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頻繁なブースター接種で免疫低下? 免疫学の専門家に聞きました。【2022年上半期回顧】

「頻繁なブースター接種でかえって免疫が低下する」とEU当局が警告したという報道がなされています。実際にそんなことが起き得るのか、免疫学の専門家に聞きました。

2022年上半期にBuzzFeed Japan Medicalで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:1月17日)


頻繁にブースター接種を繰り返すと、かえって免疫が低下する——。

先週、欧州医薬品庁(EMA)がそのような警告をしたという報道が相次ぎました。

日経新聞:EU、頻繁な追加接種に懸念 免疫低下の恐れも

ブルームバーグ:ブースター接種の繰り返し、免疫反応に悪影響も-EU当局 (訂正)

EMAが1月11日に行ったプレスブリーフィングに基づいて書かれた記事ですが、本当にそんなことが起き得るのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、ウイルス学や免疫学を専門とする医師で米国国立研究機関の研究員(当時)、峰宗太郎さんに聞きました。

※インタビューは1月16日に行い、その時点の情報に基づいている。

ワクチンを繰り返す戦略は持続性がない

——EMAでワクチン戦略などの責任者を務めるマルコ・カバレリ医師の発言として、頻繁なブースター接種は免疫を低下させる恐れがあると報道されています。峰先生もブリーフィングを確認されたそうですが、どのようなメッセージだと受け止めましたか?

まず重要なこととして、あのブリーフィング全体のトーンとしてはワクチンを推奨しているということを確認しておく必要があると思います。ワクチンが危険、と言いたいわけでは全く無いですよね。

また、海外のメディアは、「繰り返しワクチンを接種することについてはワクチン戦略としての持続性に懸念がある」と報道しています。健康被害が出る可能性もあることに触れた上で、4ヶ月ごとなどに繰り返しワクチンを接種することには戦略として持続性がない、という部分を強調しているのです。

日本のメディアのように「ワクチンを繰り返しうつと危険」というトーンの報じ方は、ニュアンスがずれていると思います。

——どちらかといえば、免疫系に悪さをする懸念よりも、ワクチン供給などオペレーション上、無理があるよということを強調しているニュアンスですかね。

オペレーションが8割というところでしょうけれど、医学的リスクもあるでしょうし、感染症対策としてワクチンだけでやっていけるのかという根源的な疑問もどこかにあると思います。何回もブースターを繰り返すのは持続可能な取り組みではないと言いたかったのでしょうね。

今の状況からはブースターは3回目までは必要だと思います。でも次の変異ウイルスが出てきた時にまたブースター、次の別な変異ウイルスが出たらまたブースター、ということでは続かないよと言いたいのだと思います。

今のワクチン戦略は変異ウイルスが出なければ、おそらくブースターを1回やって基本的にはおしまいだったはずです。それで数年ぐらいは大丈夫というのが前提だったと思います。

ところが、デルタが昨年3月、オミクロンが11月と、数ヶ月で問題となるような新たな変異ウイルスが出てきてしまっています。その度に新しいワクチンやブースターが検討され、イスラエルが4回目の接種を始めたところです。

こういうやり方だと際限なくワクチンをうたなければいけなくなって、パンデミックは収束しないのにワクチンはうち続けることになる。何のためにワクチンをうっているんだ、ということにもなります。コストもかかりますし、うちまくって健康上リスクはないのかという話にもなります。

ワクチンをやるならば3回までで、あとは年1回ぐらいまでに抑えておいて、他の対策も頑張らないといけないよね、という意図も裏にあるのではないかと僕は受け止めました。

感染やワクチンを繰り返すと抗体は「成熟」する

——年1回ぐらいの接種であれば、ブースターとは言わなくなってくるのでしょうか?

それはたしかにブースターというよりは、定期的に接種するワクチンということになると思います。インフルエンザと一緒です。今までワクチンで上手に防げていた上気道感染症はほぼなく、今回は完全ではないものの、大成功している部類です。

インフルエンザワクチンも3ヶ月程度で効果が切れますが、毎年うっています。それと同じように、1年に1回の接種程度なら許容範囲で、それでパンデミックが少しでも収まるならばありだ、という感覚ではないでしょうか。

ブースター接種は、免疫反応をより強く引き出すためにうつものです。

そして、もう一つ、体が繰り返しウイルスやワクチンの成分にさらされると、免疫は洗練される効果もあります。感染やワクチンによって体内に作られる抗体は「成熟」します。今回でいえば、スパイクタンパク質に馴染みのいい形に体内で変わっていくのです。抗体以外の免疫反応も同様の変化が考えられます。

刺激があればあるほど、この成熟は起こりやすい。だから抗体等の量も増えるし、質も上がるのです。これを起こすには、繰り返し感染するか、繰り返しワクチンをうつことが必要にはなります。

繰り返すうちに、副反応が増強する可能性

——しかし今回、繰り返しの接種は健康にも医学的なリスクがある可能性も示されているわけですね。短いスパンでブースター接種を繰り返すと、かえって免疫が低下することはあり得るのでしょうか? 

まず、何回も繰り返しワクチンをうつことによって何が起こり得るかを考えてみたいと思います。

一番怖いのは、免疫が「過剰な誘導」、つまりたくさん誘導され過ぎてしまうことによって、免疫に異常が生じる可能性があることです。

例えばワクチンでは副反応がよく調べられていますが、多くは免疫反応が過剰に起こるとか、「異常な免疫」によるものです。

異常な免疫反応には、量と質の問題があります。過剰な反応が量によるものだとすると、質の問題はワクチンで誘導された免疫が自分の体を攻撃してしまうようになってしまうことです。

まず、今回のワクチンの副反応としてみられている心筋炎は、おそらくこのような自己に対する免疫によるものです。ワクチンによって誘導された免疫が心臓の筋肉を攻撃してしまっているわけです。ベクターワクチンでみられる血栓症も同様に、自己の成分に対する免疫ができることが原因と考えられます。

また、他のワクチンでも出てくる副反応としては、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)も、ワクチンによって刺激された自分の免疫が自分の神経を攻撃していると考えられますし、ギラン・バレー症候群もそうです。

こういう風に、ワクチンで免疫が誘導されることによって質的に「変なもの」ができて体を攻撃してしまうことがある。稀な副反応ではあるのですが、接種の回数を重ねる方が、この発現率が上がる可能性があることは否定できません。

もう一つは量の問題で、発熱や頭痛や全身倦怠感などがそうです。これも何回も繰り返せば体に負担がかかります。だんだん反応がひどくなる可能性も考えられますし、アレルギーを引き起こす可能性もあります。

ワクチンの成分にアレルギーができる(感作〈かんさ〉すると言います)ことで、次の接種からもっとひどい反応が起きることも考えられます。

このように、副反応が強くなる可能性は否定できません。だから十分注意して、回数を重ねた時に副反応が増えてこないか、割合と質の両方を見ていく必要があります。

もう一つ、ワクチンの繰り返し接種によって、免疫の機能全体がおかしくなる、免疫機能が低下する、といった可能性については、はっきりした証拠がないです。

論文も調べてみましたが、ワクチンを繰り返しうつと、ワクチンなどの特定の抗原に対する免疫の質が変わってくるのは事実です。先ほどもいったように、接種を繰り返すことで、よりウイルスに親和性の高い抗体が選択され、それを担当する免疫細胞などが増えます。

ただそれによって免疫機能全体が下がったり、乱れたりする可能性については、特に明確に示されている証拠はないようです。

ブースターを繰り返すことによって「免疫機能が低下」する仮説は提示されていません。それよりは副反応が増強されてしまう、副反応の割合が増えてしまう、変な副反応が増えてしまう、恐れの方が大きいと思います。

——アレルギーなどが一度引き起こされると治すことができない可能性はあるのですか?

あります。今回のワクチンに対するアレルギーも、もし一度誘導されると、半永久的に残る可能性があります。その人はその後、接種できなくなる可能性も大いにあります。

接種間隔を短くした場合、問題は増えるのか?

——今、日本ではブースターは6ヶ月以上の間を空けることになっていますが、4ヶ月ぐらいにスパンを短くした場合は、そうした異常が起きる可能性は大きいのでしょうか?

それはわからないです。そんなに短期間で繰り返しうつワクチンはこれまであまりないのです。HPVワクチンも2回目まで1〜2ヶ月空けて、3回目は1回目から6ヶ月空け、3回だけしかうちませんね。

それ以上繰り返しうつ実験もワクチンではあまり行われていません。つまり抗体価が一定程度上がったら、効果十分であって、それ以上、上げる、つまり繰り返すことに意味がなかったからです。

繰り返しワクチンで免疫を付与することでどういう「害」があるかという研究は驚くほどなされていません。逆に危ないとも言えないし、安全だとも言えない、ノーエビデンスに近い状態です。

——mRNAワクチンでは、間を短くしない方が抗体価がしっかり上がると言われていますね。

免疫の反応はワクチンでいったん上がっても、時間が経つにつれ下がっていきます。下がりかけのところで追加接種をすると、さらに抗体価などが高くなることがわかっています。その正確なメカニズムはまだよくわかっていない部分も多いです。

間隔が短ければ短いほどおかしなことが起こるかどうかは未知の領域です。ただ、動物実験や少人数での実験もないところに、大量の人口に対してそういううち方をしたら、大きな問題につながる可能性を警告するという意味であれば、よく理解できます。

——ということは、EMAの呼びかけは確実な証拠があって警告したのではなく、リスクの可能性を検討せずにブースター接種を繰り返すのは良くないと言いたかったのでしょうか?

そうですね。あの呼びかけはすごく大事で、最初の話に戻れば、世界的に持続可能な戦略を俯瞰した時に、ワクチンをたとえば4ヶ月ごとに頻繁に繰り返し接種するようなことは現実的でないと示したかったのだと思います。

また、科学者として、そういうことが医学的に安全だという保証を我々はできないし、その懸念やリスクがあることは知っておいてほしいと言いたかったのだと思います。ワクチンは効果的で大事ですが、「ワクチン礼賛」ではないことを明確に言ったのでしょう。

これはワクチンに関わる多くの科学者が同意するところではないでしょうか。

今、注目されているのは、全ての変異ウイルス、コロナウイルスに効く「ユニバーサルコロナワクチン」

——今回はヨーロッパからの警告でしたが、アメリカでは今後のブースター接種はどのように議論されているのですか?

アメリカでは論点が錯綜していますが、純粋に科学者だけの議論を見ると、ブースター接種を繰り返すのには限界があるとみんな思っています。

1つには変異ウイルスが出てくるからですし、次回、別のウイルスのパンデミックが起きた時に、変な交差免疫(※)ができても嫌だなと考えているからだと思います。

※ターゲット外の別のウイルスに対しても働く免疫。

そうした議論から、今、ワクチン開発者や研究者の間で話題になっているのは、「ユニバーサルワクチン」です。

新型コロナに対しても「ユニバーサルコロナワクチン」を目指していて、まず一度接種すればあらゆる変異ウイルスに対応できるワクチンが想定されています。

また、コロナウイルスには、今回の「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」だけでなく、2002年に出てきた「SARS(重症急性呼吸器症候群)」や2012年に出てきた「MERS(中東呼吸器症候群)」、他の風邪のコロナウイルスもあります。

その全てのコロナウイルスに効くワクチンを、ユニバーサルコロナワクチンと呼ぶ人もいます。

このユニバーサルなコロナワクチンの開発を進めるべきだという議論がかなり積極的になされており、今後、方向性として目指されています。

アンソニー・ファウチらが書いた論考では、スパイクタンパク質がヒトの細胞の成分に結合する部分などを狙って、全てのコロナウイルスをターゲットにしたワクチンが必要だと述べています。また、デルタ、オミクロンもカバーして、1回で全て防ぐことが今後の方向性だと展望しているのです。

なぜユニバーサルワクチンが目指されているかと言えば、結局、今のように場当たり的に変異ウイルスに対応したワクチンを再改良する、ブースターを繰り返す、ということは、科学的にも良くない可能性があると思われているからです。また、社会科学的に持続可能ではないと科学者も気付いているのです。

だからアメリカでも研究者はブースターを何度も繰り返すのではなく、ユニバーサルワクチンを作る戦略を考え始めています。

——昨年12月15日に出された論考ですから、最近の話なのですね。

実はここに書いてある文章は別の論文の焼き直しです。インフルエンザのユニバーサルワクチンもアメリカのNIHなどで以前から研究が始まっています。インフルエンザワクチンも毎年うち、しかも効く効かないの問題、とくに変異したウイルスや別の型に対して効かないといった問題が出ているからです。

だから1回うてば全てのインフルエンザに有効なワクチンが必要だという議論がでてきたのです。

今回のコロナでも何回も接種しなければならない問題が出てきたので、インフルエンザのユニバーサルワクチンを応用した今回の論考が出されたのだと思います。

——技術的には可能なところに来ているのですか?

インフルエンザの方ではユニバーサルワクチンにつながるような設計がようやくでき始めたところで、ここ数年で劇的に進歩する可能性があります。

コロナウイルスに関しては、変異ウイルスでもスパイクタンパク質の変わりにくい部分や、SARSやMERSと共通している部分などをターゲットにすればユニバーサルワクチンができるのではないかと言われてはいます。

ただまだ、実験上はうまくいっていません。製造の技術革新は起きているので、ターゲットのデザインがうまくいけば進展する可能性はあります。

日本の読者が汲み取るべきメッセージは?

——日本の読者は今、3回目をようやくうつところに差し掛かっています。3回目はうった方がいいけれど、4回目以降は考えた方がいいかもしれないというのが今回の話で汲み取るべきメッセージでしょうかね。

4回目があるとして、今使っているワクチンの4回目になるのか、オミクロンまたは次に出てくる可能性のある変異ウイルスに対する改良型ワクチンの追加接種になるのかわからない状況です。

ワクチン接種を繰り返すことによる医学的なリスクは、誠実に言えば「ある」と言わざるを得ない。ただどういうリスクがどの程度であるかは明言ができないところでもあります。

ただ、毎年3回など頻繁に打ち続けるような方法は、学者も行政も「持続可能」と評価する人はいないと思います。

そういうことをヨーロッパの人たちは現実に即して誠実に言っただけでしょう。

そういう意味で、今回のメッセージで取り上げるべきところは、「ワクチンの追加接種は危ない」ではなく、「全体をみた時に戦略として繰り返し接種は持続可能な試みではない」ということだと思います。

ワクチンだけに頼れないなら、収束はいつ?

——今、欧米でも日本でもオミクロンで徐々に大変になりつつあります。収束が見えない不安を抱えていると思いますが、ユニバーサルワクチンが実用化されない限り、ワクチンだけに頼り続けるのは現実的でないとすると、現状ではどういう戦略が考えられると思いますか?

将来を見据えると、コロナが風邪やインフルエンザ並みにみられるようになった時が「収束」なのだと思います。

一つ目に必要なのは、ワクチン接種率が9割以上などに上がることです。日本が一番近づいてもいますが、免疫を持っている人がほとんどになることが大事です。免疫がない人が多少残ったとしても、そこを中心とする流行が医療機関の逼迫につながらない状態になればいいと思います。

もう一つ、重症化を防ぐ治療法がしっかり確立する、重症になった方をしっかりみることができる体制が整備されることも重要です。経口薬や他の治療法でもいいですし、医療体制や検査の速さなど様々な要素が絡まってくる話でもあります。

そういうこととあわせて、地域での流行が収まっていることが重要です。台湾やニュージーランドは達成していますが、日本も第5波の後にある程度達成しました。そういう時期が長くなればいいと思います。

でも、これは簡単な道のりではありません。アメリカやイギリスは相当の期間、流行は収まらないでしょう。彼らは「現在ある」リスクに目をつぶるような形でウィズコロナにしようとしています。

でも日本の場合はリスクの感じ方が海外とは違い、ゼロリスク志向に近い。リスクが残っている以上は新型コロナの感染症法上の位置付けを落とすことなどもしばらくは難しいでしょう。

認識は少しずつしか変えられません。現実的な数字として、流行や重症化率が下がり、医療逼迫も起こりにくくなったことが目に見えてくる。そうなれば、ワクチンを毎年1回ぐらいうつようになって「収束する」のかなと思っています。

——悲観的な想像になりますが、オミクロンよりも感染力・伝播性が高く、重症化しやすく、ワクチンでつけた免疫も効かない、大変な変異ウイルスが今後出てくる可能性はありますか?

可能性としてゼロではないと思います。オミクロンに変異が入ってきたり、デルタの伝播性がさらに上がったものが出てきたりする可能性もあります。とにかく流行を抑える、監視を続けることが重要です。

変異ウイルスの出現を抑えるという意味では打つ手がないのです。流行が続く限り、どうしても問題となる変異ウイルスが出てくる可能性が残る。先は全然読めません。オミクロンが終われば即コロナの流行がが終わるということもないでしょう。

ただ、今、普通の風邪になっているコロナウイルスも元々は病毒性が高くて、人類に影響を与えたのではないかという説があります。

スペイン風邪を起こしたインフルエンザウイルスは、今は季節性インフルエンザになっています。ウイルスの変異もありますが、ヒトの免疫獲得率なども変われば、感染経路も変わり、色々なことが複合的に作用して穏やかになったのだと思います。

コロナもこういう変化があれば、世界中どこでも下火になっていくことがあるかもしれません。