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空振りの「勝負の3週間」 現場の医師が感じ始めた「諦め」の気持ち

「勝負の3週間」後も新型コロナの感染者は増え続け、医療は逼迫しています。まさに最前線で患者を診る医師に現状はどう見えているのか。国際医療研究センターの忽那賢志さんにお話を伺いました。

「勝負の3週間」に私たちは勝てなかったようだ。

感染者や重症者がじわじわと増え続けていく中、12月17日に東京都は医療提供体制の警戒レベルをもっとも深刻な「逼迫している」に引き上げた。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「今後状況が良くなるという希望が見えない。疲れている」と話す忽那賢志さん

新型コロナウイルスの患者を診ている医療者は、現状をどう見ているのだろうか?

国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長の忽那賢志さんにお話を伺った。

※インタビューは12月17日、Zoomで行い、その時点での情報に基づいている。

空振りの「勝負の3週間」 医療現場は?

ーー「勝負の3週間」、減少につながらなかったと専門家は評価しています。医療現場から見て、やはり効果は感じられなかったですか?

やはり感染者数は増えていますね。全く効果がなかったかどうかはわからないです。急激に増えていたのが多少、増加が緩やかになっているのかもしれません。

ただ、現場の負担はむしろ増えてきているのかなとは思います。

うちの科で言えば、今、他の診療科の先生たちにも手伝ってもらっているので、その意味では負担の分散はできています。

でも病院全体で言えば、昨日も5人新型コロナの患者が入院になって、そのうち一人が気管挿管となって、連日、結構バタバタしています。

東京都の場合は、高齢者の比率がどんどん増えています。感染者全体もゆっくり増えていく中で、そこに占める高齢者も増えているので、重症化する人はまだまだ増え続けている状況です。

ーー「勝負の3週間」で全然楽になっていないですね。

楽にはなっていないですね。むしろしんどくなっている状況ですね。

感染症治療の総本山でも 内科のヘルプがなければ回らない

ーー国際医療研究センターは感染症治療の総本山のような病院ですが、この第3波はどのような体制で診療しているのですか?

先週から、内科に手伝ってもらっています。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

忽那さんが新型コロナ診療をしている国際医療研究センター

ーーそれは感染症担当の診療科だけでは間に合わなくなっているということですか?

そうです。うちはもともと感染症科と呼吸器内科の2チームで新型コロナの診療をしていました。でももうそれでは厳しいということで、もう一つ内科のチームを作ってもらって対応するようになりました。

ーー病床は増えたのですか?

第2波の時までは、陰圧の病棟(ウイルスが外に漏れないように室内の気圧を低くしてある病棟)が一つあって、22床だけ使ってなんとか回していました。

今回はそれを広げて第1波のときのように40床まで新型コロナ用に空けています。今は30床ぐらい使っています。

ーー人手が足りないのは、重症者が増えているからですか?

重症者も増えていますし、入院患者さん全体も増えています。第2波と比べると、全体的に重症度が高いのですよね。一人一人の患者さんにかかる手間や時間がかかります。

ーー第2波と比べて重症度が高いのは、軽症者はホテル療養などに回っているからでもあるのですか?

それもあるのかと思うのですが、やはり第2波の時は「夜の街」と言われていたクラスターから始まっていて、基本的には若い世代が中心に感染していました。だから入院する人も比較的若い層が多かった。入院はしても特に治療の必要のないような人が多かったのです。

でも今は、そういう人は基本的にホテル療養になっていて、高齢のリスクの高い人や、すでに重症化している酸素が必要な方が入院の対象になっています。そういう人の診療の負担が重くなっています。

ーー他の診療科が縮小したり、手術を延期したりする影響はありますか?

各診療科100%の体制ではなくなっているかもしれませんが、今のところうちの病院では予定手術を減らすことは避けられています。第1波の時は、予定手術も延期し、うちの病院だけでなく他の病院も経営がかなり厳しくなっていました。

今回はその教訓を生かして、診療も経営も両立するように努力しています。もう1年ぐらいコロナ対応をしているので慣れたということもあるかもしれません。

ーー医療が逼迫してくると、病院同士で「患者を受けてくれない」「医師を引き上げさせた」など批判し合い、ギスギスしている地域もあるようです。新宿区の先生の病院周辺ではいかがですか?

新宿区の病院間では重症化した場合、うちの病院に転院して、回復したら軽症の病院に転院して、という協力ができています。だいたいどこにどれぐらい重症患者がいるかも把握できる。新宿区内では病院間の連携はできていますね。

治療法、検査体制は確立してきたが...

ーーこの1年の経験で、治療の手順はかなり確立したという話も聞いています。現場の医師としてはどうですか?

治療薬を使うタイミングや、重症患者さんの管理はだいぶん慣れてきていると思います。

治療薬自体、第3波になって新しく使えるものが増えたことは特にないです。第2波ぐらいから、レムデシビル(抗ウイルス薬)とデキサメタゾン(ステロイド系抗炎症薬)の組み合わせと、血をサラサラにする抗凝固薬を使う治療が行われ、これに大きな変化はない。

第1波の時は、患者さんはかなり時間が経ってから入院していましたけれど、今は発症してから割と早いタイミングで診断されるようになっています。そういう意味で治療効果が期待できる人が増えている。早期診断がある程度、死亡率低下に影響しているのかなと思います。

ーー早期診断できるようになったというのは、検査体制が整備されてきたという意味でしょうか?

そうだと思いますね。特に第1波の時は「4日ルール」(37.5度以上の熱が出て4日以上続いたら保健所に相談)もありましたから、診断されるまでに時間がかかる症例も多かったです。

今は発症から4日程度で診断されているということなので、かなり早くなっていますね。

現場の医療者の疲弊は大丈夫? 「諦めというか......」

ーータフそうに見える先生が、11月末に出されたコラムで、「毎日辞めたいと思っている」「不眠になり、飲酒量が増えている」とストレスの増加を告白されて心配になりました。

たぶん、医療者はみんなそうだと思うのですが、これだけ言っても患者さんの新規報告数も全然減らないですよね(苦笑)。

もうなんかちょっと諦めというか......。世間も「このままじゃダメだ」という感じにはあまりなっていませんよね。医療従事者に負担がかかっているだけだなと思います。

第2波は緊急事態宣言を出さなくても、途中まで感染者が減ってきていましたよね。みんなで感染対策をしっかり気をつけようという意識があったのだと思います。

時事通信

Go Toトラベルは年末年始に全国で停止となったが......

でも今回は、11月中旬ぐらいから「これはヤバイぞ」という話がたくさんあったのに、全然減らない。Go To事業がどれほど影響していたのかはわかりませんが、やはり人々の関心がコロナから薄れてきているのを感じます。「コロナしょうがないよね」となっているのでしょうね。

ーーGo Toと感染者増加に直接の因果関係があるかどうかはわかっていないですね。でも、前のように旅行や外食をしてもいいのだなと気分が緩むことに結びついているとも指摘されています。どう思いますか?

当然、あのキャンペーンを利用して旅行しようとする人は増えるでしょうし、そうすると、会食や人との接触は必ず増えるでしょう。

「Go Toで感染者が増えるというエビデンスはない」とよく言われますが、理屈から考えれば増えないはずはない。いったん年末年始に中止するというのはいい決断だと思います。できればもう少し早めに決めてくれたらありがたかったですけれど...。

「希望が見えないのが辛い」積もる精神的なストレス

ーー医療者にとって第3波の辛さは、国民が感染防止に協力してくれているという感覚がないことだとも言われていますね。

重症者の数は東京都では第1波の方が多かったですが、日本全体では今までで一番重症者の数が多いですね。現場の負担が大きい状態が続く中で、希望が全然見えないのです。

コロナ診療をする医療従事者としては、減少傾向もなく、増え続けている状態が1ヶ月ぐらい続いていますから、「このまま年末年始に突入したらどうなるんだろう」とか「年末年始ぐらいちょっと休みたかったな......」ということをみんな思っているでしょうね。

ーー先生の診療の1日はどんな感じなのですか? ずっとPPE(個人用感染防護具)を?

うちの病棟は患者さんの部屋に入る時にPPEをつけて、診察が終わったら脱ぐので、ずっと着っぱなしのことはないのです。処置をする時や挿管する時に、長時間着ることはありますが、普通の診察だと短時間しか身につけません。

確かに病院によって「ここから先はレッドゾーン(ウイルスに感染する可能性がある地帯)」という区分けをしていれば、PPEを着る時間が長くなってしんどいと思いますけれども。

ーー診療の中では何が一番しんどいですか?

個人的には色々な部署との調整が一番大変です。コロナっていろんな人が関わります。「コロナを診たいぞ!」という人ばかりではありませんから、院内で診療体制を作っていく中で軋轢が生まれたりすることもあります。そういうのに心が折れたりします。

もちろん診療も大変ですが、患者さんを診察していて辛いということはないです。患者さんを診ていて体は疲れますけれど、心は疲れませんからね。院外の保健所や他の病院との交渉が影響する精神的なストレスが結構ありますね。

ーーみなさん疲れているから余計ギスギスしてしまうところもあるかもしれないですね。

そうなんだと思います。みんなすごくストレスがかかっている状況ですので、キレやすくなったりはあるのだと思います。

ーー退職された方はいませんか?

今のところそれはないですね。辞めたいと思っている人はいるかもしれませんけれども(笑)。

ーーお酒の量も増えたと告白されていましたね。

それはそうですね。仕事が辛いと思って飲んでいるというより、ようやく今日が終わった......と思って家で飲む量が増えている感じですかね。

感染パターン変わってきている

ーー東京都のモニタリング調査などを見ていると、東京での感染は家庭内が多いですね。

家庭内は多いですけれど、家庭内での感染がどこから持ち込まれたかというと、会食とか職場からです。それから高齢者施設が増えています。

ーー国際医療研究センターでは、前の流行では接待を伴う飲食店での感染者が目立っていました。今はその割合がかなり減りました。

新宿区は最近はあまりなくて、一時期、接待を伴う飲食店は全くなくなったのですが、感染した人が接待を伴う飲食店に客として持ち込んでいるのではないかという事例が出てきています。

逆に感染者がそちらに広げている。店側はせっかく感染対策をしっかりやっているところに、お客さんが余計なことをしているなという感じです。店側は第2波のようなことにはなっておらず、感染予防の意識が高まっていると思います。

ーーその一方で、一般の人の感染予防の意識は緩んでいる感じでしょうか?

一部の人だと思いますけれどもね。基本的には気をつけている人が多いと思います。

ーーこういう時に菅首相が大人数で会食したというニュースを聞いて、どう思われますか?

いやあ(苦笑)。なんともコメントしづらいですね。

家庭内で感染を防ぐのはすごく難しいと思うのですよ。家庭内でマスクをつけるとか、なかなか文化的に無理だと思います。そういう意味で感染が一番広がりやすく、かつ防ぐことができる場面は会食だと思います。

首相にどうこうというわけではなく、5人以上はどうかということでもなく、家族以外との会食は今は控える時期なのかなと思いますけどね。

時事通信

5人以上の会食を控えるよう国民に呼びかけている時に、自身が大人数の会食をした菅首相

ーー菅首相の会食のニュースがあった後、国際医療研究センターがすかさず、「5人以上の会食は気をつけて」とツイートしたのがいいタイミング過ぎました。

今年は季節の行事も、#COVID19 の感染リスクが高まる #5つの場面 を考えた行動が必要です。 これから迎えるクリスマスやお正月。これ以上、感染者を増やさないために、5人以上の会食自粛など、私たち自身の行動に十分気をつけましょう。

@NCGM1868

(笑)。あれは別の部署が担当しているのですが、当てつけかもしれませんね。

ーー菅首相も会食に参加された方も高齢者ですしね。

ハイリスクですよね。

(続く)

【忽那賢志(くつな・さとし)】国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室医長

2004年3月、山口大学医学部卒業。同大学医学部附属病院先進救急医療センター、市立奈良病院感染症科医長などを経て、2012年4月から 国立国際医療研究センター 国際感染症センターで勤務。2018年1月から現職。

日本感染症学会 オリンピック・パラリンピック アド・ホック委員会委員。IDATEN 日本感染症教育研究会 世話人 Kansen Journal 編集長。著書に『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z ver2』(中外医学社)、『みるトレ感染症』(共著、医学書院)など。

Yahoo!個人での連載でも新型コロナウイルス感染症について数多くの記事を書いている。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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