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ワクチン接種の不安を軽くする工夫 アメリカにはない医師の診察が日本で必要な理由

接種前からワクチンに対する不安が囁かれてきた日本。不安を軽減するために、行政は、報道は、そして接種現場は何ができるのでしょうか?

日本でも2月17日から接種が始まった新型コロナウイルスのワクチン。

国に政策を提言してきたワクチンのスペシャリストは、このワクチンに対する不安にどう対処すべきだと考えているのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、WHOでは予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員も務める川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんにお話を聞きました。

※インタビューは2月17日午後にZoomで行われ、その時点の情報に基づいています。

メディアに望むこと「稀な症状か、普遍的な症状か区別して」

ーー接種が始まる前から、「海外で接種後に死亡者がこれぐらい出た」と因果関係があるように報じたり、脈絡のないアンケートで「これぐらいワクチンをうちたくないという人がいる」と不安を煽ったりする報じ方が、メディアで相次ぎました。ワクチンの報道について改めてご意見を聞かせてください。

なんといってもやはり科学的根拠に基づいて報じて頂きたいです。また、接種後に起きた症状が多くの人でも起こり得る普遍的なことなのか、ごく稀に例外として起きたことなのか、区別してほしいです。

報道は、ごく稀でも、気の毒な状況を掘り起こすことが役割の一つでもあることは十分理解できます。しかし、そういうつもりで報じているのか、普遍的な症状について注意喚起するために報じるのか、明確にすべきだと思います。

もしそれを判断する自信が持てないならば、そこに妙ちくりんな非科学的なコメントを付けないで頂きたい。

ーー不安が煽られますよね。医療者の先行接種が終われば、4月以降に高齢者の優先接種が始まります。おそらく接種後に亡くなったというような事例は出ると思いますが、その取り扱いはどうするべきだと思いますか?

それは淡々と発表すべきだと思います。そして「きちんと調査をします」と行政は示すべきでしょう。調査後、因果関係がありそうなのか、なさそうなのかを伝えるべきです。

もし不明であるなら調査をし、大体どのくらいの期間でその時点での結論を出します、と言ったことも伝えるべきだと思います。

「有害事象・副反応疑い」と「副反応」は違う

ーー2月15日に厚労省の副反応検討部会で新型コロナワクチンが検討された時、当初、接種後の有害事象(※)について、「副反応報告」と当初言われていたけれど、「副反応疑い報告」となった意味を伝えるべきだと構成員の一人が指摘していました。多くのメディアが、この違いをきちんと把握していません。

※有害事象:治験薬や医薬品、ワクチンなどの薬物を投与された者に生じる、好ましくないまたは意図しないあらゆる医療上の事柄。投与した薬物との因果関係(副作用など)があるかどうかは問わない。

僕が副反応検討部会に入っていた頃に、「疑い」という言葉が入るようになったのです。これは歓迎しました。国に報告されるのは「副反応」の届出ではないのです。あくまで副反応の疑いがあったもの(有害事象)の届け出で構わないのです。

異常反応かもしれないシグナルとして「疑い」を幅広く収集しておかないと、本物の副反応が早く見つかりません。本物の副反応だけ見つけようと思っても、稀なものであればあるほど見つけにくいわけですから、周辺の情報も含めて広めに情報を得るのです。

周辺情報も含めて集めているのだという認識がないと、接種後の健康異常の総数は〇〇人、心筋梗塞が〇〇人、死亡者が〇人、と報告されると、それが全て副反応だと勘違いしてしまうのですね。あくまで「有害事象」として届けられた数として理解しておくべきと思います。

ーーメディアはそこを理解してこれから出てくるデータを見ることが大事ですね。

本当にそうだと思います。

ーーHPVワクチンの時は、それが徹底されなかったから「有害事象・副反応疑い」を「副反応」のように報じた問題がおきました。そこで不安が広がりました。

その通りですね。

ーー現在のワクチンについての政府や行政の情報提供は問題はないですか?

現時点ではいいのではないでしょうか。 承認審査をしている時期はデータは表には出せませんでしたが、承認後はきちんと公表していますね。

厚生労働省:新型コロナワクチンについて

厚生労働省:ファイザー社の新型コロナワクチンについて

うつべきでないのは誰か? 持病のある人は?人工透析をしている人は? 妊婦は?

ーーこのワクチンの対象者は、国によって少し分かれていますね。ドイツでは、アストラゼネカ社のワクチンは65歳以上は推奨しないと示しているようです

日本でも高齢者も含めて身体状態の悪い人は避けることになっていると思います。

新型コロナについて、重症化のリスクが高い病気は、ワクチンに対してもハイリスクです。説明をきちんと受けた上で、接種を受けることが必要です。

またもし不安な症状が出たらどこに相談するのか、接種する側は説明しておくべきで、受ける側もそれを知っておくべきです。

ーー除外はしないまでも、リスクについて説明を受けて選択するということですね。

先日「人工透析を受けている人はどうしましょう?」とか、「人工呼吸器を付けている人はどうしましょう」と聞かれたのですが、それによって安定した状態にあるのかどうか、だと思います。全身状態が悪い場合は、無理してやらない方がいいと思います。

ーー難病などで慢性的に人工呼吸器を付けている人もですか?

そこは程度の問題です。常に人工呼吸器を付けて、状態が落ち着いている人ならいいですが、人工呼吸器を付けたばかりの人まで急いでやるべきかと言えば、ノーです。一人一人の状況を見極めるべきだと思います。

ーーそこは主治医と相談の上で判断するということですか?

そうですね。主治医とご本人の話し合いだと思います。ご本人が、「感染のリスクの方が怖いから接種を受けたい」とおっしゃれば、原則接種OKだと思いますが、全身状態からワクチンをすぐに受ける状態ではないと医師が判断するのであれば「ドクターストップ」でしょう。

ーー妊婦さんに関しても除外はしていないですね。

治験としても現段階で十分な数が対象となっていないので、基本的な接種対象とはなっていません。多くの他の薬やワクチンと同じ扱いで、接種しないことによる感染のリスクが上回る場合は、接種してもよいということです。

ワクチンが直接胎児に与える影響は動物実験でも確認されていません。対象者が少数ではありますが、妊娠中の(または接種後に妊娠した)人への接種での異常反応は報告されていません。

ただ、妊娠というのは、母体だけではなく、お腹の中の赤ちゃんに影響を与える可能性がありますから、それぞれが慎重に判断すべきだと思います。

接種者が増えるこれから、何をに気をつけていくべきか?

ーーこれからどんどん接種者が増えます。何を気をつけて進めていくべきだと思いますか?

接種後の健康の変化については細かいところに気をつけながら見ていく必要がありますが、接種後に何か問題があった場合は、それが普遍的な問題なのか、個別の稀な問題なのか、常にそのような目で動きを見ていくべきです。

ワクチン接種は焦って進めてはいけません。もし、予約した日に体調が悪いなら、その日ではなく、少し様子を見るなどしていただきたいともいます。

とにかく慌てないことです。注射を受けるにあたっても、バタバタとあわただしくするのではなく、「今日はもう半日は潰す」というつもりで予定を立てて余裕を持ってください。

また、数字の争いに見えるようなことは、ぜひやめて頂きたい。つまり、自治体ごとに、「青森県は接種率○○%」「東京都は○○%」「川崎市は○○%」と表を作って、競争を煽りかねないような扱いは、やめて頂きたい。

各自治体で色々なやり方があり、そこの地域にとってやりやすい方法をとるようにしています。一律にはいきません。接種率などの数字を競うのではなく、安全性、利便性を競っていただきたい。

どうしても数字が出ると、〇日までに何%達成しなくてはいけないというような目標が作られやすくなります。危ない数字です。

ーー焦って半強制的にうたせるようになるという懸念ですか?

そういうことにはならないと思いますが、「どうしてうちの○○県は、隣の○○県に比べて達成率が低いのだ!」などと圧力がかけられることが考えられます。

ーーそれが悪い効果を与えかねないということですか?

そうです。副反応に対しての悪影響というより、接種をする側が焦ってしまう。

「時間を少しでも短くしたいから、問診や予診の時間を削ろうか」とか、「午後6時までやるはずだったけれど、夜9時までやろうか」とか、スタッフの疲労・疲弊につながっていく。そうなると、リスクの見逃しやミスを起こしやすい状況になります。

不安を軽減する工夫

ーー患者さん自身も焦るなとおっしゃっていたのは、その不安が副反応に繋がる可能性があるのでしょうか?

心理的に今やらなくてはダメと追い込まれてしまうとそんな可能性は出てくるでしょう。今日はできなくても後日、他の会場で、と融通がきくようにしないといけないと思います。

ーー接種会場の手続きはうまく回りそうでしょうか?

それはやってみないとわからないですね。今、各自治体で一生懸命、準備しています。医師会の先生たちも頑張ってくださっています。

先日、川崎市でリハーサルをやりましたが、予想よりうまくできたものの、修正しないといけないところも見えました。

ーー医師の診察は必要なのですか?アメリカの接種状況を聞くと、医師の診察は飛ばしていますね。

アメリカは元々そういうところです。ドライブスルーでも薬局でもすぐ接種が可能となっています。

日本では予防接種事故の歴史がありますから、一人一人の体調を聴いて、診察をしてからやろうと言い続けてきた国が、いきなりアメリカ方式などにすることが良いとは言えません。リスクを抱えることになり、何か生じた時に「十分診ていなかったのでは…」などと言われかねないことになります。

そこは時間を一定程度かけなくてはいけません。

ーー事前に細かく予診表に書き込んでいても、日本では医師の診察は必須なのですね。

国内での承認が下りたので、予診票の見本なども出来上がりました。川崎でも無料クーポンと同時に予診表を送れるようにしているところです。あらかじめ予診票に書いてもらって来場してもらうことになります。

持病のある人は、主治医の先生とあらかじめ相談などしておくのも良い方法と思います。

僕は小児科医として、子どもたちへのワクチン接種は、日常的にやってきました。当然ワクチン接種前に診察をするのですが、「そんな簡単な聴診で異常の判断ができるものですか?」などと聞かれることがあります。確かに聴診器でわかることなんてそんなにあるものではありません。

だけど、聴診器を当てている間に、お母さんの顔色を見たり、子どもに「ちょっとドキドキしてるんじゃない?」と声をかけたりする。その意味がとても大きいのです。流れ作業でどんどんうっていくのとは大きな違いがあります。

ーー「大丈夫ですよ」とする儀式的な意味があるのですね。

儀式というより道具です。

以前、予防接種法を改正して、医師が診察する(予診を尽くす)ということにした時に、内科の偉い先生から「そんな短時間で何がわかる」と実にまともなご意見を言われました。まさしくその通りです。

しかし、僕はその時に、「聴診器は音を聴くだけの道具ではありません」と答えました。呼吸音や心音だけではなく、使いようによっては心の音も聞こえるのです。

患者さんの方も「ちゃんと診てくれた」という言葉を使いますね。医師の診察で心理的な安心を得ているのです。個別接種の方が本当はいい。集団接種から個別接種にできれば早く移行したいです。

うたない選択も尊重

ーー他にこういう人は受けない方がいいというのはありますか?

ステロイドや抗がん剤など免疫を抑える薬を飲んでいる人や、持病を持っている人は主治医に事前に相談した方がいいですね。

また、不安で不安で仕方ない人については、歯を食いしばってまで受ける必要はないと思っています。

ーーうたない選択もあっていいですか?

それでいいと思います。ものすごい不安を抱えてまで接種を受ける必要はないと思います。「ワクチンが嫌だ」という強い気持ちを持っている人も同様です。

ただし、その人は今まで通り、いや、それ以上に感染に注意して日常生活を送って頂きたいと思います。

そして、不安な気持ちやワクチンは嫌だという気持ちを周りの人に感染させないでいただきたいと思います。

ワクチンをしないという選択はもちろん尊重されます。しかし、「あなたもうつのはやめなさい」と接種しようとする人の気持ちを削がないでほしいと思います。接種しようとする考えも尊重してください。

接種後はいきなり全開ではなく、「そろりそろりと」生活を緩めて

ーーうった後1〜2週間で抗体ができ始めると言いますね。

1回でも一定の効果があるかもしれないですが、2回接種に比べたら不十分なので出来るだけ2回接種を受けて頂きたいと思います。

ーー1回目の3週間後に2回目接種をして、十分な抗体がつくわけですね。その後に、「よし!ワクチンうったからカラオケだ!」とか、「飲み会だ!」というのはどうですか?

今の状態が全体に落ち着いてきたらそれもできるかもしれません。

95%の発症予防効果というのは、100人がワクチンを接種したら、95人には効いたけど、5人には効かなかった、というわけではありません。

何もしなければ100人発症するところを、ワクチン接種を受けた100人では5人の発症に抑えられた、ということです。別の言い方をすると、100-5=95人の発症を予防した。これが、予防効果95%の意味するところです。

いずれにしてもワクチン接種をしても、残念ながらかかってしまう人も少数ながらいるわけです。「ワクチンをうてば全面的に注意の必要なし」というわけではありません。

新型コロナだけでなく、感染症は今せっかくインフルエンザも抑えられています。元の生活に急激に戻せば、インフルエンザが増えてしまう可能性もあります。感染症の基本対策はこれからも注意していただきたいです。

ただ、そういう警戒を少し緩めるためにもワクチンをうっているので、エンジョイできるところはエンジョイした方がいい。それが油断に結びつかないようにしてください。

ーーしばらくはゆっくり進んでほしいということですね。

そろりそろりと進んでほしいです。みんなで一斉に解禁してしまうと、免疫を持っている人はまだわずかですから、そこでまた広がることになります。

岡部先生は受けますか?

ーーところで、岡部先生は新型コロナのワクチンは受けますか?

自分が接種を受けたくないワクチンは、人に勧めることはできません。これは今までのワクチンでもそうでした。

新型コロナワクチンについていえば、これまではデータがオープンにはなっていなかったので「受ける」とか「受けない」とか言えませんでした。今は公開されたデータをみているので、「自分なら受けます」ときちんと言えます。

ーー先生の優先順位はどれぐらいなのでしょうね?

僕は高齢者ですからね(笑)。

あとは、こういう研究所にいますから、医療関係者になるかどうかでしょう。研究所では検体を扱ったり、疫学調査をやる人もいます。疫学調査は患者さんや感染者に直接会って話を聞いたりもします。そういう人は医療関係者と見なすべきであるという意見と希望を出しています。

所長なんて何もやっていないだろうと言われたら、それまでですけれども(笑)。まだ僕の順番は決まっていません。

ーー読者へメッセージをお願いします。

ワクチンは、病気を防ぐのにいい道具だと思います。でも具合が悪そうな時や不安な時は慌ててうたず、落ち着いてできる時にやった方がいいと思います。

接種した後は、インフルエンザワクチンなどよりは反応が強そうですが、不安にならずに落ち着いてできる余裕を持った方がいいですね。

接種後の不具合が気になるという場合、自治体が相談窓口を決めておくと思います。一般の人が接種する段階になったら、そういうところも確認してほしいですね。

受けようと思う人が受けて初めて効果が出るのであって、「受けさせられる」という気持ちで受けると、良いものも悪くなると思います。

自発的にまず自分を守り、ひいては自分の周り、社会を守るためのワクチン接種である、というのが成熟した社会だと思います。今回はそれに加えて緊急性もあるので、国として速やかにワクチンが多くの人が受けることができようにする方法を提供しているわけです。

おいしい料理があっても、それを食べるか食べないかは、最終的には食べる側の人の判断です。

ーー嫌がる人の口にねじ込んではいけないですね。

ねじ込んではいけません。僕は「ほら、美味しいのができたでしょう? どうぞ」という感じです。「私はまずい」「私は嫌い」という人まで無理にお勧めするわけではありません。私はもちろん美味しく食べたいと思います。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。