シェフ、化学者、スポーツトレーナー。イスラム国の「外国人戦士」リストの中身

    随所に見える、事務作業へのこだわり

    イギリス北部出身の書籍販売人。チュニジア出身の自動車教習所の教官。フランス出身のスポーツトレーナー、アゼルバイジャン人の商人、ドイツ西部のレバークーゼンから来た機械工学技士。シリアのIS(イスラム国)に2013年から2014年の間に集まってきた、何千人もの戦闘員たちの一部だ。彼らは、ISの区域内に入った際、入国書類に記入した。この個人情報を、ISの事務員がコンピュータに記録する。

    今回、BuzzFeed Newsが入手した書類によって、通称で呼ばれ、マスクで顔を覆って戦う何百人もの外国人戦士の姿が明らかになった。海外から来たこの兵士たちが、自国に戻ってテロを企てる。それが各国政府の恐れていることだ。

    書式は事務的だ。名前、誕生日、血液型、結婚歴、出身国、到着日、学歴、職歴などの詳しい情報が書かれている。この登録用紙には、戦闘員になるか、自爆テロ犯になるかを書き込む箇所がある。33歳のエジプト人弁護士は、自爆犯を選択する欄にチェックを入れていた。緊急の連絡先の記入も求められている。多くは、母親の連絡先が載っている。

    あるウズベキスタン人男性は、アフガニスタンでの戦争で長く戦った経験があると記し、職業には「マフィア」と書かれていた。

    米ケンタッキー州で学んだサウジアラビア人の学生は、記述欄に、アメリカのビザは現在でも有効だと記入していた。インドネシアのビジネスマンは、血液型がO+で、6人の子どもがいると書いている。トロント出身の化学者や、イスタンブール出身のシェフ、電気プラントで働いていたパレスチナ系スウェーデン人。ほとんどがジハーディストになるのは初めてだ。あるエジプト人外科医は、母国の砂漠で戦ったことがあると書いていた。ウズベキスタン人の男性は、アフガニスタンでの戦争で長く戦った経験があると書き、職業には「マフィア」と記していた。

    書類の内容すべてが事実と確かめられるわけではない。だが数人は、緊急連絡先に載っている親族に連絡がとれ、情報が正しいことが確認された。連絡がついたサウジアラビア人の学生の母親は、息子からISに参加していると電話を受けていた。母親は、激しく反対したが、約1年後、息子がシリアで殺されたと聞いた、と話した。

    チュニジアにいる男性は、昔はうだつのあがらないパン職人だった兄弟が、今はISで金を稼ぎ、複数の妻を持ち、3人の子供の父親になっていると語った。奴隷を持ち、毎月500ドルを彼の家族に送っているという。

    ISの動向を追う3人のアナリストは、内部資料を見た後、書類に記されている内容は本物であるように思われる、と語った。英ロンドンのキングスカレッジ過激化国際研究センターの主任研究員シラーズ・マーは、「戦士達の家族の名前や、電話番号のような細かな情報、これほどの量をでっちあげるのは不可能だと思う」と語った。

    中には、ダグラス・マケインのような、有名なジハーディストの登録用紙もある。ミネソタ州出身でラッパーを目指していた青年だ。2014年8月にISのために戦って死亡したと伝えられた、最初のアメリカ人でもある。彼の登録用紙には、2014年3月にシリアに到着したという記録と、別名として「アブ・マンスル・アル・アムリキ」という名が記載されている。

    中には、これまで監視対象に含まれていなかった人物もいる。15日にブリュッセルで実行された対テロ作戦の中で、警察は35歳のアルジェリア人のモハメド・ベルカイドを殺害した。書類によると、ベルカイドは自爆テロ犯になるため2014年にトルコからシリアに渡っている。ベルギーの対テロ当局者は、メディアに話すことを許可されていないため、匿名を条件に取材に応じた。ベルギーの当局は、少し前からベルカイドのことを捜査。11月13日のパリでのテロに関わっていると断定したと、BuzzFeed Newsに対して認めている(パリの事件の主犯格で、18日にベルギーで逮捕されたサラ・アブデスラムの名前は、内部資料の中にはなかった)。

    リストにアメリカ人の名前はほとんどない。イギリスやドイツ、フランスなどEUの市民権を持つ者は数十人単位いるが、ほとんどは中東出身者だ。複数の報道機関はこのリストと同じ文書を入手したと報じられている。ドイツ政府当局も保有し、本物と考えている。シリアと国境を接するアメリカの同盟国、ヨルダンの当局者はBuzzFeed Newsに対し匿名を条件に答え、ヨルダン政府もデータを検証したと話した。そして、その大半が正確であるとの確信を持ったという。

    内部資料に記載されている参加日は、2014年下半期までのものでしかない。アメリカ政府当局者は、この情報をヨーロッパの複数の政府から、かなり前に入手していたことを示唆した。「この報告書は、欧米諸国の人にとってニュースバリューがあるかもしれないが、全員がそう思うわけではない」と匿名を条件に話した。

    この情報はアメリカが積み重ねてきた、ISの公募活動についての分析を裏付けるものだろうと付け加える。「(ISは) 急成長し、プロパガンダへ大規模投資した。その結果、シリアの戦闘へ向かう、多くの外国人戦闘員を獲得した」と語った。

    アメリカの分析によると3万8000人以上の外国人戦闘員がシリアに渡り、1万9000人から2万5000人の兵士がいるという。

    この文書に記載されている情報は、全体の人の動きのわずか一部を示すに過ぎない。ISなど過激派組織の情報を得ることがいかに難しいかを示している。

    この書類をBuzzFeed Newsに提供したシリア人活動家は、ISが首都と自称しているラッカとつながりを持つ関係者から12月中旬に入手したという。この人物は1月に、内部資料の存在をBuzzFeed Newsに知らせてきたが、相当額の現金を支払わなければ、手渡すことはできないと話していた。BuzzFeed Newsでは、情報源に金銭を支払うことは禁じられている。しかし内部資料に関する情報が先週公開されたため、情報提供者が無料で提供することに同意した。

    シリアのニュースサイトZaman al-Waslの編集者ファティ・ベオドは、ラッカと関係のある独自の情報源から、同様の内部文書を12月中旬に入手したという。IS内部のスパイからリークされたものだと判断したと話す。文書に関するニュースや、資料のサンプルを先月、サイトで公開した。複数の人物が数週間にわたって、この文書をジャーナリストに販売しようとしていたらしい。「もはやビジネスのようです」と、彼は話した。

    ベオドが持つ資料には、全部で2万2000人分の情報が含まれていたという。しかしその中には、重複するものも多く、信用できると見られるのはわずかに2200だけだった。「これらの文書は重要です。なぜなら、この組織の第一線の状況を示しているからです」とベオドは話す。

    ジハード組織を研究し、ワシントン近東政策研究所フェローを務めるアーロン・ゼリンは、BuzzFeed Newsが入手した内部資料を分析。ISが導入する「過度な官僚主義」的側面が、この文書にははっきり表れていると語る。この組織の指導者の多くは、かつてのイラクの独裁者サダム・フセインの秘密諜報機関の残党であり、フセイン体制の事務作業へのこだわりを熱心なまでに継続しようとしている。

    この内部資料は、10年ほど前、アメリカ軍がイラクの街シンジャルの郊外で入手した有名な情報と類似性があると、ゼリンは付け加えた。ISの前身である、イラクのアルカイダは、何千人もの外国人義勇兵の参加日を、細かく記録していたのだ。

    中東フォーラム研究員で、ISの内部文書の膨大なアーカイブを編纂してきたアイメン・アル・タミミは、この内部資料のデータは本物のようだと語った。しかし、書類そのものには、今までなかったロゴが下部に表記されるなど、これまでのISのリークと異なる点も見られるという。書類には、ISの内部文書にしばしば記載されるスタンプも欠けていた。コンピューターのファイルがコピーされ、恐らく商売目的で、事後的に、この登録用紙のテンプレートに貼り付けられた可能性もあると、タミミは指摘している。

    この文書のリークが、ISにどのような影響を与えるのか。最近、ISから亡命したある人物は、ISの構成員たちは重く受け止めているとは考えていない。「ISは戦闘員のことなど気に留めていません。彼らは (指導者と)治安担当者のことしか考えていませんし、名前を書類に記すこともありません」と彼は話した。「彼らの望みは、戦闘員を戦場に送り続けることです。今は離脱することなど、考えもしないでしょう」

    この記事には、カイロのMaged Atefと、サンフランシスコのSheera Frenkelが協力している。