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「インフルエンザ並みの扱いに」「2類相当から5類へ」 一気に日常生活を戻そうとする声に伝えたいこと

重症化率が下がったオミクロン主体の第6波で、再び「新型コロナをインフルエンザ並みの扱いに」「2類相当から5類へ」という声が高まっています。しかし今、日本でそのように取り扱いを変えることは妥当なのでしょうか?

重症化率が下がったオミクロン主体の第6波で、再び「新型コロナをインフルエンザ並みの扱いに」「2類相当から5類へ」という声が高まっています。

今、日本でそのように取り扱いを変えることは妥当なのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは2月11日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

ピークアウトしそうだが、減少はなだらか

——オミクロンは関東でもピークアウトしそうですが、現状をどう見ていますか?

検査法や数字の取り方が違うので全て同様には見られませんが、沖縄を見ても、南アフリカやヨーロッパの動きを見ても、全体的に見ると山は落ちていますね。

そういう先行例を見ると、関東も下がってくるだろうと思います。

ただ、日本の場合はスキーで急斜面を滑り下りるような下がり方ではなく、緩斜面をダラダラと下がっていく感じに見えます。

でもスロープが下向きになってきそうなこと自体はありがたいことです。

ただ、重症者や亡くなる方は、病気になってから進行してくるので、これから、積み上がってきて、後から増えていきます。全ては下向きになってこれで解決ではないし、むしろ後からググっと痛みが出てくるような感じです。

また下向きになっても、かかる人はまだまだいるわけなので、感染を防ごうという気持ちは持ち続ける必要があります

もう一つ大事なのは、全ての感染者数がその日のうちに報告されているわけではないことです。

大阪も東京も保健所の現場や医療現場の先生たちの声を聞けば、感染者の報告どころではない状況なのがわかります。つまり陽性が分かったその日にすべて登録することができないくらい陽性者数が増え、積み残しが出てきている自治体が少なくありません。

おそらく正確な数字は後から把握されます。でも、傾向としては、1週間単位で見ても下がる傾向にあります。一定程度、低下してきていることは間違いないでしょう。

また、コロナによる直接の重症患者ではなく、社会に感染が広がっているせいか、たまたま他の病気や慢性の病気で受診した人がコロナにもかかっていた、というパターンも増えています。

さらに大東文化大の中島一敏教授が調べた救急車の搬送困難状況を見ると、一般医療の搬送も厳しくなってきています。

ただでさえ冬季は受け入れ病床を探すのに大変な時期ですから、インフルエンザが流行しているのと同じ状況になってきます。後を追うようにコロナの搬送も厳しくなっているのが厄介です。

当初の計画のようにコロナ病床ばかりを開けておくと、一般医療が逼迫しても切り替えるのは難しくなります。そこは状況を見ながら柔軟に運用しなければならないと思います。

「コロナは助けたけれど、心筋梗塞や脳梗塞は助けられなかった」というのは医療として良いことではありません。

——「ピークアウトしたから、医療に余裕ができる」ということではなさそうですね。

その通りです。

進まぬ3回目接種 

——3回目接種も思うように進んでいません。国全体のコロナ対策に与える影響はどうでしょうか?

誰でも痛いのは嫌だし、腫れるのは嫌だし、熱が出て仕事を休むのも嫌ですよね。

国内のデータを見ても、海外のデータを見ても、接種者と非接種者で入院率や重症化率、肺炎以上になる率には違いが出ています。ブースター接種をやることによって、その差はさらに広がります。

ブースター接種には明らかな利益があるので、特にハイリスクの人は接種したほうがいいです。明らかにコロナにかかって病状が悪くなるリスクを下げることができます。

今まで優先接種は医療従事者と高齢者だけが対象でしたが、高齢者の中には「もう2回接種したのだからいいでしょ」とうちたがらない人もいるようです。

しかし、ご本人にとっても重症化を防ぐ意味で大きな利益があるし、社会にとってもプラスがあります。

3回目だからといって、ことさら副反応が強くなることもありません。残念ながら、1回目、2回目と同等の副反応は出るかもしれません。それでも病気にかかった時のつらさと比べて、ワクチンで防ぐことによる利益の方が大きいのです。ぜひ3回目をうってほしいです。

接種券がまだ来ない、などシステムの問題は確かにありそうです。しかしチャンスが来たら、できるだけ早く接種してください。

ファイザーとモデルナとどちらがいいのか、と悩むかもしれませんが、全体としてどれも良いワクチンです。どちらかにこだわって時間が経つよりは、より早く受けられる方で受けた方がいい。待つメリットはありません。

まん延防止等重点措置の効果は? 延期は妥当?

——ピークアウトが見えたせいか、社会を元に戻そうという声が高まっているようです。

峠を越えたとしてもそこから一気に感染者が0になるわけではありません。仮に今日がピークだとしても、明日、1週間前のレベルに戻るのではなく、昨日か一昨日のレベルに下がるだけです。

「ピークは過ぎたから感染のチャンスがなくなった。自分はもう大丈夫」ではなく、感染のリスクはまだ高いレベルで残っています。

感染者が減って何をやってもいい状況ではないのですから、注意を続けなくてはいけません。基本的な感染対策を守った方が得だろうと思います。

——まん延防止等重点措置が延期になりました。この判断は妥当だと思いますか?

僕自身は妥当だと思います。重点措置は緊急事態宣言のように強く私権を制限して不便さを強いる手前の段階での対策で、救済措置の根拠にもなります。また対策をできるだけ狭い範囲で早く打ち出すことができます。

今の感染状況で重点措置を延長するのは止むを得ないと思います。医療が息をつける兆しが明らかになってきたら、重点措置解除の目安になるのではないかと思います。

沖縄や広島、山口など先に流行した場所を見ると、重点措置だけのおかげではないでしょうが、やはり人の流れは減り、リスクある行動を避けることにつながっています。それなりの効果はあったと思います。

「早く緊急事態宣言をうて」という声も一方ではあります。僕自身は私権制限がさらに強くなり、不便を強いる緊急事態宣言よりも、重点措置でもうちょい粘る今の状態の方がいいと思います。

さらに、医療は厳しいと言いながらも、まだ人々に我慢を強いる手前の段階で工夫の余地があるのではないかと思います。

オミクロンの特徴を踏まえた退院基準の短縮や観察期間の短縮などがその一例です。

回復した人は集中治療ではない場所に移ってもらって様子を見る、ある程度落ち着いたら高度医療を行わない病院(後方支援病院)へ転送するなど工夫することで、一般医療を守りながらコロナも診ることができます。

そういう意味でも重点措置は意義があると思います。

「一気に戻す」は日本に馴染まない 痛みをどこまで許容するか

——「オミクロンは重症化しない」と広まったせいか、「インフルエンザ並みの取り扱いに」「感染症法上の2類から5類相当に」という声が高まっています。欧米の国々で流行が高いレベルで続いているのにコロナ規制を撤廃したことも影響していそうです。

しかし、イギリスもアメリカもフランスもデンマークもスウェーデンも、日本より相当痛い思いをしています。

日本の制度や対策が欧米に比べて素晴らしくうまくいったかどうかは現時点ではわかりません。日本の環境や暮らし方、生活の仕方などが抑えているのかもしれません。欧米より流行規模は小さいということは、ありがたいことです。

海外の規制撤廃の良い部分だけに注目しがちですが、重症者や亡くなる方がたくさん出た、という苦い部分も彼らは経験しています。

——岡部先生は以前、「イギリスのやり方に賛成だ」とおっしゃっていましたね。

イギリスでは、その痛みや犠牲を明確にした上で、規制を緩める方向を示し、おそらくは多くの国民がそれに納得してるのではないでしょうか。流行が始まった頃のイタリアもそんな考えであったと思います。

日本でもそうした方向性を明確にし、緩められるところは緩めるという方がいいと僕は思いますが、しかしそは一気にやるのではなく、段階的にやるべきだとも思います。

ウサギが何かに追いかけられて穴に逃げ込み、敵がいなくなった時にいきなり穴から飛び出すのではなく、顔だけピョンと出してあたりの様子をキョロキョロ伺いながら少しずつ出てくる。そんなやり方を日本は取り入れてもいいんじゃないかと思います。

しかも今は減少しているといっても、緩い斜面です。一気に急斜面を滑り降りているわけではないので、段階を踏んでいくことが必要だと思います。

——一気に社会を通常化するのは日本に馴染まないし、犠牲も多く払うことになるということですね。基礎疾患があるなど重症化リスクの高い人は規制撤廃が怖いと思います。

そうですね。やはり欧米では亡くなる方が多かったです。そこをどこまで許容するか。これは、その国の国民の哲学でありポリシーの話になります。

一方で、日本は高齢者福祉は手厚いけれど、子どもに関しては国の投資が少ない。高齢者だけでなく、子どもたちや子育て世代など全体の利益・不利益を見ながら方針を決めていかなければいけないとは思います。

確かに今、飲食の場でうつる割合は低くなっています。ただそれは様々な努力の上で低くなっているのですから、緩めるのは時間や人数など少しずつが良いでしょう。

それが社会機能を維持し、少しずつ日常に戻すことにもつながるのではないでしょうか。

医療費、検査費、一気に公費負担をなくせる段階か?

——先生は今、2類相当から5類に落としたり、規制を全面撤廃したりは、日本の状況では難しいと考えるのですね。

5類相当というのはインフルエンザ並みということですね。確かにオミクロンに置き換わってから、爆発的な患者や検査陽性者の増加がみられる一方、潜伏期間が短くなりました。肺炎発症率も低く、軽症で済む人が多くなっています。

ただ「インフルエンザ並みに」という言葉を使っている人は、「インフルエンザ並みに軽い病気になってきた」と考えているのだと思います。

しかし僕らのように何十年もインフルエンザを扱ってきた者は、「インフルエンザは危ない病気です。油断しないでください」と言い続けてきています。

「インフルエンザ並み」と使うなら、インフルエンザ並みの注意をする病気と捉えなくてはなりません。しかも新型コロナのほうが重症化率はインフルエンザより高い。

高齢者を代表とするハイリスクの人々は、オミクロンであろうがデルタであろうが、インフルエンザであろうが肺炎球菌であろうが、感染症、特に呼吸器感染症に対してはハイリスクです。

患者数・感染者数が増加すれば、全体から見れば低い割合であっても重症者の「数」は増えます。

2類相当の位置付けであれば、医療費や行政検査も含めて費用は全て国が丸抱えです。国の危機だからこそ、公費を使っているのですし、自治体が自宅療養者に酸素モニターを貸し出したり、食料品などを届けるサービスも無料で行っているのです。

5類にすればその全てのサービスに根拠がなくなります。単純に2類、5類の2択を考えるのではなく、どの部分の規制を緩めていくか、どの部分を残すかという議論が必要です。

一気に対策を緩めるほど、この病気は一気に軽くなっていません。感染症法上の位置づけを緩めれば、重症者や亡くなる方がいなくなるわけでもありません。

高齢者や基礎疾患のある人などハイリスクの人に広がれば、今後、感染が再び広がる可能性もあります。その人たちへの費用の問題や看護、介護、リハビリなどの問題を考えると、2類、5類などとは違う別枠を設けるのも現実的な方法だと思います。

また感染症法という法律は「~すべき」ではなく、「~ができる」と規定されることが多く、すべてがmustではありません。

「〜まではやる必要がない」ということを明らかにすれば、運用を変えることで対応は可能なのではないでしょうか。

残すべきところは残し、臨機応変に対応を変えた方がいいと思います。運用面で、もう必要がなくなった対策は削り、必要な対策はとっておく。

「一気に5類に落とせ」という言い方は、現状では僕は反対です。

一気に戻さず、どの部分を緩めるべきかという議論を

——例えば3回目の接種率が90%以上になった場合などは、また取り扱いは違ってきますか?

違ってくると思います。まず注意の度合いが変わります。

例えばワクチンは100%の安全性を保証するものではありません。免疫がうまくつかない人もいるし、予防効果が次第に落ちてくることもわかっています。

それでもやる方に大きなメリットがあるので、みんなに使えるワクチンになっています。しかも今は予防接種法の臨時接種という位置づけですから、自己負担はありません。5類になると臨時接種という扱いはできなくなると思います

これを定期接種のA類に変えるとまた別の問題があるでしょうし、B類にしても自己負担がかかることになります。5類にすれば全ての問題が解決できるわけではないのです。

この病気に対する注意も続けつつ、緩めるべきところは緩めて少しでも現場や一般の人の負担を軽くする必要はある。

一般の人へのメリットもありますし、保健所や行政が全ての検査結果を集めて登録する、2類感染症並みの負担は減らせるのではないかと思います。

つまり、今後はもっと重症者、入院患者に対応を絞っていく。既に濃厚接触者の追跡調査や健康観察ができなくなっている保健所が多く出てきています。

今は、まだ全ての規制を解除することは危険です。注意を続けつつ、どこの部分を緩めた方がいいのか、という現実的な議論が必要だと思います。

(終わり)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。