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新型コロナ感染が落ち着いていても...既に出ている一般医療への影響 オミクロン警戒下で病院が再拡大を恐れる理由

新型コロナの第6波襲来が心配され、新たな変異ウイルス「オミクロン」への警戒も続く中、病院はどのような準備をしているのでしょう? 民間病院の全国組織の副会長の太田圭洋さんは、一般医療へのしわ寄せを心配します。

クリスマス、忘年会、年末年始の帰省と、人が屋内で集まる機会も増えるこれからのシーズン、新型コロナウイルスの再拡大が心配されている。

感染力が高いことがわかっている新しい変異ウイルス「オミクロン」への警戒も続く中、病院はどのような準備をし、一般の人にどんな期待をしているのだろうか?

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会と厚生労働省のアドバイザリーボードの構成員で、民間病院の団体である日本医療法人協会副会長、社会医療法人名古屋記念財団理事長を務める太田圭洋さんに取材した。

※インタビューは12月15日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

第6波に向けてコロナ病床の確保、どうする?

ーー人が屋内で集まる機会が増えるシーズンになり、第6波の襲来も予測されています。加えて新しい変異ウイルス「オミクロン 」も警戒されています。病院や医療法人協会ではどのような準備を進めていますか?

私は公衆衛生や感染症の専門家ではなく、いち病院の管理者ですが、アドバイザリーボードなどで専門家はほぼ確実にこれから感染の拡大が来るだろうと言っています。その通りなのだろうなと思います。

6波に向けては、岸田内閣の新型コロナウイルスの基本的対処方針が出ています。感染力が2倍になった場合にも対応できる医療体制として、2021年夏より3割多い約3万7000人が入院できる体制を構築するとしています。

厚生労働省からも11月頭に各都道府県に通知が来て、基本的にはそれに従って、各地域、各病院が役割を果たせるよう準備をしてきたところです。

私たちの財団は2つ病院があり、感染拡大した時に受け入れる患者の数を都道府県と約束しています。急性期の患者を診る名古屋記念病院では最大で25人まで、いわゆる回復期の患者を診る新生会第一病院は7人まで対応する準備をしています。

もちろんオミクロンが出てきてどうなるかわかりませんが、重症化を防ぐ抗体カクテル療法も適切に対応できる体制を作っています。

また、医療従事者に対する3回目のブースター接種も始まっています。私もうちました。副反応は、厚労省の公式見解では2回目と同等かそれよりも軽いと言われていますが、周りの人に聞き回った印象ではほぼ同等だなという感じです。

ーー2つの病院ではこれまでどのように新型コロナに対応してきたのでしょう?

名古屋記念病院は昨年2月にPCR検査をする「帰国者・接触者外来」を始め、3月からはコロナ患者の入院受け入れを始めています。

その頃は風評被害もかなり懸念されたのですが、副院長と副看護部長が体を張ってPCR検査を取りまくってくれました。その後、7月に新型コロナウイルス感染症重点医療機関に指定されて以来ずっとコロナの対応を続けています。

もう一つの新生会第一病院は透析患者のケアと地域の回復期機能を担う病院です。こちらは透析患者がたくさんいるので、PCR検査はできるようにしましたが、当初は原則コロナの対応はしない姿勢で動いていました。

ところが12月に院内にクラスターが十数人出ました。第2波までは透析患者がコロナに感染しても地域の基幹病院が受けてくれましたが、3波になると重症の患者が増えて、透析患者の感染者はどこも入院できなくなりました。

院内クラスターの患者はすべて自院で診ざるを得なかったのです。結局、こちらも今年1月に重点医療機関として指定を受け、透析患者を中心としたコロナの治療を始めました。

これだけ感染が落ち着いていても... 圧迫される一般医療

ーーこれまで感染が拡大すると、コロナ対応に力が振り向けられ、一般医療が圧迫されることが指摘されてきました。2020年はがん診断や治療も減少したことが統計で明らかになっています。

今、感染が落ち着いているから影響が出ていないと思うかもしれませんが、現実に一般医療への影響は出ています。これだけコロナの患者がいない状況でも、です。

今はコロナのために確保している病床を少しずつ解除しています。だから、かなりコロナ病床は減っているのですが、コロナ病床1床を確保するために、一般の病床をだいたい2〜3床減らす必要があります。ICUだとコロナ病床1床のために3〜4床潰れます。

ゾーニング(ウイルスがあることを前提にする場所とそうでいない場所を分けること)をしなければなりませんし、コロナ病床はそれだけ人手が必要なのです。

今、全国で最大4万5000床を確保した形となっています。第5波の時は3万5000床ですからかなり増やしています。この3万5000床を確保するために、何床の急性期病床が潰れたかはあまり伝えられていません。

私たちの2病院でも今、感染状況が一番低いレベルで即応病床(すぐに入院できる病床)を確保していますが、そのために潰している病床はかなり多い。

うちの回復期病院は本来、地域の回復期機能を担わなければいけないのですが、その病床がコロナ病床に振り向けた分、稼働していません。

本来は地域の基幹病院で急性期治療が終わった患者さんを、うちのような病院が引き受けて、その患者を在宅に戻していかなければならないのですが、入院させられない状況になっています。

昨日も知多半島で急性期を担う中核病院の先生から、「先生のグループの透析患者さんを診ていますが、回復期の入院を引き受けてくれないと、もうこれ以上救急も受けられなくなります」と言われました。

今のように感染が落ち着いている状態でさえ、こんな状態なのです。病床を確保しているだけで、かなりの医療資源をコロナ用に割いているのが現実です。

そして今後、感染が拡大すると、コロナ用の確保病床はさらに多くなっていきます。患者に実際に健康被害まで出るかは感染拡大の状況にもよりますが、一般医療への影響がかなり増えていくのは間違いない。

入院先が見つからない、転院先が見つからないなど、様々なことが起きてきます。

コロナ対応への転換で起きるしわ寄せ 移植のチャンスを逃す、手術延期、転院・退院...

ーーコロナが感染拡大するとコロナ対応だけを考えがちですが、一般医療への影響もかなり心配ですね。

これは日本だけの状況ではありません。すべての諸外国で、コロナ対応によって一般医療に影響が出ているのは事実です。

BBCの報道によると、イギリスでは人工関節の手術が必要なのに待機している人がコロナ前には1600人だったのが、流行が始まって40万人以上に増えてしまったそうです。

そこまでの話は日本ではありませんが、第5波流行中の今年9月頃には、全国の一般医療を担う医師たちから悲鳴が上がっていました。

知り合いの透析医の話では、若い腎臓病の患者さんがやっと腎移植の優先順位第1位になり喜んでいたのに、その病院のICUがコロナ対応をしていたために手術できず、泣く泣くその権利をほかの人に譲らざるを得ないことがあったそうです。

また、別の知り合いの在宅医の話では、尾身茂先生が理事長を務めるJCHOの病院である東京城東病院がコロナ専門病院になったため、入院していた難病やがんの重症患者、身寄りがないがん末期の患者、術後しばらくは病院で観察したい患者を全員転院・退院させることになったそうです。

重症度が高い人を在宅診療で受け入れてくれないかと打診があった時、この病院の先生方や看護師さん達は涙を流しながら、「私たちコロナ対応じゃないところで精一杯やってきたんですけどね」と話していたそうです。

本来その病院が担っている機能を中断して、コロナ対応に振り向けるとそういうことが起こります。そして感染が拡大すればするほど、その影響は大きくなっていくのです。

日本の医療は海外に比べて、上手に対応してきたと思いますが、一般医療も担う医療現場からはコロナだけに全力を投入すればいいというものではないと言いたい。バランスを取るのが難しいし、なかなか一般の人には理解していただけないところだと思います。

政策を決定する人たちや国民に一般医療を制限することの大変さが伝わっていません。最終的には医療を受ける多くの患者さんに何らかの影響がくるのです。

コロナ病床が簡単に増やせない理由

特に第5波のピークでは、行政から待機できる手術はすべて止めるよう指示がきました。それほど長引かなかったのでよかったですが、一定以上、その状態が続いていたら、もっと大変なことになっていたと思います。

藤沢市民病院の副院長で神奈川県の医療危機対策統括官を務めている阿南英明先生は「これ以上、一般医療を制限してコロナに資源を投入するというのは、がん医療を止めろということですよね」とまで言いました。

5波のピーク時でも、救急車が10台来るとコロナの患者は1台でした。9台は普通の医療の患者なのです。そういう患者の救急も守らなければいけない。コロナだけに注力していたら、そこは地域で診られなくなります。

第6波が来た時も、コロナだけではない患者さんの診療をどうやって乗り切っていくかが課題になると思います。

ーーどうしても我々医療の外にいる人間は、コロナの感染拡大が起きると「なぜコロナ病床をもっと増やせないのか」と思ってしまいますね。

それがなかなか一般の方に理解されないので、11月16日に開かれた分科会で阿南先生がまとめた「第5波までの医療提供体制の検証と教訓に基づく今後のあり⽅
ー都市部を中⼼にー
」(参考資料6)という資料を出したのです。私も名前を連ねました。

病床を増やすのはかなり大変なことです。「60%の病床利用率でもう受け入れられないのか!」とかなり批判を受けましたが、現実はコロナ病床を用意していたとしてもすぐに稼働できるものではない。

スタッフに「コロナ対応をやってね」と業務命令を出したとしても、やってくれるわけではないのです。

ベッドや医療機器の確保より大変なスタッフの確保

ーー要員の確保が大変だということですね。

要員の確保がすべてです! ベッドがないとか、ECMO(体外式膜型人工肺)がないとか、人工呼吸器がない、ではないのです。すべては人なんです。それがなかなか一般の人に理解されません。

例えば第一波の頃は「コロナを診なければならないなら、辞めて来なさい」という親がいました。その頃はどんなウイルスかもわからなかったし、「そんなのを診させられるぐらいなら」と思う人がいても不思議ではないです。

風評被害も酷かった。コロナを担当しているわけではないのに、保育園や幼稚園でお子さんの登園を断られたり、クラスターが出た病院に務めていた看護師が濃厚接触者になったわけでもないのに、お子さんが小学校で隔離されたと泣きながら話していたこともありました。

それぐらい大変な環境でコロナを診ていたのです。

当然、感染の拡大と共に病床は少しずつ拡大していくわけですが、「この病棟をコロナ対応に変えるから、全員コロナ対応」と命じても、みんなが従うわけではないし、辞める人は辞めていきます。

ある病院では集団の離職騒ぎがあって病棟が崩壊しそうになりました。スタッフにコロナ対応を地域で担う意義や病院の機能を訴えかけながら、あの手この手で病床を確保し、少しずつ増やしていったのです。

特にワクチンもなければ治療薬もない時期はスタッフの不安も強く、コロナの病床は苦労して拡大していきました。

そのあたりの苦労が知られずに、「なぜ確保できないのか」と怒られてしまう。さらに、現実的に一般医療に大きな制限が加わります。

それでもかなり病床は増やしてきたのです。

民間病院にしても、政府やメディアから今年の9月頃まで「民間病院はあまりコロナ対応をしていない」という不信感を持たれていました。しかし、第3波を超えた頃から、民間病院はかなり参画し、大阪では今年1月ぐらいから民間病院の方が公立病院より多く診るようになりました。

厚労省が3月に出した通知は、第4波に向けて、第3波の2倍の患者が出ても短期間は乗り切れる医療体制を作ってほしいという内容でした。

第3波は全体で8000人ぐらいで、5波は2万5000人です。優に当時想定していた患者数を超えるところまで感染拡大を許してしまったのが、かなり厳しい病床逼迫を生んだ理由だと思います。

(続く)

【太田圭洋(おおた・よしひろ)】日本医療法人協会副会長、社会医療法人名古屋記念財団理事長

1994年、名古屋大学医学部卒業。99年アストン大学経営学大学院卒業(MBA)新生会第一病院勤務、医療法人新生会理事長(現在常務理事)を経て、2006年 、医療法人名古屋記念財団(現・社会医療法人名古屋記念財団)理事長。一般社団法人日本医療法人協会副会長。公益社団法人日本透析医会副会長。

新型コロナウイルス関連では、新型インフルエンザ等対策有識者会議や厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの構成員を務めている。