• medicaljp badge

「血液クレンジング」厚労省が実態調査 「有効性・安全性を確認され薬事承認された製品はない」

科学的根拠に乏しく批判を浴びている「血液クレンジング」。衆議院厚生労働委員会で尾辻かな子氏が質問し、厚労省は実態調査に乗り出していることを明らかにしました。

科学的根拠に乏しいのに、クリニックが自由診療で患者に提供し、批判を浴びている「血液クレンジング(血液オゾン療法)」。

患者から採取した血液にオゾンを混ぜて、再び体内に戻す療法だが、疲労回復や美容だけでなく、がんや心筋梗塞、HIV除去にまで効果があるとうたわれている。

この療法の安全性や医療広告上の問題について、立憲民主党の衆議院議員、尾辻かな子氏が11月6日、衆院厚生労働委員会で質問した。

厚労省は、この療法について「医薬品や医療機器として有効性・安全性を確認されて薬事承認された製品はない」と認めつつ、「厚労省として効果や安全性について把握していない」として、実態調査に乗り出していることを明らかにした。

厚労省も実態を調査 「効果やリスクは把握していない」

尾辻氏はまず、芸能人のSNSでの発信などを通じて「血液クレンジング」が広がっていることについて、この療法に効果があるのか、厚労省でエビデンスなどは持っているのか質した。

吉田学・医政局長は「一定の医療機関に広がっていると言われているが、その効果やリスクについて厚生労働省としては現時点で把握できていない。今、関係学会と連携しながら情報収集をしているところだ」と答弁し、厚労省としても実態調査を進めていることを明らかにした。

また、この療法が自由診療で行われていることについて、

「医療保険の適用については、使用する医療機器等において薬事承認を受けた上で、治療と疾病の関係が明らかであること、治療の有効性・安全性などが確立しているかという点について中医協(中央社会保険医療協議会)でご議論いただいた上で、保険適用している」

「血液クレンジング療法についてはこうした手順が踏まれていないので、保険適用されていない」と答え、国が有効性や安全性を検討して、お墨付きを与えた治療ではないことを強調した。

医療行為、医薬品としての規制は?「薬機法での規制は困難」

さらに、尾辻氏は、BuzzFeed Japan Medicalが記事で指摘したように、アメリカのFDA(食品医薬品局)では2016年から、オゾンの医療用使用は禁止されていることに触れ、こう質問した。

「『オゾンは有毒ガスであり、特定の治療、補助治療、または予防治療において、有用な医療用とは知られていない』とはっきりとFDAでは書かれている。日本で医療用オゾンは承認されているのか? こういう目的で使っていいのか?」

これに対し、樽見英樹医薬・生活衛生局長はこう答弁し、日本で医薬品として承認されたオゾンはないことを示した。

「FDAでもオゾン発生装置は、器具の殺菌に使われる製品が承認されているということであり、人体に作用させるオゾン療法として承認されているものはない。日本も、医薬品や医療機器として同じように有効性・安全性を確認されて薬事承認された製品だけが販売することが認められているが、そうしたものはない」

尾辻氏は重ねて、「自由診療の中で承認を受けていないものが、医療として血液の中に混ぜ込まれて、また体内に入れるということがなされている。それについては何ら規制も注意も今のところないのか?」と、医薬品や医療行為としての規制があるか尋ねた。

樽見局長は「医師の個々の判断に基づき、未承認の医薬品や医療機器を使用することについては、医薬品医療機器等法(薬機法)の規制の対象外なので、薬機法で規制を行うことは困難です」と答え、日本では医師の裁量で承認を受けていない治療が自由にできる現状を明かした。

尾辻氏はさらに、「FDAのように『オゾンは特定の治療、補助治療、予防治療において有用な医療用途は知られていない』と厚労省は書くべきだと思う。もしくは紹介すべきだと思う」と要望した。

樽見局長は、「FDAの書きぶりもしっかりと確認し、それを踏まえてどういうことができるのか考えてみたい」と、対応を検討する姿勢を見せた。

「誇大広告」として行政指導の可能性も

次に尾辻氏は、医療広告上の問題について質問した。

クリニックのウェブサイトでどのように血液クレンジングが紹介されているか示し、「治療効果の期待できる疾患」として、肝炎、HIV、インフルエンザウイルスの除去効果やがん、悪性リンパ腫、白血病に効果があるなどと書かれていることについて、「医療広告ガイドライン」で許されるのか、誇大広告に当たらないのか質した。

吉田医政局長は、医療広告ガイドラインでは、国内未承認、適用外の医薬品などを用いた自由診療の広告で広告可能な事項は限定されており、それ以外の広告については禁止していることを示した上で、一般論としてこう答えた。

「広告内容が与える内容と実際の治療内容に著しく相違があって、誤認を与える誇大広告に当たるものは禁止です」

「例えば、標準治療があるにも関わらず、がんに対する療法と称してその治療方法が唯一であるかのように示すのは患者の適切な治療機会を奪う広告になると考えられる。必要な手続きを踏んだ上で自治体と連携し、行政指導等の必要があれば対応を行なっていきたい」

ステマ問題はガイドラインで取り締まれる?

さらに、クリニックが、来院した著名人の写真を自分たちのホームページなどに載せていることについて、医療広告ガイドラインで違反になるのではないか確認したところ、吉田局長はこう答え、違反である可能性を示した。

「著名人の写真などの活用については、ガイドラインにおいて、著名人との関連性を強調するなど患者らに対して、他の医療機関に対して著しく優れていると誤認を与える可能性のある表現は患者等を不当に誘引する恐れがあるから『比較優良広告』として禁止しています」

今回、芸能人やインフルエンサーらが、この療法を受けている様子や体験談をSNSヤブログに掲載して一般に広めている問題が指摘されている。

これについても、尾辻氏は、「宣伝とうたわずに宣伝する手法もかなり広がっている。今回、金銭の授受があったかはわからないが、こういった宣伝かどうかわからずに、『こういった治療を受けてきました』『体がポカポカして元気になりました』というステルスマーケティングの手法は医療広告ガイドラインで取り締まれるものなのか?」と尋ねた。

吉田医政局長は「医療広告ガイドラインとしては、規制の対象となる広告を、『誘引性(特定の治療や医療機関に誘い込む)』『特定性(医療機関や医師を特定できる)』という要件を定め、その要件に該当する場合を広告として規制している」

「個人の体験談のようなものについても、ガイドラインで、医療機関からの依頼に基づく体験談であること、あるいは医療機関から金銭等の謝礼を受けている、またはその約束がある場合には、具体に個別の医療機関への受診を促すものになるので、規制の対象としている」と答え、取り締まる可能性があることを示した。

医療広告規制での行政指導 罰則適用は未だになし

さらに、医療広告ガイドラインでの規制による行政指導は、過去にどの程度行われているのかも尋ねた。

吉田医政局長は、自治体による指導と、厚労省の委託事業である「医療機関ネットパトロール事業」による指導の二つのルートがあることを紹介した。

その上で、自治体あての相談・苦情は2015年〜17年の直近3年間では、毎年平均400件程度寄せられており、そのうち、行政指導に踏み切った件数は毎年100件程度あることを示した。

さらに、厚労省のネットパトロール事業を通じて、医療機関に自主的な見直しを通知した件数は、2017年度で643機関、18年度には1191機関に上ったことを説明。

そのうち改善が見られなかった2017年度の12機関、18年度の68機関については自治体に通報し、指導を行なったことを明かし、その中に血液クレンジングに関する案件は確認できていないことも示した。

さらに、「2018年度までの集計結果で医療広告規制違反として罰則が適用になった事案はありません。血液クレンジングに関する事案は確認できていない」と話し、罰則までは至っていないことを明らかにした。

加藤厚労相 「患者が正しい情報に基づいて選択し、安全に実行できる担保を」

最後に尾辻氏は、医療広告ガイドラインの規制がありながらも、血液クレンジングのような治療法が後を絶たないことを示し、こう要望した。

「(規制の)実効性が問われているのではないかと思う。科学的な根拠がなく侵襲性が高い行為をクリニックで行なっていて、一般の方々、患者さんはそれを信じてしまうということが現実起こっていることは受け止めていただきたい。対策を考えていただきたい」

「実態把握や、実効性のある規制。そして、啓発をしっかりやっていただきたい」

これに対し、加藤勝信厚労相は、「ご指摘のような課題がある一方、自由診療という制度のもとであるし、またネット空間はまさに自由に展開されている」と、現状の医療制度では、自由診療の内容やネットでの医療広告の規制に限界があることを匂わせた。

その上で、「自治体における規制が的確に行われ、また関係学会とも連携し、情報や認識を共有しながら医療広告規制の実効性を図る中で、患者の皆さんが正しい情報に基づいて選択し、かつ安全に実行できる担保を図りたい」と答弁した。