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「正義の味方はどこへ行った?」 高齢者施設で新型コロナクラスター「悲惨な状況」「誰も助けに来ない」

新型コロナウイルス感染者の急増で余裕がなくなっている神戸市の医療体制。GWから本格的に診療に参入し始めた在宅緩和ケア医は、高齢者住宅のクラスター対策にも関わらざるを得ない状況になっています。現状を聞きました。

新型コロナウイルスが蔓延し、医療に余裕がなくなっている。

緊急事態宣言を出している兵庫県の神戸市でも、感染者が増えてコロナ病床の使用率は96%となり、療養施設もいっぱいだ。行き場所がなくなった感染者を支えるために、在宅緩和ケア医も診療に乗り出している。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

感染者が増えて医療に余裕がなくなっている神戸市で、コロナ患者の診療も始めている新城拓也さん

高齢者住宅のクラスターにも対応している神戸市在住の緩和ケア医、しんじょう医院院長の新城拓也さんに現状を聞いた。

「誰かが助けに来るとは思わない方がいい」 高齢者住宅のクラスターにも対応

昨日から、高齢者施設で発生したクラスタ対策をしています。保健所に申し入れてもプロのクラスタ対策班が来て、現場を指揮してくれることもなく、誰が助けに来てくれることもありません。自分一人で現場の指揮を続けなくてはならないのです。どこへ行った。スーパーヒーローの正義の味方は。

Twitter: @shinjotakuya

普段は主に緩和ケアが必要ながん患者を診ている新城さんが5月9日朝、こんなツイートをしていた。在宅緩和ケア医師が高齢者施設でのクラスター対策の指揮をとるとはただ事ではない。すぐに取材を申し込んだ。

ゴールデンウイークと週末のはざまの5月7日夕方、新城さんは普段、訪問しているサービス付き高齢者向け住宅から「発熱者が出た」と連絡を受けた。

「この時はまだ検査せず、電話で手持ちの風邪薬を服用するように伝えて終わりにしてしまいました。まだことの重大さに気がついていなかったのです。症状が出ているのは1人だけでした。でもコロナが流行している時期ですし、気になって翌日往診して検査をしたら陽性でした」

他にも体調が悪い人を診ていくと、やはり熱が出ているもう1人の入所者も陽性。併設しているデイサービスへの通所者も含めて調べたところ、自宅から通っていたもう1人も発熱している。訪問して検査すると陽性だった。職員の中にも喉の痛みを訴える人がいる。

「デイサービス中の飲食が原因のようでした。3人ともすぐ保健所に報告しましたが、感染者が多くて、週末でもあり、すぐには動けないようでした」

高齢者住宅で3人の陽性者ーー。入所者ら133人が感染し、25人が死亡した市内の介護老人保健施設の惨事が頭をよぎる。

「対応が1日遅れるほど感染者が増えていくことはわかっています。もともと入居者25人のうち10人を受け持っていたので、感染対策の専門家が来てくれるまでは、まずは自分でできることをしようと思いました」

新城拓也さん提供

ウイルスがいる可能性のあるゾーンと、そうでないゾーンを分ける作業をした

すぐにウイルスがいる可能性のあるゾーンと、そうでないゾーンに分ける作業をした。個人用防護具の脱ぎ着の仕方を職員に教え、陽性者と接する時の注意点、食事での対策、マスクをせずに施設内を動き回る認知症の高齢者への対応などを次々に指示した。

「僕は感染対策が専門ではありませんが、市内で最も感染者を診ている神戸市立医療センター中央市民病院の緩和ケアチームでも週3回働いています。そこでの感染対策のやり方を、見よう見まねでこの施設にも応用しました」

「重症化しやすい年代の人たちが集団感染しているのに、隔離することもできず、施設を病院化するしかありません。そして、クラスター対策の専門チームが指導してくれるわけでもない。この状況は悲惨です」

施設に医療者は常駐していない。新城さんが訪ねる度に不安そうに次々に質問をしてくる施設職員に対して答えながら、こう声をかけた。

「誰かが助けに来るとは思わない方がいい。自分たちでがんばりましょう」

今年に入ってから後遺症対応 4月末から同僚も感染

昨年まではコロナ診療とはほとんど関係なく仕事をしていた。

「2020年末に1度、訪問していた末期がんの方が家族からうつされて対応したのが唯一の経験でした。週3回働きに行っている中央市民病院でも、コロナ患者の緩和ケアの相談はなく『自分たちが関わる病気ではないのかね』と話していたぐらいです」

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

新城さんが週3回働きにいっている中央市民病院でも後遺症が長引く患者を緩和ケアチームが診ることが増えた

ところが今年に入ってから様子が変わる。

「よくLong Covid(長引くコロナ感染症)と言われますが、コロナ専門病棟から出た後も後遺症に長く苦しむ人が増え、緩和ケアチームに依頼が来るようになりました。脳症の患者や人工呼吸器に長くつながる患者が増えてきたのです」

それも病院の中だけだったが、4月下旬になると、街中でもコロナ患者を診始めるようになった。

「まず訪問診療をしている同僚たちが感染するようになりました。訪問看護師や訪問リハビリをしている作業療法士が感染し、療養施設となっているホテルも入れない。ほとんど熱だけの軽症で、自分に診療の依頼が来るようになりました」

家庭の中で療養していると、家族にも感染することが多い。

「治療はもちろんですが、看病する人がおらず、ご飯の差し入れなどもしていました。ただ、この時期はまだ同僚の手助けをしている、という程度でした」

4月28日 保健所からGW中の対応要請

診療範囲がさらに広がったのは、4月28日に保健所から診療の依頼が来てからだ。

「ゴールデンウィークに患者を診られない病院が出てきます。先生は連休中動けますか?」

以前、神戸市医師会でコロナ対応ができるか尋ねるアンケートがあり、新城さんは「往診ならできます」と答えていた。その情報を受けて依頼してきたのだ。

「この頃になると、入院するレベルにない患者に対応する余裕がなくなっていました。療養施設もいっぱいで、自宅で療養する人が『解熱剤が欲しい』『持病の薬がなくなった』と求めても応えられない。そんな簡単な対応もできない状況になっていたのです」

新城さんは3月12日、4月6日にワクチンも接種済みだ。

「保健所と連携して診療するなんて初めてのことですが、やってみましょう」

引き受けたとたん、保健所からは毎日、患者診療の依頼が入ってきた。

「だいたい1日1人依頼が来て、往診に出かけていました。90代の高齢者夫婦、30〜40代の子どものいる親世代の人など、看病する家族も家庭内感染で全員感染していました」

新城拓也さん提供

マスクとフェイスシールドを使って高齢者住宅で対応する新城さん。陽性者を診察する時は、ガウン、二重の手袋、キャップなどフルの防護具をつける

「療養施設が不足していることもあるのですが、感染しても介護があるから、子どもの世話があるからと家を離れられない人ばかりです。最初にかかった人の治りかけにまた別の家族がかかるというパターンが多い」

元々、がん患者の訪問診療のために、ステロイドや咳止め、解熱剤、点滴は常備している。接触者を減らすためにも薬剤師や看護師は入れず、1人で薬を持参して診療した。

「軽症患者なので1人1回診たらあとは電話での診療で済む人ばかりです。医療に余裕がなくて診てもらえなかった人たちなので、医師が診てくれるというだけでほっとするようです。保健所は余裕がなく、電話で『1週間経つと熱が下がる人が多いです』などの一般的な声かけしかできないので、不安を相談できる人がいないのですね」

在宅緩和ケア医で情報交換スタート 「個人の努力では対処できない」

市中病院も施設内では対応できないとしてコロナ患者の訪問診療を始めている。在宅緩和ケア医も他人事ではない。神戸市、西宮市、尼崎市で作る在宅の緩和ケア医のグループは5日、新型コロナ診療に向けてのミーティングを初めて開いた。

「僕らも無関係ではいられない状況になっているから、みんなで頑張ろうと声を掛け合いました。在宅酸素の業者、訪問看護ステーション、薬局はどこなら対応できるか、それぞれどのように動くか、治療費の請求をどうするかなど、具体的な情報交換を始めています」

感染者がなかなか減らず、緊急事態宣言も延長される中、取材した9日の日曜日も新城さんは複数の感染者が出た高齢者住宅に診療に出かけた。

コロナ診療に関わることになった医師としては何を求めているのだろうか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「一番の問題は災害レベルの感染症の流行下で、医療行政が医療提供体制を適切にコントロールできていないことです。今は医療者個々人の努力に頼っている状況です。本来は自治体が適切に配分しなければならないと思います」

感染者が減らないことについて、市民の努力が足りないとは思わない。

「僕が診ている患者さんたちは、リスクを避ける方法はわかっていて、避ける努力もして、それでもかかった人ばかりです。飲みに行くなどハメを外した人だけが因果応報でかかる病気ではない。等しく誰でもかかり得る病気です」

「ここまで広がった状態では、『俺たちの仕事を増やすな』と市民の行動に注文をつけても意味はありません。しゃかりきになってワクチン接種を進めるか、医療の方がうまく対処するしかない」

軽症者を診ているといっても、新城さんがGW以降診ているコロナ患者8人中、1人は既に酸素吸入を始め、別の2人も間もなく酸素が必要になりそうだ。

「それでも入院させることはできません。重症化した時にどうするのか、我々もわからないまま診療を続けている状態です」

取材後の9日夜10時頃、週末も深夜まで働く保健所から「高齢者住宅で5月10日に全員のPCR検査をする」と連絡があった。

「検体採取は医師でないとできないので、25人の入所者全員は僕がやることになりました」

しばらくは休み返上でコロナ患者の往診に出かけることを覚悟している。

【新城拓也(しんじょう・たくや)】しんじょう医院院長

1971年、広島市生まれ。名古屋市育ち。1996年、名古屋市大医学部卒。社会保険神戸中央病院(現・JCHO神戸中央病院)緩和ケア病棟(ホスピス)で10年間勤務した後、2012年8月、緩和ケア専門の在宅診療クリニック「しんじょう医院」を開業。著書 『「がんと命の道しるべ」 余命宣告の向こう側 』(日本評論社)『超・開業力』(金原出版)など多数。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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