毎年100万人が新たにがんと診断されます。
ひとたびがんになると、身体の健康だけでなく、社会的、経済的にも様々な問題が起きることが患者や家族をなおさら苦しめています。
そんながんに関わる社会的な課題を、医療だけでなく、産官学など様々な分野の連携で解決しようと活動している「CancerX(キャンサーエックス)」のサミット「World Cancer Week 2021」にモデレーターとして筆者(岩永)が声をかけられました。
それは「HPVワクチンについてシンポジウムを一緒に企画しないか」という呼びかけでした。
HPVワクチンは小学校6年生から高校1年の女子は無料でうてる定期接種になっているにもかかわらず、メディアのセンセーショナルな報道によって副反応に不安を抱く人も多く、接種率は低いままです。
この問題を取材してきた立場から、今、一番話を聞いてもらいたい人4人に登壇を依頼しました。
子宮頸がん当事者のYokoさん、日本産科婦人科学会でHPVワクチン推進の担当理事を務める産婦人科医・宮城悦子さん、妻を子宮頸がんで亡くした渕上直樹さん、そして、接種後に体調不良を訴える女子を治療してきた牛田享宏さんです。
講演内容をBuzzFeed Japan Medicalで詳報します。
まずは、再発した子宮頸がんを治療中のYokoさんからです。
※岩永直子はこのシンポジウムでモデレーターを務めましたが、謝金は受け取っていません。
ウイルスの感染から時間をかけてがんになる病気
私の方からは、私がかかった子宮頸がんがどういう病気で、それに対して自分の人生がどういう風に変わったのかお話しようと思います。
私は薬学博士号を持っていまして、不妊治療のための臨床検査会社を立ち上げた直後にこのがんにかかりました。
ですから、このがんについては、検査に関わる立場からも、患者の立場からも色々と思うところがあります。
まず子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)に主に性的な接触で感染することで起こります。感染から数年〜10年かけて発症する病気です。早期発見をしてすぐに治療ができるわけでもなく、何年もかけて徐々に悪くなっていきます。
がんになる前に前がん病変の「異形成」という状態を経るのですが、この段階で自然治癒する確率も比較的高いです。
しかし、様々な要因を持っているとHPVの感染がずっと続いて、自然治癒せずにがん化する病気です。
異形成の段階ではまったく症状がありません。
私自身、がんになるまでまったく症状を感じたことがありませんでした。
進行するほど生存率は下がる
子宮頸部にできたがんがだんだん体内に広がっていく病気ではあるのですが、5年間に生き延びる生存の確率を見てみると、一番早い段階で見つかった子宮頸がんだと、90%以上の生存率になります。
しかし、この後、体の中に転移が広がってしまうと、5年生存率が20%近くまで下がってしまう恐ろしいがんです。
転移や再発を考えると非常に怖い病気だと思いますし、最初のステージ1であっても、私のように転移して長期間治療することが起こり得ます。
不正出血で子宮頸がんが判明 妊娠の可能性との間で治療法を選択
私自身、自覚症状を感じたのが5年前の2016年になります。この時に不正出血と鈍痛を感じて病院に行ったのですが、がんと診断されませんでした。
まず単純な異形成だという診断がくだりました。その後、大学病院でより精密な検査を受けたのですが、その時に初めて、2017年2月に子宮頸がんと診断されました。33歳の時です。
そこからは本当に怒涛の1年間で、2月に判明してから、3月には子宮頸部の円錐切除という手術を受けました。
「この手術はそんなにリスクはないよ」と言われていたのですが、麻酔の合併症で起き上がることができなくなったり、手術後15日目に大量出血で夜間救急に駆け込むはめになったり、なかなか大変でした。
そこでステージ1の初期のがんだと診断されました。
私はこの時、ちょうど妊活をしていた時期です。治療と妊娠の可能性を残すことと、どのように折り合いをつけるかということで、複数のセカンドオピニオンを受けました。自分が納得できる治療、自分が納得できる人生をすごく考えました。
ステージ1なのですが、私は卵巣を除いて子宮と膣の一部を取り除く「広汎子宮全摘術」というのを受けることになりました。がんが発覚して3ヶ月の間でこの判断をしなければならなかったのです。
さらに尿道の神経も切ったために、その後、半年間、カテーテル(細い管)を入れて人工的に排尿をしなければなりませんでした。また、リンパ節を取り除いたために、リンパ液が滞ってむくむリンパ浮腫という病気についても、日々気を付けていかなければならなくなったことを知りました。
手術で全部終わるのかなと思ったら違って、手術後にリンパ節転移が見つかりました。
「追加の治療をしよう」ということで、6月から抗がん剤治療を始めました。
気持ち悪くなったり、筋肉痛になったりしました。私の場合、起立性低血圧になってしまって、治療の間、トイレなどで一気に血圧が下がると倒れてしまうという症状もありました。
抗がん剤の点滴も、血管が治療によってどんどん細くなるので、血管の外に抗がん剤が漏れる問題にも苦しみました。
その後、再発リスクが高いため、3ヶ月に1回の定期検査をするということで、いったん治療は終わりました。
2019年に再発 再発を繰り返す
ところが、2019年11月に再発してしまいまして、定期的なCT検査の中で、「骨盤内再発」が見つかりました。
骨盤内にはっきり見えるがんが見えてきました。
なので、骨盤内すべてに放射線を当てる治療と抗がん剤治療の併用を2020年1月から始めました。
「全部消えて治った!」と思うと、今度は左鼠径部に再発。
さらに、治療している最中から、ニキビのようなぶつぶつができ始めました。
放射線を当てたすぐそばなので、放射線の炎症なのかなと気に留めていなかったのです。でも、放射線の先生に診てもらったら、「これは皮膚に転移しているがんだ」ということでした。
皮膚に転移したがんを治療するために、2020年の8月からずっと抗がん剤治療を続けています。
ただ、最初はとても小さかったがんが、お腹の全部に広がってしまって、今では太ももの方まで広がりつつあります。皮膚の転移の進行をなかなか止められず、副作用を減らすために抗がん剤を減らしながら、新しい治療が見つかるのを待っている、というのが現在になります。
パートナーとの関係への影響
子宮頸がんが見つかった時に、パートナーとの関係やライフプランに影響が大きかったので、お伝えします。
33歳でがんが発覚した時には、既にパートナーと11年付き合いがあり、前年に結婚したタイミングでした。
35歳までに子どもが欲しいなと思って妊活を始めていたところです。
HPVの種類は200種類以上あると言われていますが、自分自身はHPV16型という特にがんになりやすいウイルスを検出しました。
これを調べると、男性の中咽頭がんや肛門がんのリスクも高めるということを初めて知りました。
なので、自分のお金を払ってでも、夫の喉と肛門の検体を採取して、HPVがいないかどうかを調べました。結果としてないことがわかりました。
ただ、自分との性生活でパートナーにHPVを感染させるリスクがあるのではないかと思い出して、性生活を避け始めました。
さらに治療そのものでも、「円錐切除」で済んだとしても、この手術自体が早産や流産のリスクを高めるということを知りました。
この円錐切除は診断のためにも、異形成の治療のためにも行われるのですが、子どもを授かりたいと思った時に妊娠継続の障害になるということを初めて知った時もかなりショックでした。
ステージ1にもかかわらず、子宮摘出しか選択肢がないと知った時には頭が真っ白になりました。
色々なところに話を聞きに行ったところ、手術前に体外受精をした方もいますし、卵巣を残して、その卵巣から取った卵子を使って体外受精をして代理母出産をする人もいました。あるいは子宮を移植するという革新的な方法も海外では行われています。色々なアドバイスをいただきました。
でもまずは治療をしなければいけないということで子宮摘出をしたのですが、妊娠の機会を失ったという事実を受け入れるのにはかなりの時間が必要でした。
養子を考えるも再発で断念 性生活も辞める
再発した時も、特別養子縁組の説明会にもいくつか参加して、「自分はもう再発しない」と信じて、養子を受け入れようと思ったところでした。
しかし、再発が見つかってしまい、放射線治療をしなければいけないというところで、卵巣機能も失うことになりました。自分の卵子で子どもを授かる代理母出産はできなくなります。
ここで卵巣バンクを運営している不妊治療医の先生に相談しました。放射線治療をする前に、卵巣を摘出して保存しておく手術ができると聞いたのです。
しかし、手術をすると、がんが腹膜に広がり悪化する可能性があると指摘され、卵巣保存も断念しました。
鼠径部への再発や皮膚への転移が始まった頃から、痛みもあるため、性生活は辞めました。
HPVワクチンへの期待
HPVワクチンは、HPVへの感染を予防するものです。既に感染している細胞からHPVを排除する効果はありません。
既に夫もHPVに感染している可能性はあるだろうなと思っても、夫のがんを予防することができないというのが、患者の苦しさにもなります。
子宮頸がんの主な原因は、ヒトパピローマウイルスの長期感染です。ですので、HPVワクチンを公費でうてる定期接種によって、市中に広がるHPVを減らすことができます。
女性に関してはこのほか、喫煙が子宮頸がんのリスクになりますので、喫煙をやめて、健全な膣内環境を維持することが大事です。
最後に妊娠を目的としない性行為の場合は、性感染症予防のための道具で、自分と相手のリスクを減らすことが非常に重要だと個人的に思っています。
「みんなで知ろうHPVプロジェクト(みんパピ!)」もすごくいいプロジェクトですし、私も関わっていた「みんなの力でがんを治せる病気にするプロジェクト deleteC」もあります。
子宮頸がんの治療法の開発と予防の啓発、両方ともとても大事です。私と同じような苦痛を次の世代に遺さないためにも、医療の進歩を応援しています。
誰もが仕事と結婚、出産、育児の人生が輝く機会を維持できる世界が理想だと思います。
【Yoko(ようこ)】子宮頸がん当事者
医学部研究員を経て、現在は検査会社の社員。2017年33歳のときに子宮頸がんが発覚し、ツイッターでは「なんかのはかせ(@piyoko_hakase)」名義でつぶやいている。