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新型コロナ対策の隠れた最前線 保健所の悲鳴を聞いて

新型コロナウイルス対策で、重要な役割を担っていながら、裏方としてなかなか顧みられない保健所。港区みなと保健所長の松本加代さんに、その現状を教えていただきました。

新型コロナウイルス対策で、重要な役割を担っていながら、なかなか顧みられない保健所。

相談対応や検査対応、入院調整、患者移送、公費負担手続き、積極的疫学調査、濃厚接触者の健康観察など、限りあるスタッフで重要な仕事を同時並行で進めながら、既にパンク状態になっています。

毎日、深夜帰宅が続いているという東京都港区みなと保健所長の医師、松本加代さんに、現状と危機感を語っていただきました。

※インタビューは4月7日午後に電話で行い、その時の情報に基づいている。

増加する相談、不足する入院や診療の受け入れ

ーー新型コロナ対策で重要な仕事をされながら、きっと一般の人は保健所がどんな仕事をしているか、よく知らないと思います。業務内容を教えていただきながら、現状を教えていただけますか?

保健所の新型コロナ対策のメインは、一般の人が心配な症状が現れた時に相談する「帰国者・接触者相談センター」の相談業務があります。

週毎の感染者数(みなと保健所発生届受理数・累計数)※4月5日現在

3月下旬から相談件数も感染者数も激増しています。区民からの相談が特に増えています。疑い症例の中から実際、検査陽性者が増えているということです。

みなと保健所が受理した相談件数。4月頭には1日で250件を超えた。

ーー相談件数は感染者と比例していると考えていいのですね。

もちろん電話を受けた時点ではコロナかどうかはわかりませんし、無症状の陽性者を積極的に見つけていません。

あくまでも、医療の必要な方が適切に医療につながってもらうことが目的です。命を落とされたら困りますから。

それに、医療の必要な陽性者が見つかって、この方の入院をお願いしますと病院にスムーズに引き受けてもらうことができていたのは、3月上旬までのことです。

その後は、一人一人の入院期間が長引いているため、ベッドの回転が悪くなっています。3月の中旬ぐらいから、病院の方も満床が続き、入院を引き受けていただくところが探しにくくなっています。

その場合は、体調が悪くても1~2日自宅で様子をみてもらうようにしています。病状が急に悪化しないかとても不安です。

また、相談を受けて、コロナの疑いがあるとして、まず受診していただく病院の「帰国者・接触者外来」についても、院内感染対策が必要なので、どんどん送り込んで診てもらうわけにはいきません。受診時間の調整が必要です。

医師が診て、検査をすべきか評価してもらわないといけません。

コロナが疑われて医療が必要な方の数と、外来や入院で受けられる数のバランスが、3月中旬から少しずつ崩れてきたと感じています。

検査の手続きの負担 検査対象になる人が増えている

ーー検査を受けることになった時の手続きも保健所が担っているのですね。

もともと、保健所は医療機関に入院している人や外来に来た人で、コロナの感染が疑われる人の「検体」(鼻や喉から採取したぬぐい液)を取りまとめて、「東京都健康安全研究センター」に運んで検査してもらうという業務があります。

そして、この検体の件数は徐々に増えています。現在は保健所に相談があった方の中で症状がある疑い患者や濃厚接触者の検査を行っています。

現在50件以上の検査結果待ち状態です。もともとは職員だけで移送していましたが、今ではバイク便も利用しています。

3月上旬まではまだ感染者も少なかったので、検査要件が厳しかったこともあり検査はあまりしていませんでした。ただ、その時点では、どれほど検査を絞っても結果は陰性の人ばかりでした。

ですから、「検査件数が増えたから陽性者が増えた」ということではありません。私たちの感覚では、検査対象になる疑いの人が増えてきたという感じです。

医療の必要な方を病院の医師たちが検体採取して、検査に出してもずっと陰性が続いていたので、3月上旬までは少ないのかなと思っていたら、中旬から増えてきた状況です。

ーーこちらの保健所で把握している検査の陽性率は以前と比べ、高くなっているのですか?

2月29日までは検査25件中、陽性は0でした。3月1日~3月15日までの検査24件中、陽性は3件になり6.8%の陽性率です。

これが3月16日~31日までの112件の検査では、陽性が67件となり、59.8%に跳ね上がりました。

4月以降の検査結果が出ている検査73件中、陽性は49件で、陽性率は67.1%とますます割合が増えています。

このデータを見ても、検査数が少ないから陽性率が低かったわけではないことがわかります。感染者が少なかったので、有症状者に陽性者が少なかったといえます。

患者の移送手続きも

ーー検査で陽性になった人への対応も保健所で担当されていますね。

陽性になった方の入院の勧告をして、その入院先を探すこともしてきました。

ご自宅で陽性がわかった場合は、保健所が民間の救急車での移送を調整するのですが、民間の救急車が難しい場合は、区役所の車の車内のシートをビニールで覆って、移送しています。

もちろん飛沫感染と接触感染が感染ルートなので、運転席と後ろの座席をビニールシートで区切って、区役所の車で移送するのです。

今後は港区専用の患者の移送の委託先も決まったのですが、港区に限らず保健所が直接やっている自治体があると思います。

ーーそこまでやっているのですね...。検査の結果を待つ間は入院しているところもあるようですが、自宅で待機してもらうこともあるのですね。

家でも様子をみられるぐらいの軽症の方は、自宅で結果を待っていただいています。

結果が出るまでは2、3日かかり、最初は入院して結果を待っていただく方が多かったのですが、ベッドがいっぱいになってきました。結果がわかるまではPCR検査以外の医療費は3割負担になりますから、いったんご自宅に帰っていただいて、様子をみていただく方が多くなりました。

その方が陽性とわかれば、その後は患者の搬送になるので、保健所の業務となります。車を手配して病院に搬送しています。また、入院中の患者の病状が悪化してさらに高度の医療が必要な場合の転院にも移送車を出すこともあります。

ーー今後は変わるかもしれませんが、軽症でも入院させるために移送していたわけですね。

そうですね。今はちょうど移行期間ですが、今の法律では陽性の方は全員入院するというのが原則の法律です。原則は症状がある人を検査していますが、症状が軽度だったとしても、お送りすることになっていました。

病院に送ると、次は勧告入院という法律の手続きをします。手続きの書類作りや公費負担の申請をします。

入院した時点では、当初は直接面接をして、どこからうつった可能性があるかという感染源の調査と、誰か周りにうつしていないか、濃厚接触者の特定など、「積極的疫学調査」を行なっていました。

しかし、感染者がかなりの数になってきて直接面会する余裕がないので、電話の聞き取りを中心に今はやっています。

スタッフ不足の課題

ーーこの積極的疫学調査が、感染ルートを特定し、それ以上感染を広げないための鍵となるわけですが、保健師さんが担っているのでしょうか?

保健師と医師です。現在は、食品衛生監視員も同行して、保健所全体で応援体制を組んでいます。

ーー何人体制で行なっているのですか?

相談センターはコールセンターにして、事務室の隣の相談室に6人、保健師や看護師が対応しています。さらに増員の予定です。

コロナ感染を疑う患者の個別対応や医療機関の調整に保健師や医師が6人で対応中です。事務は、コロナ関係は約15人体制で、今後も人員を増やして体制強化していきいます。

今は1日15人ぐらい新規の陽性者が出ることもありますので、担当者は自宅に帰るのは深夜という状態が続いています。4月6日朝の段階で入院を勧告するまたは、勧告入院している陽性者は90人でした。

陽性者の濃厚接触者や、海外から帰ってきた人の14日間の自宅での毎日の健康観察も全て保健所の仕事です。4月に入って、海外帰国の方はかなり減りましたが。

濃厚接触者については、患者が出れば出るほど増えます。港区は企業が多いので、感染者が出た企業に調査に行き、濃厚接触者を決めたり、消毒の指導をしたりします。

最近は夜の繁華街関係の濃厚接触者が多くなっています。

積極的疫学調査については、実際に出ていなくても、「出たときの対応を知りたい」という相談も多い。企業からの相談内容はそれが一番多いのです。区の公式ホームページに調査内容を掲載して個々の対応の時間を減らしています。

入院すると、本人の調査と書類作成、国や都への報告は大変な事務作業量となります。港区は保健所体制の強化をしていただいていますが、それでも感染者の増加にスタッフの数が追いつかない状況になっています。

病院調整は区内で済まず、広域医療圏にも

ーー感染症指定医療機関も満床になっていて、受け入れ先を探すのが大変と聞いています。

病院調整が大事な仕事です。これまでは、相談センターに相談があり、疑わしい人は、病院の帰国者・接触者外来につなげて、陽性であれば、病院との調整をして、入院勧告をして、面接してという流れでした。

どの病院も受け入れ病床数は広げていただいていますが、コロナの患者さんを受け入れてもらえる区内のベッド数は限られているので、3月の中旬からは区外の病院を探し始めている状態で、かなり広域に病院を1つ1つ当たりながら受け入れ先を探しています。

4月からは、東京都が病院の調整をしてくれています。それでも、なかなかスムーズに見つけられないのが実情で、さらに患者が増えてきた時のことを考えると入院先を見つけることが困難になりそうでとても不安です。

病院を探しているその間に病状が悪化して、呼吸困難になったらどうしようととても心配になります。私たちは探すためのシステムを持っていないので、片っ端から、個々に電話をするしかありませんでした。

どこかでクラスター(集団感染)が出ると、一気に陽性者が増えるので、その作業が膨大になりますし、病院探しも難しくなります。

少しずつ陽性者が増えたら、需要と供給はバランスが取れるかもしれませんが、港区も繁華街がありますので、集団感染で一気に陽性者が出ると一時的に病床の確保が難しくなります。

区内で病院が見つからないと、多摩地域の病院まで送り届けたこともあります。断られながら一軒一軒当たっているのです。これがかなりの業務量になり、時間を使っているところです。

ーー今は帰国者・接触者外来にかかっても、そこに入院できるとは限らないのですね。

そうです。外来も数が限られています。今は区内で少しずつ陽性患者の入院を受け入れいていただける病院も増えています。それでも今後、患者数が増えれば追いつかないので、一気に増やさないことがとても重要です。

ウイルスは人が持っていますので、人と人が接触する機会を減らしていただくことが重要です。できるだけ家にいてほしい。それが私からの切実な願いです。

ーー港区では繁華街での感染が多いのですね。

港区での感染者は夜の街の従業員とその接触者が多いです。調査した感触としては、結構狭くない環境でそれほど人が密集していなくてもうつっています。

つまり3密が重ならなくてもうつっているということです。カラオケバーなど、飛沫感染が疑われる症例も経験しています。

私は、夜の店は飲食に絡むものが関係していると思っています。

特に、ナイトクラブやキャバクラ、ショーパブなど。

みなと保健所はそういう飲食店に対し4月2日に感染症防止対策の注意喚起を出して、新聞でも取り上げてもらいました。

接客の場で作る、水割りなどの飲み物が気になっています。何度もお酒をつぎ足すグラス、手、マドラー、氷のトング、グラスを介して、ウイルスが手についたり、口についたりして起こる感染もあるのではないかとも思っています。お店なりに工夫をしていただきたいです。

緊急事態宣言で変わるか?

ーー緊急事態宣言が出ると何か業務内容は変わるのでしょうか?

もちろん、東京都の方針転換によって、自宅療養に移行する人が出たり、回復期にある人のホテルなどの宿泊施設への移行が始まったりするのかなと思います。

ーー軽症者の施設には保健所から人を出すのですか?

東京都から出ると思います。ホテルといっても箱が用意されるだけなので、誰かがサービスを担わなくてはいけません。ビジネスホテルですから3食どこかから用意したり、リネン類の洗濯をしたり、生活物資の調達をしたりなどですね。

健康観察のために、保健師の常駐や医師の配置も必要でしょう。

今後、一定の安全を確保して従業員がやっていただくところはやっていただくのでしょうけれども、行政の職員がどこまでできるか。今後、どこかの施設がまた場所を提供していただくとしても、箱物以外の人的なサービスをどこまで用意できるかは疑問です。

どんどん増やせるとは思えないです。

ーーそれでは軽症者用の施設も一気に増やせるとは言えなそうですね。

東京都が出した方針はあくまでも、回復期にある人の観察のためです。軽症者が全部入るベッドは確保できないでしょうから、中等症以上の患者を早めに入院させるためには、軽症者は医療施設以外のところで診ていく必要があるとは思います。

検査結果を待っていて、陽性がまだ確認されていないという疑い症例のベッドが一番足りないのです。陰性だった場合に、陽性者と一緒にしてしまうと感染させる恐れがあります。そのため、個室が必要で、ベッドが限られてしまいます。

ーーその人たちもホテルなどを確保した方がいいのでしょうか?

そこは無理かもしれません。検査を受けるということは何らかの症状が出ているということです。急性期にある人をホテルにいさせるのはとてもリスクが高いです。それをやるにしても、相当、医療的なケアを用意しなければなりません。

ですから回復期にある軽症者を早めに退院させて、ベッドを回していくことが大事です。

そもそもかからないことが一番大切です。

検査を拡大すべきなのか?

ーー最初にも触れていただきましたが、これまで検査数を抑制していたから、感染者がこれだけ広がったのだということを言う人が今も一定数います。これについてのご見解をお願いします。

全員入院という括りがなければ、検査をいくら増やしても病院はパンクしないかもしれません。

でも、検査機関のキャパシティの問題がありますし、陽性者は全員入院が必要な状況では、検査を広げると、無症状や軽症の人が入院することになり、限られたベッド数の中では難しかったと思います。

3月上旬までは、どれほどコロナを疑う人に検査をしても陰性ばかりでしたので、検査を増やして流行を食い止められたかと言えば疑問です。うつしている人は軽症なので、検査を受けようと考えていたかどうかもわかりません。

症状が強い人は、体調が悪いので早めに受診して逆に周囲の人にはあまりうつさないのではないかと思います。ただ、家族は別です。

逆に、クラスターを作る人たちは、本人が自覚がないのにうつしていたと考えられます。検査を増やしてもそういう自覚症状のない人が引っかかってこなければ、検査を広げたからといって、そこでは見つからなかったのかなと思います。

ーー2月の頃はそもそも集団の中に陽性者が少ない状態でした。すると、精度がそれほど高くないPCR検査をたくさんやれば、偽陰性や偽陽性が数多く出た可能性も指摘されています。

そうですね。どうもない人にやると陽性でないのに陽性と出たり、陰性でないのに陰性と出たりしますから、やはり症状がある人にやってきたのは適切だったのではないかと思います。

港区は夜の繁華街関係者が多いですが、最近は肺炎などで入院した70代、80代の高齢者に陽性者も少しずつ出てきています。


現在は、流行期に入ったので、陽性率が高くなり、疑われる発熱や咳症状のある方に検査を行い、症状が悪化した時に速やかに入院治療につなげられるように検査を行う必要があると思います。

現在一部の医療機関と行政のみでの検査ですので、コロナの保険診療ができる医療機関を増やして検査につながりやすいようにしていく必要があります。

今後何が必要か?

ーー今後、しばらく感染者は増えるでしょうけれども、保健所にはどんな支援が必要でしょうか? また、一般の人にお願いしたいことは何でしょうか?

やはり、ベッドの確保が必要ですし、ベッドが確保できているなら、速やかに医療につながれるような仕組みがほしいです。

医療機関が病床を確保しても、そこで働く医療従事者を確保できなければ、患者の受け入れは難しいです。長期戦ですので、医療従事者の疲弊が心配ですし、それは保健所も一緒です。

相当な流行になる可能性があるので、一般の方には、不要不急の外出を控えていただきたい。

命より大事なものはないと思うのです。大変だと思いますが、予防ができることはやってほしいです。

ニューヨークなどを見ていると、陽性者なのに医療につながれない人も出てきています。そのようにならないためには、国民一人一人が医療の仕組みや現状を理解していただき、できれば家にいていただきたい。

他のことも大事だと思いますが、今は命を守ることを優先してほしい。

ーーそのためには制限で生活が苦しくなる事業者に補償してほしいですね。

そうですね。それは私たちが言うところではないかもしれませんが、経済的な補償を担保しないと、生活がかかっている人は、不急と言われても困る。しかるべきところが手当てをして休みやすくしてほしいです。

発症の立ち上がりを抑えることが今一番重要で、そのためには、感染しないこと、できるだけ不要不急の外出を自粛していただくことをお願いします。

あなたが、発症して医療につながることができなくなる日がくることがありませんように。保健所はこれからも対策を続けていきます。

【松本加代(まつもと・かよ)】港区みなと保健所長

1993年、佐賀医科大学医学部卒業。世田谷保健所、台東保健所、2019年、港区みなと保健所保健予防課長を経て、2020年より現職。