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Updated on 2020年9月24日. Posted on 2020年2月26日

新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました

新型コロナウイルス、不安でたまらないのに医療機関に行っても検査をしてくれない、という不満の声が聞かれます。なぜ医師は検査をしてくれないのか、そもそもその検査に意味はあるのか、感染対策のプロに一からじっくり尋ねてみました。

新型コロナウイルス(COVID-19) 、不安でたまらないのに医療機関に行っても検査をしてくれないという不満の声があちこちから聞こえてきます。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

スカイプでインタビューに答える坂本史衣さん

なぜ医師は検査をしてくれないのか、そもそもその検査に意味はあるのか、感染対策のプロである聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに一から教えていただきました。

※インタビューは25日から26日午前にかけてメールとスカイプを使って行い、その時点の情報に基づいています。

そもそもどんな検査なの?

ーー新型コロナウイルスが流行し始めてから、「PCR検査」という言葉をよく耳にするようになりました。どんな検査か教えていただけますか?

患者さんから採取した検体(鼻やのどを綿棒で拭った液)のなかに新型コロナウイルスの遺伝子があることを、遺伝子を増幅させることで確認する検査です。

ーーどこで検査しているのですか?

厚生労働省によれば「これまで、国立感染症研究所や検疫所だけでなく、地方衛生研究所、民間検査会社や大学などの協力を得ながら、令和2年2月18日時点で1日3,000件を上回る検査体制を維持・獲得してきました」となっています。

大学病院など設備が整っているところは病院で検査が可能ですが、全ての病院で検査ができるようになっているわけではありません。民間の検査会社も厚労省からの依頼で検査を受けつけているので、病院から直接依頼はできません。

ーー結果が出るまでどれぐらい時間がかかると言われているのでしょうか?


現在病院でPCR検査を行うことはできないので、医師が検査が必要と判断したら、保健所に書面と電話で依頼し、必要と認められれば保健所が病院に検体を取りに来て、検査センターまで運び、そこから検査が始まることになります。


現在活用されている「リアルタイム RT-PCR」という方法では、検査自体は5~6時間かかります。

Getty Images

PCR検査には時間も人手も手間もかかる

検査自体の所要時間は約5時間ですが、検体の受け取りから結果の報告までにそれ以上の時間がかかるため、当日中に結果が出ることは稀です。

結果の判明について厚労省は「結果が判明するまでの期間は状況によりますが、1日から数日かかります。」と言っています。その通りであると思います。

また、一度に多数の検体が検査センターに搬入されると待ち時間がさらに長くなり、結果報告までに2日ほどかかることもあります。そのため、検査をすることになった患者さんの多くは、軽症でも入院を必要とすることになります。

ーー検査は高額と言われていますが、どれぐらいかかるものなのでしょうか?

行政検査として行う場合に患者さんや病院への費用負担は生じません。実際に人件費や材料費を合わせてどの程度の費用がかかっているのかは明らかにされていません。

検査の精度はどれぐらいなの?

ーー検査の精度はどれぐらいだと考えたらいいのでしょうか?

検査の有用性を評価する指標に、「感度」「特異度」「的中率」があります。

感度とは、その検査が、陽性の人を正しく陽性と判定できる確率です。新型コロナウイルスによる感染症 (COVID-19)を引き起こすウイルスである「SARS-CoV-2」のPCR検査の感度は、30~50%70%だという報告がありますが、いずれにしても100%ではありません。

感度は様々な条件にも左右されます。

例えば、新型コロナウイルス は、感染者のウイルス量がインフルエンザの100分の1~1000分の1と言われており、そもそも検出されにくいと考えられています。

また、のどから採取した検体より、鼻から採取した検体の方がウイルス量が多く、検出率が高くなることが考えられているのですが、この方法が必ずしも用いられるとは限りません。

というのは、鼻の穴に綿棒をいれると、くしゃみなどで飛沫にさらされるリスクが高いのでためらう医療者もいるのです。国内ではのどをぬぐった液が使われることが多いと言われており、鼻に比べて感度が下がることが考えられます。

特異度とは陰性の人を正しく陰性と判定する確率で、検査は感度、特異度はトレードオフの関係にあります。

「陽性的中率」というのは検査が仮に陽性だった場合に、どのくらいその結果が正しいか(=本当にCOVID-19にかかっているのか)を示す確率です。

風邪のような症状を訴えても、COVID-19にかかっている可能性が現在のようにとても低い(=集団の中での有病率が低い)状況で検査をすると、COVID-19にかかっていないのに検査結果が陽性と出る人の絶対数も多くなることになります。

すると、陽性という結果が出た人の中で、本当に感染している人の割合である陽性的中率もかなり下がります。よって、本当はCOVID-19ではないのに陽性の検査結果が出てくる可能性も高くなります。

ーーまとめると、せっかく検査をしても、あまり精度は高くないから、その結果を100%信じるわけにはいかない検査ということになりますね。

すべての感染例を拾うことには限界がある検査です。また、陽性の結果が得られても、そもそも日本国内の有病率(事前確率)が低いので、陽性的中率は低いと考えられます。

検査で陽性ならどうなるの?

ーー現状では、この検査は何のために行われるものだと捉えたらいいですか?

COVID-19であることが臨床的に強く疑われる患者の確定診断のために実施します。

ーー検査の結果が陽性の場合、次にどんな対応が取られますか?

「指定感染症」となっていますので、感染症法に基づいて入院せねばならなくなります。その代り医療費は公費負担となります。

ーー無症状の場合でも入院することになるのですか?
現行の制度では無症状の場合でも、軽症でも検査で陽性になれば感染症法に基づいて入院措置になります。

ただし、2月25日に政府が発表した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」によれば、今後は風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養が原則となるようです。

Davidf / Getty Images

現状では、無症状で元気でも検査で陽性が出れば入院しなくてはならなくなる

ーー無症状の人は入院していつまで何をするのですか?

厚労省の通知によれば、陽性が確認されてから48時間後にPCR検査を12時間間隔で行い、どちらも陰性なら退院できます。陽性となったら再度48時間まってやり直しになるので、かなり元気な状態でも病院に閉じ込められることになります。

検査の意味は変化しているの?

ーー治療法がない中で、それでも検査をする目的を教えてください。

これまでは海外の流行地域への渡航歴や滞在歴のある人や、感染者との接触者を中心に検査を実施して来ましたが、その目的は封じ込めでした。国内でヒトからヒトに広がらないようにするために、陽性者を洗い出して入院させて、初期の段階で芽を摘んでしまおうという考え方だったのです。

しかし、現在はあきらかな渡航歴や滞在歴、患者との接触歴のない感染者が発生しており、検査の目的が「封じ込め」から重症化しそうな患者(あるいはすでに重症な患者)を早く見つけて死なせないことに変わってきています。

COVID-19の患者だということが分かった段階で、試すことが可能な治療法について検討し、経過を予測しながら、重症度に応じて輸液や酸素療法、血圧を上げる薬などをつかって生命を維持できるようにサポートします。

軽症な方は殆ど何もしないで治っていきます。

ーー現状で、無症状の人、軽症の人に検査をやる意味は薄いとされていますね。検査の目的が変化しているからですね。

封じ込めを試みていた段階が終わりに近づいていますし、陽性と分かっても治療法(=できること)がないからです。今は資材や医療スタッフ、時間などの限りある医療資源を重症者のために優先的に使う必要があります。

今後は病院でも検査ができるように準備が整えられていますが、すべての病院で実施できるようになるわけではありません。

このような中で無症状あるいは軽症な方にまで検査を拡大すると、重症な患者さんの検査が後回しになる恐れが生じます。

また検査のための手続きに時間を取られ、重症な患者さんの治療に割く時間が減ってしまうことに繋がります。

ーー医療スタッフの疲弊にもつながりますね。

ウイルス感染症の検査と聞くと、インフルエンザの迅速検査のように鼻に綿棒を入れて、30分程度で結果が出てくるような簡便なものを想像する方が多いかもしれません。

しかし、SARS-CoV-2のPCR検査を行うには、書類の準備や保健所との調整、結果が出るまでの長い待機時間の間に行われる比較的厳重な感染対策のためにかなりの労力を要します。対応する保健所や検査センターの職員も同じだと思います。

広まる陰謀論「日本で検査が少ないのは政府が感染者数を少なく見せたいからだ」

ーー「韓国に比べて検査数が少ないのは日本政府が感染者を少なく見せたいからだ」というような陰謀論が広まっています。これについてはどうお考えですか?

現場で感じているのは、検査のキャパシティーを増やしているという割には、重症で本当に検査が必要な人がすぐに検査できない状況があるのは確かだと思います。

それは検査センターも手一杯で、検体を出したいと言ってもなかなか受け入れられない実情があるからだと思います。ですが、やはり必要な患者さんには速やかに検査ができる体制を一刻も早く整えることは大事だと思います。

ただ、それは軽症の人も含めて全部検査しろということではありません。国ごとに段階や医療体制が異なるので何が適正な検査数なのかを考えるのは難しいです。

韓国は新興宗教団体を中心に短期間で爆発的に広がったという特殊な状況があり、今は接触歴を追いながら封じ込めるために検査数が増えていると考えられます。

韓国のCDC(疾病管理予防センター)のウェブサイトでは、誰から感染したかという接触歴が書かれていますから、感染者が多数出ていたとしても、接触歴はまだある程度追える段階なのだろうと想像しています。

一方、日本では、誰から感染したかがわかりづらくなっている段階です。無症状の人や軽症の人まで韓国並みに検査するのは、意義が少なくなっているのです。検査が必要な人が誰なのか、状況が違うということです。

適正な医療とは何なのかということを考えて、今の段階で無症状の人を捕まえて、感度がそれほど高くない検査を行えば、あてにならない結果がどんどん出てきます。

感染した人を全員知りたいのですか?と考えた時に、そのデータを知って有益なのかという問いに答える必要もあります。無限に資源があるならやってもいいと思います。もはやそれは研究となりますが。

SNSでは「サンプリングをしても現状を把握した方がいい」という意見が流れてくるのですが、今は医療機関にも検査機関にもそんな余裕はありません。限られた資源をどうしたら有効活用できるか考えた時に、8割は軽症で済む病気だということをまず押さえないといけません。

この病気で今一番力を入れるべきは、高齢者や持病を持っている人が重症化して亡くなってしまう可能性を限りなくゼロに近づけることです。限られた医療資源をそこに振り向けなくてはなりません。

安易に検査を広げることは、そこに注げる資源を減らし、かえって国民にとってマイナスになるかもしれません。

では私たちはどのように行動したらいいのか?

ーー検査を受けられないと不安を抱いている人は、ただの風邪なのか新型コロナウイルスなのか自分で見分けられず、悪化する心配があるからでしょうね。自宅で様子をみることに危険はないですか?

ただの風邪なのか、COVID-19なのかは病院で診察を受けても見分けることが困難です。検査をしても確実に診断ができるとは限らず、仮に感染していたとしても治療の方法はありません。

時事通信

東京・銀座をマスクをして歩く人たち。検査ができないことに不安を抱く人も多いが、検査をしても意味がないことも多い

心配かもしれませんが、知っておいていただきたいのは、感染者の80%は軽症で、1週間ほど風邪のような症状が続いて治ってしまうということです。また、お子さんはなぜか感染者も重症者も非常に少ないですし、妊婦さんも今のところ重症化しやすいという報告は出ていません。

重症化する危険があるハイリスクな人は、だいたい50歳より上の方や持病のある方ですが、COVID-19の進行は比較的緩やかですので、風邪症状が出たら慌てずに休養し、症状を注意深く見守ってください。

ーー一般の人はどのような症状がどれぐらい続いた時に、受診や検査を考えたらよろしいですか?

厚労省が受診の目安を公表しています。

厚生労働省

厚労省が公表している相談・受診の目安

大切なのは体調が悪いな、と思ったらまずは無理せずに休むこと。そして、37.5℃以上の発熱が4日(高齢者や持病のある方は2日)以上続く場合や、息苦しさが出てきたら、まずは帰国者・接触者相談センターに相談してください。それが医療機関をパンクさせないためにも重要です。

ハイリスクの方と同居されている方に風邪症状が見られたら、こまめな手洗いと咳エチケットを行います。

また、ハイリスクの方とはなるべく(目安としては手が届かないくらいの距離まで)離れて過ごします。家は時々窓を開けるなどして換気を行い、ドアノブなどの手でよく触るところを家庭用洗浄剤やアルコールなどで時々拭くと良いでしょう。

ーー全国的な流行はもう阻止できないところまで来ているのでしょうか。

現在国内では一部の地域で感染者の集積(クラスター)が発生している状況で、全国に感染者が広がっているわけではありません。政府は、全国的な流行の拡大を食い止めるには、この1~2週間が踏ん張り時だと言っています。

私たちにできることとして、家に帰ったらすぐに手を洗うこと、咳エチケットをすること、なるべく人込みに行かないこと、具合が悪かったら休むことなどがあります。このようなちょっとした行動の変化がヒトからヒトへの伝播を防ぐことにつながります。まだ希望を捨てる段階ではありません。

【坂本史衣(さかもと・ふみえ)】聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー


聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒、米コロンビア大公衆衛生大学院修了。Certification Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に『感染対策40の鉄則』(医学書院)、『基礎から学ぶ医療関連感染対策』(南江堂)など。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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