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コロナ禍での「怒りの感情」をぶつけられたら どう受け止める?

コロナ禍で悩みを抱える人たちに、精神科医の市来真彦さんと松本俊彦さんが対談形式で答えるイベントの詳報。最終回では、怒りの感情をぶつけられた時の支援者の心構えなどについて話します。

新型コロナウイルスでますます離れる人との距離。

NPO法人「地域精神保健福祉機構・コンボ」主催のメンタルヘルス講座「こんぼ亭」で行われた対談「コロナ孤立で人とつながれない! どう生きていくのか考えるの詳報の最終回となる4回目も、質疑応答のコーナーをお伝えします。

こんぼ亭の亭主を務める精神科医の市来真彦さんが、松本俊彦さんを招き、コロナ禍で沸騰する「怒り」の感情への対処法について答えます。

支援者はリア充よりも、ヤバめがおすすめ

市来 相談支援専門員の方です。「悲惨な出来事を多く経験してこられた方に対して、『あなたのここが素晴らしいんだよ』と伝えても、無視されたり、否定されたりしてしまう。本当は聞いてくれていると思って、それでも粘り強く関わった方がいいですか?」というご質問です。

松本 それでも諦めずに粘り強く関わった方がいいと僕は思っています。なかなかこれまでの体験で刷り込まれたものが数回の誘いで変わるとは思っていません。

でも、その支援者といい関係が築けてくると、「その人が言うのだから、1回は試してみようかな」と思ってくれる人もいます。ぜひまずはその方といい関係を作るようにしていただければと思います。

その時、健康優良児のように「私幸せでたまらない」みたいな人よりも、なんか少し、「あの支援者もヤバくね?」という風な、ちょっと黄泉の国に片足突っ込んでいる人の方が話しかけやすいという論文を読んだことはあります(笑)。

市来 学術的なご説明ありがとうございます(笑)。

松本 はい(笑)。

市来 1回のポジティブなフィードバックだけで元気になるということは、まさに悲惨な出来事を多く経験している方であればあるほど厳しいと思うのですね。

やはり相談支援員の方からすると、せっかくポジティブな言葉を返しているのに、と思う気持ちはわからないではないのです。しかしむしろ、1回のポジティブなフィードバックでうまくいかないのであれば、もっとつらい思いをしてきたのだなと思います。

悲惨な出来事を塗り替えられるぐらいに達していないと、受け止めることができないのではないでしょうか。

それでも諦めずに続けていく。諦めればそこで終わりですが、超えていけばどこかでその方のお気持ちが本当に伝わったという時がくるのではないかなと思います。ぜひ諦めないでほしいなと思います。

精神科の往診、どうやって実現しているの?

市来 私のところにきている相談にも一つお答えしましょう。

「支援者の立場で参加しています。1ヶ月ぐらい受診していない患者に往診するという話がありましたが、大きな病院の医師が病院を離れることはなかなか難しい。往診するにあたって工夫があるのでしょうか?」ということです。

まず、私がアウトリーチ(自分から手を差し伸べていくこと)を始めたのはもっと昔で、25年ぐらい前に民間病院にいた時でした。かなり限定されたエリアを診ていたので、入院した方については退院した後、全員訪問をしていました。

私は退院したら訪問することを入院の時に告げていました。外来の患者さん時にも途中で来なくなる可能性がある方に訪問を勧める時は、来なくなってからではなくあらかじめ言っていました。

退院直前に訪問したいと言ってもあまり受け入れられないでしょうけれども、最初からパッケージ化していて、入院したら訪問が付いてくるという話をすると受け入れてくれる可能性があります。

もう一つ、大きな病院と言っても、たまたま私は年齢が上になっているので、入院患者さんを持っていません。

ただ、私一人が訪問に行っているわけではなく、相談センターのケースワーカーさんや研修医の先生とかと一緒に行きます。

研修医の先生と私が組んで行って、私の外来の日に来れなかったら、彼の日に来るかい?という話もできます。そこで可能性が増える。相談者ができることの可能性を増やすために複数の人で動いている。

松本 素晴らしいなと思います。大きな病院で常勤の医者がどういう言い訳でどうやったら病院の外に出られるかなと悩ましく思うところもあります。

ただマッチは病棟フリーのところもあるし、研修医はかなり自由度が高く、自分の外来診療担当枠があるわけでもないから、必ずしも病院に張り付いていなくてもよいわけでからかね。ああその手があったかと思いました。

愚痴を吐くのに抵抗がある場合は?「生ゴミの理論」

市来 「コロナ禍で愚痴を聞いたり、話したりするのが良いという意見が出ましたが、私は今まで愚痴を言うのも聞くのも嫌な方でした。なぜなら、愚痴はエスカレートしやすいし、自分の考えを押し付けてくる人が多かったからです。相手を選ぶのが難しいというところもありますが、いかがですか?」というご質問です。

松本 そうだよね。おっしゃる意味はすごくよくわかるし、愚痴は怒りの感情が抑えきれずに憤懣やる方ない、と怒りをぶつける形だと聞いている方もつらくなるだろうなとは思っています。

ただ、普通の人たちは、愚痴を長く言って、腹が立つけれども、延々と話しているうちに流石にエネルギーダウンしてくる時があるような気がしています。

愚痴を聞く時に、怒りを吐き出す人の愚痴は聞くのをやめた方がいいと思います。そして自分で愚痴を言う時にも、「言って解決しよう」ではなくて、「少し愚痴らせて」と言う感じにしましょう。

怒りをぶつけるのではなく、解決するのではなく、「どうにかしてください」でもなく、愚痴らせてという態度です。と言うことで、ぜひ愚痴ることをやってみてほしいなと思います。

市来 私は、「生ゴミの理論」と勝手に呼んでいるのですけれども、この理論はどこの学会にも発表しているわけではありませんが(笑)。溜め過ぎると、捨てるのが大変になる。逆にこまめに捨てると大きな問題にはならないのではないかという考え方です。

溜めに溜めてからたくさんの愚痴を言おうとすると、怒りにつながったり、聞いている方が嫌になっちゃったりすることになると思います。松本さんがおっしゃるように、「ちょっと愚痴らせて」というような「ちょこっと愚痴」みたいなものをやるというのがすごく大事だと思います。

自分がそれをやると、周りの人も「これはいいな」と思ってくれる。これぐらいだったらしつこくなくていいかなと思う可能性があるかな?という感じなんです。

松本 僕もそう思います。ちょっとだけ心配なのは、「愚痴るのは嫌だ」という人は自分自身、溜めていないかな?というのが心配になりました。

市来 それこそ今の段階で愚痴を言うと、ひょっとするといいかもしれないですね。

患者さんに怒りの感情をぶつけられたら? 

次は「周囲の人や過去の出来事に怒りを強く感じているという相談が増えている。コロナ禍の状況で、怒りとどのように向き合えばいいでしょうか?」というご質問です。匿名ですが、相談を受けているので支援者でしょうね。トシちゃんから「怒り」というキーワードが出てきたので伺います。

松本 怒り自体は自然な感情だし、正常な反応だと僕は思っています。むしろ自分が診ている患者さんは、怒りはいけない感情だと思って一生懸命蓋をして、自分を責めている人がいるんですよね。

だから怒り自体はいいと思っています。問題は怒りの感情を受け止めている支援者が結構疲れるということですよね。その時にどう対応したらいいのかというご質問だと思います。

僕は電話相談の指導をすることがあります。その時に電話相談の内容を聞かせてもらうと、だいたい最初の10分ぐらいに怒りがガーンとぶつけられるのですよ。

その時、相談者には「受話器を離せ」と言っているのですね。あの最初の勢いで、聴く側はやられてしまう。

僕らも患者さんが怒っている時はどうするかというと、「ああなるほど。怒っているな。この人は今、怒っている」と心の中で「括弧」にいれてその言葉を思い浮かべながら、一生懸命カルテを書くのです。

「鬼の形相で怒っていて、次から次へと言葉が出てくる」などと描写していると、自分の中で心の鎧ができるので、それで収まるかどうかだと思います。収まらなかった時には、途中で「ごめん。今日は自分には受け止められない」という風にしたらいいと思います。

たぶん多くの方は出だしで収まってくると思うので、そういうものなのだと考えて、自分のダメージを少なくするスキルを磨かれるといいかなと思っています。僕はカルテ書きに没頭します。

市来 「精神科のお医者さんによく話を聞いてもらってください」と、よその診療科のお医者さんから僕らに紹介されてくることがあります。だいたいそういう患者さんは、紹介してきた担当ドクターに怒りがある。それを1から10まで話を聞いてしまうと、サンドバッグ状態になってしまうと思うのですね。

だから、ボクシングと同じで、試合開始と同時に手を出してくる相手に対しては、ひたすらよけていく。それは決して悪いことではない。全く話を聞いていないわけではなく、一緒にその時間、その場所にいるということは悪いことじゃありません。

そういう人がいなければ、怒りが溜まってしまう。吐き出せる場所にはなっているわけです。まさに最初の10分という指摘は私も勉強になりました。

怒りを表出している方には最初はある程度距離を取って出させてあげてから、冷静に話を聴くのがいいのかなと思いました。

支援者同士のイライラのぶつけ合い

市来 同じく「怒り」に関する質問です。

「支援者です。支援側の仲間がこれまでより互いに互いにイライラをぶつけ合っている場面が増えたように思います。仲間同士で視野を広げて穏やかな協力関係を作っていくための工夫はあるでしょうか?あるいは私がそういう仲間を見てもぐったりしないための格言をください」

先ほどの質問と似ていると思いますが、「松本語録」というもので解決しようと思います。

松本 そんなものはないです(笑)。ちゃんとチームの人たちを時々はねぎらわなくてはなと僕はいつも思っています。色々なミーティングやカンファレンスの時に、あまり小言をいうのではなくて、いいところを評価する風に努めています。

ただ、それでも疲れてくると、イライラするし、結局そのイライラは誰かが受け止めなければならない。そこで顔を合わす回数を減らすと、余計ネチネチしてしまうので、ギスギスしているなと思いながら会うようにしています。

どうしたらいいんでしょうね。僕もよく病棟の師長さんから怒りをぶつけられたりしているのですけれども(笑)。

市来 トシちゃんの場合は、互いにイライラをぶつけ合っている状況にあるし。

松本 (笑)。そうだね。

市来 私であれば、オフィシャルな場所であれば、むしろ「最近みんなイライラして、ぶつかり合っているんじゃないの」というのをテーマにして、1回話し合うのもいいんじゃないかと思っています。

そこでやっていたのは、みんなでシェアすることです。「ああ、あなたはそういう風に感じているんだね」というように、医療者として「傾聴」と「共感」を示す。

その根本に立ち返って、「あなたはそう感じているんだね。怒っていると言われるんだけど」と、一度受けてから、指摘する。受け止めずに話すとバトルになってしまうので、いったん受け取る作業をすることが落ち着くことにつながるのかなと感じました。

依存症の人が怖いのをどうしたらいいか?

市来 さて次は「精神の障害を持っている方の、B型事業所(就労継続支援事業所)の支援者として働いています。20年前にアルコール精神病の方と関わる中でパニック障害を発症して、アルコール依存症の方と関わるのが怖いです。燃え尽き症候群になってしまうのではないかと思ってしまいます。2年程前にはギャンブル依存症の方と関わっていて、うつ状態になってとても苦しかったです」

「信頼関係を築こうと努力する中で、孤立して抱え込んでしまう。個人的に頼まれごとをされた時にはっきりとNOと言えないところが、うまく支援できない要因かと思っています。チームで関わらない限り、自分の恐怖心は消えないのかと思っています。今改めて、依存症について学ぶことが必要だと考えています。何かご助言を」ということです。

松本 一つ、比較的簡単な方法があります。アルコール依存症やギャンブル依存症の自助グループのオープン・スピーカーズ・ミーティングという、一般の支援者が入れる集まりがあります。そこにしばらく通ってみてはいかがでしょうか?

いろんな依存症の方たちもいるし、こんな人がこんな風に変わるのかというのもわかってくると思います。

もう一つ、依存症の人と関わる時に一番大事なのは、この人のことを自分がなんとかしようと思わないことです。そんな姿勢でいると、本当に燃えつきます。

「まあお互いに気分良く、決まった時間はなんとか一緒にお付き合いしていこう」ぐらいの方が、燃えつきから自分を防げると思うし、相手も苦しくないような気がします。

孤立している仲間に何ができるか?

市来 最後の質問とさせてください。「私はオンラインでピアサポートの場を開いています。先ほど、病院は出会いを生み出す場になると話していましたが、そこまでたどり着けない方もいると思います。自殺者が増えているのも気になっているのですが、孤立している方に私たちは今、何ができると思いますか?」というご質問です。

松本 オンラインでそのような支援活動をされていること、とても素晴らしいと思います。ぜひ支援活動のことをSNSでどんどん発信してみてください。

病院にもどこの相談機関にもつながれないけれど、部屋の中でネットサーフィンしている人はたくさんいると思います。そういう人たちが繋がるようなチャンスを増やしていくことが大事かなと思います。

市来 宣伝ではないですけれども、これがまさにSNSの上手な使い方なのかなと思いますね。

また「アフターコロナ」をテーマに松本さんとこういう機会を持ちたいと思います。今日は松本さんは14日間の謹慎中で飛行機内からのご参加という設定(?)でしたが、その頃には、松本さんも機上での14日間の謹慎から解けると思います。違う背景でご登場いただきたいと思います。ありがとうございました。

(終わり)

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事、日本社会精神医学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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【市来真彦(いちき・まさひこ)】東京医科大学学生・職員 健康サポートセンター センター長、東京医科大学精神医学分野准教授

1992年千葉大学医学部卒業、2005年11月より東京医科大学精神医学講座・講師、東京医科大学霞ヶ浦病院精神神経科科長、2019年11月より現職。2020年7月より特定非営利活動法人 地域精神保健福祉機構・コンボ理事。

日本社会精神医学会理事、日本臨床死生学会理事、日本臨床音楽研究会理事、日本産業精神保健学会代議員、日本抗加齢医学会評議員、日本自殺予防学会評議員、日本うつ病学会評議員、日本不安症学会評議員、日本笑い学会元関東支部長、現・笑いの講師団・講師、など。