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「怖いのは塾や学童保育」 子どものオミクロン対策、すべきこと・してはいけないこと。

新型コロナの急速な広がりで、12歳未満の子どもの接種の前倒しについても議論が起きています。小児感染症の専門家は、「高齢者や持病のある人を優先すべきだ」としつつ、基礎疾患や肥満のある子どもへの早めの接種を提案します。

新型コロナウイルスが急速に感染拡大する中、心配されているワクチン未接種の子どもたち。

岸田首相は12歳未満の子どもの接種について「希望者に対して、できるだけ早くワクチン接種を開始する」と表明したが、重症化リスクの高い高齢者や持病のある人を優先すべきだと、小児感染症の専門家は言う。

やはり持病のある子どもたちは前倒しすべきなのか。重症化しやすい乳幼児はどうするか。

BuzzFeed Japan Medicalは、小児感染症が専門で予防接種にも詳しい長崎大学小児科学教室主任教授、森内浩幸さんに子どものワクチンとオミクロン対策について聞いた。

※インタビューは1月12日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

むしろワクチン接種したいのは生後6ヶ月から4歳

——前編で5〜11歳の子どもにとってはコロナは風邪並みだけれども、それより幼い2歳未満は重症化リスクがあるということでした。そういう意味ではむしろ5歳未満に予防接種をした方がいいように聞こえます。

3μgという12歳以上の場合の10分の1の接種量で生後6ヶ月から4歳までのワクチンの治験が行われましたが、思うような効果が得られなかったので今、やり直しています。

——ワクチンで守りたい年代ではあるけれど、ワクチンが効く証拠がないわけですね。

そうですね。だから生後6ヶ月から4歳までの子どもたちが対象となったワクチンができて、十分な有効性と安全性が証明されることが大前提ではありますが、むしろ5〜11歳よりそちらの年代に使いたいところではあります。

子どもが家庭内感染の媒介者になるリスク

——今回の新型コロナの流行では家庭内感染も増えているようです。子どもが家庭内で感染を媒介するリスクについてはどう考えますか?

当然起こると思います。イギリスやその他のEU諸国で子どもたちへのワクチン接種は、まず基礎疾患があるような子どもに推奨されています。

もう一つは家庭の中に免疫不全の人がいる場合に推奨されています。免疫不全があるとワクチンをちゃんと接種していても効果が十分期待できないので、できるだけ家庭に持ち込まない方がいいわけです。

そのような家庭の子どもにも接種して子どもにとって大事な家族を守ることは、子どものためでもあるという理屈で接種を勧めています。

アルファ株までは私もそうだと思っていましたし、デルタ株でもある程度はそうだと思っています。

でもワクチンによる感染予防効果が著しく減少したオミクロン株では、「しないよりはマシだろう」ぐらいのレベルまで必要性は落ち込んでいると思います。それでも私は、家庭の中にそういう人がいる場合は、限界を説明した上で、勧めるだろうと思います。

やるべきことをやった上で感染するのと、接種せずに子どもが保育園や幼稚園、学校などから家庭に持ち込んでがんの治療で弱っているおじいちゃんにうつし、亡くなったのと比べたらどうでしょう?

子どもにもトラウマが残るし、親だって悔いが残るでしょう。

だから画期的な効果ではないですが、家庭の中にそういう人がいる場合は、私は子どもの接種をおそらく勧めます。

重症化リスクの高い子どものワクチン接種、前倒しすべき?

——子ども自身が基礎疾患や肥満がある場合、そして家庭内に免疫が不十分な家族がいる場合は子どもでもワクチンを勧めるということですが、3月に始まると言われる接種を、そういうハイリスクな子どもでは前倒しすべきだと思いますか?

その時の医療体制がどのような状況かに関わってくると思います。

私自身が今、最優先すべきだと考えているのは高齢者や基礎疾患を持つ大人たちです。この人たちはワクチンをだいぶん前に接種して、オミクロンが流行っていなかったとしてもブレイクスルー感染(※)を起こすタイミングになっています。

※2回接種が完了したにもかかわらず感染すること

一定数感染者が出ると、重症化する人も出てきます。そういう人たちへの3回目接種をどんどん進めるのが、ワクチン接種では最優先です。

ところが、オミクロンが流行して、医療従事者が感染したり、濃厚接触者になったりすることによって、戦線離脱する問題が起きています。深刻な状況です。

新型コロナにかかった人の診療もしなければいけないのに戦線離脱している人が結構いる。その中でワクチン接種にも人を出さなければいけないのです。

そこで「前倒しになったから5〜11歳もうてますよ」となると、みんないっぺんに押し寄せた場合、今の医療体制ですべてカバーするのはかなり厳しい。

優先順位を考えれば、健康な子どもたちのワクチン接種を急ぐ理由はないと思います。

ただし、基礎疾患のある子どもや肥満児は別です。12歳以上の基礎疾患がある子や肥満児でまだうっていなかったらうってほしいし、5〜11歳のワクチンが出てきたら、そういう子どもたちは優先してうつ手はずを整えていきたいです。

今の状況で健康な子どもたちまで接種対象を広げたら現場は混乱します。違うタイプのワクチンをうつ5〜11歳を、それより上の年齢と同じ接種会場でうつのは不可能です。

感染者が増えて集中治療室も埋まり、宿泊療養施設も満員になって人手に余裕がないタイミングで、健康な子どものワクチンのための人員を割くのは正しいことでしょうか?

——ハイリスクな子どもに絞って前倒しすることはどうでしょう?

リスクのある子どもに感染が及んでいく時の重症化を防ぐために、その子たちに絞って対応するのであれば、医療現場の混乱も抑えられるでしょう。ハイリスクの場合は、高齢者でも5歳の子どもでも、ぜひ早めに接種したいと思います。

入試や学校での感染対策は?

——今、子どもにとっては新学期が始まった頃で、これから受験のシーズンにもなってきます。学校での感染対策や入試における感染対策は、オミクロンの流行で変えた方がいいと思いますか?

試験については、試験会場がどういうところかにもよりますが、基本的にぺちゃくちゃしゃべるような場面ではありません。

みなさんが正しくマスクを着用して、部屋の換気をしっかりする。コロナがなくても試験の時は距離を開けますから、多くは感染から守られると思います。

もちろんゼロリスクは求められませんし、体調が気になる人の別室受験なども必要かもしれませんが、大きな問題が起きる可能性は低いでしょう。

学校は、子どもが可哀想になるぐらい感染対策をしっかりやっています。寒い中でも換気をしっかりやり、少しでもおしゃべりしたら先生に叱られ、給食も黙食です。

基本はそれでいいのですが、より徹底してほしいのは、「余計なことをしない」ことです。

具体的にはデスクシールド(机を透明な板で覆うこと)を絶対にやめてほしい。逆効果になることはアメリカの研究でもはっきり出ています。子どもたちの口元の空気が淀んで換気の効果が薄れるわけですから、当たり前です。

また、今でもウレタンマスクや布マスクをしているのを見かけることがありますが、不織布のマスクをぴったりフィットするようにつけてほしい。

今は子供用の不織布マスクもありますし、ない場合は、大人用の不織布マスクの上から子供用のウレタンマスクで押さえたらいいのです。不織布のマスクをきちんと使うかどうかで予防効果は明らかに違います。

さらに手洗いも「なんちゃって手洗い」ではなく、しっかり洗ってほしいです。アルコール消毒も手のひらをちょこちょここするだけで終わりではなく、指先や指の間も十分アルコールを行き渡らせてください。

換気もマスクも手洗いもきちんとする。今までと同じことを正しく徹底することが必要です。

体調が悪ければ学校に行かない

もう一つ、大事なのは毎朝、登校前に体調チェックをして、体温も測ることです。いつもと違う体調であれば学校には行かない。教師も生徒もそうです。

実際にクラスターの起きているところは、後から調査をするとだいたい理由があります。

先生たちが職員室でご飯を食べながら喋っていたり、子どもたちが更衣室で着替えている時におしゃべりしていたり、何らかの症状があったのに登校して学校で授業をしたり、受けたりなどです。こういうことが発端となっていることがものすごく多い。

やることは一緒です。今まで徹底されていなかったので、もう一度基本を見直して徹底しましょう。

気をつけた方がいいのは学習塾と学童保育

——学校以外で子どもたちが感染に気をつけた方がいい場所はありますか?

もっと怖いのは、学習塾や学童保育です。学校のように徹底した対策をとっているわけではないでしょうし、学校ほど密を避けることに力も割かないでしょう。

狭いビルの部屋に生徒がたくさんいた方が経営上いいでしょうし、窓を開けっぱなしで換気して暖房代も嵩むことはしないでしょう。圧倒的に学校よりも感染リスクは高いです。

学童保育も、学校より少ない人数で子どもたちの面倒をみることがあるし、子どもたちも学校で感染対策をうるさく言われているので、放課後は気が抜けるでしょう。

学校よりも学童保育、学習塾の方がリスクが高く、そこで子どもたちは感染して家庭内や学校に持ち込んでいき、広がっていくことを心配しています。

子どもに感染が広がると家族にも影響

——そこで感染して自宅療養になれば、親も休まなければならなくなって影響が出てきますね。

実際にそれは世界的に起きていることです。昨年9月の下旬、第5波が収まってきた頃に、千葉市内の保育園、何か所かでクラスターが起きました。それによって、千葉大学の附属病院は80人ぐらいの医療従事者が出勤できなくなりました

第5波の真っ最中に起きたら大変なことになっていたでしょう。

子どもたちの中で感染が広がる影響は、そういう形でも起きてきます。

そして、これは基本的な感染対策である程度防げます。オミクロンの最初の数例は大々的に報じられ、飛行機に乗っていた人を全員濃厚接触者として扱いましたが、長時間のフライトを共に過ごしたにもかかわらず、飛行機の中で感染は広がっていませんでした。

換気がいいからです。そして飲んだり食べたりする時以外はマスクをしていたからです。大阪でもオミクロンに感染した学校の先生の家族は全員感染しましたが、その人が教えていたクラスは感染しなかったのです。

オミクロンであっても、私たちの生活様式を見直し、感染対策の基本を徹底することによって感染はしっかり抑えることができます。ぜひ改めて理解していただきたいです。

(終わり)

【森内浩幸(もりうち・ひろゆき)】長崎大学小児科学教室主任教授(感染症学)

1984年、長崎大学医学部卒業。1990年以降米国National Institute of Healthにおいてウイルス研究と感染症臨床に従事し、1999年から長崎大学小児科学教室主任教授。

日本小児科学会理事、日本小児感染症学会理事長、日本ウイルス学会理事、日本ワクチン学会理事、日本臨床ウイルス学会幹事、日本小児保健協会理事、日本感染症学会評議員。