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新型コロナ、リスクが高い場所はどこ? 専門家に聞いてみた

政府から色々リスクの高い場所が示されているけれども、どうしても納得いかないーー。そんな声がよく聞こえてきます。厚生労働省の対策作りにも関与している公衆衛生の専門家に、改めて基本的な考え方と、感染リスクの高い・低い場所の例示を行ってもらいました。

政府の新型コロナウイルス対策専門会議や厚生労働省から、感染のリスクの高い場所や環境について、色々示されているけれど、どうも納得がいかないーー。そんな声がネットでよく見られます。

感染が怖くて自粛に踏み切ったり、予防策をとって開いていても客が恐れて減ったりして、社会には停滞ムードが漂っています。経済の落ち込みや人との交流が分断されていくことも心配です。

3月9日には新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の新たな見解も出され、「換気の悪い密閉空間」「多くの人が密集」「近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた」という 3 つの条件が同時に揃う場所や場面を予測し、避ける行動をとるよう市民に求めました。

感染のリスクは様々な要因が複合的に絡み合うため、「絶対安全」な対策や基準は示すことができません。

公衆衛生や産業保健学、感染症が専門の国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに、改めて取材しました。判断の仕方と、それに基づいたリスクや対策の具体例を示してもらいました。

※インタビューは3月9日午前中にスカイプで行い、この時点の情報に基づいている。

大原則は「換気の悪い密閉空間」「近距離で会話や発声がある」「手の届く距離に多くの人」が重なる場を避ける

ーー小規模なクラスター(集団)が連鎖的に発生して、大規模な集団感染(メガクラスター)につながっていくのは避けたい、というのが現在の政府の対策の方針です。この大規模感染はまだ至っていないと考えてよろしいですか?

そうですね。例えば韓国の新興宗教団体の行事がきっかけで起きたことはメガクラスターまで膨らんでしまった事例です。そうしたことを防ぐために、国民の皆さんに多くの人が集まる場での行動自粛に協力してもらっているということです。

ーー具体的にどういう場面がリスクが高いのか低いのか、混乱している人も多いです。改めて感染のリスクが高い場面の考え方を教えてください。

社会的また物理的な距離を確保していただくことによって、感染拡大を防ぐことができることがわかってきています。


中国の武漢などの都市で行って抑制の効果が見られています。今はイタリアでも行われているようです。シンガポール、香港では早期に様々な介入が行われており、感染を押さえ込んでいます。

必要なのは「人同士の物理的な距離をとること」です。対策を難しくしている理由は、比較的元気な人が知らず知らずのうちに多くの人に感染させていることです。つまり、誰から集団に感染させているかがわからないのです。飛沫感染対策としては1〜2mをあけることが必要となります。

こうした場面では、ある人から多くの人に感染拡大したことが事例の分析によりわかっています。そのため、この3つの条件がほぼ同時に揃わないようにすることが対策として必要です。

  1. 「換気の悪い密閉空間」
  2. 「近距離で会話や発声がある」
  3. 「手の届く距離に多くの人」


日本だけが言っていることでなく、アメリカのCDC(疾病管理予防センター)などでも同じように言っています。世界各国がこの条件がまずいと気づいています。


ただし、日常生活にはこういう場は山ほどあります。新型コロナウイルスは、私たちの日常のあり方を一部変えなければ防ぎようがないという状況を生み出しています。


人と交流することは絆を築く上で大事ですが、対策により社会の分断を招きかねない事態になっています。しかし、家族内、地域内、学校内、会社内、そして国と国の行き来を止めることも含めて、いまこそ、皆が協力して新型コロナウイルスに立ち向かわなければならないのです。分断ではなく、連帯という考えが必要です。

ーークラスター対策として若者の行動制限が呼びかけられましたが、ライブハウスもジムも若者というより中高年が言っているので実態と合わないのではないかという声も聞こえます。

「若者」の定義にもよりますが、現段階で10代や20代の感染の状況についてはわかっていません。感染しても軽度であったり、また感染をあまりしていないのではとういう報告があります。今後年代における感染の状況などを明らかにする必要があります。

具体的にどんな環境に気をつけて、どんな対策を取るべきか

以下は和田さんが、上記の3要素を減らし、感染リスクを下げるために様々な場面で私たちにできることをまとめたものです。

【移動等】

■公共交通機関

可能であれば窓を開けて換気をするという方策はあります。でも、まだ地域によっては寒いですし、そもそも窓が開かないこともあります。停車して人が入れ替わる際に換気があるかもしれませんが、それが十分かどうかはわかりません。

また、密集度の高い環境になるのを避けるため、混雑が見込まれる時間の利用を避けることで、感染拡大のリスクを下げることができます。

やむを得ず満員電車を利用することになった場合でも、咳エチケットを守ること、会話は最小限にすること、吊革や手すりなどを触った後に顔などを触らないように注意すること、下車の直後に手洗いをすることによって(可能であれば乗車の前にも)、感染拡大のリスクを下げることができます。

■タクシー

窓を開けるなど換気に努めることで、感染拡大のリスクを下げることができます。お話の機会も最小限にした方が良いでしょう。運転手や乗車した人もこまめな手洗いを励行します。

窓が開かない公共交通機関(新幹線、特急電車等)

一定の換気設備が整っていることがほとんどです。立っている人が少ないなど、人の密度が低い場合が多いです。咳エチケットを守ること、至近距離の会話を減らすこと、下車の直後に手洗いをすることによって(可能であれば乗車の前にも)、感染拡大のリスクを下げることができます。

■航空機

空間は狭いですが、換気が頻繁になされている場合が多く、上記の感染拡大の条件がそろうことは少ないと考えます。しかし、感染者が発生した場合には、周囲の1〜2mの方は濃厚接触者とすることもあり得ます。

【スポーツ・運動等】

■屋外のスポーツ

比較的、競技中は、感染拡大する条件はそろわないと考えられます。ただし、更衣室の利用は短時間に留め、近距離でのおしゃべりを控えてください。共用の器具があれば、適宜アルコール等で消毒しましょう。

■スイミングプール

プールの利用だけという場面では先の3つの条件はそろいません。ただし、更衣室の利用は短時間に留め、近距離でのおしゃべりを控えてください。

■屋内のスポーツ

換気が十分でない場面もあり得ます。運動している人同士の長いボディコンタクトを避ける必要があります。共用の器具は、適宜アルコール等で消毒して使いましょう。

症状のある方、特に受診するような症状があった場合には、行かないようにしてほしいです。最近確認された事例でも、症状が多少あるのにスポーツジムに行って感染させていたということがあります。

■岩盤浴、ホットヨガ

正直私は行ったことがありませんのでコメントするのが難しいです。

換気が悪く、人の密度が高くなりやすいのでしょうか。近距離でのお話の機会があるかどうかにも感染リスクは左右されるでしょう。またプール同様に着替える場所などでは接触感染リスクはありそうです。こうした場が感染拡大の場になり得るかはまだわかりません。

■日帰り温泉、スーパー銭湯等

現段階では感染拡大の場としての報告はないです。私も時々は行きますが、あまり会話などはないですね。こうした場が感染拡大の場かはまだわかりません。

【文化施設、音楽イベント、遊興施設等】

■図書館、美術館、劇場、映画館

あまり会話がされる場ではないと考えます。換気が十分で、人々が触り、座る場所の消毒ができていれば、感染拡大リスクを下げることができます。また、人々が至近距離での会話を避け、咳エチケットやこまめな手洗いを徹底することも重要です。

ただし、いわゆる「絶叫上映」や「応援上映」、観客参加型の演出などにおいて、観客全員で声を出すような活動は避けるべきです。

■音楽イベント等

空間が比較的広く、観客が至近距離でしゃべる機会の少ないコンサートなどでは、人々が触り、座る場所の消毒がなされていれば、悪い条件は重なりにくいと考えられます。

しかし、狭いライブハウス、クラブ、オールスタンディングのホールなどは、換気が悪く、人の密度も高い環境が多いこと、観客間での飛沫感染が発生しやすくなることが見込まれるため、参加をなるべく避けてください。

こうした環境にいったん感染が持ち込まれると、クラスターを発生させる可能性が高まります。オンライン配信、オンライン参加など、実施形態を工夫しましょう。

■パチンコ、麻雀

換気の条件などがよくわかりませんが、お客さん同士がそれほど話をしないのであれば、三つの条件が揃うことはあまりなさそうです。手洗いやアルコール消毒を徹底し、機器や玉などで接触感染するリスクをどれほど店側で減らせるかの努力も感染リスクに関係しそうです。

■カラオケボックス

声を出すことで飛沫感染の、マイクが接触感染のリスクを高める可能性があります。店側がどれほどアルコール消毒や手洗いを徹底できるかにも影響されそうです。また、防音のために換気は比較的よくない環境が多いかと思います。一人カラオケはいいと思いますが、閉鎖的な空間ですので、大勢で行くのは避けたほうがいいでしょう。

打ち上げ、食事会、パーティー、懇親会、送別会、花見等

屋外での会合

人の密集度が下がり、お互いに距離がとれれば、悪い条件は重ならず、感染拡大のリスクを下げられます。

屋内での会合

換気が悪く、人の密度の高い空間での複数人とのおしゃべりは、そこに感染者がいた場合に、クラスターを発生させる可能性が高まりますので、避けてください。バーチャル懇親会、ウェブ飲み会など、実施形態を工夫しましょう。無償で提供されているアプリケーションやツールもあります。

仕事、学業、サークル等

■会議、学校の授業・講義

●会社の会議では、会議室の換気を良くして、参加者の距離を開けて、行なってください。オンラインミーティングを行うのもいいでしょう。

窓のある教室では換気を励行し、人の密度を減らし、共用の器具を適宜アルコール等で消毒することで、感染拡大のリスクを下げられます。こうした環境で授業や講義を行えるよう工夫してください。

休憩時間は、こまめな手洗い、咳エチケット、至近距離の会話を避けるよう児童・生徒・学生に指導してください。ICT技術を用いた双方向の講義なども活用可能です。無償で提供されているアプリケーションやツールもあります。

サークル活動、合宿等

窓のある環境では換気を励行し、人の密度を減らし、共用の器具を適宜アルコール等で消毒することで、感染拡大のリスクを下げられます。しかし、ゼミなど至近距離での会話が長時間起こるような活動ではクラスターを発生させる可能性が高まりますので、オンライン化などに切り替えてください。

合宿、合宿所等への宿泊も、ミーティングや飲み会などではクラスターを発生させる可能性が高まりますので、避けてください。

今後の見通しは?

ーー今日9日からは中国、韓国から入国した人に対し、2週間、自宅などに待機し、公共交通機関を使わないよう求めることを始めました。国内でかなり広がっている今の段階でまだ水際対策を行うのか、とも感じますが。

検査の拡大もあって感染者が増えているのではないかという話はあるものの、今のところまだコントロールできないほどの流行が起きているわけではありません。

ただ、ちょっと対策を緩めると大きく広がりえる。

地域によって流行の程度はバラバラで、今流行しているのは北海道、そして東京や愛知も危なくなってきています。大阪ははまだぎりぎり感染のリンクが追えていますが、次第に厳しくなる可能性があります。

流行の程度に応じて、緊急事態宣言が今後も各都道府県によって出される可能性がある。また、近い将来は改正特別措置法が適用される可能性もあるかもしれません。

しかし、緊急事態宣言で収まってもまた流行は始まるかもしれません。火種が小さくても残り、それがいろんな人にパスされて、くすぶりとなり、ボヤになって火事から大火事になる、ということが年単位で続く見通しです。

ですから、ボヤであるクラスターが出てくるのをできるだけ減らすために、先に述べたリスクの高い行動は避けてほしいことを呼びかけているのです。

国内で感染を予防しても海外から入ってくる可能性があります。国レベルでは、中国と韓国に対して日本への訪問者を対象に厳しい措置をしました。これも人同士の物理的な距離をとることです。中国と韓国を今選んだ根拠が十分かは疑問です。

国名はあえてあげませんが、保健医療体制の脆弱な国で流行は簡単に拡大します。つまり、感染者の数は検査があまりできないと明らかになりません。アジアやアフリカにはそうした国がまだまだあります。

様々な国との行き来の制限を始めるのは簡単ですが、やめ時を決めるのも大変です。データが限られるなかで何をもって今の基準を緩和するかを議論しておくことが必要です。

ーーしかし、ずっといつまでもこの行動制限を続けるわけにはいかないですね。社会活動や経済との兼ね合いもあるわけですし。

続けるわけにもいかないですが、続けないわけにもいかない。高齢者を中心とした死亡者が数多く出る状況を容認できるのかということです。経済の停滞を防ぐために、高齢者や持病のある人が危険に晒されてもいいのか。そのあたりのバランスは、医学だけでなく、社会全体で議論しなければいけません。

ピンチをチャンスに 新しい技術で社会の分断を防げ

ーーオンラインでの授業やシンポジウム、ミーティングなど、ITを使った様々な工夫も始まっています。結構、便利だなと思うところもあるのですが、これは広げるべきだと考えますか?

やった方がいいと思います。新型コロナウイルス対策をすると、どうしても社会的な距離や分断を生み出しかねない。社会のあり方に影響を与えつつあることにみんな薄々気づいていると思います。

私達の人間関係や行動が変わろうとしています。変わらなければまず影響を受けるのは重症化リスクの高い高齢者です。次に影響がでるのは、医療を必要とするすべての人です。

今後も、様々な場所で小規模な集団感染があり、次第に広がれば、地域の「緊急事態宣言」のような形で社会活動を低下させて、人同士の距離をさらにあけざるを得ないかもしれません。

ただ、物理的な距離をとるだけで終わらせてはならず、我々は個人で、地域で、国を超えて連帯しなければなりません。距離をとるというのは心理的にも影響が大きい。距離をとったとても関わりを減らしてはいけません。

技術の進歩でテレビ会議もできるようになりましたし、ネットでの懇親会や、マラソンを各自で走ってタイムを報告するといったことも始まっています。

人は物理的に離れてもつながることができるようになりました。みんなで知恵を出し合いながら、前向きな行動と新しい価値観で、新型コロナウイルス対策を創り出していくべきだと思います。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

新型コロナウイルスの発生と「指定感染症」への指定を受けて、編集に関わった『新型インフルエンザ(A/H1N1)わが国における対応と今後の課題』(中央法規出版)を期間限定で公開している。