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「風邪に抗生物質(抗菌薬)」という誤解を巡る5つの数字

約50%が「風邪やインフルエンザに抗生物質(抗菌薬)が有用」と誤解。

ウイルス性の風邪やインフルエンザに「抗生物質」「抗菌薬」は効果がありません。しかし、有用であると誤解している人も多くいるようです。

国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターが発表した『抗菌薬意識調査レポート2018(インフォグラフィック版)』(*)や関連する調査結果から、この誤解を巡る5つの数字を紹介します。

*調査は8〜9月にインターネットで実施。昨年に続き2回目となる今回は10〜60代の男女721人が回答。

1. 約50%が風邪やインフルエンザに有用と誤解

この調査では、66.7%の人が抗生物質・抗菌薬について「知っている」「聞いたことがある」と回答。この人たちを対象に、以下の質問をしています。

すると、「抗生物質や抗菌薬はどのような病気に有用か」という質問に対しては、49.9%が「風邪」、49.2%が「インフルエンザ」と回答しました。

抗生物質や抗菌薬が有用なのは、細菌感染を原因とする病気。一方、風邪(急性気道感染症)では、原因の9割がウイルスであることが知られており、インフルエンザはインフルエンザウイルスを原因とする病気です。

つまり、約50%の人が、本当は効かない風邪やインフルエンザに対して、抗生物質や抗菌薬が有用と誤解していることになります。

2. 約3割が風邪でも抗生物質・抗菌薬を処方してほしい

そんなわけで、風邪に抗生物質・抗菌薬はほとんど効果がありません。しかし、自ら抗菌薬を処方してほしいと求める人が約3割います。

3. 医師の6割は患者の希望により処方

日本化学療法学会・日本感染症学会の合同調査委員会が6月に発表した調査(*)では、50.4%の医師が「説明をしても(患者が)納得しなければ処方」と回答。(『第92 回日本感染症学会学術講演会抄録』の634ページ参照)

「(患者の)希望通り処方する」の12.7%と合わせると、6割以上の医師が、患者が希望すれば抗菌薬を処方すると回答しています。

*調査は両学会合同の外来抗菌薬適正使用調査委員会が2月に1500の診療所を無作為抽出し調査票を郵送して実施。回収数は269通(宛先不明の10施設を除き、回収率18.1%)。

効果がなくても、患者側が希望すると、抗生物質や抗菌薬が処方される現状があるようです。

4. 2050年には薬剤耐性菌により世界で約1000万人が死亡と推計

では、効果がないのに抗生物質・抗菌薬を処方すると、何がいけないのでしょうか。その理由のひとつが、薬剤耐性菌の問題です。

これは、抗生物質や抗菌薬を正しく使わないと、これらの薬が効かない菌を生んでしまう、ということ。

2016年にイギリスで発表された「オニールレポート」によると、耐性菌がこのままのペースで増えた場合、2050年には世界で1000万人が死亡すると推計されています。(厚生労働省の資料より)

5. 正しく抗生物質(抗菌薬)を使っていない人が約50%

「処方された抗菌薬・抗生物質を飲み切っていますか?」という質問には……。

『抗菌薬意識調査レポート2018』のPDF版では、より詳細な調査結果が紹介されています。

「処方された抗菌薬・抗生物質を飲み切っていますか?」という質問に、「最後まで飲みきっている」と正しい服用方法を回答した人は52.4%と、約半数。

「治ったら途中で飲むのをやめる」(34.0%)、「最初からできるだけ飲まない 」(7.8%)、「途中で忘れてしまい飲み切っていない」(5.7%)と、誤った服用方法をしている人も約半数いました。

これについて同調査では「抗菌薬はたとえ症状がよくなったからといって途中で服用をやめてしまうと感染症がきちんと治らない恐れがある」ため、「医師の指示通り最後まで飲み切る必要がある」と訴えています。

薬剤耐性(AMR)についての啓発活動を推進するため、毎年11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に設定されています。