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「陰性だから帰省してOKと言わないで」 医療が手薄になる年末年始、最前線の医師が願うこと

新型コロナ診療の最前線で働く医師の心配は、年末年始の医療が手薄な時期に患者を受け入れられなくなることです。「今、なんとかしよう」と呼びかけます。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

東京都では医療提供体制をもっとも深刻な「逼迫しているレベル」に上げたが、患者を診る現場の医療者はどんな思いで人々の対応ぶりを見ているのだろう。

前編に続き、国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長の忽那賢志さんにお話を伺った。

※インタビューは12月17日、Zoomで行い、その時点での情報に基づいている。

検査は足りているのか? 民間検査の影響は?

ーー先生は先日、Yahoo!個人で検査の陽性率について書かれていました。だいぶん整備されてきたものの、地域によっては陽性率5%を超え、まだ検査が不足しているところがあると指摘していましたね。

どうでしょうね。東京は6%を超えていて、もう少し低い方がいいのでしょうけれども、今までと比べるとすごく不足しているという状況でもないのかなと思います。

大阪はすごく陽性率が高いところがあります。場所によってはまだ足りていないところがあるのかなと思います。

検査するだけではなくて、接触者調査をして、診断された人を隔離することが大事なので、それに対応できるだけの保健所の人員確保の方がむしろ大変かもしれません。検査が足りないというのは、そちらの人員が足りないという意味だろうと思います。

ーー政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会でも、保健所が全ての感染者の濃厚接触者の調査をする余裕はないと言っていますね。一方で、「経済を回すため」として、民間の陰性確認のための安い検査が巷で増えてきています。そうした検査は医療現場に何か影響を与えていますか?

とある民間の業者で検査した人が陽性だったと通知が来ただけだったそうです。「そのまま特に症状もないので様子を見ていました」という人が、1週間ぐらい経って息がしんどくなってきた」と言って、初めてうちの病院を受診したことがありました。

サチュレーション(SpO2、酸素飽和度。体内に酸素が足りているかどうかみる数値。通常、95%を切ると不足していると見なされる)を測ってみると、70%ぐらいしかない。PCR検査も陽性でした。入院即挿管、という症例でした。

検査だけしている業者があるのですね。その後のことは知らない、ということをされると余計に迷惑です。

行政検査を受けて、保健所に経過をチェックしてもらった方がご本人にとってよかったと思います。検査だけしてお金儲けだけしている業者もあるように思います。

検査を民間でやってもいいとは思うのですが、陽性だった場合に届け出をどうするのか、治療はどうするのか、そこまでしっかり詰めた上でやってほしい。検査するだけでその後はご勝手にというのでは、コロナ対策に何の貢献もしていないと思います。

ーー民間の検査は基本、陰性証明のために行なっていますよね。検査で陰性が出たら、安心して出張に行きます、帰省します、パーティーに行きますと、危ない解釈も目立ちます。

特にこの時期は陽性の人が一定の確率で出ますから、そういう人たちをどうするのかまで面倒をみてくれないと困ります。医療機関に余計な負担がかかることになります。

ーーそれは、自己判断で重症化してから来ると、治療が大変になるという意味もありますか?

そうですね。重症化した段階で来ると治療の選択肢も限られます。

例えば抗ウイルス薬のレムデシビルは、これまでのエビデンスからするとウイルスが増殖している時期に早めに投与すれば効果が期待できる一方、重症化してしまうと効果が期待できなくなります。その段階で来るとステロイドしか打つ手はないということになります。治療の機会を失うことになるのです。

また、検査結果が陰性でも感染していないとは言えません。「陰性だから帰省してOK」などということもあまり言ってほしくないですね。

個々のPCR検査の結果には限界があります。感染していないことの証明にはなりません。そこをわかった上で検査するならいいと思いますけれど、検査の限界が理解されていません。

今から気をつけないと年末年始大変なことになる

ーー日々大変な仕事をされているのに、一般の人への情報提供も先生は積極的に行なっていますね。休みの日に何本も一般向けのコロナについての記事を書いていらっしゃいます。

休みの日にすることがないので(笑)。趣味のようなものです。

ーーそれでもなかなか一般の人の行動は変わらず、感染者も減らないですね。どうしてほしいと思っていますか?

クリスマスも家族で過ごすのはいいと思うのです。今年は家庭内でクリスマスを祝ってほしいですね。

年末年始は今年はオンライン帰省にしてほしいです。私もそういう予定でいます。やはり移動することで感染が広がりますし、実家のおじいちゃん、おばあちゃんに感染させてしまうことが十分起こり得る状況です。

年末年始、直接親しい人たちに会いたい人も多いと思いますが、今年1回ぐらいは年末年始を諦めていただいて、オンラインで会話することがあってもいいのかなと思います。

もし来年どこかでワクチン接種が広がって、流行も落ち着いてくるようだったら、来年の年末年始は状況が変わるかもしれません。

どうか今年だけは特殊な年末年始ということで、みんながちょっとずつ我慢するというのがいいのかなと思います。

ーー逆に言うと、感染者が減らなかった「勝負の3週間」と同じように過ごしてしまったら、どうなってしまうと思いますか?

そうなるともう......。今心配しているのは、このまま年末年始に突入した場合、病院の診療体制がすごく脆弱になっている状況で、患者さんがどんどん増えたら受け入れきれなくなることです。

年末年始の後ももちろん心配なのですが、まず年末年始が大丈夫なのか心配しています。多くの病院は、さすがに正月は普段通りの診療体制のところはないと思うのです。

平日通りにコロナの患者さんを受け入れられるとは思えませんので、そうなった時に、今ぐらいのペースで患者さんが出ていたら、かなり大変なことになる。搬送先が見つからない事例がかなり出てしまうでしょう。

だから年末年始のことを考えると、今なんとかしないといけません。もう2週間ぐらいしかありません。今からやっても間に合わないかもしれませんが、できるだけ、今から気をつけないと、医療従事者も大変ですが、感染した人が一番大変なことになります。

冬は心筋梗塞など他の病気も増えますから、そういう医療もコロナ対応で不十分になってしまう。年末年始でもともと体制が手薄なのに、さらにコロナで十分な医療が提供できない可能性があります。かなり心配しています。

緊急事態宣言は出ないのかもしれませんが、それぐらいの気持ちで不要不急の外出は控えてほしいと一医療者としては思います。

個人の努力が求められているが...

ーー先生は「個人の努力に頼る時期ではない」と書かれていました。でも個人での努力が求められていますね。

とりあえずGo Toを一時中止したということで、政府としてはそこまで対策したと考えているのでしょう。結局、それ以上はまた個人個人の努力に委ねられてしまっているのだと思います。「ここまでやったのだから、あとはみんなで頑張れ」ということでしょうね。

みなさんコロナに飽きているかもしれませんが、飽きる飽きないの問題じゃないということで、真剣に考えていただきたいです。

ーー分科会では流行に歯止めがかからない場合は、時短営業時間の繰り上げなども考えてほしいと提言していました。

お店が開いているから会食に行くということがあるでしょうからね。時間が短くなればなるほど会食の機会は減ると思います。もちろんその分、お店に収入減の補てんや支援はあるべきだと思います。

必要な医療は受けて 役立つ医療情報サイトも

ーー一方で、必要な医療にかからないという受診控えも起きています。自己判断は危険だと思うのですが、医療機関でコロナに感染したくないし、コロナで疲弊している医療機関に迷惑をかけてはいけないという遠慮の気持ちも働いているようです。医療に受診すべきかはどうやって判断したらいいと思いますか?

一般の人が参考にできる医療情報が書かれたサイトを活用するのも一つの方法です。

新型コロナについては、私自身もyahoo!個人で記事を書いているので読んでご参考にしていただければ。どんな症状があったら受診すべきかの目安もわかりやすく書いています。流行期になると、この記事が一番読まれています。

一般の病気についても、私も記事を書いている「お医者さんオンライン」というサイトで病名や症状から検索できます。私は感染症について担当しています。「MSD マニュアル家庭版」なども病気が網羅されていると思います。

ーー私(岩永)が関わったことがある厚労省の「上手な医療のかかり方」サイトも、急な症状で困った時に頼ることのできる電話相談や、救急車を呼ぶべきか判断の手助けになるサイトのリンクがたくさん貼られています。上手に活用してほしいです。

そうですね。

ーー年末年始、もう一段みんなで我慢して感染者を抑え込むには希望も必要です。ワクチンの接種も各国で始まりましたが、期待は持てそうでしょうか?

今出ている情報からすると期待できると思います。もちろん副作用はありますし、アナフィラキシー(激しいアレルギー反応)が起きたという事例も海外で報告されていますので、アナフィラキシーを起こしたことがある人はうたない方がいいと言われています。

効果自体は期待されていたよりも高いと言われていますし、重症化も防げると報告されています。

ただどれぐらい効果が続くのかはデータがあまりないですね。そこ次第でどれぐらい感染者が減っていくかが変わっていきますが、おそらく今より状況はよくなるのではないかなと期待しています。

痛みの強さや熱が出るなどの副作用は他のインフルエンザワクチンなどよりは高いようですね。それでももしコロナを95%防げるならば許容範囲なのではないかと個人的に思います。もちろんワクチンが現実にどれほど効くかはわかりませんが、あまり接種控えとならなければいいなと願います。

最初は重症化リスクの高い人からうっていくと思いますが、広くうたないと感染者は減らないと思いますので、若い世代も最終的には接種が広がって流行が落ち着くことを願います。

来年の早い段階でうてるようになればいいなと期待しています。もうちょっと頑張ればそういう希望が見えてくるかもしれません。だから今、感染者を少しでも減らせるように一緒に頑張りましょう。

【忽那賢志(くつな・さとし)】国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室医長

2004年3月、山口大学医学部卒業。同大学医学部附属病院先進救急医療センター、市立奈良病院感染症科医長などを経て、2012年4月から 国立国際医療研究センター 国際感染症センターで勤務。2018年1月から現職。

日本感染症学会 オリンピック・パラリンピック アド・ホック委員会委員。IDATEN 日本感染症教育研究会 世話人 Kansen Journal 編集長。著書に『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z ver2』(中外医学社)、『みるトレ感染症』(共著、医学書院)など。

Yahoo!個人での連載でも新型コロナウイルス感染症について数多くの記事を書いている。