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専門家解説 新型コロナ対策、イソジンなどのうがい薬に飛びつくべきでないのはなぜ?

大阪府知事が新型コロナ対策としてイソジンなどのうがい薬を使用することを呼びかけたことは何が問題なのでしょうか? 薬剤師に解説していただきました。

大阪府の吉村洋文知事が、殺菌効果のあるポビドンヨードが含まれたうがい薬で新型コロナウイルスへの感染が少しでも抑えることが期待できると使用を呼びかける記者会見をし、医療関係者から批判を浴びている問題。

知事の呼びかけの何が問題だったのだろうか?

BuzzFeed Japan Medical は、薬剤師の児島悠史さんに取材して検証した。

水ではなくて、あえて「うがい薬」の意義が不明

薬剤師の児島さんは、会見後、お客さんからの問い合わせが増えたという。

会見の内容を見る限りでの新型コロナウイルスへの効果に対する判断はこうだ。

「会見で発表されたのは、療養者が『ポビドンヨード』でうがいをすると唾液PCR検査の陽性頻度が下がる、というものでした。ただ、これだけではうがい薬に色々な効果があるとは、まだ言えないと思います」

大阪府健康医療総務課の担当者によると、吉村知事が会見で示した研究は、ポビドンヨードを含むうがい薬でうがいをした人と、何もうがいをしていない人で比較している。

これについて児島さんはこう指摘する。

「たとえば、『薬でうがい』と『水でうがい』で比較していないので、『水ではなく敢えて薬を使う意義』がわからない状態です。もし『水よりも優れる』ことが示唆されたのであれば、府の資料にあるような『他人に感染させるリスクの高い状況にある人』が、うがい薬を一時的な感染リスク抑制に役立てる、といった上手な使い方はできるのかもしれません

結果の解釈が過大

通常の風邪の予防策としてはうがいの有効性は認められつつも、水道水によるうがいの方がポビドンヨードを含むうがい薬よりも発症を抑えられたという京都大学の有名な研究論文もある。

「ただ他に、実は特定の条件下では効果を示唆する報告もあったりするので、まだよくわからないというのが正直な感想です。1つの研究結果だけで『絶対に無意味!』と言い切るのもなんだかなぁ...くらいの印象です」

「もし唾液中のウイルスが減ったとして、それが実際に『感染力抑制』にどの程度役立つかもわからない状態ですし、この結果だけで『感染予防』や『重症化抑制』につながるとは、可能性はあってもまだまだ断言はできないと思います」

そもそも今回の研究は、既に新型コロナウイルスに感染している宿泊療養者を対象にしたものだ。

だが、ドラッグストアにうがい薬を買いに走った人たちは、自分たちが感染者であると思って行動したとは思えない。

「今回の発表を多くの人が『うがい薬があれば自分の感染を防げる、治療できる』と勘違いしているのも気になります」

メディアの報道も一般の人の誤解を招く後押しをした。

「テレビのテロップでは『コロナ治療』『効果期待の薬』といった、微妙に違う表記がされていました」

「それを見て誤解した視聴者が、おそらく本来の意味ではなく、『ポビドンヨードのうがい薬でうがいをすれば、自分が感染・重症化しない』と勘違いし、うがい薬を一気に買い求めに来たのだと思います」

「我々医療現場の人間は、昼間にテレビを観ていないので、問い合わせや買い求める人が殺到することがが目の前で起きました。でも、人によって言っていることが違うし、『うがい薬を飲む』と言い出しそうな勢いの人もいたので戸惑いました」

そもそも一般的な感染症の予防策として、うがいはそれほど優先順位は高くない。

「流水と石けんでの手洗いが最優先で、洗面所でまだ余力があれば水道水でうがいをしても良いかもしれない...くらいの認識です。うがいに気をとられて手洗いが疎かになるくらいなら、やらなくて良いと思います 」

ヨード使用には副作用も

さらに児島さんは、コロナ予防に気を取られて、甲状腺機能に異常がある人や妊婦が使った場合の副作用も心配する。

「長期連用による甲状腺に対する悪影響、妊婦に対するリスク等も含めると、安易に推奨するのは、危険だと思います」

ヨード(ヨウ素)は甲状腺ホルモンの主原料だ。

「しかし、過剰に摂取して血液中のヨウ素が通常よりも多くなると、甲状腺ホルモンを作る働きにブレーキがかかります。その結果、甲状腺の機能が弱まって甲状腺機能低下症の症状が現れることがあります」

実際に、『ポビドンヨードのうがい薬』を何年も常用していた人が、ヨウ素誘発性の甲状腺機能低下症を起こした症例もある。

「もともと甲状腺疾患を抱える人では、こうした影響が体調不良としても現れやすいため、避けた方が無難です。疾患を抱えていない人でも、『たかがうがい薬、副作用リスクなど無い』みたいな油断は危険です。まして、うがい薬を『飲む』ような過剰摂取に繋がる不適切使用はやめてほしいです」

さらに、妊婦は胎児への悪影響を避けるため、ヨードの摂取量は制限されている。

「『ポビドンヨード』は胎盤をわりと簡単に通過するため、たとえうがい薬であっても注意が必要とされています(※1)。妊娠中の1日の耐用上限量は1日2mgとされています(※2)が、うがい薬を飲んだりすると簡単に超えてしまうため注意が必要です」

「特に、市販のうがい薬の中には、喉に吹きつけてそのまま飲み込むタイプ(例:のどぬーるスプレーB)」のものもあります。こうした商品では3~4回の噴霧使用でこの耐用上限量を超える恐れがあります」

※1.南山堂 「薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳(第2版)」(2014)

※2.厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」

ただし、今回、既にうがい薬を使ってしまって不安に陥っている人がいるであろうことも児島さんは心配する。

「絶対にダメ、みたいな強い語気の論調が『1回でも使えば100%即アウト』みたいな誤解を既に招いているので、そこも気掛かりです。もし運よくうがい薬を買えて、1回か2回くらいうがいをしてしまっていたとしても、それですぐに明らかなリスクになるわけではないので気に病む必要はないと思います」

「それ以外の方も、まだ明確な効果が示されたとは言えないので、慌てて買いに行く必要もありませんし、買えなくても不安に感じる必要もありません」

一般人の転売は薬機法違反

この騒ぎを受けて、ドラッグストアでは買い占めが起きて店頭からうがい薬が消え、メルカリなどのフリマアプリで高額で転売される事態も起きている。

うがい薬は、日常生活に支障をきたすほどではないが、不調を起こす恐れもある第3類医薬品として分類されている。

医薬品医療機器等法(薬機法)では、医薬品の販売業の許可を受けた者以外が販売することを禁じており、転売は同法違反になる恐れがある。

これについても児島さんはこう話す。

「許可なく医薬品をフリーマケットサイト等で販売するのは、たとえ1回だけであっても、医薬品医療機器等法第24条に違反します。また、こうした違法転売物を使用していた場合、もし大きな副作用が起きても救済制度の対象外となってしまう可能性もありますので、絶対に利用しないでください」

大阪府の対応は?

大阪府健康医療総務課によると、8月4日から府民から様々なクレームの電話が届いているという。

「あたかも新型コロナに効果があるような発表は如何なものか」

「甲状腺機能への副作用について注意しなくていいのか」

「知事は使えと言ったけれど、店からうがい薬が消えているじゃないか」

などの声だ。

吉村知事は、殺到している批判に対し、「吉村がおかしなこと言い出してるとネット上の大批判がありますが、構いません」などとツイートした上でこうもツイートしている。

「誤解なきよう申し上げると、うがい薬でコロナ予防効果が認められるものではありません。重症化を防ぐ効果の検証はこれからです。判明したのは、唾液中のコロナウイルスを減少させ、唾液PCRの陰性化を加速させること。唾液PCR検査は毎朝うがい前。感染拡大防止への挑戦」

吉村知事は5日も記者会見を開き、「予防効果が立証されているわけではない」「うがい薬の使用に当たっては、医師の指示や製品の使用上の注意を守って」「買い占めはしないで」「転売は法律で禁止されている」と注意を伝えたものの、うがい薬の使用を勧める姿勢は撤回しなかった。

健康医療総務課の担当者もBuzzFeed Japan Medicalの取材に対し、「今のところ見直すという話は出ていません」と話している。

【児島悠史(こじま・ゆうし)】薬剤師

2011年、京都薬科大学大学院を修了後、薬局薬剤師として活動。日本薬剤師会J-PALS CL6。Fizz-DI代表、2019年11月から株式会社sing取締役。

著書に『薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100』(羊土社)、共著書に『OTC医薬品の比較と使い分け』(同)、『薬剤師のための 医療情報検索テクニック』(日経メディカル開発)がある。