子どもの体調が急変! 親はどうしたらいいの? 医療の付き合い方を考えるために伝えたいこと

    子どもの体調が急に変わると親は気が動転してしまいます。慌てて病院に連れて行く前に知っておいてほしいことを、長年親に伝える活動をしてきた阿真京子さんが本にまとめるためのクラウドファンディングを始めました。

    子どもが深夜に急に熱を出した!

    転んで頭を打っちゃったけれど病院に連れていくべきなの?

    熱が下がらずにけいれんも!救急車を呼んだ方がいいの?

    子育てをしているとそんな不安でたまらない経験をしたことがある人がたくさんいるかもしれません。

    そんな時、親は何を観察し、どう判断したらいいか。一般社団法人「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」(2020年4月に解散)で親に伝える活動をしてきた阿真京子さん。

    その活動の集大成となる本『病院に行く前に知っておきたいこと』とウェブサイトを作るためのクラウドファンディングを始めています。

    医療との付き合い方を考えるきっかけにしてほしいというこの企画について、BuzzFeed Japan Medicalは阿真さんにインタビューしました。

    クラウドファンディングはこちら『病院に行く前に知っておきたいこと』を本とウェブサイトで届けたい!

    長男の救急搬送で気づいた日本の医療の問題

    ーーなぜ子どもの親にこうした情報を伝える活動を始めたのか教えていただけますか?

    今、高校2年生の長男が生後9ヶ月の時、夜中にけいれんを起こして救急車を呼んだことがきっかけでした。何度も断られて搬送先がなかなか決まらなかったのですが、大学病院に運ばれました。

    大学病院の待合室は子どもと親でいっぱいで、小さいお子さんが冷えピタをつけて元気に走り回っていました。

    それまで私は医療にまったく関心がなかったのですが、この状況は何なのだろうとショックを受けました。我が子がどうなるのか心配でたまらない時、なぜ元気そうな親子が待合室にたくさんいて、搬送先がなかなか見つからない状況が起きるのか。

    幸い息子は回復し5日で退院できました。後遺症もなく元気に成長しています。

    だけど、その時に見た待合室が私はずっと忘れられませんでした。それからは新聞の医療面をしっかり読むようになりました。すると、医療がすごく大変なことになっているとやっと気づいたのです。

    ーーどんな風に大変だと気づいたのですか?

    17年前はちょうど医師や医療へのバッシングが激しく起きていた時です。特に小児救急や産科医療は余裕がなくなり、医師が心が折れて医療現場から立ち去り始めていました。搬送先が見つからなくてすごく困っていたことと新聞に書かれていることが結びつきました。

    それだけ大変でも医療者たちはまったく手を抜かずに、一人一人の命を救おうと懸命に働いてくださっている。この状況を良くするために、私も何かできることはないかと考え始めたのです。

    ただ、新型コロナが流行している今、小児科の状況は17年前と様変わりしていて、受診控えが問題になっています。 多すぎる受診も問題でしたが、必要な医療や予防接種を受けない今の状況も問題があります。

    子どものいる両親に医療のかかり方を伝える活動を13年

    ーー個人的な経験から医療の問題に気づいて、この活動を始めたのですね。

    活動を始めたのはそれから2年後です。それからの13年間は、ひたすら小さいお子さんのいるお母さん、お父さんに繰り返し、熱、下痢、咳、嘔吐の対処法、ワクチンの話などを伝え始めました。

    1. 病院に行くべき時の見分け方
    2. ホームケアの方法
    3. 予防接種の話
    4. 地域の医療の現状

    この4つをセットにして、160回で6500人以上の人にお伝えしてきました。

    最初は自分たちの団体だけでやっていたのですが、1〜2年すると東京都や新宿区などの自治体と共催し、保健センターで開催し始めました。

    最初から行政にやってほしいと強く思っていました。熱が出たらどんな時に病院に行けばいいかはみんな心配な話なのに、習う機会がないのです。

    いち民間団体が限られた人に伝えるのではなく、全国どこでも習えるようになってほしいと思い、行政へ熱心に働きかけるようにしていました。

    そのうち国や東京都の委員として呼ばれるようになり、そこでも市区町村でやってくださいとずっと訴えてきました。

    こういう風にしたら親はわかりやすいよ、と伝える「医療のかかり方マニュアル」も自治体向けに作りました。厚労省と総務省消防庁の検討会の報告書に載せてもらい、厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」にもつながりました。

    この懇談会で、自治体のアクションとして、両親への上手な医療のかかり方を伝える活動を入れてもらったのです。昨年モデル事業をさせてもらい、3月には全国の自治体に実施するよう通知が出て、「これで全国に広まる!」と期待して、私たちの団体は畳みました。

    ーーところがそこで新型コロナの流行が始まったわけですね。

    どこの自治体もあまりの忙しそうな様子に呼びかける気にもなれないほどで、やはりコロナ禍での実施はなかなか難しい。自治体や保健所も忙しく、オンライン開催を考える余裕はありませんでした。

    そこから1年、自分に何ができるか考え続け、今回クラウドファンディングを始めようと思ったのです。

    前面に出すのは親の不安の解消 身勝手な親はごく一部

    ーー当初は医療崩壊をどうにかしようと考えて始めた活動でしょうけれども、阿真さんは、あくまでも親やお子さんのためなのだと強調してきましたね。

    私の出発点は、医師の働き方をなんとかしなくちゃという強い気持ちからです。でも、それでは親に響かないのです。

    親に理解してもらわないと意味のない活動なのに、私が「医師の働き方を改善するためにかかり方を変えましょう」と言ってもまったく響かない。

    親に他人事と思われたら意味がないと思って、ある時期から「医療環境の改善を」とか「医師の働き方をどうにかしましょう」というのはやめました。

    最終的にはそこにつなげたいし、医師や医療に余裕ができることが親子のためにもなると思っているのですが、親御さんは今不安なのに、「医師の働き方」と言われても、「何言っているの?」という感じです。

    だから「あなたのお子さんとあなたの不安をまず解消します」というメッセージだけを押し出すようにしました。

    すると、親の会員が増えてきて、講座を開いても納得してくれる。最後まで聞いてくれると「お医者さんたち大変なんだね」とたどり着いてくれるようになったのです。

    ーー同時に、「コンビニ受診」とか「救急車をタクシー代わりに使う」という、親を批判する言い方にも反対されていますね。

    行政主催で検診後に講座を開くと、本当に子どものことを一生懸命知りたくて、でもわからなくて不安で......という人にたくさん出会います。

    明らかに自己都合の身勝手な受診の仕方をする人はごく一部です。お医者さんの中にも明らかにおかしい人、自分の利益優先の人がごく一部いるのと同じです。

    お互い、ごく一部の人に対して心が折れたり、焦点を当てたりするのはもったいない。大多数の親は子育てに真剣に向き合っています。

    みなさんの子どもへの思いは本当に強くて尊い。でもその思いの強さが我が子を守る方向だけではなく、みんなの子どもたちも守るという方向に向けるためには、我が子への不安がまず解消されないと無理です。

    「あなたの不安をまず取り除く」というメッセージを伝えると、2時間の講座の最後にはお医者さんや周りの子にも目がいくようになります。

    小児科医も「命を救うためにここだけは外さないで」というポイントがある

    ーー今回は、今までのそうした活動で伝えてきたことを本やウェブサイトにまとめるのですね。医学的に正確な情報を伝えるために、活動で協力してくれた医師はどれぐらいいるのですか?

    協力医として登録してくれた医師は46人いました。小児科関連の学会や医会で発表し、メディアに出る度に協力してくださる医師が増えていきました。

    ーー小児科医の先生たちもホームケアで元気になるなら親子の負担も少なくなるし、結果的に自分たちの負担も減るという思いがあるかもしれないですね。

    どの先生も悲しい思いを誰にもさせたくないから親に伝えたいことを持っています。「ここのポイントがわかっていれば命を落とすことはない」というものです。それがわかると、逆にそれ以外はおうちで様子を見ても大丈夫だとわかります。

    ーーそういうポイントをお医者さんも非常時ではない時に伝えておきたいけれど、外来の短い時間だと一人一人に伝えられないですね。

    今回の企画も、そういうことを伝えたいと思って考えました。

    「食う」「寝る」「遊ぶ」「出す」ができているか? 本に盛り込むこと

    ーー本の目次ができているようですが、まず「食う」「寝る」「遊ぶ」「出す」がいつも通りできていれば大丈夫と伝え、体調を崩した時は普段とどう違うかを親御さんが観察して医師に伝えることの大切さを最初にしていますね。

    これはつまり、子どもの全身状態を見るポイントなのですが、一番大事なことです。医師からはよく、「そんなところも見ていないの?」と親は批判されます。

    私自身、「食う」「寝る」「遊ぶ」「出す」というポイントでは子どもを見ていませんでした。ここが普段と同じなら全身状態はいいので、もし熱が38度、39度あってもパニックになることは防げます。

    まずはこのポイントで全身状態を親が把握することがすごく大事です。

    そのためには親が「その子のいつも」を知っておくことが大事なんです。明らかにいつもと違うとわかった時には病院にかからなければいけない。

    病院でお医者さんや看護師から「いつもとどう違いますか?」と聞かれても、「わかりません」などと答えられない親御さんが多いと医療者から言われています。どのポイントで何を見るかを知らないからです。

    ーー診察時に症状をうまく伝えられないことも問題としていますね。

    小さい子どもは自分の状態を言葉で伝えることはできませんから、親がその子の様子を伝えなければいけません。どういうところを伝えるべきか書きます。

    ーー記録を残すとも書いていますが、咳などの症状があったらスマホで動画を撮ったりすることも有効なのですね。

    そうです。帰宅後の様子の見方も示して、再診の時に医師に伝えられるようにしてもらいます。

    「適切な診断は適切な材料を持っていってこそ」

    ーーまずは子どもの症状という直球のお話を書いた後に、医療ってそもそも誰のものなのか、などと話が俯瞰の視点に移るのが興味深いですね。

    「私たちはお医者さんでも看護師さんでもないので、できることが何もないです」と親御さんからよく言われることがあります。

    でも、それは大きな勘違いなんです。医療の素人で何もわからないから、「病院に連れていきさえすれば答えが返ってくる」と思い込んでいるのですが、それは違います。

    日常の様子を見られるのは日常を一緒に過ごす人だけです。「普段からの変化や、最初の症状はどうだったかを見て、伝えるということが医療に対して私たちができることだからまず見ようね」と言うとすごく驚かれます。

    「私たちにできることってあるんだ!」と言われるから、「できることめっちゃあるよ」と答えています。

    病院に行きさえすれば自動販売機のようにポンと答えがもらえるわけではありません。子どもの事故でも、病院に来る前に何があってどうなったかという経過を知らせることが治療の鍵を握ります。

    医師もプロですから、親御さんから聞き出してくれますが、私たちも責任を持って関わる意識が大切です。別にお医者さんのためではなく、私たちも参加して初めて医療は成り立ちます。

    ーーチーム医療の概念図では、よく患者さんや家族が真ん中に描かれていますが、サービスの受け手と捉えている人が多いですね。本当は自分もチーム医療の一員なんですよね。

    「適切な診断は適切な材料を持っていってこそ」と私はいつも伝えています。ちゃんとした診断を受けたいのに、こちらから何も材料を出さないでいたら無理だよねと伝えています。そんな意識を持っておこうねと伝えています。

    医療を利用するならば、医療の仕組みを知っておこう

    ーー「一次、二次、三次医療機関」の違いとか、NICU(新生児集中治療室)、PICU(小児集中治療室)とか、どの診療科にかかるか、コメディカルの役割とか詳しい医療の仕組みも伝えるのですね。

    医療にかかることは誰かに何かをお任せするようなものではありません。医療自体の仕組みを理解しておかないと、せっかくの宝物、恩恵が受けられなくなるのは自分だよと思うのです。

    風邪でいきなり三次医療機関に行くのはおかしいですね。理解して利用しなければ、自分や自分の家族、大事な人がその恩恵を受けられなくなる可能性を知ってほしいです。

    ーー電化製品を買う時はその機能や金額を事前に隅々まで調べるのに、医療だと大雑把で「近くの大きい病院行っておこう」となるのはおかしいですね。

    車も事前に調べますよね。医療の場合は難しいと感じると思うので、わかりやすく伝えたいと思っています。

    ーー医療費についても、皆保険制度の仕組みとか、夜間・休日は高くなるし、紹介状なしに大病院にかかるとお金がかかるということも書かれるのですね。

    そうです。あとは小児の医療費の地域格差はかなりあるのでそれも伝えます。

    ーー病気との付き合い方という項目で、「病気になることは誰も悪くない、犯人探しをしない」と書いています。

    病気にはならないに越したことはないですが、病気になっても誰も悪くないし、何も悪いことではない。そんな風に病気との付き合い方を考えたいです。

    新型コロナでも、感染した人が責められるようなことがありました。

    働きながら子育てしているお母さんは、「自分が保育園に預けたから子どもがしょっちゅう病気になる」と自分を責めがちですが、そんなことはありません。

    誰もが病気になるし、小さい頃は度々病気にかかって当たり前です。保護者が働いているから病気になるわけではありません。簡単に犯人を見つけて誰が悪い、あれが悪いということではないです。

    偽医学にだまされないで 科学的根拠を持って情報を見る

    ーー目次の中には「エビデンス」まであります。かなり踏み込んでいて大事な話なのですが、理解してもらうのは難しいですね。

    例えば、母乳のことで、特定の志向を持つ人が、砂糖や牛乳や白米や肉を敵に回して、「そんなものを食べると乳腺炎になる」と言っています。

    「信者が信じるのは仕方ない」と言う人もいますが、お母さんがそうやって食べ物を選んでいるうちに母乳が出なくなりミルクも与えられず、子どもさんが大変な状態になってしまったことがありました。

    これは一番酷いケースですが、そこまでいかなくても、親御さんから「何も食べられなくなって苦しい」という相談は13年間の中でも結構あります。「そんなの気にしなくていいよ」と声をかけるのですが、一度信じ込むとそこから救い出すのは本当に難しい。

    普通の病院で産んで、「予防接種もちゃんとうちます」と言っていた親御さんが、おっぱいが詰まってたまたま頼った偏りのある助産院で間違った教育を受け、「私が食事の仕方を知らなかったからこうなっちゃったんだ」と自分を責める。本当に悔しいです。

    私のところに相談する人はその時点で大丈夫だと思うのですが、そこにたどり着くまでにすごく苦しんでいる。勧めている助産師さんは「いいことをやっている」と思っているかもしれませんが、科学的に意味がないどころか害になっています。

    そこはちゃんと伝えたい。そういう目を持つこと、そういう目で情報を見ることはすごく大事だと思います。

    ーー「医療の不確実性」も伝えるというのはとても高度ですね。

    人が一人一人違って病気の出方も治療の効果も違う、と知っておくのはとても大事なことです。特に親は成長とか発達の過程で、他の子と比べて悩むことが減ると思います。

    その子の状態をちゃんと見る、自分の子と他の子を比べないということにもつながると思います。子どもの人権を尊重することにも関わることです。

    世の中にあふれる情報の見極め方

    ーー最後は「情報の見極め方」ですね。インターネットやスマホが普及して、親御さんは玉石混交の医療・子育て情報に触れます。すごく大事なことですね。

    短大の授業で、同じテーマについて、明らかにおかしい医療情報と明らかに正しい医療情報と両方印刷して、学生たちにどう思うか聞いています。実はみんな割とわかりません。迷うという人がかなりいます。

    その授業で、「こういうポイントで、こういうところを見るんだよ」と教えると、「全然そういう目で見ていなかった」と言われます。

    そこで気づいたんです。「これは正しいのかな?」と疑う目を持っていなければ、怪しい情報でもごくごく飲めちゃうのだなと。

    予防接種の情報などで、「こんな情報が流れてきたのですがどうですか?」とよく親御さんから問い合わせがあります。

    「これすごく古い情報じゃん。よく読んで!1800年代って書いてあるよ」というレベルのものもあります。

    そもそも「100%こうだ」と断言している医療情報は疑わなければいけません。そういう目をまず持って、「情報はこちらから選んでいこうね」という話は入れたいです。

    クラウドファンディング、みんなで作りたい

    ーークラウドファンディングという形で作るのはどうしてですか?

    最初はどこかから助成金を取ることも考えていたのです。

    でも私とつながっていない人や、支援してくれた人のその先に広げていくことを考えると、もっとたくさんの人たちに届けられる方法を使いたいと思いました。

    今、知っている人たちとオンラインで親の集いはやっているのですが、そこにつながっていない人は全国に山ほどいます。

    そういう方々にも届けることを考えると、クラウドファンディングの仕組みがぴったりだと思いました。

    ーーウェブサイトも作るのですね。

    無料で見られるサイトを作ります。本の一部を掲載する予定です。両親学級などで伝えることを実践する人たちへ「こうやって伝えてほしい」とお願いする内容も掲載します。

    本もウェブサイトも私が文章を書いて、テーマごとに協力医師に監修していただき、親目線で医学的に正確な情報を目指します。役立つ内容にしますので、ぜひ皆様もご協力ください。

    クラウドファンディングはこちら『病院に行く前に知っておきたいこと』を本とウェブサイトで届けたい!

    【阿真京子(あま・きょうこ)】

    1974年東京都生まれ。都内短期大学卒業後、日本語教師養成課程修了。マレーシア 国立サラワク大学にて日本語講師を務め、帰国後外務省・外郭団体である(社)日本外交協会にて国際交流・協力に携わる。

    その後、夫と飲食店を経営。2007年4月~2020年4月までの13年間、保護者に向けた小児医療の知識の普及によって、小児医療の現状をより良くしたいと「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」代表を務める。
    17歳、14歳、11歳3男児の母。

    特定非営利活動法人「日本医療政策機構」フェロー、一般社団法人「日本医療受診支援研究機構」理事、 厚生労働省「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」委員、 日本小児科医会「家庭看護力醸成セミナーワーキンググループ」 外部委員、「AMRアライアンス・ジャパン」メンバー、 無痛分娩関係学会団体連絡協議会委員、 東京立正短期大学幼児教育専攻(『医療と子育て』)非常勤講師