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「トンデモ医療であると、断言します」 血液クレンジング、医学的に徹底検証してみた

著名人が自ら体験している様子をSNSなどで拡散している「血液クレンジング」。推進する医師の言い分を聞いた上で、免疫学を専門とする医師に医学的な検証をしていただきました。

市川海老蔵さんやタレントの高橋みなみさん、ブロガーのはあちゅうさんら著名人が自身のブログやSNSで「血液クレンジング(血液オゾン療法)」と呼ばれる科学的根拠のない治療を受ける様子を紹介し、医療関係者らから批判の声が上がっている。

芸能人が拡散する「血液クレンジング」に批判殺到 「ニセ医学」「誇大宣伝」指摘も

この療法を提供しているクリニックでは、効果のある病気として、がんや心筋梗塞、HIVの除去、ウイルス性肝炎など、適切な治療を受けなければ命に関わる病気を多数挙げているところも多い。

この療法を推し進めてきた「日本酸化療法医学会」の渡井健男会長は、「年間7万人以上受け、副作用の報告もない安全な治療」とした上で、「保険診療の効かない難病などにも効果がある」と語るが、医学界では否定的な意見が主流だ。

ニセ医学について啓発活動を続けている医師、峰宗太郎さんは徹底的に医学文献などを検証した上で「『トンデモ医療』であると断言します」と結論づける。

「血液クレンジング」とは何をやるの?

まず、「血液クレンジング(オゾン療法)」では、一体何をするのだろう?

クレンジングとは、「洗浄する」という意味だ。この療法を行なっている赤坂AAクリニックのウェブサイトでは、以下のように説明されている。

ドロドロの血液を体外に取り出し、オゾンで洗浄することでサラサラの血液になります。


医療用のオゾンガスを使い血液に少量の酸化ストレスを与えることで、身体が本来持つ抗酸化力を高め、「老化防止(エイジングケア)」や「健康改善」に効果が期待できる酸化療法です。

具体的には100〜250mlの血液を採取した後、オゾンを血液に加え、再び体内に戻すと記載されている。

「血液クレンジング」「血液オゾン療法」という名前で自費診療で行われている行為は、末梢静脈血を採取して、その血液にオゾンを混ぜ、再び静脈から点滴のようにして体内へ戻すという点で共通している。

この治療法を研修会などを開いて広めている日本酸化療法医学会では、血液クレンジング療法の効果として、免疫機能の向上やアンチエイジング効果などをうたい、施術可能なクリニック一覧を載せている。だが同医学会のウェブサイトでは、これを裏付ける医学論文など科学的根拠の提示はない。

日本酸化療法医学会会長「臨床試験は莫大な費用がかかるからできない」

この治療について著書もあり、日本酸化療法医学会会長として普及活動をしてきた東海渡井クリニック院長の渡井健男氏にBuzzFeed Japan Medicalは取材した。

「学会内で私が作った研究会の調査でも、全国約170のクリニックで年間7万人以上がこの治療を受けていますが、日本で行われはじめた10年ほど前から一度も副作用の報告はない。安全な治療」と話す。

オゾンを血液に混ぜると、どのように体に影響があるという理屈なのだろうか?

「オゾンを血液に入れると、様々な分子と反応してオゾン自体は消え、過酸化水素と脂質過酸化代謝物ができて、NFκBなどが活性化される。それによって、免疫力や抗酸化力が強化される」とする「作用」を説明する。

「その作用によって、保険診療が効かない難病の方にも効果がみられる。狭心症の方の心筋梗塞予防や加齢黄斑変性の方にも明らかな効果が出ています」

それほど画期的な治療法ならば、なぜ臨床試験をやって効果を証明し、保険適用を目指さないのだろうか?

「日本で保険適用しようとすれば、臨床試験には莫大な費用がかかり、結果的に患者さんの費用負担も増える。それに日本ではオゾンは毒だという先入観が強く、臨床試験がしづらい環境にある」と渡井氏は釈明する。

しかし、保険適用を目指す治験(臨床試験)は研究費で賄われるため、通常、患者の負担額はなく、その結果、保険収載されれば自費診療よりも少ない自己負担で治療が受けられるようになるはずだ。現状ではどこのクリニックでも1回数万円程度の自費診療でこの療法を提供している。

今回、ネットでの批判についても渡井氏の耳に入ってきている。

「Twitterなどでディスられることはこれまでなんどもあったことだ。オゾン療法を理解している層が言っているわけでもなく、反論する気さえ起きない。私はもともと心臓外科医で、活性酸素の研究をしているのでこの分野には詳しいが、医師でさえオゾン療法を理解している人は少ない」

著名人が自身のSNSなどで体験談を掲載していることに、ステルスマーケティングの疑いさえもかけられていることについてはどう考えるのか。

「僕はやっていないので関係ないが、美容系のクリニックではそんなプロモーションはどこでもやっている。著名人を広告塔にすると、むしろ治療自体の信頼性を疑わせることにもつながるのでやめてほしいぐらいだ」

ニセ医学を検証する医師「FDAでも禁止」「ほぼ無効」

このように「免疫力を高める」などとうたわれている「血液クレンジング」だが、免疫学の専門家はどう見るのか。

NIH(米国国立衛生研究所)で免疫学やウイルス学を研究する傍ら、ニセ医学批判や啓発をSNSで積極的に行なっている医師、峰宗太郎氏に詳細に検証してもらった。

ーー「血液クレンジング」というオゾンを血液に入れるという療法は医学的に見て、効果があるものなのでしょうか?

オゾンを医療で用いようという動きは1856年頃から始まっています。その後、結核治療に用いたという報告や、第一次世界大戦中には負傷に対して用いる治療も試されましたが、細菌だけでなく人体も傷つけるものであったとして、他の消毒法や抗生剤を用いる方がよいことが結論付けられています

長い歴史がありますが、オゾンを直接用いた治療法は、日本の保険診療においてもアメリカのFDAにおいても承認されたものはありません。むしろアメリカでは、2016年よりオゾンの医療用の使用はFDAによって禁止されています

取り出した血液を体外でオゾンや酸素と混ぜて戻すような方法については、「体外血液酸素化・オゾン化」「自家血オゾン療法」などと呼ばれており、論文による報告もいくつもあります。

結論を先に述べると、そもそも、特定の症状や病態を緩和し、治療を成し得たという信頼に足る報告は未だにほとんどないのが現状です。一部、帯状疱疹後の痛みや線維筋痛症の痛みを緩和したというような報告はあります。

体系的に臨床的な検討を行っている研究はわずかで、症例数も少ないものがほとんどであり、人体に使用した場合のオゾンの有用性というのはよくわかっていない、ということが医学的には言えます。

一方、オゾン療法によって高カリウム血症が起こった、心筋梗塞が起こった、心臓が止まったというような報告もあります。

また、イギリスでオゾン療法を行っていた人物が無免許で逮捕されたり、アメリカでも推進者から逮捕者が出たりするなど、社会問題もいくつか起きています。

FDAでは、「オゾンは毒性のあるガスで、特定の治療や補助治療、予防治療において有用な医療応用は知られていない」と結論付けています。また、Natural Medicines Comprehensive Database という「自然派」の信頼されている医学データベースにおいても「安全ではないだろう」と分類しています。

結論としては、オゾンの医療利用は、医学的にははっきりとした有用性は極めて限定的であり、かつ弱いエビデンス(証拠)しかなく、ほぼ無効であろうと言えます。むしろ毒性などが生じる可能性が高い、とみてよいと思われます。

血液が鮮やかな色に→我々が肺で常にやっていること

ーー実際にこの療法を実施している医師たちは様々な「効果」を述べ、芸能人らも、体験談で「効果」を実感したように語っています。

この治療を行っているときに、採取した血液が瓶の中で鮮やかに変化することが治療効果の一部であるとうたっているところもあるようです。

しかし、これは、赤血球内にあるヘモグロビンに酸素が結合したことによって色調が変化するものであり、常にわれわれの肺で起こっていることです。これ自体には特別には何の効果もありません。

戻ってくる血液を入れた際に血管が開くような感じがするという説明もあるようですが、これは酸化剤としてのオゾンを加えられた血液が体に戻ることによる刺激とも考えられます。

また、一部の証言ではマグネシウムを含む製剤を混ぜており、血管拡張を促して、体が温まったように感じさせる方法を取っているケースもあるようです。

いずれにせよ、効果を客観的に計測したデータとして収集し検討した結果はまともには報告されておらず、信用に足るものではありません。

総合的に見て「トンデモ医療」

ーーこの療法に伴うリスクの可能性についてはどうでしょうか?

まずは、採血や自分の血液を再び体内に戻す行為に伴う一般的なリスクがあります。針刺入時の神経損傷や内出血、感染のリスクなどですね。

それに加え、オゾンという強力な酸化剤を用いていることによる未知のリスクが考えられます。白血球などのDNAにダメージが与えられる可能性がありますし、炎症等の反応が起こる可能性も否定できません。

さらに、この行為を実施している医師の作用の説明はナンセンスです。

NFκBというのは細胞内で活性化すると様々な作用を起こすタンパク質ですが、がん細胞でも活性化していますし、紫外線を浴びた皮膚、たばこを吸った際の気道上皮、感染症がおこったり異物が侵入したりした際の免疫細胞など、さまざまな細胞で良い作用でも悪い作用でも活性化します。

免疫システムというのは非常に複雑であり、ある特定の細胞が活性化したことが良いことなのか悪いことなのかは状況によります。アレルギーや自己免疫性疾患では免疫細胞が活性化することで症状が出たり悪いことが起きたりします。

「血液クレンジング」の場合、オゾンや体外に血液を取り出したことにより免疫細胞などがダメージを受けてNFκBが活性化しただけであると考えるのがより妥当でしょうから、「免疫力」が上がるなどという言い方はトンデモです。

そもそも免疫はシステムであり、「免疫力」などという言葉をつかう医療関係者は信用に足りません。

さらに、「抗酸化力」にいたっては意味不明です。オゾンで血液を酸化させているわけですから、抗酸化をはかるならオゾンなど使わない方がよいはずです。

総合的に見て、この治療は「ナンセンス」であると言ってよいと思います。はっきりと証明され臨床応用に耐えうると言える効果・効能はなく、毒性についても懸念があります。日本において自費診療で行われている「血液クレンジング」なるものは「トンデモ医療」であると、私は断言します。

人体実験を自費診療の名のもとにやっている

ーー効果のある病気として、標準治療を受けなければ命が危うくなる病気が並んでいます。標準治療を回避してこのような代替医療に患者がすがる危険性についてはどう考えますか?

これは代替医療全般に言えることですが、まずは標準医療を受けていただくことが、現状、日本においては最もよい結果を得られるわけです。

これらの行為を行っている医師に先に絡めとられることにより、標準治療へのアクセスが遅れてしまい、がんなどの疾患で手遅れになることも起こっています。大変な問題です。

さらに、標準治療と並行して行う場合でも、例えばがんに対する化学療法等を受けていれば免疫の機能が低下している場合などもあります。そのような時に、血液に何かを添加する行為にはある程度のリスクがあると考えられます。

美容目的などであっても、実際に効果が確認されているとは言えない行為を、いかにも効果があるかのようにうたってしかも医療機関が実施するということであれば、場合によっては薬機法や関連するガイドラインにも触れるでしょう。倫理的に許されざる行為であると考えます。

トンデモ医療行為が多くみられる代替医療においては、実施者は無責任でやりっぱなし、手に負えなくなると責任をとらなくなるという共通点があります。

推進する医師が「副作用の報告もない安全な治療。(科学的な根拠を示す)臨床試験は費用がかかるし、世間の『オゾンは危険』という思いこみがあるからできない」などと言っていますが、そもそも副作用をしっかり把握するシステムの整備などをしているとは思えません。

費用がかかるからといって臨床試験を行わないというのはとんでもない発言です。これは人体実験を自費診療の名のもとにやってもよいと宣言したことにほかならず、医療倫理に真っ向から反抗する許しがたい発言です。

オゾンに危険な面があるのは思い込みではなく事実であり、こうした全く意味不明な言い訳をする人を許してはいけません。

拡散する芸能人の責任は?

ーー著名人がこのような治療法をSNSなどで広めてしまっている問題について、どう考えますか?

医師が行っているため信じてしまうことはあり得る、よって芸能人やインフルエンサーには罪はないという意見もあるでしょうが、私はそれにはくみしません。

健康、生命、財産に関することについては情報を信じこむ時点では被害者かもしれませんが、拡散や宣伝に協力し出した段階で加害者となりうることを、この情報社会ではそれぞれが意識しなくてはなりません。

医療については保険診療などの正当な医療でも広告は厳しく制限されています。かつ、病気などについては個々人の状況も全く異なるわけで、素人が他人に勧めるような行為は非常に危険であるということが広く認識されないといけません。

インチキ・トンデモであるとはいえ、医療的な行為を宣伝することはたとえ騙されていたとしてもやはり責任があるといえると思います。少なくとも倫理的に大きな問題です。

これらの行為を写真付きなどで広めた人は大いに反省し謝罪すべきと考えますし、二度と加担しないように普段から考えておくことを勧めたいと思います。