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抗菌薬使い過ぎで年70万人が死亡 専門家団体が発足「国民が知る必要」

感染症関連学会8団体や子どもの医療啓発団体などが参加して、国民運動に

抗菌薬・抗生物質の使い過ぎで、これらの薬が効かなくなる「薬剤耐性菌」が広がり、毎年、世界中で少なくとも70万人が死亡する事態となっている。

国内の感染症関連8学会と民間のシンクタンク「日本医療政策機構」は11月8日、薬剤耐性菌対策について連携し、対策を提言する専門家団体「AMRアライアンス ジャパン」を設立した。

関連学会だけでなく、日本医師会や、子どもの病気や治療について啓発する団体、製薬会社など、この問題に関わる様々な団体が参加して、国民的な運動につなげていく狙いだ。

国民や医療者向けの手引書、迅速検査の開発などを提言

参加しているのは、「日本感染症学会」「日本化学療法学会」「日本臨床微生物学会」「日本環境感染学会」「日本薬学会」「日本医療薬学会」「日本TDM学会」「日本医真菌学会」の8学会。

これに、「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」や「日本医師会」「日本製薬工業協会」「国立国際医療研究センターAMR 臨床リファレンスセンター」などが加わり、薬剤耐性菌への対策を議論し、国や政治家、国民に向けて働きかけていく。

具体的には、抗菌薬を正しく使うために、一般市民や感染症が専門ではない医療者向けへの手引書の作成や、菌による病気かどうか迅速に調べるための検査法の開発、医療や介護現場でどのぐらい抗菌薬が使われているかなど国内の関連情報を1か所に集めたシステムの構築などを提言する予定だ。

抗菌薬の使い過ぎ、何が問題なのか?

抗菌薬・抗生物質は細菌による病気を治療する薬だ。

ウイルスが原因の風邪やインフルエンザには効かないのに、抗生物質や抗菌薬について聞いたことがある人の半分は、風邪やインフルエンザにも効果があると誤解し、3割が風邪の時にも処方を望んでいる

しかし、必要がない時に強力な抗菌薬を繰り返し使ったり、処方された分量を飲みきらなかったりすると、抗菌薬が効かなくなる「薬剤耐性菌」ができてしまう。子どもは中耳炎などを起こすことが多いが、必要な時に抗菌薬が効かなくなる可能性も出てしまうのだ。

また、薬剤耐性菌は健康な人なら影響を受けないが、お年寄りや免疫の落ちた人に感染すると治療が難しく、時には命を落とすこともある。

「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」などに加え、これまで耐性菌の治療に使われていた抗菌薬にさえ効かない「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)」も生まれ、世界的な脅威となっている。

世界保健機関(WHO)総会は2015年5月、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランを採択し、加盟国は2年以内に行動計画を策定することが求められた。

これを受けて、日本は2016年4月、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を作り、6つの対策を掲げた。

それぞれの耐性菌の数値目標も掲げられているが、専門家団体に加わる医師らによると、2年半が過ぎた現状では、アクションプラン最終年の2020年までに達成できる見込みは薄いという。

これまで提言を出してきた日本医療政策機構や関連8学会が集まり、連携を広げてさらに対策を推し進めようと、「AMRアライアンス ジャパン」を設立したというのが経緯だ。

具体的な方法は?

メンバーの一人、日本感染症学会理事長の舘田一博さんは、設立の記者会見でこう話した。

「大事なのは一般市民の方々であり、感染症を専門としない先生方をどういう風に取り込みながら一緒になって啓発を進めるかで、非常に難しい問題です」

「例えば、厚生労働省が抗微生物薬適正使用の手引というものを出しました。改定しながらもっと普及しやすいものを考えていかなければいけない。我々も感染症関連学会としてどうやったらわかりやすく伝えられるかということを議論しながら進めたい」

日本環境感染症学会理事長の賀来満夫さんは、「例えば、医師会の先生方の病院やクリニックに抗生物質ってこういうものですよという啓発ビデオも必要かもしれないし、薬局に感染症コーナーがあって薬剤師が抗生物質の処方について、説明や働きかけが必要かもしれない」

「学会は専門家の組織ですが、それだけでなく薬局の先生方、医師会の先生方、製薬企業の方、メディアの方と一体となって、国民が知るためにはどういう議論があるのか話し合うのがこの組織」と話した。

知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表の阿真京子さんは、「薬剤耐性対策を推進するのに反対する声は一般社会にはなくて、とてもシンプルな話で、きちんと伝えれば伝わる話です。一般の人が見たり読んだりして理解しやすいものを作ることが必要です」と話す。

さらに事務局は、提言を政策につなげるために立法府への働きかけも行っていくとして、今年度中に議員勉強会を開く予定を明かした。

「迅速診断」「一般への啓発」 専門家会合でも議論

設立の記者会見後は、AMR アライアンスのメンバーに、厚生労働省やグローバルな製薬企業も加わって、シンポジウムを開催した。

薬剤耐性ができるのは、幅広い種類の細菌をターゲットにした強力な抗菌剤を使うことも原因の一つだが、細菌を特定し、その細菌をターゲットにした薬を処方するための迅速検査の必要性などが議論された。

一般市民への啓発については、「テレビのバラエティ番組など堅苦しくないメディアも利用する必要があるのではないか」「新聞もテレビも見ないという若者に正しく伝えるにはどうしたらいいのか。正しい情報をホームページに載せてもアクセスしてくれないだろうし、アカデミアではなかなか難しい」という声も。

さらに、「そもそも健康とは何か、医療は何か、病院とはどういう時にかかるものなのかという教育が不足している。熱はどうして出るのかなどがわからないところに、薬剤耐性と言われても順番が違う。きちんと理解しないと、受診行動も変わらない」という厳しい意見も出た。