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冬に向けての新型コロナ対策 注意すべき4つの症状と職場の7つの場面とは?

Go Toトラベル、Go Toイートと人の移動や会食を促す政策が行われ、東京などでは感染者の高止まりが続いています。風邪やインフルエンザも流行する季節、専門家は一気に感染が広がることを心配しています。

新型コロナウイルスの感染者数は「高値安定」とも言える状態が続き、Go Toトラベル、Go Toイートと経済対策に力が入れられている今日この頃だ。海外との往来も徐々に要件が緩和されてきている。

しかし、ウイルスはなくなったわけでもなく、弱まったわけでもない。感染が増加し、私たちの命や医療を追い詰める可能性は今も残り続けている。

風邪やインフルエンザが流行する冬に向かうこの時期、私たちは改めて何を確認しておくべきか。

公衆衛生や感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにお話を伺った。

感染拡大防止、忘れられていないか? 戦略や目標を

ーーGo Toトラベルに東京も加わり、Go Toイートも始まりました。人の移動やお店での飲食を促す政策が始まり、今度は感染対策がおろそかになっているのではないかという声も上がります。

経済活動が10月から急激に再開しています。冬に向けて感染拡大の防止はどのようにするのか、戦略や目標が最近、曖昧になっている気がしています。

もう抑えこまなくていい病気なんじゃないかと思われている人もいるかもしれませんが、そうではありません。

もちろん緊急事態宣言などはなるべくやりたくないのですが、また増えてきたら何らかの制限をかけなくてはならなくなる可能性は忘れ去られている印象です。

冬に向けて、もう一度、戦略や目標を考える時期だと思います。

災害では、緊急の対策が必要な「超急性期」「急性期」、日常生活を維持する「慢性期」と分けるように、だんだん対策は変わっていきます。

この感染症も2回の流行の波を経験して、ある意味人々のマインドとして「慢性期」に入っているようです。

もう、急性期のような、「あれをして、これをして」というコミュニケーションでは通用しないと感じています。納得感を得ながら、時間をかけて丁寧に、「なぜこの対策が必要か」を改めて伝えないといけないのですが、メディアもだいぶ関心を失っているように思います。

ワクチンへの過度な期待と楽観

一方で、多くの人を惑わせているのかもしれないのは、ワクチンへの期待の大きさです。

ワクチンさえ出てくれば、感染症対策は終わるのではないかと思っている人が一定数いるようです。先日、経済系雑誌を読んでいたら、金融関係の人が株価の見通しについて、「まもなくワクチンが出てきて持ち直す」という意見を言っていました。

ワクチンができればもう感染対策をしなくても何とかなる、以前の生活が戻ってくるという楽観が広がっているのではないかと心配しています。

ーー対策が長期化すると疲れてしまって、一つの対策で何もかも解決すると思いたくなるのでしょうね。

まずワクチンができるかどうかもまだわかりません。安全性もまだ確立していません。

アメリカのCDC(疾病管理予防センター)はワクチンが出てくるとしたら早くて来年の6月と予測していますが、そこから接種を開始すれば、日本での接種は早くても来年の秋から冬でしょう。やはり少なくとも1年間はワクチンなしで過ごさないといけない。

その中でオリンピックも開くということですから、こうした状況下での中長期を見据えた対策をしていかなければなりません。

私自身は、自ら率先してワクチンを接種したいと思うだけの効果がでて、安全性があるワクチンを接種できるようになるのは1年以上かかると思っています。どのくらい先かもまだわからないというのが正直な印象です。

感染が広がる場所は? 飲食と職場に関係するところ

社会において自粛や行動抑制などよほど強い対策を打たなければ、感染者はゼロにはならない。

しかし、感染者がいたとしても10人に2人程度しか他の人に感染させていないこともわかっています。8人の人はそこで感染は止まる。ただ2人が大きく感染を広げています。そうした本人の症状が軽度であったりして感染を広げている自覚がないことも問題を難しくしています。

そして広がっているところはどこかと言えば、日常生活の中では、圧倒的に飲食の場なんですよね。

Go Toイートなどが始まっていますが、飲食の場でどう感染を防ぐかというのは今後1〜2年は大きな課題であり続けます。特にお酒を伴う食事で複数人が参加するような場所、飲み会、懇親会は今後も要注意です。

お店でいろいろと対策をしてもらっていますが、完全に防げるわけではないこともわかっています。一定数の確率で具合の悪い人がいたら、ついたてをしていたとしても感染は起きています。また、居酒屋などかなり換気が悪いこともわかってきています。

一時期話題になったのですがあまり普及しなかった二酸化炭素を測定する機械をこうした閉鎖空間における換気の程度を図るために活用したら良いと思っています。私も現場の視察などで用いています。

狭いところで人が多い時に確認してリスクを下げるような試みは今後もう少し行われても良いのではないでしょうか。二酸化炭素濃度を測れる機械は1万円前後で売られています。なお、念のためですが私はこうした機械の業者からは1円もいただいていません。

一方、クラスター(集団感染)が発生する場所は少しずつ変わってきてもいます。

当初は「接待を伴う飲食店」が注目されましたが、最近の東京都のモニタリングレポートを見ても、職場での感染が増えています。


丁寧に感染者の話を聞くと、働く場所での感染拡大というよりは休憩をする場所などで感染が広がったのではないかと考えられていますね。そこでおしゃべりや飲食をしてうつっている。


もう一つ課題になっているのは、外国人労働者の間で感染が少しずつ出ていることです。

ーーなぜ外国人労働者に広がるのでしょう?

もともと密に住んでいるということもありますし、感染防止対策の情報が十分伝わっていない可能性があります。また、症状があっても仕事を続けるためになかなか言い出せなかったり、医療につながれないという問題もあるでしょう。

ーー社会的に弱い立場の人に広がる典型的な例ですね。支援が必要です。

そうなんです。やはり弱いところに感染は広がるので、感染を広がりにくい社会にするためにもこうした弱い立場にある人をどう守っていくかを考える必要があります。

冬場の職場での対策 

ーー今、職場で増え始めているというのは、どういう理由が考えられますか? 徐々にリモートワークが解除されているということでしょうか?

当初は感染対策を厳しく啓発していたとは思いますが、だんだんに継続するのが難しくなっているところはあるかもしれません。

リモートワーク自体は地域の感染対策にどの程度貢献するかはまだわかりません。働き方改革としてのリモートワークのあり方や、その弊害も含めて今後のあり方が議論や試行がされるとよいと思います。

基本となる対策について改めて確認が必要です。例えば、「症状のある人は休みましょう」ということが感染対策の肝になるのですが、「症状」というのが「発熱」がなければ良いと誤解されています。

しかし、これから風邪がはやる時期ですが、風邪の症状との見分けはかなり難しい。特に発症の初期、症状の出始めが新型コロナの感染力は高いのですが、最初から熱が出る人は半分弱なんですね。

喉の痛みや咳がやはり先行する感じです。こうした症状がでたらそのときに休めるといいのですが、軽ければ休めない事情も多いでしょう。

せめてこうした症状があれば食事は離れて食べ、飲み会などには絶対に行かないようにしてほしい。「大丈夫かな」と安易にならないでほしいのです。

ーー「これぐらいだったら会社に行こう」と出勤した人がうつしてしまう。

そういうことがおきてしまう。「これぐらいでは休めないし」とも思ってしまう。気の緩みというよりは、軽い症状では休めないという事情がある。会社の経営が新型コロナで大変になっているところもあります。そうした中で休みにくいというところもあるかもしれません。

ーーコロナで打撃を受けているところで、会社も社員を休ませる余裕がない。

経営が影響を受けて労働者に対しても職場環境が厳しくなっているところもあるようです。休むことはなかなかしづらくなっているところもあると思います。

とはいえ、結局感染はゼロにはならないので、感染者がいてもなるべく広げないような普段からの対策が大事です。

日々の健康管理は、毎日のことなだけに、だんだん実施がゆるくなるんですね。もう“慢性期”に入っていますから、毎日しつこく従業員に聞くことができなくなってきますが、大事な対策であることを強調したいと思います

風邪のシーズン注意すべき4つの症状は?

ーー気をつけるべきはどのような症状ですか?

  1. 喉の痛み
  2. 味覚・嗅覚障害

この4つは重要です。味覚・嗅覚障害は新型コロナで特徴的な症状と言われています。

熱または喉の痛みまたは咳があれば注意です。風邪か新型コロナかはわかりませんが、症状が始まった時には特に注意して休む、休めないならマスクなどしっかりする。絶対の飲み会や食事会には参加しないことが大事です。

ーー頭痛はどうですか?

頭痛は他の病気でもよくありますので、それだけで判断すると増えすぎてしまいそうですね。

――発熱については何に気をつけたらいいでしょう?

新型コロナの熱に関しては1回上がって、それほど長く続かず、いったん下がることがよくあるようです。

熱が出たら、下がって24時間ぐらい様子を見るだけだとちょっと足りないように思います。また上がる可能性があり、24時間程度確認して出勤したがまた発熱して濃厚接触者を作ってしまう事例が時々みられます。

できれば検査をしていなくて症状がある場合には72時間(3日間)、最低でも48時間(2日間)症状がないことを確認してから出勤するようにしたほうがいいでしょう。

風邪との見分けはとても難しいです。また症状があるからと言っても、会社として「すぐ病院に行け」「陰性証明をもらってこい」というのはおかしい。あくまで受診を勧めるというところになります。

陰性証明をもらいに行くのは、意味のないことですし、説明などで医療機関に負担をかけますので従業員に求めないようにしてください。

感染リスクの高い7つの場面は?

ーー厚労省研究班で職場の感染リスクの高い場面をポスターでまとめていましたね。

職場の感染リスクを調べていると、繰り返しになりますがリスクが高いのは「体調が悪くても出勤する」ことです。発熱だけでなく、咳があったり、喉の痛みがあったり味覚障害があったりしたら行かないことを徹底してください。

また、狭い場所で密になってミーティングをすることも危険です。マスクをするのは当然ですが、マスクをしたとしても換気の悪い狭い場所で密集すれば防ぎきれませんので、気をつけてほしいです。

またコールセンターでの感染がかつてあったのですが、最近また時々見られます。

ものの共有、特に飛沫がつくようなものの共有は絶対にしないようにしてください。24時間のコールセンターでは机を共有していたりしますが、机は終わったらウエットティッシュなどで拭くとよいでしょう。

職場での感染としては休憩室での飲食やおしゃべりによる感染が目立ちます。ランチや懇親会も感染リスクが高いですから、そうした場面では相当気をつけて対策をしてほしいです。地域で流行が広がっている場合は控えることも選択肢にしてください。

複数で歌を歌うことや社員旅行もとてもリスクが高いです。こうしたリスクの高い行動は少なくともこの冬を乗り越えるまではできれば避けてほしいと考えています。

ーー7つの場面を見ると、3以外はだいたい飛沫感染ですね。

そうです。新型コロナについていろんなことがわかってきましたが、やはり飛沫感染が主なルートだとわかってきています。接触感染は一部なんですよね。

職場の感染対策ももう一度見直すべきだろうという時期にきています。改めて自分の職場の中で感染リスクのある場所、つまり3密に該当する場所がどこにあるのかを確認して、そこに対策をしてほしい。

今だと休憩する場所や懇親会などがリスクです。狭い会議室でいろんな人が入る場所は終わった後はアルコールなどで拭くことはいいことだと思います。

一方で、エレベーターのボタンやドアノブなど清掃業者に拭き掃除をしてもらうことがあったと思います。接触感染対策の一つですが、手間もコストもかかりますが、その割に期待するような効果は得られにくい。手洗いの励行の方がよいと私は考えています。

やはり、飛沫感染対策を中心に力を入れるべきでしょうね。

冬に備えて 地域での良好事例を共有

色々な職場の人と話していてよく言われるのは「今後の見通しが欲しい」ということです。


来年の3月までがある程度感染を国内で抑えられたら、だいぶその後の見通しは明るくなると思います。この一冬を乗り越えられるかどうかは、政府、自治体はもちろんですが地域や市民にかかっています。お互いに協力しながらしっかり取り組んでいきたいところです。

そのためにも中長期の目標を改めて冬に向けて示すべき時期だと思っています。

「経済と感染対策の両立」「死亡者を減らす」という目標は打ち出されています。しかし、地域での流行を抑えられるように、感染が広がりにくい社会作り、そして検査体制作りを行うべきなのだと思います。

小規模でも流行を一度経験すると、その後はだんだんとできるようになってきます。

ただ、その経験をするまでは、首長も、地域も、職場も不安になります。特に感染者が最初に見つかったとき、そして感染者が増えている間は首長や社長なども含めて不安が続きます。いったいどこまで広がっているのかと。

感染者の数が下がりはじめると少し安堵できますが、しっかりと抑えるまでは対策を継続する必要があります。その間には差別・偏見、地域を分断するようなことが起こり得ます。

さらに、小中学校などの公的な施設での感染も不安を強めます。高校生以上の大人に比べて小中学生は感染するや重症化するリスク自体は少ないことはわかっています。

ーー先日取材した福井県でも、流行を経験して地域の連携を強め、冬に備えた対策作りも着々と進んでいるようです。

そうなんですよね。1回経験して、地域のリーダーが前向きに「今後はこうしていきましょう」と具体的に示すと、さらに備えは進みます。また、こうした地域の良好事例や教訓を共有することも大事です。

地域のリーダーである人はできるだけポジティブなメッセージもそこに含めるようにしていただけるとさらに良いと思います。

【参考】

新型コロナウイルスの今後の見通しについての私見

福岡県北九州市での新型コロナウイルス感染拡大への対応から得た10の教訓

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を6月11日に出版。