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「病院や医療者の頑張りだけでは乗り越えられない」 第6波やオミクロンを前に病院の医師が願うこと

人との接触が増える年末年始を前に、感染拡大したら一般医療もしわ寄せが来ることが心配されます。民間病院の経営者としてコロナや一般診療に携わってきた医師は、「医療者だけでは乗り越えられない」と一般の人々の協力を求めます。

新型コロナウイルスの第6波が襲来すれば、一般医療に大きなしわ寄せが来ることは間違いない。

病院や医療者が頑張るだけでは、その被害を食い止めることはできない。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会と厚生労働省のアドバイザリーボードの構成員で、民間病院の団体である日本医療法人協会副会長、社会医療法人名古屋記念財団理事長を務める太田圭洋さんに、この冬、一般の人に呼びかけたいことを聞いた。

※インタビューは12月15日夜に行い、その時点の情報に基づいている。


ーー岸田内閣の新型コロナウイルスの基本的対処方針は、病院経営者として納得のいく内容でしたか?

厚生労働省が10月に出した方針とほぼ同じです。

また、藤沢市民病院の副院長で神奈川県の医療危機対策統括官を務めている阿南英明先生と共に出した「第5波までの医療提供体制の検証と教訓に基づく今後のあり⽅ー都市部を中⼼にー」(参考資料6)で書いた内容をほぼ盛り込んでいただいています。この文書は、医療者としてそれまでの対応を反省して、今後はこうするべきだと盛り込んだ検証でした。

そういう意味では、政府の方針は評価できるのですが、一般医療の制限について非常に軽く書かれていることは率直に気になりました。

逆に言えば、感染力が2倍になるまでは頑張って医療を整えて対応しなさいという言い方で、3倍になるほど大変になれば一般医療を制限しますという書かれ方です。

一般医療を制限するのがどれほど大変なことなのか、経験していないのでわからないのだろうと思います。

「ただ予定を延ばせる手術を延ばすだけですよね」と考えているのならば、第5波の時に既に我々がやってきたことです。それよりも感染が大変になったことを想定して、一般医療をどこまで制限すると考えているのかは少し心配になるところです。

ただ方向性は正しい。いかに病床を効率的に回していくか地域で必死に考えて整備してほしいとか、重症化予防をしっかりできる体制を整えるとか、自宅療養の患者さんの健康観察などのために在宅医療を届けるようにしてほしいとか、やらなければならないことはきちんと書かれているとは思います。

在宅との連携は?

ーー第5波では病床が逼迫して、在宅医療が自宅で療養せざるを得ないコロナ患者の診療を積極的に引き受けました。第6波に向けた準備として在宅医療と病院との連携は形になりましたか?

正直、少し心配はしています。我々病院は極力、在宅医療に手を出さずに、開業医の先生が中心になって頑張ってもらう形で棲み分けをしてきました。

地域の開業医や在宅医療のクリニックでかなり積極的にコロナ患者を診ていこうとする先生がいる地区は、そういう先生が中心となって自発的に会議を開きながら、地域での連携体制を作っています。

一方、あまりそれが進んでいないと感じる地区もあるように思います。

先日、厚労省が各都道府県のデータを集計して、コロナの診療体制の整備がどこまで進んだかを見る資料を作りましたが、愛知県は在宅医療もすべて整っていることになっていました。

ただそれが実効性のある形で整備できたのか。大量の患者さんが今後出てきた場合、しっかりケアできる体制まで準備し切れたのか。ちょっと心配しています。

ワクチンや治療薬の進歩は6波の戦いを有利にするか?

ーーオミクロンなどの心配はありますが、そうは言ってもワクチン接種もかなり進み、重症化を防ぐ抗体医薬品など治療薬の選択肢も増えてきています。コロナとの戦い方は変わってきていると思いますが、その影響はどうでしょうか?

それは間違いなくあります。

とにかく重症化をさせないことが、医療の逼迫をさせないための根本になります。第5波の頃も初期に抗体カクテル療法を使ってかなり成績は良かったですし、今後、経口薬も出てくるので、それをいかに使っていくかで戦いはさらに違った形になると思います。

ただ、オミクロンという不確定要素が出てきたことで、薬が効きづらい可能性やワクチンの効果が薄れる可能性など、様々な可能性が言われています。

そこは新しい情報をもとに、適宜、作戦を修正していくことが必要になるでしょう。

感染拡大が一定レベルを超えると、医療者は「醒める」

ーー繰り返し大きな波に対応していると、医療スタッフの疲弊も心配です。第5波もかなり大変だったと思いますが、医療スタッフの心身の負担はどうでしょうか?

もちろん大変ですし、当然、疲弊はします。ただ、5波になると、急性期の病院は交代制で対応せざるを得なくなりました。一時は有志の手挙げ方式で頑張っていたのですが、その人たちで永遠にやっているわけにはいかない。病院全体で支える形にして、何とか乗り切りました。

ピークになると当然患者の数は増えますが、準備したキャパシティを超えて患者さんを受け入れるかどうかについては、国民と僕ら医療者で感覚が違うところがあります。

医療者なので、当然、患者さんの命は救わなければなりません。1週間や2週間で終わるとわかっていれば、火事場の馬鹿力で医療者は死ぬ気で命を助けます。

ただ、感染がどんどん拡大して災害レベルだと言われ始めると、それまで全国の病院から悲鳴のような声が上がっていたのが、だんだん醒めた声になってくるのです。

「仕方ないよね、もう」という声です。

そのぐらいになるとメンタル面も強くなって、自分たちのチームや医療が持続的に回していけるような働き方に変えていきます。そうしなかったらより被害が大きくなると、考え方を切り替える時があるのです。本当にピークを超えると、そういう時期がきます。

自宅からの入院搬送を受け入れられない患者さんが出ることがいいなんて誰も思っていないわけですが、「ここで受け入れたら共倒れになる」と、一定程度のところで割り切って、ブロックし始めます。

まさにこれがトリアージ(治療の優先順位をつけること)です。そういう状況は起こしてはいけない。そこまで医療スタッフを追い込んではいけません。

だから必死に準備をする。そこに到達しそうだったら、それを避けるために、なんらかの形で感染を抑えることが、傷を大きくしないためにも必要です。それは病院や医療者の努力だけでは無理なんです。

医療だけが頑張ればなんとかなるわけではない

第5波の頃は「医療が頑張ればどうにかなるのに、なぜ経済がここまで犠牲にならなければならないのか」という論調が、マスコミやSNSで多かったと思います。

でも海外ではあれだけの患者数に日本ほど厚く医療を提供できていたわけではありません。一般医療も日本より大きな犠牲を払っていました。

感染症は指数関数的に増えます。病床はどれだけ増やしても、平時の2倍、3倍ぐらいまでしか増やせません。絶対にどこかの段階で、感染の拡大を止めなければ突破されます。

そのキャパシティをどこまで準備するかは、様々な問題を解決しなければなりませんが、確実なのは、医療だけが頑張ればなんとかなるわけではないということです。医療が頑張っても、ただ一般医療によりしわ寄せがいくだけです。

それをなんとか国民の皆さんに理解していただいて、感染を一定程度に抑えるために、感染しない・させない行動を取ってほしい。今、落ち着いていると安心しているかもしれませんが、第6波を控えたこれからも感染対策は重要です。

ほとんどの人は注意して行動していただいていますが、ぜひ感染拡大の防止にご協力をお願いできたらと思います。

医療も頑張りますので、一緒に頑張っていただきたい。心からそう思います。

ブースター接種は必須 ワクチン効果の減少とオミクロンの影響と

ーー新規感染者数が嘘のように少なくなって、街には人も増えてきています。緩み始めているのは間違いないですが、今、次の感染拡大に対して準備している立場から、年末年始、どう行動してほしいと思いますか?

今の感染レベルなら、今と同じぐらいの行動をとっていても感染拡大はしないでしょう。

心配な要素は2つあって、まず一つ目はワクチンの効果が落ちてきていることです。ヨーロッパでは日本より3ヶ月早くワクチンをうち始めていて、その効果が減っていく頃に、経済を動かし始めて感染が再拡大しています。

そういう意味で、同じことが日本でも起こるはずです。ワクチンの効果が減っていくことはちゃんと知っておいてほしい。

もう一つは、オミクロンの市中感染が始まったとしたら、やはり感染は拡大します。どれぐらい重症化するかはこれから出てくる様々なデータを待たなければいけませんが、感染力、伝播力が強いのはデータではっきり出始めています。

もしお年寄りに感染すると簡単に重症化する性質があるならば、やはり感染を爆発的に増加させないために、今より注意した行動をお願いしたい。

帰省するにしても、ワクチンをうったからノーガードでいいというのではなく、ワクチンをうってもマスクや手洗いはやってほしい。あまりゴミゴミしたところも避けてほしいです。今まで通り感染対策を継続していただく必要があります。

ーー医師はすでにブースター接種が始まっていますが、一般向けにもブースター接種をお勧めしますか? 年明けあたりから一般の人に始める自治体も出てきます。

オミクロンの流行で、より強くブースター接種をしなければいけない理由ができてきたと思います。オミクロンは免疫を回避する性質があって、ワクチンを2回うっていても感染するし、以前、コロナにかかったことがあっても感染するとわかってきています。

ただ、3回うつと発症予防効果は80%近くまでなるとも言われています。オミクロンの影響を抑えるためにはおそらくブースター接種は必須になるだろうと考えています。

我々医療者は今、人体実験のようにブースター接種でどれぐらい副反応があるか見ていますが、2回目と同じぐらいかなというのが実感です。

ブースター接種のチャンスがやってきたら、積極的に接種していただきたい。それが自分たちの生活や経済を守ることにつながると思います。

皆が小さな注意を積み上げることが大きな力になる

ーー見方を変えると、我々も2年近くコロナと付き合って、対策はすっかり身についています。みんなきっちりマスクをつけていますし、居酒屋では換気がなされています。第6波を我々は乗り越えることができそうでしょうか?

僕は日本の人はすごいと思います。第5波が急速に収束したのは、人の動きやワクチンの効果だけでは説明できません。やはり、国民がみんな気をつけて行動しているからだと思います。

いっとき、若者がやんちゃな行動をとるから感染が拡大しているのだ、という話がありましたが、ほとんどの若者はかなり感染に注意しながら行動しています。

多くの国民は、みんな感染対策をし、ソーシャルディスタンスをとっていない人の方が珍しいくらいです。屋内に入る時は入り口でアルコール消毒をします。

みんながそれぞれ頑張った結果、この12月半ばまでこれだけ感染が拡大せずにきている。

もしこの冬を大きな波にせずに乗り切ることができたなら、世界で稀な生真面目さや感染対策を徹底してくれたことの成果だろうと思います。

医療も色々と叩かれましたし、実際にコロナの治療に非協力的だった先生も病院もあります。ただほとんどの先生は真面目に「自分たちは地域の医療でコロナに対して何ができるのか」と考えて行動してくれていました。ワクチン接種のために全ての日曜日を潰した先生も知っています。

国民も医療も、みんなで頑張って支えてきたのです。やはりみんなで頑張らなければ乗り切るのは難しい。医療者だけが、総理大臣だけが、知事だけが頑張ればいいものではない。

感染症はどうしても人と人との接触の場面で感染します。一人ひとりの行動が肝になるのは言うまでもないことです。

なので、小さな注意をみなさんが積み上げていくだけで、それが感染拡大を抑えるための大きな力になっていきます。

オミクロンが出てきて先が読めないところはありますが、みんなで力を合わせればなんとかなるのじゃないかと思っています。どうか一緒にがんばろうと伝えたいです。

(終わり)

【太田圭洋(おおた・よしひろ)】日本医療法人協会副会長、社会医療法人名古屋記念財団理事長

1994年、名古屋大学医学部卒業。99年アストン大学経営学大学院卒業(MBA)新生会第一病院勤務、医療法人新生会理事長(現在常務理事)を経て、2006年 、医療法人名古屋記念財団(現・社会医療法人名古屋記念財団)理事長。一般社団法人日本医療法人協会副会長。公益社団法人日本透析医会副会長。

新型コロナウイルス関連では、新型インフルエンザ等対策有識者会議や厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの構成員を務めている。