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8月初めに再び緊急事態宣言レベルの感染拡大 8割おじさんこと西浦博さんが最新のシミュレーションを公開

東京五輪開幕が7月23日に迫る中、理論疫学者の西浦博さんが最新のシミュレーションを公表しました。高齢者がワクチン接種を順調に終えても、8月初めに緊急事態宣言を出すレベルに感染拡大すると予測しています。

コロナ禍での東京五輪開催に反対の声が上がる中、変異ウイルスの脅威も気に掛かる。

政府は必死にワクチン接種のスピードを加速させているが、五輪開催までに国民全体にワクチンが行き渡るのは不可能な見込みだ。

高齢者の接種が完了した後に感染状況はどうなるのか。そして、新たな脅威となり得るインド由来の変異ウイルス「デルタ株」の影響はどうなのか。

京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんは6月9日、高齢者のワクチン接種が順調に進んだとしても、8月初めに再び緊急事態宣言を出すレベルの流行が来るとする最新のシミュレーションを公開した。

このデータは同日開催された厚生労働省のアドバイザリーボードでも提示された。

高齢者接種完了でも、重症病床が不足する流行が起きる

このシミュレーションは、西浦さんが政府関係者から「7月末までに高齢者の接種が完了すれば、感染者も減り、集団免疫もできて8、9月は問題なくなるのでは?」と問われたのを受けて計算された。

西浦さんは今回、65歳以上の高齢者の多くが7月31日までにワクチン接種を完了した場合の感染状況を予測した。

東京五輪開催の影響や、今後置き換わる可能性があるインド由来の変異ウイルスの影響、高齢者以外の接種の影響は加味していない。

6月21日に緊急事態宣言が解除され、その後、東京で大阪の第4波と同じレベルの感染拡大(1人当たりの二次感染者数である実効再生産数1.71)が起きた場合の流行シナリオを想定し、年齢別の感染者数や重症者数を予測した。

60歳以上の接種率が100%、80%、60%、0%と4パターンでシミュレーションしたところ、当然、接種率が高くなるほど高齢者の患者は減る。ただ、他の年齢層の感染者が減ることはなく、高齢者の接種を徹底するだけでは、集団免疫は成立しないことが示された。

その結果、ほぼ100%の高齢者で接種が完了したとしても、何も対策をうたなければ、重症者病床が不足するほどの流行が起きることが予測される。

6月21日に緊急事態宣言を解除し、その後、再び宣言を出さず、かつワクチンの接種がなかったら、重症患者数は9月下旬に東京都内で10万人に達する。しかし、仮に高齢者の接種率が7月末までに70%に達したら、約3分の1まで抑えられる。

その場合、主な重症患者は、ワクチン未接種やワクチンの効果がなかった高齢者や、中年や壮年世代が中心になると予測されている。この影響について、西浦さんは二つの影響があると述べた。

「中年・壮年世代が重症病床を占めれば、二つの影響があると言われます。一つ目は、現場の用語で『フルファイト』と言いますが、何としてでも助けたいというケースが増え、一人一人に精密に治療やケアの努力を要することになる。もう一つの影響は、生存年数の損失も大きくなることです。まだもう少し働ける世代の命が奪われるインパクトは社会としても大きくなる」

8月初めに再び緊急事態宣言レベルに 3ヶ月続行が必要

一方、8月上旬に重症病床が7割うまった状態で4回目となる緊急事態宣言を出した場合は、都内の重症患者数は最大で1500〜2000人の間に抑えられる。

ただし、重症者向け病床の占有率が30%を切るまでには、11月中旬まで3ヶ月を超える宣言期間の継続が避けられないと見られる。

西浦さんはこれまでと、対策を考える上での違いをこう話す。

「重症化や死亡するリスクは高齢者と中年・壮年層では4〜5倍の違いがある。つまり中年・壮年を中心に重症病床が逼迫している時は、高齢者が重症者の中心だったこれまでよりも、全感染者数は4 〜5倍になる。重症病床の逼迫具合だけを見て緊急事態宣言を出すと、解除までより長い期間を要する可能性があります」

また、7月末までに高齢者の接種率が90%以上に達すれば、来年1月に5回目の緊急事態宣言を出すことは避けられる見通しが示された。ただし、西浦さんはこう釘を刺した。

「このシナリオには五輪によって人の流れが増える影響は入っていない。この予測よりも感染拡大が加速する可能性を考えなければいけない」

インド由来の変異ウイルスが7月中旬には過半数に

西浦さんは日本での蔓延が心配されているインド由来の変異ウイルス「デルタ株」の影響についても予測した。

「デルタ株」は、従来株と比べ、1人が感染させる二次感染者数である再生産数が77.6%高い。つまり、約1.8倍の感染力を持つ。

これまで日本で猛威を奮っていたイギリス由来の変異ウイルス「アルファ株」は従来株より44.9%高く、約1.4倍だったので、それよりも感染力がデルタ株は強力ということだ。アルファ株の約1.2倍の感染力となる。

この感染力の高さから、7月中旬にはデルタ株はアルファ株の割合と逆転し、国内の感染者の過半数を占める。7月末には全体の8割程度になると予測される。

この感染力の高いデルタ株が広がりつつあることで、6月中旬から日本国内でのウイルスの感染力は増していくと見られている。

「感染性が高くなることによって、感染する人の人数も増えるし、影響される人の割合も増えると想定される。ただし、イギリスの話を聞く限りは、インド株の影響で子どもたちの感染が前よりも増えている可能性がある。その場合、社会に対する負荷は実は大きくならない可能性は残る」

五輪開催の影響は? 「みんなで必死に話し合って」

現在、政府は五輪開催を見据えて、ワクチン接種のスピードを加速している。接種の抑え込み効果と、これまでよりも感染力の高いインド株の蔓延のスピードとのせめぎ合いだが、今回のシミュレーションでは五輪開催の影響は加味していない。

開催した場合、感染拡大の予測は上乗せされると考えられるのだろうか。

「それは五輪をどのように開催して、五輪をどのような状態で迎えるかに依存すると思います。オリンピックが始まることにみなさんが合意するならば、みんなで協力して接触を減らしながら突入することになる。それ相応の措置を取りながらやると、シミュレーションよりも感染者は少なくなる」

「一方で、尾身先生が言うようなお祭りムードが危惧されるが、細かいところまで目が行き渡らない状態になると、少なくとも感染リスクは上がっていく。どのような状態で開催するか、何をするのか。こういうシミュレーションを念頭に、今からでも遅くないのでみんなで必死に話し合わなければならないと思います」

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。

趣味はジョギング。主な関心事はダイエット。