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「トンネルの先は見えている。夏まで頑張ろう」 「まん延防止等重点措置」が適用される宮城県から呼びかけたいこと

感染拡大が著しい大阪、兵庫、宮城県の要請を受け、「まん延防止等重点措置」が適用されます。特に感染拡大が早かった宮城県で専門家として対策をアドバイスしている東北大教授の小坂健さんに期待することを聞きました。

緊急事態宣言解除後、特に感染拡大が著しい大阪、兵庫、宮城県の要請を受け、4月5日から5月5日まで「まん延防止等重点措置(重点措置)」が適用されることが決まった。

各自治体で地域を指定し飲食店などに罰則付きの営業時間短縮命令を出すのが中心の対策となるが、既に時短営業を始めているところもあり、効果は未知数だ。

特に感染拡大が早く、3月31日には過去最多の1日あたり200人の新規感染者を出した宮城県の新型コロナウイルス感染症アドバイザリーボード委員で、厚生労働省のクラスター班にも属する東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授の小坂健さんに、新たな対策にどこまで期待できるのか聞いた。

※インタビューは4月2日夜にZoomで行われ、その時点の情報に基づいています。

まん延防止等重点措置」でできることとは?

ーー宮城県と仙台市は既に3月18日から4月11日まで独自の緊急事態宣言を出していました。この独自の緊急事態宣言と、新しく作られた制度「まん延防止等重点措置」でできることの違いは何でしょう?

まず県や市の緊急事態宣言は掛け声だけで強制力はありません。「まん延防止等重点措置」は感染状況が最も深刻なステージ4にならないように、その下のステージ3の段階で取る対策です。

国の緊急事態宣言に準じる対策とも言え、店の営業を全面自粛してくれということはできません。しかし時短営業やマスクをしていない人に入店制限を命じることなどはできます。しかも従わない店に罰則を科すこともできる。

「重点措置」は全国一律の対策ではなく、知事が地域を指定してそれぞれの実情に応じた対策を命じるという形を取ります。

国の緊急事態宣言がステージ4の状態をステージ3以下に下げるのを目的にするのに対し、「重点措置」はステージ4に上がるのを防ぐ目的があります。

本来、宮城県は独自の緊急事態宣言を出した3月18日の段階で、国にまん延防止等重点措置を要請して強制力のある時短営業命令をかけるべきだったと思います。

宮城県の現状はほぼステージ4のレベルになっていて、国の緊急事態宣言を要請するレベルまで状況が悪化しています。

ーーステージ4にならないために打つまん延防止等重点措置を、既にステージ4のレベルになってから打つとなると、その実効性が薄らぐのではないかという批判も聞かれます。

ただ、「重点措置をやる」というアナウンス効果は大きいです。

本当は効果を最大にするために、大阪や兵庫県と一緒にではなく、ステージ3相当のタイミングで「宮城県が初めて重点措置の対象となりました」と打ち出した方がインパクトはあったでしょうね。

それでも心新たに、さらに対策を打っていくというきっかけにはなり得ます。

ーー先生は宮城県の対策にアドバイスする立場なのですね。

「宮城県新型コロナウイルス感染症アドバイザリーボード」は賀来満夫先生(東北医科薬科大学特任教授)がトップの会議で、今日初めて開きました。これまで宮城県は感染症の専門家の意見を聞いて対策を立てていなかったのです。

地震被害、大学入試、Go Toイート商品券、3.11から10年...... 様々な要因で感染拡大

ーー緊急事態宣言が解除されてから、宮城県の感染拡大のスピードは早かったです。東日本大震災から10年を迎えたということも影響しているのでしょうか?

それはあると思いますが、様々な要素が重なったと思います。

緊急事態宣言中は感染者もかなり減り、宮城県・仙台市で1月27日から出していた飲食店の営業時間短縮要請(午後10時まで)は2月8日でいったん解除しました。発症日ベースの感染者データの推移を見ると、そのあたりから感染者が再び増加しています。

2月13日に福島県沖を震源とする大きい地震がありましたね。その後に、全国から保険会社が建物にどれぐらい損害があったか大勢現地調査に来て、タクシーが一時期貸し切り状態でなかなか捕まらなくなるほどでした。その影響もあったと思います。

地震で新幹線が止まった影響で、東北大学の入試に県外からの受験生が車で家族づれで駆けつけてもいました。8000人ぐらい受験するのでその影響もあったかもしれません。

2月の下旬には、Go Toイートのプレミアム商品券が宮城県で販売されました。買ったら使うわけで、飲食店がその頃から賑やかになったのは確かです。

また、3.11から10年ということで、多くの人が県外から来たことも大きかったでしょう。行事に役所の人がたくさん来ていましたし、メディアの人も取材に入りました。そういう人の行き来の増加で、感染者が増えた面はあると思います。

さらに仙台に隣接する利府町というところに3月はじめに大型のショッピングセンターがオープンしました。毎日4万人近くのお客さんが来て、飲食店もいっぱい入っているので、そこでも感染者は出ています。

感染が加速する要因がたくさんあって、下げる要因は全くなかったのです。

ーー人が動くと感染者が増えるという、感染症の原則通りのことが起きた。

そうだと思います。

年度末の送別会でもかなり感染者が出ています。接待を伴う飲食店でも増えていますし、年度末の土木工事が増える中で体調悪くても働かざるを得ない日雇い労働者の感染も増えています。感染対策を守りたくても守れる人ばかりではないのです。

あちこちで感染者が出る中、一時期、保健所の積極的疫学調査もほとんどできなくなり、感染経路不明が6〜7割になったこともありました。

受け入れ可能病床がほぼ100%埋まる危機的な状況

大きなクラスターというよりも小さいクラスターがあちこちで出て、保育園や学校での感染も多いです。

そこに家族を預けている医療スタッフが自宅待機を余儀なくされて、新型コロナの患者を診ている医療機関も戦力ダウンのまま患者を受け入れている状況です。

仙台では見かけ上の数字ではなく、実際に使える病床を考えるとほぼ100%埋まっている危機的な状況です。既に緊急でない手術は延期になっています。

軽症者の療養用のホテルも3つ確保したのですが4つ目を確保しないとだめだという状況になっています。宮城県ではホテル療養は看護師が張り付くだけでなく、医師が呼ばれたらすぐ駆けつける待機体制を取り、場所によってはレントゲンも入れて、準病院のような形にしています。

ーー変異株の影響はどうですか?

宮城県は変異株の調査も熱心にやっていますが、大阪や神戸と違って感染しやすく重症化もしやすいイギリス株が2人しか出ていません。変異株が出るとこれまでは原則入院隔離だったので、たくさん変異株が出ている大阪・兵庫はそれで医療が逼迫しかけているのです。

4月1日に厚労省が変異株の感染者でもホテル療養可能としましたが、退院するのに2回PCR陰性を確認するなどの要件があるので、医療の負担になっています。

ただイギリス株は2人しか出ていないのですが、南アフリカ株やブラジル株でよく見られる「E484K」のみ変異がある株はもっと出ています。この変異が重症化しやすいのか、感染力が強いのかはよくわかっていません。

従来から危険視されているイギリス株が少ないのはまだ救われるところです。

既に行っていた飲食店の時短営業 重点措置に意味はあるか?

ーー宮城県は独自の緊急事態宣言を出した翌週の3月25日から既に飲食店の営業時間短縮を始めていましたね。まん延防止等重点措置に意味はありそうでしょうか?

その前に行っていた午後10時までの営業時間短縮がものすごく効いて、2月8日に解除する頃にはほぼ感染者ゼロになっていました。でも、その後に、宮城県は飲食店で使えるGo Toイートのプレミアム商品券を販売し始めて感染者が増えました。

そこで独自の緊急事態宣言をかけて、翌週から仙台市内を対象に午後9時までの時短要請をしたのですね。

今、少し新規感染者数は下がって、ピークは過ぎたと我々は見ています。でもその時短の影響がはっきり出始めるのはもう少し後になると思います。

その後、まん延防止等重点措置の話が出てきた時、当初知事は「もう少し様子を見たい」と考えていました。でもその後、大阪から要請が出そうだという話になって、大阪より宮城の方が酷い状況だから検討してほしいという流れになったのですね。

実際、緊急事態宣言とそんなにやることの内容は変わりません。

飲食店に行くなら、普段一緒に生活している4人までと分科会でもこれまで呼びかけてきましたが、まだなかなか伝わっていないですね。

また学級閉鎖がかなり感染者減に効くことはわかっています。ただしそれは副作用が大きくて、子どもたちの教育にはかなり影響が出ますし、家にいると家族内感染も増える。最終的に高齢者の死亡も増えるという推計も出ています。

ただ、まだわかっていないですが、変異株は子どもに感染しやすいのではないかという話も出ています。宮城県では保育園や学校で感染者が出ていますので、今後、一部の学級閉鎖のようなものも対策として考えなければならないかもしれません。

ーー「重点措置」の枠組みで学級閉鎖もでできるのですか?

重点措置とは直接関係なく、各都道府県の教育長の判断でお願いベースではできるはずです。1年前の全国一斉休校も政府からの要請ベースで、各教育長の判断でした。従っていないところもあった。要請ベースなら同じことを県単位でもできると思います。

効果は出るのか?

ーー来週5日からまん延防止等重点措置が始まります。仙台市の飲食店などが午後8時までの営業になりますが、効果は出そうですか?

閉店時間が1時間早くなるわけです。マスクをしない人は店に入らせないという制限もかけます。またショッピングモールなどの大きな商業施設の入場制限などもやります。

ただ、それだけでは今までとあまり変わらない。もう少しいろいろなメッセージを発信するべきでしょう。

大阪では換気がきちんとできているか測る二酸化炭素モニターを飲食店に配ったり、席にパーテーションを立てることまでするようですね。

このウイルスは接触感染はほとんど起こらず、飛沫感染と微細な飛沫がしばらく空中を漂うエアロゾル感染がほとんどです。それなのに、お客さんが席を立つと一生懸命消毒液で拭き、換気が不十分だったりします。

新型コロナウイルス接触確認アプリのCOCOAが役に立たなくなっている中、宮城県では、「MICA(みやぎお知らせコロナアプリ)」を使っています。

QRコードを使ってお店や公共施設に入る時にスマホで登録すると、そこで感染者が出た時にメールでお知らせするアプリですが、そういうものを使った人しか入れないとか、プレミアム商品券が使えないとか、条件をつけることもできます。

「重点措置」という枠組みはともかく、適用されたことをきっかけに知事が県民に対して「こういうことをきちんとやってください」としっかり伝えることができれば、対策のテコ入れにはなると思います。

ーー国の緊急事態宣言が対象地域に一律の網をかけていたのに対し、「重点措置」は知事がリーダーシップを取って、地域の実情に応じたきめ細かい対策を打っていくというイメージですね。

本来、危機管理はそういう形でやっていくべきだと思います。お金も権限も全て都道府県に渡して、その地域に合わせた良い対策をやってくれ、と任せた方がいい。お役所仕事を増やして、国に申請してお金が降りるのを待つというスピード感では、病床確保も追いつきません。

トンネルの先は見えている 高齢者にワクチンが届く夏まで頑張ろう

ーー宮城県だけでなく、大阪、兵庫も含めて、「まん延防止等重点措置」が適用された地域の人には何に気をつけてもらいたいですか?

今まで感染対策を気をつけて生活している人がほとんどだと思います。今まで通り続けてくれたらいいのですが、人間は弱いからちょっと酒を飲んだり、久しぶりに友達と会ったらマスクを外しておしゃべりしたりすることがありますよね。

ただ、この期間だけはそういうことをちょっと我慢してほしい。学校を休校にすることも含めて、人のいるところに近づかないことが大事だと思います。

感染経路は飛沫感染とエアロゾルが主体ですから、買い物に行って商品を触ってうつることはありません。

しかし、マスクなしでしゃべったり、大声でしゃべったりすると、換気の悪いところでは長い時間漂って感染を起こすことがあります。だからいわゆる「3密」を避けることが改めて必要なんです。

それ以外では、むしろ生活を楽しんでほしい。今、仙台は桜が満開になりましたが、花見だって1人で見たり、一緒に住んでいる人と2人で行って静かな花見をすればいい。感染対策も長丁場になると、楽しみを見つけないと続かないです。

そして、強調したいのは、これは先が見えている対策です。6月に高齢者の分のワクチンが届くと言われていますから、夏には多くの人がうてるようになります。

高齢者がワクチンをうてば、重症者が減るはずですから医療の逼迫をかなり心配しなくてもよくなると思います。夏まで感染が爆発しないように、今抑えておくことが大事です。かなり先ではなく、夏までというトンネルの先が見えているので、そこまでみんなで力を合わせて頑張ろうと呼びかけたいです。

今、厚労省の職員が大勢で深夜まで歓送迎会をしたことが報じられてバッシングを受けていますね。もちろん言い訳できない行動ですし、感染リスクの高い夜遅くまでの宴会を擁護するつもりもありません。

でも人間はみんな弱いものです。

あの部署は重症化が懸念される介護施設の感染対策マニュアルも作り、ずっと徹夜が続いていた部署です。市町村からも出向職員が何人もいることがわかっています。一緒に働いてきた人を労いたいという気持ちが働いたのかもしれません。

さらに接待を伴う飲食店のスタッフとか、年度末の工事の日雇いの作業員とか、感染対策をしていても、そこで生きていくために、どうしようもなく感染することもあるかもしれない。

そういう立場にある人たちにも思いを馳せて、人の弱さをただ叩くのではなく、助け合いながら感染対策していくことが大事です。失敗を監視し、糾弾する不寛容な空気の中では、感染対策以前に社会が保たないと思います。

【小坂健(おさか・けん)】東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授

1990年、東北大学医学部卒業。95年、東京大学大学院医学系研究科国際保健学修了。ハーバード大学公衆衛生大学院・客員研究員 (タケミフェロー)、国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、厚生労働省老健局老人保健課課長補佐を経て、2005年7月、東北大学大学院歯学研究科教授。12年5月、同大学災害科学国際研究所災害医学研究部門教授、15年5月、同大学スマートエイジング学際重点研究センター部門長併任。

新型コロナウイルス関連では、厚生労働省クラスター対策班、コロナ専門家有志の会に参加。2021年4月から、宮城県新型コロナウイルス感染症アドバイザリーボード委員も務めている。