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コロナワクチン、インフルワクチンどう選ぶ? 新型コロナとインフル同時流行の冬に備えて

新型コロナウイルスとインフルエンザが同時流行すると懸念されている冬を前に、ワクチン接種で備えるように呼びかけられています。オミクロンのBA.4-5に対応したワクチンや生後6ヶ月〜4歳のワクチンもうてるようになり、私たちはどう選択したらいいのでしょうか?

新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行が懸念されているこの冬。

専門家が一般の人に備えとして呼びかけているのはワクチンの接種です。

新たにオミクロンの亜系統BA.4-5に対応したワクチンや、生後6ヶ月から4歳のワクチンも使えるようになりましたが、どのように選択したらいいのでしょうか?

ワクチンにも詳しい新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは10月14日午後に行い、その時点の情報に基づいている。

BA.4/5対応型の効果や安全性は?

——現在流行しているオミクロンのBA.4-5対応型のワクチンが今日(14日)から使えるようになりました。このワクチンの効果や安全性についてはどうみていますか?

作り方が変わらないので、安全性はこれまでと変わらないでしょう。

——ヒトでのデータがないことを指摘する人もいます。

新型コロナワクチンが出始めた頃から言われていたことですが、mRNAワクチンやベクターワクチンは、製造法や成分の基本は変えることなく、免疫を作り出す遺伝子(mRNA)の部分だけを入れ替えるだけで作れます。そのおかげで、ウイルスの変異にも対応しやすい、というのがこれらのワクチン特徴でもあります。

インフルエンザワクチンは毎年のように型を変えて作られています。長年の積み重ねの成果ではあり、毎年型を変えてもその都度、大掛かりな治験などは省略して、実用化しています。

もちろん小規模試験は行われますし、どのような考えで型変更したか(あるいはしなかったか)などは、その都度明らかにされています。

新しいワクチンの場合には大規模な治験をしますが、同じようにそれらを行ったうえで審査を行い承認していると時間がかかり、その間にウイルスが別のものに変わってしまう可能性があります。

同じ製造法、同じ成分ですから安全性に関しては既に使用されているものと同等であることが担保できると思います。今回のような承認手続きで良いと思います。

いや、むしろもっと早く対応すべきだと思いますが、技術的にできることと、企業として大量に切り替えるということは別物でもあるので、そのへんは現実との妥協も必要だと思っています。

——効果についてはどうですか?

効果も理論的にはあるはずです。より、今流行っているものに対応できるように変えるわけですから。

インフルエンザワクチンは次シーズンに流行る型を予測して作りますが、コロナワクチンは予測ではなく、既に流行っているものを追いかけて作っています。BA.1対応型から今流行しているBA.4-5対応型に変えるわけです。

オミクロンの中の亜系統の変化に対応していて、オミクロン対応という意味では一緒ですから、BA.1対応型のワクチンもBA.5に対してまったく効かないわけではありません。既にBA.1をうった人も「効果がなくなる」と心配する必要はありません。

BA.1対応型とBA.4 / 5対応型 どちらを選ぶべき?

——今、うてるワクチンとしてはBA.1対応のものと、BA.4-5対応のものと両方ある状態になっています。新しいものに切り替えていくという自治体もありますが、基本両方がある現状、どちらを選ぶべきでしょう?

切り替えられそうという話が出てきた時に僕が言ったのは、こうです。

「いつかできるものを待っていても、いつになるかわからないし、承認手続きの時間もあるし、流通の問題や生産量の問題もある。すぐにみんなが接種できるわけではなく、待っている間にかかってしまっては何にもならないので、今あるものをとにかく受けておいた方がいいですよ」

でも今、承認され、かなりの量も確保されているようです。お住いのところで「いつでもできます」あるいは「そろそろできます」ということがわかっているのであれば、それまで待ってもいいかと思います。

焦って受けずに、より良いものを待つのは自然な考えだと思います。ただし、これは基礎免疫を持っている人の場合です。

まだ接種が1~2回で、基礎免疫が十分にできていない場合には、早めに今うてるワクチンで基礎免疫を作り、ブースター(追加強化免疫)としてBA.5対応型をうてばいいのではと思います。

美味しいものが出来上がるのを待ってお腹がぺこぺこになるよりは、とりあえずお腹を満たしておいて、その次に美味しいものを落ち着いて食べる方がいい、という考え方はどうでしょう?

——ワクチンを早めにうった人も、後からBA.4-5対応のワクチンを追加接種することになるということですね。

接種の間隔を短縮するとも言われていますね(※インタビュー後、5ヶ月から3ヶ月に短縮)。間隔が短いと、副反応が出やすくなったり具合が悪くなったりするわけではありません。

免疫が下がってきて接種して免疫に刺激(ブースター)を与えることに意味があるので、十分免疫が保たれている時には追加接種を受ける意味があまりないので、一定の期間を空けた方が良いということなのです。

期間はある程度空け、下がり始めた時期に接種をしたほうがより効果的になります。

——もし、選べるなら、今はBA.5が流行っているから、BA.1をうつよりはBA.4-5対応型をうったほうがいい感じでしょうか?

そんなに待たずにBA.4-5対応型が接種できるのであれば、それがおすすめです。

しかし、いつになるか不明瞭な場合には、早くBA.1対応型で刺激を受けておいた方が良いのではないでしょうか。

一方、一般の人の中には、「早く新しいワクチンを受けたい」という人と、「新しいものは大丈夫かしら?」と心配する人と両方いるようです。どちらを選んでもいいと思いますが、自治体の手持ちの量で選ぶ自由が確保できるかどうかですね。

しかし、これからはBA.4 -5が主流になっていくと思います。

生後6ヶ月から4歳までのワクチンはうつべき?

——それから生後6ヶ月から4歳までのワクチンも承認され、公費でうてることになりました。10月下旬からも接種が開始されるようですが、小児科医でもある先生はどう評価していますか?

より小さな子どもにも使えるようにしたことは適切だと思います。

——5〜11歳のワクチンは議論になりましたが、今回のワクチンはすんなりと通りました。

ワクチンの安全性は小さい子どもでも変わらない、むしろ大人に比べてリスクは少ないので、使えるようにすること自体はいいことだと思っています。

ただ5〜11歳のワクチンと同じ話で、やりたくない人にまで一斉に接種をさせなければいけないワクチンではないと思います。

水を飲みたくない馬に水を飲ませるのは難しいと言われるように、どこか引っかかるので前向きになれないという人には様子をみるという選択があっても良い、とやっぱり思います。

子どもは自分で決められないですから、親が決めなければいけませんが、最終的には親の判断で接種を受けるかどうかは決めて良いでしょう。また、そうあるべきだと思います。

——5〜11歳よりも、生後6ヶ月から4歳がコロナにかかる方が重症化はしやすいわけですよね。ワクチンの意義はより大きくなるのでは?

1歳、2歳くらいまではそうですね。ワクチン接種を受ける意義は間違いなくあります。接種を受ける環境にあって、接種を受けることを納得している人(親)ならば、費用もかからず、国・自治体の責任で接種が受けられるようにしておいた方がいいのは間違いない。

しかし、「うちの子は1歳にもなっていないのにこんなワクチンをうたせても大丈夫かな...」などと不安が強い人は、「みんながやっているからやりましょう。やらないといけません。国のルールで決めてありますから」と強く勧めなくてもいいと思います。

——生後6ヶ月から4歳までのワクチンでもそんな見解なのですね。でも今回、努力義務は最初からかけられています。

努力義務をあえてかけなくてもいいじゃないか、と思っていたぐらいです。でもかかったものに対して強く反対するわけではありません。努力義務がかかっても、接種を受け入れない人は受けなくても良い、「No」という権利が確保されている、ということは一緒です。

僕の考えでは、子どものワクチンの努力義務は保護者の義務ではなく、社会の義務にしたほうがいい、と思っています。

例えば「うちの子に予防接種を受けさせるので仕事を休みます」という場合、個人の有給休暇を使うのではなく、本人のみならず社会を守るために受けるのだから特別な有給休暇を認めて、会社として「どんどん行ってください」と奨励する。そういう社会の努力が求められるのだと思います。

最終的には本人が決めていいわけですが、その場を提供する努力を社会や行政の義務であるとした方がいいと思うのですね。

決してワクチンが危ないとか、ワクチンをやめろとか言うわけではありません。でも接種を受けるか受けないかは最終的には両親が選択していいし、選択の自由を抑えて強制的にうたせなければいけないほど子どもたちのリスクは高くありません。

不安や忌避感が強い人は様子をみていい

——子どもも数多く感染した第7波では、ワクチンをうっていない子どもたちが重症化し、小児科の先生方は5〜11歳のワクチン接種率が上がらないのを嘆いていました。

日本集中治療医学会あるいは同学会と共同で厚労省会議で感染研が出した子どもの重症者の数字も、ワクチン接種の有無が関係あると明言はしていません。

重症者の中にワクチンを受けている人がほとんどいないことは明確ですが、母数である全体の方もほとんど接種を受けていないわけですから、その比較は単純にはできないと思います。


ただ、ワクチン接種を受けたほうが、重症化を防ぐ意味で有利になるのは間違いありません。子どもがかかって重症化することが心配な子供さんとその親御さんには「どうぞどうぞぜひ受けてください」と勧めます。


しかし、「あなた絶対に子供にも受けさせなさい」と、嫌がる人にまで強く勧めるワクチンではないと思います。はしかなど、健康な人が突然悪くなる、致死率十数%、いわゆる先進国でも0.数パーセントいう病気では、なんとしてでも受けてもらいたいと言いますが。

——8波が来るかもしれないと言われる今でもそうですか?

今もそれは変わりません。嫌な人、不安に思う親御さんは、無理に子供さんに接種をする必要はないと思います。

でも、そのような方々はワクチン接種を受けている方々より、感染予防にはより気を使っていただきたいと思います。本人のためにも周囲のためにもです。

家庭などの場合、こどもに受けさせなくても親が受けることによって子供の感染を間接的に防ぐことができるという海外からの報告もあります。

——次の波をワクチンで守られない状態で子どもに迎えさせるのは不安です。

そう思っている人は「どうぞ接種を受けてください」です。やる場は提供しますし、お金も国が出す。

もし僕が今小児科の外来をやっていて、お母さんが赤ちゃんや乳児を連れてきて「うたせるかどうか迷っているんです」と言われたら、「これこれこういう理由で僕は受けさせた方がいいと思います」と言うでしょうね。

——「不安で不安でうつのが怖いのです」と言われたら?

じゃあ様子を見ましょう、と言うでしょう。6ヶ月から4歳のワクチンでもそうです。歯を食いしばってやらなければいけないほど、重症化率がうんと高い病気ではないからです。

ただし、繰り返しになりますが、「そのような方々はワクチン接種を受けている方々より、感染予防にはより気を使っていただきたい。本人のためにも周囲のためにも。家庭などの場合、こどもに受けさせなくても親が受けることによって子供の感染を感染を間接的に防ぐことができるという海外からの報告もあります」ということは付け加えるでしょうね。

インフルエンザワクチン、どうする?

——子どもへのインフルエンザワクチンはどうでしょう?

インフルエンザワクチンもそうです。昔、インフルエンザ脳症がセンセーショナルに報じられた時に、子どものワクチン接種が殺到しました。

インフルエンザ脳症は重大な病気です。ワクチンで防げるかもしれないので、受ける意義はある。

しかし、インフルエンザワクチンはもともとそれほど効果が高くはありません。ですから、ワクチンに疑問・不安を持つ方々に、歯を食いしばっても受けたほうがいい、とは言っていません。

乳児に対しては、さらに積極的ではありません。急性脳症は1歳以上で発生することが多いけれど、0歳ではあまりない。でも脳症を心配している親御さんの場合は、1歳未満の子供にも接種します。副反応に関しては大きな問題はないので、接種は可能です。

ワクチンに対してものすごく不安を持っている人は、ワクチン接種後の副反応で熱が出た時の不安感もまた強いのです。副反応の熱で熱性けいれんも起きることがあります。

でもワクチンは接種ができる、受けやすいように整えておくべきですし、やりたい人にはできるようにしておいた方が良いと思います

子どもは自分の意見が言えないだけに、接種せずに病気にかかったり悪くなったりする一方、ワクチン接種による副反応で苦しむお子さんもたくさん知っています。

どちらにしても親はすごく後悔するのですが、「親」は決断が必要ですし、そうであってこそ「親」だと思います。

——インフルエンザのワクチン、大人は受けた方がいいですか?

インフルワクチンには三つ意味があると思います。一つ目に自分がかかりたくないから受ける意味、二つ目に自分がかかりにくくなることでお年寄りや家族を守る意味、三つ目に社会全体を守る意味です。

インフルも、麻疹(はしか)のワクチンのように「なんとしてでも接種してください」というワクチンとは重みが違います。

最終的には自分の判断であり親としての判断です。

——高齢者や妊婦さんなど重症化しやすい人はどうですか?

それは受けた方がいいです。僕がそのような外来にいたら「それはぜひ受けてください」と勧めるでしょうね。

妊婦さんは自分の体だけではありません。自分や胎児の命を守るために受けてほしい。高齢者や妊婦は社会を守ることが主目的ではなく、自分のことをまず守り、そして身の回りの人、我々の次世代を守るという考え方が必要ではないかと思います。

持病のある人に関しては、病気に対するリスクもあれば、ワクチンに対するリスクもあります。でも通常はワクチンのリスクより、病気にかかった時のリスクの方がはるかに上回るので、そのバランスで「受けてくださいね」と勧めます。

ワクチンは全般的にうたない手はない

ワクチンに消極的だと誤解を受けそうですが、ワクチンは全般的に接種しない手はないと思います。

どうやって感染症を防ぐか考えた時に、マスクも手洗いも大事ですが、その人が免疫を持っていたらかからないというのが感染症の鉄則です。

それならあらかじめ受けておいた方がいいじゃないか、ということになります。あらかじめ免疫を持っておくということが、個人でできる最強な予防法ですから。

でも、それは病気もワクチンも長い経験がある場合にそう言えるわけです。

それが新しい病気で、ワクチンも新しく、病気の重症度のレベルがそれほど高くないならばどうでしょう?

確かに不明の部分がないかと問われれば、歴史ある病気に比べて「ない」と答えることになり、何がなんでも勧めるわけにはいかなくなります。

はしかのワクチンでも熱が出ることがあります。熱が出やすい人にはあらかじめ抗けいれん剤などを渡して、それでもワクチンを受けてもらいます。はしかはそれだけ病気になった時のリスクが高いから、副反応で苦しむことが稀にあったとしても、多くの人を病気から守るためには必要になります

しかし子どもに対するコロナワクチンやインフルエンザのワクチンは、はしかのワクチンほど必ず接種が必要です、と勧めるものではないと思います。

かかった時の重症化のリスクを少しでも下げたいと納得して接種をしていただけるなら、ぜひ受けてほしい。でも不安が強いなら少し様子をみてもいい。僕はそんな意見です。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会GACVS)委員を歴任し、 西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長、世界ポリオ根絶認定委員会委員などを務める。日本ワクチン学会・日本小児感染症学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。

一部表現を修正しました。