• covid19jp badge
  • medicaljp badge

「受診や治療がストップした」「入院したらアウティングが怖い」 新型コロナ流行でトランスジェンダーの直面する医療不安

トランスジェンダーの当事者団体などが、新型コロナの影響をアンケートしたところ、「受診や治療がストップした」「アウティングが怖い」などの問題に直面していることが明らかになりました。

新型コロナウイルスの流行は、性別違和を抱える「トランスジェンダー」の人たちの生活にも大きな影響を与えている。

受診や治療がストップしてしまった。

個人輸入しているホルモン剤が届かない。

万が一、感染して入院したらアウティング(望まぬタイミングで自分のセクシュアリティを暴露されること)されるのが不安。

インターネットを通じて行われた「トランスジェンダーの医療アクセスに関する緊急アンケート」で、そんな苦境に立たされていることが明らかになった。

調査した性別違和を抱える人の当事者団体「TRanS」代表、浅沼智也さんは、こう訴える。

「性別に違和感を感じる人を診る医療機関が不足してアクセスしにくいなど、普段から存在している根本的な問題がコロナで浮き彫りになりました。課題の解決に向けて、できることを取り組んでいってもらいたい」

※発表は5月24日午後にYouTubeで行われ、その時点での情報に基づいている。

「受診・治療がストップ」「ホルモン剤が届かない」

アンケートは、5月1日から20日にかけてインターネットを通じて呼びかけ、496人の有効回答があった。

浅沼さんの他、「TRanS」の平尾春華さん、「セクシュアルマイノリティと人権を考える会 さらだ」の近藤歩さん、名古屋市立大学大学院看護研究科の金子典代さんが中心になって実施した。

医療サービスの利用や、ホルモン療法の継続に影響が出ているかについて、自由回答で尋ねたところ、119人から回答が寄せられた。

内容別に分けて多かった内容の内訳はこうだ。

最も多かったのは、「受診・治療がストップした」で21件だった。

トランスジェンダーは、自認する性別に心身の状態を近づけるため、ホルモンを投与する治療を行う人が多いが、診療できる医療機関は限られている。

注射の場合は1〜3週間に1回、経口薬の場合は毎日飲む。保険はきかず、使用する薬剤にもよるが費用は毎月2000〜5000円程度。そしてホルモン療法を中止すると、心身共に苦痛が大きくなることがある。

「注射で通っていたクリニックが一時閉鎖になった」

「職場付近のクリニックに通っていたが、外出自粛で通えなくなってしまったため、ここ数ヶ月ホルモン注射をうてていない」

「休業中で継続した生活費を得ることが難しいため、ホルモン療法を中止得ざるを得ない状況になった。そのせいで転職も行き詰まっている」

「ホルモン治療開始を延期した」

などと、アンケートにも切実な声が寄せられている。

次に多かったのは、「自己輸入しているホルモン剤未達・遅延」しているで16件だった。

「個人輸入サイトが航空便減少のため、田舎で個人輸入に頼る人たちには死活問題」

「輸入が制限され、入手に時間がかかる」

などの声があった。

移動で感染のリスクはあるが...近所で知られたくはない

感染不安や公共交通機関が使えなくなったことで遠方まで車で受診することになったというような「医療機関へのアクセス悪化」や、外出自粛規制や病院の都合で「受診先の余儀ない変更・受診に困難が生じている」もそれぞれ14件あった。

近くにかかれる医療機関がない、人間関係が狭い地方の医療機関にかかって知られるのを避けるなどの理由で、離れた都市に通院したり、個人輸入でホルモン剤を手に入れたりしている人も多い。

「感染のリスクがあるが、都内のクリニックに県を越えて定期的に通い続けている。生活エリアでアウティングのリスクをおかしてまで、近医に変更する予定はない」

そんな声も寄せられる一方、

「電車を使って県をまたぐ通院ができなくなった」

「県内の他の病院は、診断書がないと(ホルモン注射を)うってもらえないため断念している」

と、治療を断念せざるを得ないという声もあった。

「病院側からなるべく注射でなく、経口薬でのホルモン投与でしのぐようにお願いされた」

「今までは2週に1会のホルモン注射を受けていたが、現在は貼り薬を1ヶ月分ずつ処方してもらうようになった」

「血液検査が受けられない」

と通院が困難になったために、処方や診察が変更されたという声も届いている。

浅沼さんは、「性別違和を感じている当事者を診察してくれる医療機関が少ないことが背景にある。特に地方になればなるほど、自分の住んでいる自治体に病院がない可能性が高くなる」と指摘する。

アウティングが怖い

さらに、「コロナに感染したら自身のセクシャリティのアウティングの不安」も4件あった。

「新型コロナウイルスに自分が感染してしまった場合、身体の性で扱われるのではないかと不安がある」

「広報発表などの性別も意に反した扱いをされることは耐えがたい苦痛になる」

と、望んでいないカミングアウトや戸籍上の性別で扱われることへの不安の声も聞かれた。

「越県できなくなって手術をストップした」

「タイで子宮卵巣摘出手術をしたが、裁判所の面談が緊急事態宣言で延期になり、戸籍変更できずに困っている」

予定していた性別適合手術や手続きが中止となって困ったというこんな声も4件あった。

浅沼さんは「特に身体への違和感が強い当事者には手術の見通しがたたないことでメンタルの支障をきたす可能性もある。また戸籍上の性別と見た目が異なることで意図しないカミングアウトをしなければならないこともある」と懸念する。

感染者の情報公表は自治体によって異なる。

年齢、性別だけの自治体もあれば、職業や行動歴、家族構成まで詳しく公表するところもある。その場合、トランスジェンダーにはこうした不安がある。

「田舎であればあるほど個人が特定されやすい問題がある。また、行動歴でクリニックに受診したことが知られると本人の意図しないアウティングにつながる可能性もある」

看護師である浅沼さんは、「院内感染が起きて、男性看護師、女性看護師と性別まで公表された場合、職場でカミングアウトしていなければアウティングにつながる可能性がある」とも言う。

さらに、浅沼さんの友人からは「仕事が減ってしまい、ためていた治療代や手術代を切り崩し生活している」「外出自粛のため、自分に理解のない家族とずっと一緒にいなくてはならない」という苦痛の声も聞かれたという。

「いつもの倍以上のホルモン剤を処方」「どこでも処方できるようにして」

このアンケート結果を受けて、当事者2人が、自身や周りの仲間の置かれている現状を報告した。

通院による感染リスクを減らし、通えなくなった場合のことも考えていつもの倍以上のホルモン剤を処方してもらっているという平尾春華さん。

ホルモン療法を一時的にストップした場合の体調については、「中断してしまうと、更年期症状のような症状がある。働くのがしんどくて1日休みをもらうようなことが起こります」と語った。

また、タイで性別適合手術を考えている人がコロナに感染していないことの証明を求められて渡航できなくなっていることや、国内の医療機関では他の緊急性の高い手術が優先されて後回しになっている問題を紹介した。

パートナーと共にホルモン剤を個人輸入している畑野とまとさんは、国内よりも安価であることを紹介しつつ、国内では薬の選択権や処方へのアクセスが改善されていない問題を指摘した。

「ホルモンを扱っているお医者さんでどこでもうてるようにしてもらいたい。診断書を持っていればOKとなればよく、システムの問題。不便すぎる」と訴えた。

浅沼さんによると、個人輸入の薬に関しては、有効性・安全性の確認がされていなかったり、副作用などが起きたときに対処方法が不明なことがある。効能・効果、用法・用量、使用上の注意等も外国語で記載されていることも多い。

「記載内容を正確に理解することが難しい方も多く、用量以上に服用される方もいます。副作用などに迅速に対応することが難しい場合もありますので、可能な限り、医師に相談の上で内服してほしい」と浅沼さんは注意する。

浅沼さんは最後にこう訴えた。

「必要な人に必要な支援が届くよう、性自認、性的指向に関わらず、プライバシーや人権が守られる社会に変えていかなければいけないと思います」

「メディアの方は性自認、性的指向などを考慮した公表の仕方をしていただけるように心遣いをお願いします」

6月にこのアンケートを受けた、イベント開催も予定しているという。

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com