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水ぼうそうと同じ感染力? 感染爆発を招いているデルタ株にどこまで警戒を強めたらいいのか

感染力の高いデルタ株の蔓延で、病院が患者を受け入れられない状態が続いています。私たちはこの変異ウイルスにどれほど警戒を強めたらいいのか。感染管理の専門家、坂本史衣さんに聞きました。

全国で感染拡大が止まらない。

東京、沖縄に加え、埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県と大阪府に緊急事態宣言が出るほどまで感染者数を増やした大きな要因の一つが、変異ウイルス「デルタ株」の蔓延だ。東京でも8月半ば以降にほぼデルタ株に置き換わると見られる。

米国CDC(疾病管理予防センター)が「水ぼうそうと同程度」と指摘したとも伝えられるが、感染力が強く、重症化率も上げているこの変異ウイルスに対して、私たちはどれぐらい警戒感を強めたらいいのだろうか。

BuzzFeed Japan Medicalは、聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに聞いた。

※インタビューは8月2日に行い、その時点の情報に基づいている。

デルタ株の蔓延で受け入れられない患者が急増

ーーデルタ株への置き換わりが進み、医療現場ではどのような影響が出ているでしょうか?

まず、デルタ株というよりも、ワクチン接種が進んだ高齢者の入院はかなり減っています。検査が陽性の入院患者は40〜50代がメインになっていて、基礎疾患がある人もいれば、ない人もいます。20代や30代も入院してきています。

一方、病院で引き受けられるコロナ患者の数は決まっていて、感染者の数が増えているので、お断りをせざるを得ない患者も増えています。通常診療もやっているので、そこを止めない限りはコロナの患者の受け入れをこれ以上増やせません。

週末の救急からの報告を聞いていると、受け入れられなかった入院要請のうち、半分ぐらいがコロナ感染者となっています。最大限努力しても全ては受け入れられないし、他の病院もやはり厳しい状況です。

ワクチンの効果は出ていて、入院患者の多くは未接種者の割合が高い年齢層なのですが、その中で患者数が急増している様子をみると、デルタ株の感染力の強さがうかがえます。

陽性者の年齢層も変化しています。

区のPCR検査センターでも幼稚園や保育園に通うぐらいの年齢から大人まで、あらゆる年齢層で受診者が増えています。若い人は軽症なのでほとんど入院はしませんが、都の報告でも10代から10代未満の陽性者が増えています。未接種者が多い年齢層で感染の急拡大が起きています。

ーー医療の負担も増えていますか?

我々は限界を超えたらお断りせざるを得ません。

感染対策は1年半やってきていますから、淡々と受け入れて治療やケアをする。重症化したら集中治療室に移して、管が抜けたらコロナ病棟に戻し、元気になったら退院するなりリハビリ病院に移すなり、治療の流れはできています。

もちろん患者が増えたら負担は増えるのですが、そこを超えて阿鼻叫喚の世界にはなりません。

むしろ、感染者が増えて困るのは病院ではなく、受け入れてもらう病院がない人たちです。

搬送先を探すのに時間がかかる人が、コロナに限らず、熱中症、交通事故、脳卒中、心筋梗塞など緊急性が高いあらゆる病気で増え始めています。

大出血した妊婦さんや夏場に多い熱中症など、平時に来る救急ケースに加え、治療を要するコロナ患者が増えています。命に関わる人から受けてはいるのですが、どちらも受け切れなくなっています。

デルタ株は水ぼうそう並み?

ーーデルタ株はこれまでと違うウイルスのような対応になっているのでしょうか?

デルタ株が主流になりつつある今、ワクチン接種をした医療従事者が多いのは幸運です。医療現場でのクラスターが少ない のはそのおかげで、医療従事者と重症化しやすい高齢者を先行して接種したのは良い判断でした。

2回接種後に感染する「ブレイクスルー感染」も一部で起きているものの、それほど多いわけではありません。国立感染症研究所の調査で、6月末までの3ヶ月間で67人と報告されています。ただ、無症状の感染者も多いので、実際にどれぐらいブレイクスルー感染が起きているかは明らかにしづらいところがあります。

デルタ株はブレイクスルー感染の場合もウイルス量が多いという話もあり、感染すればもちろん同じように休んでもらうし、仮に濃厚接触してもブレイクスルー感染の可能性があるため、勤務は慎重に判断することになります。

ーーCDCがデルタ株の感染力は「水ぼうそう並み」と発信したことが話題になりましたね。この発信をどう捉えましたか?

デルタ株感染者のウイルス量は従来株の1000倍以上という査読前の論文 が出ており、周囲に飛散するウイルス量が多いことが、一人の感染者からより多くの人に感染させやすい理由の一つと考えられています。

ーーCDCの「水ぼうそう並み」という発信をどう評価していますか?

何をベースにどう計算したかは読み込めていないのですが、CDCの資料を見ると、デルタ株で1人が感染させる基本再生産数は5〜9人ぐらいと幅を持たせた評価になっています。その範囲の中に「水ぼうそう」も入っているので、そう言ったのだと思います。

おたふくも基本再生産数は4〜14人という推計値があるので、捉え方によっては「おたふく風邪と一緒」とも言えなくはない。

ーー西浦先生は「風しん並み」と評価しています。

風しんも基本再生産数は6〜7という推定値がありますから、この幅の中に入りますね。CDCの資料ではデルタ株の基本再生産数にかなり幅を持たせているので、ここに入っていれば同じぐらいと言えるといえば言える。

CDCは屋内でのマスク着用推奨を復活させるにあたり、一般の人にその必要性を理解してもらうこともかねて、「水ぼうそう並み」と、アメリカ人がよく知っている、感染力の強い感染症の名前をあげたのかもしれません。

デルタ株の感染力が強いのは間違いないのですが、それをどう表現するかの問題です。水ぼうそうは、すれ違っても感染して、保育園で1人感染者が出たら保育園中に広がるような感染症です。

しかしデルタ株がそんな感じで広がっているかと言えば微妙です。

もしそうならば、満員電車で通勤している人たちに爆発的に感染が広がらないのはおかしい。陽性者によくよく行動を聞いてみると、すれ違っただけではないリスク行動をとっているものです。昼間に連れ立ってランチに行っていますし、職場などでマスクを外して話もしています。

感染経路がこれまでとガラリと変わったというわけではないと思います。

同僚と静かな声でランチでも感染 「濃厚接触者」の定義も変わる?

ーーとは言え、従来株やアルファ株と比べて感染力は上がっていますね。

そうですね。実際にウイルス量は従来株の1000倍以上、感染してから陽性になるまでの期間は2日ぐらい短いという査読前論文もあります。進行が速いという声は臨床現場からも聞こえています。

またウイルスを排出する期間が長くなっているのではないかとも言われています。

要するに全般的にうつりやすい、うつしやすい条件を備えてきている。かつ重症化もさせやすいし、死亡リスクも高いという報告がカナダシンガポールから出てきています。厄介な変異ウイルスが出てきたなという印象です。

ワクチンを受けていない人ほど分が悪くて、やられてしまうウイルスです。

今まではちょっとマスクを外すなど隙ができても、やられる可能性は低かった。でもデルタはちょっとした隙をついて感染させる効率的なウイルスになっています。

ーー従来株からの感染力のパワーアップをわかりやすく伝えるとすると、どれぐらいの行為で感染するウイルスになっているのでしょう。

例えば、無症状の時期の感染者を含むお友達2〜3人でランチに行って、大騒ぎするわけでもなく普通の声で話して感染している人がいます。または職場でマスクを外して少し話をするとか、それぐらいでも感染しています。

こうした飛沫を浴びたり吸ったりするチャンスが生じる行為は、これまでも何度もやってきて、無事だったかもしれません。しかし今は同じ行為でも感染のしやすさがうんと上がっているのです。

ーーこれまでの濃厚接触者の定義は、「1m以内の距離で、 必要な感染予防策なしで患者と15 分以上の接触があった人」ということでした。デルタ株ではこの定義は甘いのではないですか?

デルタ株では「15分以上」は長過ぎるかもしれません。その時の声の大きさや距離の近さなど状況にもよるかもしれませんが、デルタ株の場合は15分以内なら感染するリスクが低いとは考えにくいです。

実家の祖父母だけが接種、双方とも接種の場合の帰省は危険?

ーーとなると、デルタ株ではこれまでよりももっと警戒感を上げなくてはならないのではないでしょうか?

でも、やらなくてはいけないことは同じです。コロナが流行し始めてから1年半も経っていて、コロナ疲れも限界に達していますね。

ですから、「今までとは別の新しい対策」というよりは、「今までやらなければいけなかったけれども、そろそろ嫌になって止めてしまっている対策」を徹底した方がいい。その中でも特にリスクの高い行為について、「今は止めておこう」と呼びかける方がいいのではないでしょうか。

例えば、一緒に住んでいない人と一緒にご飯を食べにいくとか、帰省するのを止めておく。やれば効果があるけれど止めてしまっている対策を復活させましょうという段階だと思います。

ーーこれからお盆のシーズンになりますが、「田舎のおじいさん、おばあさんが2回接種したから今年こそは帰省しようか」と考えている人も多いと思います。これもデルタ株が流行している今は止めてほしいということですか?

どこまでのリスクを取るかということだと思います。例えば東京では無症状の感染者もいると思いますから、実際の感染者の数はもっと多いはずです。特にワクチンの未接種者なら、感染して帰省する可能性はいまだかつてなく高いです。

家を出た時は元気でも実家に着いた時は具合が悪くなる恐れもあります。接種済みのおじいさん、おばあさんにブレイクスルー感染が起きたとして、2人は具合が悪くなっても死ぬリスクはかなり低い。それを良しとするかです。

また、自分が具合が悪くなったとして、その地域で診てくれる病院があるかどうかも重要です。

さらに地元の友人や親戚と会った場合、その人から地域に感染が広がる恐れもあります。

だから今は特に未接種ならば、帰省するのは止めた方がいいです。

ーー双方が接種済みの場合はどうですか?

ひっそり帰って、実家内だけで行動が完結するならばリスクは低いかもしれませんが、そこから地域に広がるリスクはもちろんゼロではありません。

ーー忽那賢志先生は双方がワクチンを2回接種した場合でも、一緒に食事をすることは避けてとインタビューで注意喚起しています。この意見についてはどう思いますか?

おそらくブレイクスルー感染を懸念されているのだと思います。ブレイクスルー感染の場合もウイルス量は多いとCDCは指摘しています。「接種済みだけど感染していた」場合、その人を起点に周りに広がるから止めておいた方がいいという意味かと思います。

接種組の中で行動が完結すればリスクは低く、当事者は軽症になると思いますが、そこを起点に地域に広がってはまずい。医療キャパシティの小さな地域でブレイクスルー感染したおじいさん、おばあさんから感染が拡大してしまったらどうするのかということだと思います。

ワクチン接種、順番が来たらすぐにうって

ーーワクチン接種を済ませても、これだけ流行していたらなかなか行動は自由にならないということですね。それでも個人の健康を守る意味で、やはりワクチンはうった方がいいですね。

絶対にうった方がいいです! ブレイクスルー感染の可能性があるとはいえ、デルタ株であっても予防接種によって感染するリスクはかなり低くなりますし、重症化や死亡のリスクはさらに下がります。

ワクチンは自分のことも守ってくれるし、自分が感染者になって感染力の強いウイルスを周りにばらまくリスクも下げることになります。

今は周りに感染者が多いので慎重な行動を取らざるを得ないですが、周りの感染者が減ってくれば、感染者に遭遇する機会も減り、ブレイクスルー感染の確率も下がります。

今はかつてない大爆発なので、最大限に注意して自分が感染しない、人にうつさないことが自分と家族にとって大事なことです。

若者にとってのデルタ株のリスク

ーー今は若い人が繁華街に行って感染する事例が増えています。デルタ株は若い人に対しても感染力が強いですね。

入院している人の中心は40〜50代でも、感染者全体を見ると、20代、30代が多いです。中高生や大学生も多い。いろいろな人と会ってアクティブに活動し、密接して長時間過ごすことが多い年代はうつりやすいです。園児もいます。

確かに若い人は重症化しないことが多い。ただ、感染者が増えれば、重症化する若い人も出てきます。先日も基礎疾患のない30代の患者が亡くなりました。10代未満で人工呼吸器をつける患者もいます。

「当たり」を引いてしまうのが自分かもしれないと考えてほしいのです。

さらに若い人にも後遺症はあります。嗅覚や味覚異常でご飯が美味しくなくなる人もいれば、だるさや息切れが続いて部活動ができなくなる人、頭がぼんやりして勉強に集中できなくなる人もいます。若いのに脱毛がある人もいます。それが半年以上など、結構長い期間続く。避けられるなら避けた方がいいことです。

周りにそういう人がいなかったり、軽症だった人がいる場合は、「感染しても平気じゃん」と思ってしまうのは当然でしょう。

一人暮らしの人も多いですから、一人きりで1年以上過ごしているのは相当つらいのも確かでしょう。

彼らに「人と会うのは止めなさい」というのは難しいです。それでも感染したら、それなりにつらい経験をする可能性を誰もが持っています。

インセンティブ、インフルエンサーの呼びかけ…若者にワクチン接種してもらうには?

ーーリスクを強く感じていない若者への対策は何が考えられますか?

まずは、若い世代にも早くワクチン接種の機会を提供することが必要です。「自分の身を守るため」という目的でうつ若者は少数派かもしれません。むしろ社会のためにうってもらう意味の方が大きいと思います。

だから接種したくなるようなインセンティブを用意することは必要なのでしょう。インセンティブを設けて受けてもらえる証拠があるわけではないですが、それでも何かしらあった方がいい。

もう一つは普段出かけている先で気軽に接種できるような体制が整うといいと思います。献血と同じように、「受けようかな」と思い立った時に簡単に接種できる体制がないと、やっぱりいいかな、と思うかもしれません。

ーー東京都は若い世代への接種促進策として、繁華街などで予約なしで接種できる仕組みを検討しているようですね。

渋谷や池袋など若者の多い街や普段使う駅の近くでサクッと受けられる、ついでに何かもらえる仕組みがあるといいですね。

さらに、ワクチンを受けるかどうかは理屈の問題ではなくなってきていると感じています。

例えば、大学生に「こびナビがとてもいい資料を作っているから見てください」とか「厚労省のQ&Aはわかりやすいよ」と呼びかけても、「もうそういうのはいいんで」と言われてしまうことがある。「こいつ洗脳しようとしているな」と予防線を貼られているのかもしれません。

そういう匂いを感じ取った段階で拒否感を示す若者がいます。

理屈や資料は揃ってきています。それを活用している若者も大勢いるし、理屈が大事なことは間違いない。でも、理屈はあまり関係ない若者たちも一定数います。

その人たちは何があれば受けてくれるのか。

「周りの友達が受けている」とか、自分がフォローしているインフルエンサーが接種しているとか、そういう理屈抜きの連帯感のようなもので、接種の良さが伝わることも大事なのだろうと思います。

BTSなどを中高生が見ていますが、彼らのような人気者が「ワクチン接種しよう」とキャンペーンをしてくれないかなと期待しています。そういう姿を見て、「自分もうとう」と思った時にサッと接種できるようなシステムが同時に走っているといいなと思います。

ーー専門家の先生たちがワクチンのメリットを話すのも大事でしょうけれども、それだけでは足りないと思われるのですね。

それも大事なのですが、やはり若者にとっては専門家は権威なのですね。呼びかけも、語尾が「〜してください」になりがちです。お願いしているようで、やはりそこには圧があって、上から降ってくる言葉です。横から流れてくる言葉ではない。

「やろうよ。やろうよ!」というノリや雰囲気は大事だなと思います。

ワクチン接種義務化、ロックダウン法制化、どうするか?

ーー海外ではどうしているのですかね。

海外は今、義務化に走っています。接種しないと大学に来させないとか、公務員や医療従事者に接種の義務づけを始めています。フランスやアメリカがそれを始めたのは衝撃的です。

カリフォルニアのように自主独立を重んじる地域や、フランスのように超個人主義の国が義務化をやり出したのは、デルタ株が広がってよほど打つ手が減っているのだろうと推測します。

経済活動を再開したり、学校を開いたりするために、ワクチン接種率を上げることは外せません。義務化をしていくことに道を見いだしているのだろうと思います。

日本の文化にそれは合いづらいような気もしますが、感染した場合に重症化するリスクが高い人が集まる医療現場などでは、議論が進むかもしれません。他業種は分かりませんが、接種率が高い組織と低い組織では、事業継続計画の内容も、継続の容易さもかわって来ることは確かだと思います。

ーー専門家からもロックダウンできるような法整備を議論した方がいいと言い始めました。お願いベースだけではもう無理という意見が強まっています。

最終手段としてはあってもいいのかなと思います。あらゆる手を打ってもどうしても抑え込めない場合や、致死率や感染力の高いウイルスによる別の大流行が将来発生した場合など、強制力をもって人の動きを止めなければ国民の健康被害が大きくなる可能性があります。

その時に何の打つ手もないのは怖いので、その強制力をバンバン使うわけではなく、選択肢を持っておくことは必要なのではないでしょうか。

ダラダラ緊急事態宣言を続けて効果が薄れていることを考えると、強制力のある措置を短期間打つことで、経済的、精神的な痛みを最小限にしながら、感染を抑制する効果が得られる可能性もあります。

この国のトップはコロナを忘れたのか?

ーー昨日の日曜討論でも、田村憲久厚労相の前で「国が医療現場と一体で頑張ってくれているという感覚がない」とおっしゃったそうですね。デルタ株と戦う今、政府に注文したいことは何ですか?

(番組では)失望したという表現を使ったのですが、政府からのメッセージの少なさや内容に失望を感じています。


オリンピックをうまく終えたいという政府の意向は強く感じています。


感染状況が落ち着いているならわかるのですが、指数関数的増加が目に見えてきて、医療現場でも救急搬送を断らざるを得なくなっている緊迫感が強い状況で、菅義偉首相のTwitterは相変わらず「金メダルおめでとうございます!」ばかりです。

世界自然遺産の登録おめでとうというメッセージも出しましたね。でも新型コロナ感染拡大に対するメッセージはなかなか出てこない。

新型コロナの感染拡大には関心がないのだ、と思わざるを得ませんでした。

記者会見もなかなかしませんでした。とうとう開いた記者会見でも、現状や改善策として何を言いたいのかがよく伝わりません。

オリンピック開催中でもメッセージの出しようはあり、「医療の提供体制が厳しくなっているから、感染対策を最大限やってほしい」と呼びかけるなどができたはずです。でも全くありませんでした。

失望しました。「お前らだけで頑張れ」と言われているような気持ちになりました。

どんなアクションを起こすべきか トップは明確なメッセージを

院内で集中治療室を見にいくと、40〜50代の男性が多いです。管が入り、意識がない彼らは、誰かのお父さんであったり、息子であったりする。働き盛りの人たちということもあり、回復してもらえるよう、医師や看護師らが暑い中で防護具をいっぱい着込んで治療しています。

そういう患者が増え、救急車の出入りも増え、受け入れられない人も増えている。外来には熱を出した人がいっぱいいる。

病院の中はそんな感じなのに、テレビをつけるとオリンピックで盛り上がっている。この国にはいま、二つの違う世界が存在しています。

会社員は連れ立ってご飯を食べに行き、その横を救急車が走る。

悪気があるわけではない。でも、こうした無防備な人たちへのメッセージはどうなっているのか。この国で暮らしている人たちが医療を受けられないしわ寄せがもうきているのです。そこを政府はどう考えているのかがとても見えにくい。

金メダルを喜んでいるのはすごくよく伝わります。でもコロナのことを忘れていないという強いメッセージがほしい。医療従事者のためではなく、この国に住む人のために医療を守るのは国の責任です。五輪を終わらせること以上に大事な責務です。

そこをどう考えているのか示してほしい。具体的にデルタ株によって今どういう状況になっており、何が予測され、それを防ぐためにどういうアクションを起こしてほしいのか。小さい組織でも危機的になれば社長は社員にメッセージを出すと思います。

国の親分もそれを言わなければいけません。

【坂本史衣(さかもと・ふみえ)】聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー


聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒、米コロンビア大公衆衛生大学院修了。Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に『感染対策40の鉄則』(医学書院)、『基礎から学ぶ医療関連感染対策』(南江堂)など。