• covid19jp badge
  • medicaljp badge

2度目の緊急事態宣言、効果はあったの? このタイミングで解除して大丈夫? 専門家に聞きました。

2度目の緊急事態宣言が解除されましたが、東京では再び感染者が増え始めており、「このタイミングで良かったのか」という批判の声も聞かれます。感染症の専門家に疑問をぶつけました。

1都3県(埼玉、千葉、神奈川)に出されていた緊急事態宣言が3月21日、解除されました。

しかし、東京は再び感染者が増加傾向にあり、感染者が東京に次いで多くなっている宮城県や仙台市は独自の緊急事態宣言を出しています。

2回目の緊急事態宣言は効果があったのか、このタイミングで解除するのは適切なのか。

新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんにお話を聞きました。

※インタビューは3月20日午前中にZoomで行われ、その時点の情報に基づいています。

2度目の緊急事態宣言 効果はあったのか?

ーー緊急事態宣言が解除されます。先生はいつも「劇薬」と呼んでいますが、副作用を上回る効果はありましたか?

効果があったかなかったかの2択で答えれば、あったと言えます。

確かにお正月明けに発令した時点で、「自然に下がり始めている」とは見ていました。しかし、それをさらに押し下げる効果はあったと思います。

何もしなかったらどうだったかは仮定の話なのでわかりませんが、少なくとも当時は多くの人が「このままではだめだ」と思っていましたね。そこで緊急事態宣言が出て感染者の数をさらに下げる効果はあった。

緊急事態宣言は、感染者数の増加を抑えるという目的ももちろんありますが、なんといっても入院患者を引き受ける医療機関がパンパンになり始めているということをどうにかする必要を強く感じました。

「医療逼迫」という言葉がすべての医療機関に当てはまるとは思えませんが、現実に新型コロナの患者さんを引き受けている病院がほぼ満床になりかけていました。これは病院ごとの努力でどうにかなるものではないということで決めたのが緊急事態宣言です。

軽症の人は、後方支援をする病院や療養施設など引き受けられるところで引き受けられるようにし、新型コロナを専門的に診る病院は重症者を集中的に診るという棲み分けもでき始めました。

そこで入院患者数が減ったことで、中等症や重症患者を診る病床としては落ち着いてきました。

これで他の診療科への圧迫、たとえば他の病気で搬送される救急患者などの診療が通常近くに戻ってきました。

重症の患者さんをきちんと受け入れられる。軽症の方には安心して休んで療養していただく。誰が何の病気になっても通常の医療は継続して行われる。これが私はもっとも大切なことだと思っています。

病床が落ち着いてくると、保健所も少し余裕が出てきます。引き続ききつい状況ではあっても、一息つける状態にはなったと思います。

そういう意味で緊急事態宣言の効果はあったと思います。

解除のタイミングは適切か? 増加傾向に転じる中

ーー2回の延長を経た上での解除ですが、このタイミングは適切だったのかという批判や疑問が出ています。東京は再び増え始めているタイミングです。

宣言の約束事としては、「医療の大変さをどうにかする」ということがまずありました。医療が落ち着いてきたのであれば、国民全体にきつい制限、私権の制限をかけるのは徐々に解放しなければならないのではないかという考えです。

少なくとも同じ状態を続ける意味がなくなるだろうと思いました。

もちろん増加傾向に転じているのは十分危惧しなければいけないことです。

ではそのままの状態で進むならば、「緊急事態宣言中の緊急事態宣言」を上乗せしてかけなければいけない事態になります。それは難しいし、際限がなくなります。

そして、すでに一般の人の気持ちは、大変だと思いつつもこの状態に飽き飽きしています。嫌になってしまっているのですね。「緊急」は「緊急」であって、緊急が「平常」になってはいけないと思うのですね。

ーー直前に2週間延長にもなりました。これはどういう狙いがあったのですか?

これも色々議論はあったのですが、2週間でさらに感染者数が順調に下がることは僕はあまり期待はしていませんでした。

人は動き始めていたので、そのまま素直に減少することはないだろうと思っていました。

感染者の減少に少し遅れて、退院数の増加が入院数の減少を上回り、病床は少し楽になってきます。医療体制の余裕が本当に安定するか見たい、というのが僕にとってのこの2週間でした。

また、感染者数の増加が今後あるとしても、少しでもそれを先送りできるよう粘りたい、卒業式・入学式・人の異動・そしてワクチン接種との重なりを避けたいという気持ちでした。

ーー2週間延長は分科会の中で全員一致だったのですか?

分科会の中ではほぼ一致でした。ただ、「2週間延長では甘い」という人は当然いますし、今回の解除の決定も「本当に今開けていいのか?」という意見は当然ありますね。

今後の緊急事態宣言の実効性が薄れないか?

ーー批判の中には、このタイミングで解除して、すぐに増えてしまったら緊急事態宣言への信頼が失われるのではないかという声もあります。「どうせやっても効果がないなら従わなくていい」と、「最後の切り札」としての力を失ってしまうのではないかという懸念です。

緊急事態宣言によって、流行の波をぺちゃんこにすることは期待できないと思います。パーフェクトな道具ではありません。押し下げることが最大の目的です。

だんだん皆さん期待が大きくなってきます。最初は感染者を下げるというのが目標だったのが、そのうちに500人未満といい、200未満といい、ステージ4を3にする、いやいややはり2まで下げたい、となります。

例えば試験の成績でも、一生懸命勉強したら50点や60点取っていたのが70点、80点まで上げられるかもしれませんが、そこから90点、まして100点に持っていくのは至難の業です。

新型コロナ対策もこれと同じで、いったん目標のところまで達したなら、ちょっと息を継いで、その間、次の作戦を考えましょうということも必要ではないかと思います。

人は次々と対策を続けていると、辟易してくるものですよね。子育てなどでも同じですが、どこかで褒めたり、休んだりして、次に備える時間がなければいけない。粘り強さも大切で、そのための息継ぎは作ったほうがいいだろうという思いです。

ただ、残念ながら、それは次の幕への息継ぎで、これまでの対策を「幕引きだ。全部終わりにしましょう」ということではありません。できる対策は続けていかなければいけません。新たな方法も採用していく必要があります

リバウンドの兆し、人々の気持ちに与える影響は?

ーー宮城で感染者が増え始め、東京に次ぐ数となっています。東京でも増え始めていて、リバウンドの兆しが見え始めているタイミングの解除だと、「これまでの努力は無駄だったのか」という気持ちが強まるのが心配です。

それは難しい判断だと思いますが、ここは地域の状況と対策・判断を重視、尊重すべきところと思います。

解除すると「それで大丈夫なのか?」という声があがり、そのまま宣言を続けると、「飲食店や観光業の人たちが潰れてしまう。どうするのだ」という声が出てきます。

結局、どちらに転んでも批判はあると思います。ダメなところはあるし、いいことばかりではないと思うのです。

ただ医療の側としては、医療体制が落ち着いてきたことは事実として見てもらう必要があるし、それで終わりではなくて、次の幕に備える幕間だと思ってほしいのです。

医療は多くの病気ではない方にとっては一見無関係に見えますが、いつ、どこで何の病気でご自身の問題になるかもしれない、という点で身近なこととして捉えて頂きたい。

それに、増える兆しに不安を持ちながらも、街は人であふれていますよね。

ーー銀座も渋谷も池袋も人通りが戻っています。

あの人たちの多くはみんな心の底から安心しているわけではないと思います。それでも遊びに出てしまう。人が危ないと言わないから大丈夫、ということなんでしょうかねえ......。


宣言解除と言っても、警戒感をゼロにするわけではなく、警戒感を持ちつつ次の手を考える時だと思ってほしいです。


また、もし緊急事態宣言継続ということで「不要不急の外出」を全面的に自粛となれば、卒業式はようやくやっているところですが、入学式はできなくなったり、新学期の授業など「要・急」といいながらも子どもの教育でも直接の問題が出てきます。

大学入学者や、社会人1年生、人事異動による引っ越しはどうなるでしょう。


人の移動が増えれば感染者が増える。これは感染症の原則です。

これをわかってもらえないと、300人が500人になり、700人になったら「解除した責任はどうなるんだ」と責めるのはおかしいと思います。しかしこの中で重症者が困るようなことは何としても避けたい思いです。


今の感染者数は昨年11月と同じぐらいのレベルですが、当時の「これは危ない」という状況と比べれば、医療体制は良い状況にはなっています。


それもあって、2週間という準備期間は必要だと思っていました。ここで粘っておいて、患者も減らし、病床にも余裕が出てくれば、少し人の移動や異動の影響があっても持ち堪えられるという思いがあるのです。

リバウンド対策どうするか? 一般の人の対策は同じ

ーーリバウンドは含み済みということですか?

「リバウンド」というのは新しくでてきた言葉ですが、基本は「感染症は人が動けば広がる、増える」ということです。そこは、対策に関わる人も一般の人々も理解と覚悟のいるところです。

そうなった時に、重症者にちゃんと受け皿があるということが人々の安心感につながります。残念ながら亡くなる方もいるかもしれませんが、何も手を尽くせずに亡くなるのではなく手を尽くす。尊厳を保つ。これは必須です。

そして、軽症の人は安心して休むことができる。きちんと経過観察をしながら、何かあったら医療が対応しますよという体制を整えれば、安心につながると思います。その状態を確保するための宣言でした。

ーー政府はリバウンドの予防策として5つの柱を掲げていますね。「飲食における感染防止策」「変異株の監視体制の強化」「戦略的な検査の実施」「ワクチン接種の推進」「医療体制の強化」です。先生は一般の人にはどういうことに気をつけてもらいたいと思いますか?

「リバウンド」の定義ははっきりしませんが、解除してある程度の数が増えるのは仕方ない。でもそれが「大」流行にならないような工夫をしなければいけません。

一般の人にとっては、今、変異ウイルスであろうがこれまでのウイルスであろうが、感染症に対する基本は同じです。

やはり3密を避け続けないといけませんし、飛沫感染が中心ですから飛沫防止をしなければいけません。でもそれを徹底しすぎてしまうと人と人との会話や必要な接触も成立しなくなります。

そうではなく、会話をするならばマスクをし、一定の距離は適度に保つ。つまらなく感じるかもしれませんが、せっかく習慣にもなったことを今すぐには止めなでください。

ーー謝恩会や歓送迎会、入学・入社祝いのパーティーなどはやめておいてほしいということですか?

やり方次第ではできるとは思うのです。ついみんな今までのような派手な、ワイワイガヤガヤの集まりをイメージすると思います。でも「卒業を感謝して祝う」。そういうことはワイワイガヤガヤなしでもできると思うのですよね。

「一生に一度のことなのに」とよく言いますが、長い生涯の中にはいっぱいいろんな記念すべきこと、楽しいことが出てきます。楽しみを1回失うだけで人生が失われるということにはならないと思います。楽しみは見つけ出すもの。そんな思いです。

(続く)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。