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感染状況が良くなったら良いところを伸ばせるように 「ワクチン・検査パッケージ」どのように使えるか?

新型コロナの流行も落ち着き始め、気になるのは出口戦略。「ワクチン・検査パッケージ」はこのウイルスと共存しながら社会を開くための鍵となるのでしょうか? 感染症やワクチンの専門家、岡部信彦さんに聞きました。

新型コロナウイルスの流行もようやく落ち着き始めている。

この感染者数の減少はいったい何が効いたのか。

そして、これから徐々に社会を開いていくために提案された「ワクチン・検査パッケージ」は実現可能なのか。

新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに再び聞いた。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

※インタビューは9月21日午後に行い、その時点の情報に基づいている。

全国的な減少、何が良かったのか?

ーー感染者は東京をはじめとして、全国で急速に減ってきています。何が原因なのでしょうね。

いっぱい色々な原因があると思います。

医学的に考えて一番大きいのは、ワクチンで免疫ができていることです。

少なくとも医療関係者と高齢者の感染者数、重症者数・死亡者数がぐっと少ない数になっていることで、ワクチンの効果は証明され、接種した人のメリット、公衆衛生対策としてのメリットがあることがわかります。

実験的にウイルスに暴露させ、接種した人と接種していない人で、かかるか、かからないか見た方が効果は正しくはっきりしますが、それは倫理的に難しいので、可能な方法から推し量ることになります。

人が動けば感染症が広がるのは極めて基本的なことですが、そこにブレーキをかける要素は、人がピタリと動かないことです。しかし、これは人の社会を考えれば無理なので、ある程度の制限をかけることになります。

そして何よりもその人が免疫を持っていること、持たせることです。これは他の多くの感染症でも同様のことが言えます。

感染する可能性がある「感受性者」がたくさんいれば、そこで感染は広がります。「集団免疫(※)」とまでは言わないまでも、免疫を持っている人が一定程度広がれば、感染する人が減っていきます。感染者が出たとしても拡大は防げます。

集団の中で免疫を持つ人が一定以上いることで、免疫を持たない人も感染から守る効果が現れること。

また、心理的な要素を言えば、「大丈夫だ」と口では言いながら、みんなどこかで一抹の不安や心配を抱いていたはずです。そういう心配がめちゃくちゃな行動を避けさせたということもあるでしょう。5割とまではいかなくても、1 〜2割ぐらいは行動を減らしてくれたのかもしれません。

行動そのものが最初の緊急事態宣言に近い自粛になったと思います。みんな手をよく洗うし、マスクをつけている人も多いし、外出もなんとなく後ろめたくて早く切り上げている。そのような効果もあると思います。

よく暑さ寒さが与える影響について言われますが、自然減少として減った、というところもあると思います。必ずしも人の力だけではない。どんな病気でも自然に減少することがあります。人の力があればこそですが、自然の力もあったと思います。

一人ひとりの意識が積もって減少につながった

ーー第5波のはじめ頃に、専門家の方々は今度の流行は制御できないかもしれないと言っている人もいましたし、緊急事態宣言も聞いてもらえないのではないかと心配もされていました。でも一般の人はしっかり感染対策をしたということですね。

その通りですよね。

一人ひとりの意識が積もり積もって減少に持ち込んでいったところがあると思います。

もちろん一部で不十分な人、何もしない人もいましたが、多くの人は注意をしていたと思います。そういう人たちの行動には心から感謝したいし、その気持ちがあったからこその減少だと思います。

うまくいった時は良かったと称え合い、状況が良くなればほっとする。そういう時間を持たないと、対策は長続きしないですよね。ゆるゆるになってはいけませんが、ほっと息を整えることは必要です。

緊急事態宣言、9月末で解除できるか

ーーこのままのペースなら、9月末で緊急事態宣言は解除できそうですか?

確実な見通しはまだ何とも言えませんが、例えば川崎市でも先々週までは感染状況や医療の逼迫状況は真っ赤なステージ4でしたが、先週(第37週、9月13日〜9月19日)あたりから黄色のステージ3が出てきました。ステージ4から3へ戻ってきていることは、素直に受け入れられると思います。

ただ、それで一気に解放となるわけではなくて、ステップを踏みながらのダウンですよね。徐々に解除していく。

前にも話しましたが、敵に追われたウサギが穴の中にぴょんと逃げ込んだとして、敵がいなくなった頃を見計らって外へ出るときには、パっと飛び出すのではなくて、あたりの様子をキョロキョロと見ながら、少しずつ少しずつ顔を出していくと思うんです。それと同じではないかと思います

ーーそれでは、緊急事態宣言から「まん延防止等重点措置」に切り替えるのですかね?

右の急カーブを曲がっていたのに、急に左にハンドルを切るのは危険で、徐々に戻していって真っ直ぐに走るようなものです。少し行き過ぎたと思ったら、また反対側に少し戻す。そんな柔軟性を持たなければいけないと思います。

ただ、国という単位で方針を決める時は色々なプロセスがあり、一度決めたらハンドルを反対側に大きく切るのは難しいのも事実です。

規制を緩める一つの考え方が「ワクチン・検査パッケージ(※)」ですが、僕はこういうものを法的なルールとして決めて、実行することは難しいと思っています。

ワクチンの接種証明や検査の陰性の結果を提示することで、出入国や、イベント、飲食店の入場などの規制を緩める政策。

「良くなったらどうするか」を考える

ーー「ワクチン・検査パッケージ」の話が出ましたが、感染者が減り始めて、出口戦略に関心が移り始めていますね。

先を見るのが、皆さん早いですよね。まるで出口が明日のことのように話しています。楽しみを見出すという意味では、それはそれでいいのですが、やはりステップを踏んでいくことが必要です。

先にある良いことを見ること自体は良いと思うので、「ワクチン・検査パッケージ」のようなものを示すことは良いと思います。苦労して状況が良くなったのですから、それなりに良いこともあった方がいいでしょう。

ただ出口戦略はバラ色一色というわけではありません。特に危機管理上は、うまくいかなかった場合もどうするかを考えておかなければいけません。

僕ら専門家は手放しで喜んでいてはいないし、一般の人も「終息」ではなく、「共存」を考えなければいけません。このウイルスはなだめすかしながら長く一緒にいることになりそうです。

ーー政府は11月ぐらいまでには希望する全ての人にワクチンが接種できると言っています。それを見越して今から「ワクチン・検査パッケージ」制度について考えるよう提案されましたが、このような制度は本当に必要ですか?

危機管理は「危ない状態になったらどうするか」を考えるものですが、一方で、良くなったらさらに良い方向に進めることも考えなければいけません。両方を提示することが必要です。

「出口戦略」という言葉がよく使われますが、悪くなったらどうするか、良くなったらどうするか、両方のカードを持っておかなければいけません。

ーー「ワクチン・検査パッケージ」は「良くなったらどうするか」の一つの例を示したものなのですね。

「良くなったらどうするか」を実現するために、政治的な主導だけでなく、民間の力、人々の考えも必要です。「良くなったらこういうことができるんだな」とわかれば、みんな良くなる方向に向かっていくと思います。

あれしちゃだめ、これしちゃだめ、という出し方ばかりだと、みんなしょげてしまい、不貞腐れてしまいますよね。

インフルワクチンよりも多くの人の接種が前提

ーー経済もこのままでは潰れてしまいますし、安全に社会を開いていくための一つの提案ですね。

この感染症が終息する、絶滅できるものであれば、そこを目標として、もう少し頑張ることもできますが、そうではないとすれば、ある程度の存在を認めなければいけません。

「存在を認める」のは厳しい面もあって、病気なので、残念ながら亡くなる人もいるということを織り込まなければいけないということです。

ーー亡くなる人が一定数出ることも織り込みつつ、緩和できる行動は緩和する。ただし野放図に緩和したら感染者は増え、重症者や死者が増えますから、条件を付けながら緩和していくということですね。

そうですね。

ーー前提としてはワクチン接種率がどれぐらいになったら、この戦略は取れそうですか?

ワクチンで防げる病気を考えると、インフルエンザワクチンでは60〜70%ぐらいの効果があります。麻疹・風疹あたりで97〜98%の効果があります。

病気の種類、ワクチンの種類が違うので一概に数字で示せないところですが、一般的には70〜80%の人が免疫を持っている、ということが必要かと思います。

それである感染症がなくなるということではなく、爆発的流行は収まるけれども、散発的な発生はあるということです。

いまの日本のように50%ぐらいが接種を受けていれば爆発的流行は抑えられるかもしれませんが、感染あるいは病気そのものは完全に収まりません。学校の閉鎖もあるし、施設での集団感染はあり得ます。学級閉鎖などもあるでしょう。

しかしワクチンがあることで大規模な感染爆発は防げ、重症化を予防し、感染者数を少なくしています。

ワクチンが有効な麻疹でいえば、80%の接種率ではかなりコントロールできていても、どこかでウイルスが出てくると小規模な流行が起きますし、何年にいっぺんかは大規模な流行が起こります。 

これが接種率が90%以上になると、特定のところしか感染は出なくなってきます。97〜98%になれば、病気そのものを封じ込めることが出来ます。

接種率にもよりますが、新型コロナの場合は誰も免疫を持っていなかったわけですし、全年齢を対象にしなければなりません。ワクチン接種の実施がすごく難しいし、ワクチンそのものもたくさん必要になるし、お金もかかる。一気に全員は難しいです。

それでも自然感染で広がるのを放ってはおけません。インフルエンザワクチンは年間でおよそ6000万人分が供給されています。新型コロナはインフルエンザ以上の警戒感は必要で、インフルエンザ以上の人が接種を受けてくれることが必要でしょう。

仮に毎年7〜8割の国民が受けるとすると、日本の人口を1.3億人として9000万人から1億人分は用意しなければいけませんが、これは計画的にやればできることです。

これぐらい増えてくると、接種していない人、できない人、接種したけど感染するブレイクスルー感染もあり、免疫が弱いところでウイルスは生き続けますが、大・大流行やパニックは防げるはずです。

法的なルールで固め過ぎると「差別」「分断」を生む恐れも

ーーそうなると、ワクチン・検査パッケージのような戦略が取れるわけですね。

ただし、それを法的なルールとした方がいいのかどうかは微妙です。

最初は大雑把な取り決めでも、例外的なケースへの配慮から往々にして次第に細かい取り決めになってくるので、それによる窮屈さや弊害が出てきてしまうことがあります。例外に対するルール作りをどうするかも必要になります

そしてルールであれば「守らなかったらどうするか」ということも考えなければならなくなります。

「国民的議論」とは大上段にかぶった言い方ですが、みんなで考えてみようよ、ということだと僕は思っています。

ーー細かい取り決めをすると「窮屈さ」と「弊害」が出てくる、あるいは例外規定を設けなくてはいけないという話ですが、例えばどんなことが想定されますか?

例えば飲食店に接種証明を持っていくとします。アプリを作ることを考えるかもしれません。

その場合、忘れてしまった人はどうするのか、1回しか接種していない人はどうするのか、提示しないで入った人をどうするかという問題が出てきます。

また、接種はしたいけれど体調や持病で接種ができないという人への例外をどう決めておくか、「私はワクチンが大嫌い」という人も含めてそのような人々が店に拒否されるとなると、差別だと言われる可能性もあります。

そういう各論を色々考えていくと、難しい。

でも、あるお店が「うちのお客さんは接種しておいてくださいよ」と客に求めることは、法的なルールではないし、いわばローカルルールと言っていいかもしれない。店もお客を選ぶ権利があります。

法的なルールになってしまうと、接種を受けた人と受けない人の「差別」はどうしても起こります。

この「差別」が、極端な社会的分断を生まないようにやっていかなければいけません。法律のようなもので決めてしまうと、社会がギクシャクしてしまう気がします。

民間に任せるべき?

ーー全国で統一の法的ルールを設けるのではなく、民間に任せた方がいいというのが先生のお考えですか?

使いやすくなるように民間で考えた方がいいと思います。いや、皆で考えた方がいい、という意味です。そしてそれが定着していくのではないでしょうか。

「麻疹のワクチンをうっていないなら学校に来てはいけません」という法的なルールが作れない国で、このワクチンだけ法的なルールを作るのは難しいと思います。

だけど、「学校に入る前にちゃんとワクチンを接種しましょうね」という呼びかけはできるし、現在もしているわけです。

アメリカなどではワクチンを接種していないと入学させないという学校法があります。彼らはそれで麻疹の排除(elimination)の達成ができた、と言っています。日本は「学校に入る前にちゃんとワクチンを接種しましょうね」という呼びかけで麻疹の排除が達成できています。

ーーしかし出入国の制限を緩めることなどは、ルールがないとまずいですよね。

それは国際的な取り決めです。検疫を通過する時に、接種しているかしていないか証明書を確認するので、実施も簡単です。

例えば黄熱病のワクチンの接種を受けてなければ黄熱病流行国には入国ができません。そのために出国時に注意も受けます。接種を受けていなければ、日本は離れられても、向こうで入国できません。

しかし、こういったことは日常的な出来事ではありません。

ーーそうした出入国時のチェックは他の様々なワクチンでやってきたことなので、コロナのワクチンが加わろうがそんな大ごとではないわけですね。

国際間の取り決めとしてはできるし、やりやすいでしょう。海外旅行は、ビジネスでも遊びでも非日常的なことで、毎日の生活の中であることではありません。

「接種していないと入れない」ではなく、「接種しているとこんなお得が」に

一方、出入国以外の国内の日常的な場面で使うことを考えると、色々と問題が考えられます。

法的なルールを定めたら偽造まではやらないと思いますが、すり抜ける方法もたくさんあります。トラブルが起きないようにやるには、相当、この制度が社会に浸透していなければいけません。法的なルール作りをしても、一気にそれが浸透して、うまく使いこなせるかどうかは疑問です。

ーー具体化するには様々なハードルがありそうですね。

でも、ワクチンの接種を受けることで「お得感」は持ってもらって良いと思います。せっかく痛みや腫れを心配して受けたんですから。

例えばJリーグで、サッカーを観戦にきたお客さんに「すみませんけれども、うちのルールではサッカーを見にくる人はできればワクチンをうっておいてください」という呼びかけはできると思います。

ーー接種証明を見せなければ入場できない、というのではなく、お願いベースですね。

そしてその時に、接種の証明書を見せてくれる人にはお土産にグッズをあげますと特典をつけることもできます。接種している人でも欲しくない人はいるかもしれませんが、グッズ目当てでワクチンを受けてくれる人もいるかもしれません。こういう使い方はできるでしょう。

すべてのことに厳密に「接種している・接種していない」を確認するのはなかなか難しいのではないでしょうか。利用者が受け入れやすくするための工夫が必要です。

(続く)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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