに行くと、窓口担当者から『え?うつんですか?』と言われると、受けなくなってしまう」と悩む。

痛みに配慮したうち方をする

日本小児科医会で公衆衛生委員会の理事を務める小児科開業医の峯真人さんは、日本脳炎ワクチンの4回目(9〜12歳)、2種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風)(11歳〜13歳未満)のタイミングを狙う。

厚労省が作ったHPVワクチンのリーフレットを見せながら対象の女子全員に15分ほどかけて説明している。毎年20数人程度が受けているという。

「みなさん、(副反応騒ぎの時の報道の)映像を覚えていて、相当きちんとした情報を与えてあげないと、安心して受けないし、痛いというイメージがどうしてもある」

工夫しているのは痛みを抑えるうち方だ。

「極力痛くないうち方をして、痛い時に頑張ったならそれをちゃんと褒めてあげる。大きな子だって痛いのを頑張った評価をしてあげないと気の毒だし、それをちゃんとしてあげることで2回目、3回目もきちんと受けてくれる」

日本小児科医会でも、2019年12月に全ての地方自治体にHPVワクチンは定期接種なのだから、案内をするように文書を送った。

やはり小児科開業医の近藤千里さんも、「注射をうつ時の手技的な問題がある。HPVワクチンは痛いという印象が広がりすぎている」と話す。

「筋肉注射は適切にうてばほとんど痛むことはない。医師専用のサイトを見ていると、『筋肉注射は怖い』と HPVワクチンを皮下注射でうっている医師もおり、痛みを増幅させている。積極的な勧奨を再開する際には、接種する医師がトレーニングを受けることが必要だ」と訴える。

男子接種をどうするか? 息子にうった立場から

産婦人科医の高橋幸子さんは、中学2年生の14歳の息子にうった経験を話した。

ヒトパピローマウイルスは、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなど男性がかかるがんの発症にも関わることが明らかになっており、海外では男女共に公費で接種する国が広がっている。

しかし、現在日本で承認されているHPVワクチンは男子に適応がなく、定期接種も男子は対象外だ。

「『がんを防げるワクチンってあまりないんだよ』と説明すると、息子は『うん、うつ』とうつことになりました。ただ、男子にどうぞうってくださいと気軽に言えないのは、ワクチンで万が一何か問題が起きた時も、男子に救済制度が適用されないからです」と話す。

高橋さんは大学生たちと協力して、専門用語などを使わずに「中学3年生が理解できるHPVワクチン」という学生向けの性教育の資料を作っている。

男性向けの情報も盛り込み、男女共に当事者意識が持てる内容に工夫している。

国を待たずに動き出している自治体はある

予防接種は地方自治体に実施義務があり、国の積極的勧奨再開を待たずに、独自に個別の情報提供を始めているところがあることも紹介された。

岡山県は独自にリーフレットを作るなどして、また広島県、長崎県も積極的に情報提供を始めている。

千葉県いすみ市は対象者に個別の通知を始めている。地元の小児科医が市長や議員に働きかけて勉強会を開き、市役所を動かした。

厚労省は自治体に積極的勧奨を差し控えるよう勧告を出しているが、2019年12月3日の質問主意書に対し、国は「勧告に従うべき法的義務を負うものではない」と答弁した。

つまり、定期接種であるワクチンを対象者に周知する責任が自治体にあることが改めて確認されたことになり、自治体の態度も問われている。

堀成美さんは、沖縄県南風原町が対象者に2年間日本脳炎の個別通知を出すことを忘れていて、対象年齢を過ぎてしまった人が出て、自治体の予算でうつことになったことを紹介した。

「定期接種は国民の権利なので、それを伝えなかったらだめなんです。HPVワクチンも、国からそのための交付税も交付されています。対象者に知らせる義務が自治体にはある」と自治体の責任を強調した。

何に手をつけるべきか? 子宮頸がんになった人の経験談

今後どのような戦略が必要かも話し合われた。

産婦人科医の宋美玄さんは、「子宮頸がんのワクチンの話になるとお医者さんがうてという情報ばかりになる。乳がんのように、患者さんや患者さんのご家族が、病気になるとこんなに苦しいという情報が出にくい」と指摘した。

その背景としてこんな特徴を話した。HPVにはたった1回での性交渉でも感染する可能性があるが、性的に活発な女性が感染するという誤った認識が広がっている。また子宮頸がん検診では見落としもある。

「子宮頸がんの患者さんは『お前が検診を受けていなかったからだ』とか、『どこかからHPVをもらってきたのだろう』と、(偏見に基づいて)批判されることがある。産婦人科医が患者さんと良好な関係を築いてこなかったこともあるが、そういう声を広げていくことも必要ではないか。病気の怖さが軽んじられているのではないか」

高畑さんもこう続けた。

「『検診を受けて早期発見したらいいじゃん』という発言が出てくるのも、HPV感染によってどういう苦しい思いをされるのか実態をご存じない方が多いからではないか」

周知の方法として、日本小児科医会はHPVワクチンを啓発するポスターも作った。同会のウェブサイトからダウンロードもできる。

国の方針に基づいた性教育を 学校やメディアでも積極的に

堀さんは「病院で情報を得るのは遠い。もっと手前の学校で養護教諭がHPVワクチンについて語らなければならない」と訴えた。

堀さんは養護教諭向けの講師を務める時に、「みなさん性感染症予防をする時に国の感染症予防指針からずれないでくださいと伝えています。そこにワクチンで予防と書いてあるんです」と伝えている。

「『私、ワクチン嫌いだからワクチンの話をするもんか』とは言えない。国の方針から外れた性教育なんか学校でできるはずはないと話すと、どよめきがおきます。『え?ワクチンのことを言わなくちゃいけないの?』と」

「『私の考える最高の性教育』をする”教祖”になっては困る。国の方針と学習指導要領から外れてはいけない。文部科学省の学習指導要領にも予防接種は明記されています」

他に、小児科や産婦人科関連の学会だけでなく、内科系の学会へ働きかける必要性も訴えられた。

また学会は要望書を出すときに必ず記者会見を開いて、メディアに取り上げてもらうようにという意見があった。

学校やメディアでの情報提供も強化していくべきだという声も上がった。

BuzzFeed Japan Medicalは「記者会見やイベントの情報は記者クラブに張り出されるだけで、インターネットメディアには届かないことも多い。熱心に書く記者だと認識してくれるなら、情報提供してほしい」と訴えた。

今後も勉強会は対象を広げて不定期に開くという。