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酒の席が増える年末年始 急性アルコール中毒ここに気をつけよう!

楽しいとついつい飲み過ぎちゃいますが・・・

忘年会に新年会と、年末年始は酒の席が増えるシーズン。楽しい席ではついつい調子に乗って飲み過ぎてしまうが、気をつけたいのが急性アルコール中毒だ。悪くすると死に至ることさえある。

東京消防庁によると、2016年の1年間で管内で急性アルコール中毒で救急搬送された人は昨年1万6138人と過去5年で最も多かった。そして、12月は最も搬送人数が増える月だ。年代別では20代が突出している。

楽しい酒の席が悲劇に転じることのないように、BuzzFeed Japan Medicalは国際医療福祉大学三田病院救急部長の志賀隆さんや東京消防庁に注意すべきポイントを取材した。

そもそも「急性アルコール中毒」ってなに?

お酒を飲めば、多かれ少なかれ誰でも酔う。酔っ払って寝込んでしまったことがある人も少なくはないだろう。その中でも、「急性アルコール中毒」と言われる状態はどんなものを指すのだろう?

明確な定義はないようだが、アルコール問題の治療に詳しい国立病院機構久里浜医療センターホームページの解説はこうだ。

「医学的には、急性アルコール中毒は、アルコールが体内に入り意識、知覚、感情、行動などが一時的に変化した状態をさします。単なる酔いもこの中に含まれます。しかし、一般的には、体にアルコールが入り過ぎて健康問題や生命の危険を生じるようになった状態を急性アルコール中毒と呼ぶことが多いでしょう」

救急医の志賀さんは「狭い意味では、普段お酒を飲まない人が一気飲みなどで短時間に大量のアルコールを飲むことで、呼吸などの生命中枢機能を司る脳幹を含む脳全体に深刻な影響を受け、昏睡状態となるような危険な状況を指します。しかし、その他にも泥酔により命に危険が及ぶパターンがいくつかあります」と話す。

志賀さんによると、一つ目は、酔っ払って気温の低い屋外で寝てしまい低体温症となること。二つ目は、吐いたものを喉に詰まらせて窒息すること。三つ目は、足元がふらついて転んだり、交通事故にあったりしてひどい外傷(特に頭部)を受けるというパターンだ。

救急車を呼んだ方がいい状態は?

酒の席で酔って寝込んでしまう人もいることを考えると、どういう状態になった時が救急車の呼び時なのか、見極める方法を知りたい。

志賀さんは、4つの兆候があったら救急車を呼ぶことを勧めるという。

  1. 呼びかけに反応せず、頰などを強めにペシペシと叩いても反応がない。
  2. 寒い季節に泥酔して屋外で倒れており、体が冷たくなっている。
  3. 意識がないのに、大量に吐いており、窒息の恐れがある。
  4. 呼吸の際にヒューヒューと音がして、窒息しかけている。


今年のクリスマスシーズンに当直をした志賀さんは、友達と飲んだ後、急性アルコール中毒で運び込まれた若い男性を診療した。

「路上で仰向けになって寝ていたそうですが、すごく叩いても『うーん』と唸るだけで話せず、ほとんど動きませんでした。気温が低い屋外にそのまま放置していたら低体温症になりかねず、吐いたものを喉に詰まらせ窒息する可能性があります」と言う。

血中のアルコール濃度が上がると意識が下がり、昏睡状態となる可能性もある。ここで気をつけたいのは、酔いを覚まさせようと、意識がないのに無理やり水を飲ませるのはかえって危険だということだ。

「意識がはっきりしない時に、水を飲ませると誤嚥する危険があります。話すこともできないような状態なら、無理に水を飲ませようとしないでください」と志賀さんは注意する。

東京消防庁によると、意識がないまま仰向けの状態でいると顎や舌の筋肉が緩んで舌の付け根が喉に落ち込んだり、吐いたものが喉に詰まったりして窒息する危険がある。

周りにいる人は、そんな危険を回避するために、倒れている人の体を横向きにし、口元を下に向け、頭を反らせて気道を確保する「回復体位」という姿勢を取らせるようにしてほしいという。

治療は外傷の有無を確認し、覚めるまで見守ること

救急車で運び込まれた後は、どのような治療が行われるのだろう。

呼吸が止まるなど重症な急性アルコール中毒なら、気管に管を入れて気道を確保する気管挿管をして人工呼吸に切り替え、血圧を下げるなど、集中治療室で全身状態の管理をする。

そのほかの場合は、付き添いの人などにそれまでの状態を聞きながら外傷がないかを確認する。何もなければ、原則、呼吸や血中酸素の量を観察する機械をつけて、体温が下がらないように暖かくし、目が覚めるまで寝ていてもらうしかしない。

志賀さんらが急性アルコール中毒で救急搬送された成人106人の平均滞在時間を、点滴をしたか否かで比べた論文が興味深い結果を明らかにしている。どちらも状態は似ていたにも関わらず、点滴をしなかった42人は189分だったのに対し、点滴をした64人は254.5分とむしろ伸びていた。

志賀さんは「点滴をすると医療者はそれで安心してしまい観察がおろそかになりますし、既に帰宅できる状態になっていても点滴が終わるまで待つので滞在時間が伸びるのではないかと推測しています」

論文では、点滴は効果がないばかりでなく望ましくなく、救急外来への滞在時間も伸ばすとし、急性アルコール中毒で点滴をするかどうかは注意深く決めるべきだと結論づけている。

「病院や医師によって考え方は違いますが、こうした理由からも点滴をするのはほとんどの場合、意味がないと思われるので、私は点滴をすることはほとんどありません。半日も寝ていれば目が覚めて帰るので、転倒や吐いたものによる窒息がないよう見守ります」

予防のためにはどうしたらいいのか

さて、では急性アルコール中毒にならないよう、何に気をつけて飲んだらいいのだろうか? 東京消防庁が呼びかけるのは、「自分の適量を知る」「短時間に多量な飲酒(一気飲み)はやめる」など、ごく常識的なことだ。

志賀さんも「当然ですが、飲み過ぎないようにし、同じ飲酒量でもおしゃべりを楽しみながら時間をかけてゆっくり飲みましょう。普段あまり飲まない人が突然たくさん飲むのは危険です。楽しい宴席で飲み過ぎて病院に運ばれるなんて恥ずかしいことですし、入院になればお金もたくさんかかります。節度を持ってお酒の席を楽しんでください」と話している。