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「世間の緩和と医療機関のギャップが大き過ぎる」 子供の命を守るために小児科医が求める「変化」とは?

コロナ感染後に死亡した20歳未満の調査を見て、「医療対応が適切にできていたら助かった命もあったのではないか」と指摘する小児感染症の専門家、森内浩幸さん。救える命を救えるようにするために、 医療も、社会も柔軟に変化する必要があると呼びかけます。

コロナにかかって死亡した20歳未満62人を分析した国立感染症研究所の「新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報)」。

早めに医療対応さえできていれば助かる命もあったのではないか、と指摘する小児感染症が専門の森内浩幸さんは、どんな改善策を提案するのか。

前編に引き続き、お話を聞いた。

※インタビューは1月5日に行い、その時点の情報に基づいている。

【調査の概要】発症日か死亡日が2022年1月1日から2022年9月30日までの20歳未満の死亡例、62例について分析。病気による死亡と判断された50人中、持病のない子供の死亡例は29人(58%)で、新型コロナワクチンは、接種対象年齢だった26人のうち、23人(88%)が未接種だった。中枢神経系の異常と循環器系の異常が多く、急性脳症、急性心筋炎などの診断がついた症例が多かった。

陰性証明のためのPCR検査は無意味

——今はどこの自治体も自宅療養のための登録センターや相談電話を整えています。でも勤めている企業が復帰時や濃厚接触者の「PCR検査での陰性確認」を求めたりして、医療機関にかからざるを得ない状況も起きています。

医療職など一部の職種を除き、やめてほしいですね。陰性証明のためだけに医療機関に押し寄せ、医療の逼迫に拍車をかけるのは間違いだし無駄だと思います。

周囲で感染者が爆発的に増えて、どれだけ注意していてもかかるような時に、発症から7日も10日も経って、症状もとっくになくなっているのにもう一度検査をすることにあまり意味はありません。

まだウイルスを排泄しているかも知れませんが、その量は随分減っています。感染したことがわかって一定期間療養し、マスクをつけて人混みを避けながら仕事に復帰した人からうつされるリスクと、感染したけれど無症状で普通に生活している人からうつされるリスクとどちらが大きいのか。

今はいつどういうタイミングで感染したかわからない人が大多数なので、陰性証明をいくら頑張っても流行を食い止めるのは無理です。

もちろん、流行状況によって対策は変えなければいけません。

世界のどこかで新たな変異株が見つかってそれが日本に広がると厄介なことになるかもという時には、できるだけの水際対策をして、市井で見つかったら封じ込めの努力をします。職場復帰にも陰性証明を求めることが必要となるかもしれません。

でも今のこの状況で、そんな陰性確認をする意味があるのか、ということです。

流行状況によって柔軟に対策を変えるのが下手な日本

——社会の方の対策のあり方も変えていかなければならないわけですね。

流行のフェーズ(段階)によって対策は柔軟に変えていかなければならないのに、日本はそれが下手すぎます。

私たちの病院でも今とても困っているのは、人手が足りないことです。感染や濃厚接触者になったとして離脱し、どんどんスタッフが少なくなっています。

でもアメリカのCDC(疾病管理予防センター)では随分前から、コロナの流行状況を「平時」と「流行時」と「危機的な状況」とに分けて、対策を切り替えていました。

例えば、平時は水際対策や封じ込めを頑張り、医療関係者も濃厚接触者になればしばらく休んだりします。でもいざ感染者が増えて、人手が足りなくなれば、濃厚接触者は毎朝検査して陰性なら出勤します。

そして、本当に危機的な状況になれば、コロナに感染している人でも病院に来て仕事をするのです。「コロナ病棟で働くのに、コロナに感染しているからといって何のマイナスがあるのですか」という合理的な考え方です。

もちろん本人は元気だという条件でのことです。

でも今の日本でそういうことをやれば、「コロナにかかっているのに病院に行ったのか!」と批判されます。真っ直ぐコロナ病棟に行って、真っ直ぐ車で自宅に帰るなら問題ないはずです。

日本国内で大流行している時の水際対策は意味がありませんが、流行が落ち着いている時には海外からの持ち込みを防ぐことが必要です。また、これまでとは性質が異なる変異株が海外から入ってくるかもしれないときにも、水際対策は大事です。

また国内での流行が続いている時でも、主流となる変異株が新しいもの、例えばXBBに置き換わっていくようなら、流行途中でも対策を変える必要が出てくるかも知れません。

感染対策は、状況に応じて柔軟に「明日からこう変えます」ぐらいのスピードで変えなければいけません。そのためには事前に様々な状況を想定して議論し、対策の骨組みを立てておく必要があります。

でも日本はその時になって徐に議論を始め、何ヶ月もかけた上で「(何か月も先の)4月からこう変えます」などと言います。ウイルスは私たちの都合に合わせてくれません。私たちがウイルスに合わせて動くべきなのです。

新型インフルエンザの時はみんなで診ていた

——子供が死亡するという痛ましい事態をなるべく避けるためにも、変えなければいけないことがたくさんありそうだとわかりました。まずは行政が動かなければいけないでしょうか?

それはそうだと思います。行政で、少なくとも子供に関しては、新型インフルエンザのようにできていたような医療体制を作れるかどうかです。

新型インフルエンザの時に日本は諸外国に比べて死亡率をかなり低く抑えました。日本はワクチンも大幅に遅れたので、ワクチンのおかげで死亡を避けられたわけでもなかったのです。

当時、日本は世界中のインフルエンザの抗原検査キット、抗ウイルス薬のタミフルのマーケットシェアのほとんどを占めていました。

インフルエンザが疑われたらすぐに受診し検査をして、すぐにタミフルを処方した国は日本だけだったのです。当時はそのような診療の在り方を非難した人もいたのですが、アメリカのCDCは後に日本のやり方を正しかったと評価しています。

欧米諸国のようにインフルエンザと思ったら、5日間ぐらい自宅で寝て過ごし、それでも治らなかったら初めて受診していた国では、抗ウイルス薬が効かなくなるタイミングなので助からない人がたくさん出ました。

若くて健康な人ならいいのですが、高齢者や持病があったり、肥満があったりした人は、すぐに受診してタミフルの処方を受けたら助かったのです。

ところが今、コロナでは当時と真逆の対策をとっています。

欧米はほとんど全てのプライマリケア(初期症状を診る医療)がコロナに対応しています。でも日本でコロナを診るプライマリケアは外国に比べて相当少ない。手を挙げている病院でも実際には殆ど診ていないところはたくさんあります。

結局、大学病院も含めた公的な高度医療機関がコロナに対応せざるを得ないために逼迫して、本来の機能が果たせなくなっています。心筋梗塞や脳卒中の患者、元々の持病でかかっている人が運ばれてきてもすぐに対応することができていません。がんの手術さえ先延ばしです。

日本は新型インフルエンザの時は、24時間365日対応し早期診断・早期治療ができていました。全ての開業小児科医が診てくれましたし、週末・休日や年末年始でも、当番医としてまた休日夜間センターでの交代勤務などで対応してくれたのです。

でも今は、発熱して数日経っている子供でも、いつもと様子が違うので心配な場合でも、「うちでは対応できない」と断られるケースが増えているのです。

第6波から問題は続いているが...

——感染研の子供の死亡調査は2022年1月から9月までが対象期間ですが、第6波あたりからこうした問題が起きていたということですね。

第6波が始まって間もない2022年2月、京都で生後10ヶ月の乳児が自宅で亡くなりましたが、「クループ症候群(ウイルスが原因で起きる呼吸器疾患)」のための窒息死だったようです。

しかし報道によると、デキサメタゾン投与やアドレナリン吸入などのクループへの治療はされていないようでした。家庭で急変した後も引取り先がなかなか見つからない間に手遅れになったようです。

本来クループは死ぬ病気ではありません。お父様は「コロナという病気で亡くなったとは思うてません。コロナに対する国の対応、医療の在り方のために亡くなったと思うてます」と言われていますが、全く同感です。

——その状況が今も続いているということですね。

第6波の酷い時、第7波を経て、第8波でも流行が酷くなっている地域を中心に、適切な医療を受けられない子供の死亡例も増えるのだろうと心配しています。

——流行当初は「子供はコロナに感染しても大丈夫」という印象が強かったですが、子供の感染者が増えるにつれて、コロナでも子供は亡くなるし、持病のない子供でも亡くなるということに、小児科の先生たちは危機感を募らせています。

それは感染者数という分母が非常に増えているからですね。致死率を考えると、ものすごく死ぬ病気になったかというと、今でもインフルエンザやRSウイルスの感染に比べれば、そこまでではないと思います。

ワクチンの効果についてこの調査では語れない

——ワクチンに関して、この調査ではワクチン接種対象年齢で死亡した子どもの88%はワクチン未接種だったことが注目されています。SNSなどを見ると、小児科の先生たちはワクチンの大事さをこの調査の数字を引用して伝えています。

ワクチンが子供にとっても大事なのは確かですが、この調査結果でワクチンの効果を語るのは危ないと思います。

ワクチン接種対象者の死亡者(26人)の中で、接種していたのが12%(3人)だったという結果ですが、この調査期間で対象年齢の子どもたちの接種率は十数%です。ということは、子供全体の接種率と変わりません。

少なくともこの結果からワクチンが劇的に効く、とは言えません。死亡した子どもの88%がワクチン未接種だったことを根拠に「ワクチンをうたなかったからこの子たちは死んだのだ」などと主張すれば、逆に揚げ足を取られかねません。

逆にこのデータは「ワクチンが効かない」という意味にもなりません。要するにこの調査だけでは、統計的な意味がある結果は見い出せない。限界のある調査で、ワクチンについて踏み込んで言えることはないのです。

BA.1が流行っている時の治験のデータや、その後一般社会で使われ出してからの研究データで見る限り、今使っているワクチンが子供の重症化を防ぐことは間違いありません。

ただし、ウイルスは変化してきていますので、BA.1のデータはBA.5にはそこまで通用しないし、XBBなどに置き換わった後でどこまで有効性について言えるのかは不明です。

特に生後6ヶ月から4歳のワクチンは3回接種しなければ有効性が期待できません。3回目の接種から数週間経ったタイミングは今からしばらく先の春先以降になります。

その頃は確実にXBBに置き換わっているでしょう。XBBに対して今のワクチンの効果はかなり下がると言われていますので、どの程度ワクチンが効くかはあまり強くは言えません。

もちろん重症化を防ぐ効果は期待しているので、なるべくうってほしい。でも今回のデータのみをもって「ワクチンさえうっておけば、こんな悲惨なことにならなかったのに」というのは言い過ぎです。

「ワクチンありきで子供の死亡を理由にうてうてと言っているんだろう?」とワクチンに反対する人に言われ、先に挙げた根拠で疑問を投げかけられても、反論できないと思います。

もっとデータが出てきた上で計算すれば、ワクチンをうった子供の方が重症化せず、死なずに済んだという結果が出るとは思います。でもそれは先のことですし、どの程度の効果かは今のところ何とも言えません。

子供の命を救おうとするなら、ワクチン接種を続けるのはもちろんですが、それ以上に今の医療体制を整える方が即効性があり、より確実な効果をあげることができると思います。

社会の目線も変わることが必要

——まずは何から手をつけるべきでしょうか?

まずかかりつけ医が自分たちが診てきた子供たちの変調があれば、直ちにきちんと診るようにする。そのためにはコロナだったらこんなこともあんなこともしなければいけない、という無駄が取っ払われないといけません。

また、いっぱい診れば診るほど感染するリスクは上がるので、感染しても遠からず仕事に戻れる仕組みを作ることも必要です。

それには、社会の側の目線も変える必要があります。「同じテナントビルでコロナ患者を診るから迷惑している」という視線がなくならないと、開業医がみんなで診ることは無理です。

政府の方針も変わってほしいし、世の中も普通にどこでもコロナ患者がいることを受け入れてほしい。インフルエンザの患者が雑居ビルのクリニックに入ってきても誰も何も言わないですよね?

医療側も社会側も両方変わらないと難しいと思います。

医師の意識を変えるといっても、社会の仕組みや社会の目が変わらない限り、一人でどれだけ頑張ろうと思ってもうまくいきません。

世間は完全に緩和(ウィズコロナ)に舵を切っていますが、病院の中だけはゼロコロナのままほとんど変わっていません。そのギャップが大き過ぎます。

世の中が適度に緩和するのは構わないと思います。でも同じように医療機関も緩和していかなかったら、病院は本来の仕事ができません。

コロナによる死が減っても、全体の死亡が増えたら意味がない

——その影響で多少、院内感染が出たとしてもそれは仕方ないことだと受け入れなければいけませんか?

そういうことだと思います。リスクの高い人は重症化を防ぐために必要な追加接種はどんどんしてほしいし、発症したらすぐに診断を受けて、すぐに抗ウイルス薬を使って重症化を防いでほしい。追加接種をしっかり受けている人は、そもそもそんなに重症化しません。

お年寄りはどんな風邪のウイルスでも亡くなることがあります。今はコロナもその一つになっています。それはみんなが受け入れるようにしなければいけません。

「うちの父親は院内でコロナに感染して死んだ!」と騒ぎ立てるなら、病院の方でもコロナ陽性者が出た病棟は全て閉鎖して、心筋梗塞や脳卒中で運ばれてくる患者やがん患者らもますます受け入れられなくなります。

コロナが登場して4年目となりますが、最近、ようやく看取り方も変わりつつあります。

アメリカでは大流行している時、面会制限をしていた病院は多かったのですが、例外が三つあります。

「小児病棟」「出産」「看取り」です。そこは面会制限をしていなかったのです。

でも日本は看取りにおいても面会制限を続け、お骨になって初めて対面する、ということをずっとやってきて、今でもそれに近いことをやっているところがあります。

明らかにおかしい対策がずっと続いているのです。

日本ではこれだけ社会が緩和しているのに、病院に対しては流行初期と同じ対応を求め続けている。PPEもフルで着続けていますし、あまりの対応の大変さに辟易してコロナ疑いの患者の診療を拒否することが続いています。

仮に医療機関におけるゼロコロナ対策でコロナによる直接死亡が防げたとしても、社会全体としての死亡が増えたら意味がありません。日本も変わる時にきているのだと思います。

(終わり)

【森内浩幸(もりうち・ひろゆき)】長崎大学小児科学教室主任教授(感染症学)

1984年、長崎大学医学部卒業。1990年以降米国National Institute of Healthにおいてウイルス研究と感染症臨床に従事し、1999年から長崎大学小児科学教室主任教授。

日本小児科学会理事や日本ワクチン学会理事を歴任し、現在は日本小児感染症学会理事長、日本ウイルス学会理事、日本臨床ウイルス学会幹事、日本感染症学会評議員、アジア小児感染症学会幹事などを務める。