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救急車のパンク状態、6波を超えるのが確実に 鍵を握るのは一人ひとりの「行動変容」

第7波の急激な感染拡大で、救急車がパンク状態になり始めています。新型コロナの患者だけでなく、他の一般の病気や怪我も搬送できない状態に。救急搬送困難事例を分析してきた専門家は「このままでは助かる命も助からなくなる」と警鐘を鳴らします。

第7波の急激な感染拡大で、救急車がパンク状態になっています。

新型コロナの患者だけでなく、他の病気やけがなどでの救急搬送にも困難が生じている状況です。

第6波から、救急搬送困難事例の分析を続けている大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授の中島一敏さんは「このままでは、助かる命も助からなくなる」と警鐘を鳴らします。

※インタビューは7月29日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

過去最多になり、さらに増え続ける第7波の救急搬送困難

——先生は救急搬送が難しい事例を毎週分析して厚労省のアドバイザリーボードに出しています。現在は厳しい状況ですか?

医療が色々なところでパンクしています。検査も発熱外来もそうですが、僕が救急の資料を毎週出していて感じているのは、救急の状況はかなり深刻だということです。すごく心配しています。

今日も暑いので、熱中症の救急搬送が増えているはずです。

こちらは第6波以降、毎週出している救急搬送困難件数の推移です。

——「救急搬送困難事案」とはどういう事例を指すのですか?

救急車が現場到着後、医療機関への照会を4回以上行なっても、救急搬送先が30分以上見つからない場合を「救急搬送困難事案」として報告しています。

下の赤線が、コロナの新規陽性者数で、青が救急搬送困難の数の推移です。自宅の前で救急車が搬送先が見つからずに、30分以上、動けずにいるというような状況です。

流行が起こるたびに搬送困難事例は増えています。大きかったのは第3波、コロナが始まって最初の冬です。第4波、第5波があって、第6波はかなり大きくなりました。

第6波は数の暴力です。感染者数が急激に増えたことで、救急車の行き先が本当に見つかりにくい状態になりました。これまでのコロナの流行の中で最大だったのです。

そして、それを凌ぐ勢いで増えているのが第7波です。1週間遅れてデータは出てきますが、現在、すでに第6波を超えているのは確実です。

第7波ではコロナ疑いも一般救急も両方の搬送困難が増加

第4波からは、コロナ疑いと、その他の一般救急と分けて数字を出しています。

過去の4波、5波では、どちらかと言うと、コロナ疑いである青が増えています。コロナ疑いが搬送困難の中で大きな割合を占め、流行が大きくなる時にはコロナ疑いの搬送困難が上昇していました。オミクロンより前は、重症者が多かったことも影響していると思います。

ところが第6波では、大きく増えたのは一般救急の搬送困難事例でした。

そして第7波は、少しまた6波とは割合が違います。コロナの割合が6波より多いけれど、一般救急もどんどん伸びています。

状況としてはより深刻です。

コロナ、一般救急共に搬送困難な7波で、熱中症が急増すると...

こちらの左のグラフは、横軸がコロナ疑いの困難事例の数で、縦軸が一般救急の数です。

第5波は横、つまりコロナ疑いの搬送困難事例が増えました。

第6波では一般救急の救急搬送困難の伸びが目立ちます。

そして今回の第7波は、伸びが急速な上に、コロナ疑いも一般救急も両方伸びています。

——恐ろしいですね。

恐ろしいです。コロナも厳しい状況なので、コロナの病床を拡大しようとすると、一般の病床が受け入れられなくなります。

これは熱中症による救急搬送状況です。

4週前に1週間に1万4000と急にポンと伸びていますね。

——6月末の異常に暑かった時ですね。

その後、雨が多くなり、暑さも和らぎましたが、例年だと暑い時に1万4000、1万5000の週はざらにあります。2018年には2万3000という週もありました。猛暑の時です。

——今後1週間、暑くなるようですが、熱中症もまた増えますね。

熱中症での搬送も増えると、さらに一般救急での搬送を圧迫しかねないので、搬送困難事例が増えることが心配されます。救急車が呼べなくなる可能性もあります。

——そうなると、救急医療を受ければ助かるのに、助からない人が出てくる可能性があるわけですね。

そうです。既に一般の診療で手術を延期するなどの影響は出ています。救急医療でも一般救急医療への影響が出かねない状況に差し掛かっています。トータルの搬送困難は6波を超え、さらに厳しい状況になると思います。

首都圏、都市が厳しい

——全国で見ると、どの地域が特に厳しいのですか?

首都圏は既にかなり厳しい状況になっています。

東京都は第6波の時に飽和状態に達して、一時、搬送困難事例が増えなくなった時期がありました。ところが今回は、それを突き抜けています。何があったのか分かりませんが、状況はより悪化している可能性があります。

神奈川は、今回の流行前に、かなり救急体制を元のレベルに戻していたのですが、やはり戻ってきました。

千葉、一般の搬送困難が非常に増えていますが、コロナの搬送困難も増えてきています。埼玉はもともと人口あたりの病床数が少ない県です。もともと医療が弱い地域です。その中でコロナの診療を確保しようとして影響が出ているのかもしれません。

関西でも大都市で同じような状況が見られています。スピード感や状況は地域ごとに違いますが、この2週ぐらいで事態が急速に悪化しています。まだまだ悪化する見込みです。

一人ひとりがリスクの高い行動を減らす自主的な「行動制限」を

救急に影響が出てくると、これから高齢者も増えるから死亡が増えると思います。

——その問題を少しでも改善するには、感染者を減らすしかないわけですよね。

そうですね。

それに加えて、救急車を呼ぶのは本当に必要な重症な人だけに抑えるしかありません。他に救急で搬送された人が一般病床に戻る数、救急病院から一般病院に移す数、「上り搬送」だけでなく「下り搬送」も増やさなければいけません。

一生懸命、仕組みで調整しようとしていますが、根本的には感染者数を減らさないとこの勢いは止められないです。

かなり病床は逼迫していますし、合理化しようとしてもそれでは即効性がありません。なんとしても感染を減らさないと、医療が受けられなくなる事態になると思います。

——感染を減らすにはまず何をしたらいいと思いますか?行動制限ですか?

「行動制限」という言葉は二つのことがごっちゃになっているような気がします。私たちがウッと抵抗感を抱くのは、飲食店の時短営業とか、特定の業種に行政が強制力を持って介入することだと思います。

でも、もう一つ、一般の人たちの接触機会を減らすことも「行動変容」なのだと思います。感染のリスク行動を減らさなければいけない。

飲食店などの店舗に制限をかける方法から、考え方を切り替える必要があります。

例えば、一人ひとりが今後2週間のスケジュールの中で、先延ばしにできるものは先延ばしする。大事な予定に焦点を当てて、会食とか感染リスクが上がることを丁寧に減らしていく。それが大事だと思うし、やらなくてはいけないことだと思います。

日本の弱点だと思いますが、個人に対する呼びかけが非常に弱いです。苦手なところです。それが今こそとても大事です。

感染がどの世代にも、どのエリアでもどこでも起こりやすくなっていますから、老若男女全ての人が自分の生活の中で感染リスクの高い行動を減らす。時間を短くする。延期する。そんな形で感染リスクの高い接触機会を減らしてほしいと思います。

【中島一敏(なかしま・かずとし)】大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授

1984年、琉球大学医学部卒業。沖縄県立中部病院、琉球大学、大分医科大学(現大分大学医学部)を経て、2004年〜14年国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、2007年〜09年世界保健機関(WHO)本部感染症流行警報対策部、警報対策オペレーションメディカルオフィサー。その後、東北大学病院検査部講師兼副部長を経て、2016年4月から現職。

専門は実地疫学、予防医学、感染症学。特に感染症危機管理やアウトブレイク対策を得意とし、新型コロナウイルス対策でも専門家として行政に助言をしている。